身元保証書 — 金額の上限を書いていないと無効。それを決めたのは身元保証法ではなく、2020年の民法だった
結論から言うと、2020年4月1日以後に交わした身元保証書は、保証人が負う金額の上限(極度額)を書いていなければ効力を生じません(民法465条の2第2項)。金額の欄が空欄の様式を使い回している会社は、保証を取ったつもりで何も取れていないことになります。
意外なのは、この上限を持ち込んだのが身元保証を専門に定めた法律のほうではないことです。身元保証を正面から扱っているのは1933年(昭和8年)の法律で、いまもカタカナ文語体のまま6か条だけあります。ところがその6か条には、金額という言葉が1度も出てきません。上限を書けと決めたのは、2020年4月1日に施行された改正民法のほうでした。
そしてもうひとつ、期間です。期間を書かなければ、その身元保証は成立の日から3年で切れます(身元保証ニ関スル法律1条)。書いても5年が上限で、それより長い期間を定めると5年に短縮されます(同2条1項)。入社時に取った1枚が定年まで効き続けることはありません。
- 極度額を定めなければ無効(民法465条の2第2項)。2020年4月1日以後に締結したものが対象
- 極度額の定めも書面が要る(同条3項が民法446条2項を準用)。口頭の合意では足りない
- 期間を定めなければ3年(身元保証ニ関スル法律1条)。商工業見習者だけ5年
- 定めても5年が上限。長く書くと5年に短縮される(同2条1項)。更新はできるが更新時から5年まで
- 会社には通知義務がある(同3条)。それを受けた保証人は将来に向かって解除できる(同4条)
- 極度額まで必ず取れるわけではない。裁判所が会社側の過失なども斟酌して金額を決める(同5条)
- 保証人に不利益な特約は全部無効(同6条)。書き方でこの法律を外すことはできない
この記事のいちばん踏み込んだところは、民法にも「3年と5年」という同じ数字の組み合わせがあるのに、身元保証にはそちらが使えないという点です(465条の3)。同じ数字なので混ざりやすいのですが、条文の効き方は逆向きで、身元保証法は長すぎる期間を5年に短縮するのに対し、民法465条の3は長すぎる期日の定めそのものを無効にして3年へ落とします。どちらの3年・5年を語っているのかで、結論が2年ずれます。
極度額を書かないと無効 — 2020年4月1日に変わったこと
根拠は民法465条の2です。見出しは「個人根保証契約の保証人の責任等」で、1項と2項がこうなっています。
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
2項の言葉は「その効力を生じない」です。金額を書き忘れた身元保証書は、効力の弱い保証になるのではなく、保証として成立しません。会社側から見ると、いざ損害が出たときに保証人へ請求する根拠がない、ということになります。
さらに同条3項が、極度額の定めについて民法446条2項・3項を準用しています。446条2項はこうです。
保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
つまり極度額は「口頭で合意した」では足りず、書面(または電磁的記録)に書かれていなければなりません。身元保証書の様式に金額欄がなく、面談で「常識の範囲で」と口頭確認しているだけ、という運用は、この2つの条文を両方外していることになります。
465条の2第1項は、保証人が責任を負う範囲を「その全部に係る極度額を限度として」と組み立てています。極度額は責任範囲を切り出すための土台なので、土台が無ければ責任の範囲そのものが決まりません。だから2項は無効という強い言葉を使っています。金額の水準が高いか低いかという議論とは、そもそも段が違います。
なぜ身元保証が「個人根保証契約」になるのか
465条の2は「身元保証」という言葉を使っていません。それでも身元保証書がこの条文に当たると読まれているのは、1項の定義が次の2つの条件だけでできているからです。
| 465条の2第1項が求める条件 | 身元保証書がどう当たるか |
|---|---|
| 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であること | 身元保証は、これから起きるかもしれない従業員の行為による損害賠償債務を、あらかじめまとめて引き受けるもの。金額も件数も契約時には決まっていない |
| 保証人が法人でないこと | 身元保証人は通常、親・親族・知人といった個人 |
上の表は条文の要約です。逐語ではありません。
身元保証を定めた側の条文も、同じ形を裏から書いています。「昭和八年法律第四十二号(身元保証ニ関スル法律)」1条は、身元保証契約をこう定義しています。
引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ期間ヲ定メズシテ被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ三年間其ノ効力ヲ有ス但シ商工業見習者ノ身元保証契約ニ付テハ之ヲ五年トス
「被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル」——これがまさに、範囲は決まっているが中身は不特定、という債務です。2つの条文は同じものを別の言葉で描いているので、身元保証人が個人であるかぎり、465条の2の枠に入ると一般に解されています。
ここで見落としやすいのが、1条の冒頭にある「引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ」です。書面の題名を「身元引受書」「誓約書」「入社時誓約書」に替えても、中身が従業員の行為による損害の賠償を約束するものであれば、この法律の身元保証契約です。題名を変えて規制を外すことはできません。
2020年3月31日までに交わした身元保証書はどうなるか
極度額の要求は、2020年4月1日に施行された改正民法(平成29年法律第44号)で入りました。その附則21条1項が、次のように経過措置を置いています。
施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。
したがって、2020年3月31日までに締結した身元保証契約には、極度額の要求はかかりません。区切りになるのは契約を締結した日であって、入社日でも、損害が発生した日でもありません。
身元保証ニ関スル法律2条1項は、身元保証契約の期間は5年を超えられないと定めています。経過措置に乗れるのは2020年3月31日までに締結したものだけなので、そこから5年をとっても2025年3月31日で期間が満了します。期間を定めていなければ1条で3年ですから、2023年3月31日までです。この記事を書いている2026年8月の時点では、そのままでは効力の残っている契約はありません。
残るのは、2020年4月1日以後に更新したものです。更新は2条2項の別の行為なので、そこで新しく極度額が要ると考えるのが素直な読み方になります。判断に迷う契約が実際に手元にあるなら、弁護士にご確認ください。
期間は3年。定めても5年が上限
期間のほうは、民法ではなく身元保証ニ関スル法律が決めています。1条は先ほど引いたとおり、期間を定めない場合を成立の日から3年としています。起算点は「其ノ成立ノ日」なので、入社日でも、書面に押印してもらった日でもなく、契約が成立した日です。実務では両者はほぼ重なりますが、内定時に書面を取り、入社が数か月後になるようなときは差が出ます。
1条にはただし書があって、商工業見習者だけは5年です。修業期間が長い見習いを想定した規定で、いまの職種分類にそのまま当てはめられる言葉ではありません。この例外だけは、保証人にとって不利な方向(期間が長い方向)に働きます。
期間を書いた場合の上限は2条1項です。
身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ期間ハ之ヲ五年ニ短縮ス
ここで大事なのは「之ヲ五年ニ短縮ス」という書き方です。10年と書いた身元保証書は、無効になるのではなく5年の身元保証書として生きます。会社にとっては、書きすぎても契約自体は残るということです。
更新については2条2項があります。
身元保証契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但シ其ノ期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ
条文は「更新スルコトヲ得」=更新できると書いているだけで、自動的に続くとは書いていません。期間が満了すれば、そこでいったん切れるのが条文の姿です。更新するなら、あらためて保証人の意思を取る必要があります。
成立の日から3年後・5年後がいつになるかを、実際の日付で数える(営業日・期限計算ツール)同じ「3年と5年」が民法にもある。しかし身元保証には使えない
民法465条の3にも、3年と5年が出てきます。見出しは「個人貸金等根保証契約の元本確定期日」です。混同しやすいので並べて比べます。
| 身元保証ニ関スル法律1条・2条 | 民法465条の3 | |
|---|---|---|
| 対象 | 身元保証契約 | 個人貸金等根保証契約(主たる債務に、金銭の貸渡しや手形の割引による債務が含まれるもの) |
| 定めなかったとき | 成立の日から3年(1条) | 締結の日から3年を経過する日が元本確定期日(2項) |
| 長く定めたとき | 5年に短縮される。契約は生きる(2条1項) | その定めが効力を生じない。結果として2項の3年に落ちる(1項) |
| 身元保証への適用 | これが本体 | 及ばない。身元保証の主たる債務は貸金等債務ではない |
数字は同じでも、効き方が逆です。長すぎる期間を書いたとき、身元保証法は5年に丸めますが、民法465条の3は定めごと無効にして3年へ落とします。身元保証について「10年と書いたから3年になる」と説明されていたら、それは貸金の側の条文と混ざっています。
なお465条の3が身元保証に及ばないのは、条文が自分でそう限定しているからです。1項は「その主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの」と、対象を貸金等に絞っています。身元保証が保証しているのは従業員の行為による損害賠償債務なので、この枠には入りません。
465条の2は、改正前は「貸金等根保証契約の保証人の責任等」という見出しで、極度額を要求する範囲も貸金等に限られていました。つまり2020年3月31日までは、身元保証書に極度額は要らなかったのです。2020年4月1日から、条文番号はそのままに、対象が個人根保証契約全体へ広がりました。条番号でメモした古い資料は、いまの条文と別のことを言っている可能性があります。
会社には通知義務がある。保証人はそれで解除できる
身元保証ニ関スル法律は、保証人を放置しません。3条が会社側に通知義務を課しています。
使用者ハ左ノ場合ニ於テハ遅滞ナク身元保証人ニ通知スベシ
一 被用者ニ業務上不適任又ハ不誠実ナル事跡アリテ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタルトキ
二 被用者ノ任務又ハ任地ヲ変更シ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ加重シ又ハ其ノ監督ヲ困難ナラシムルトキ
1号は、その従業員に問題が見え始めたときです。2号は、異動や転勤で保証人の責任が重くなる、あるいは見ていられなくなるときです。現金や在庫を扱わない部署から、扱う部署へ配置転換したような場合が2号に当たります。
通知を受けた保証人がどうできるかは4条です。
身元保証人前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ将来ニ向テ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得身元保証人自ラ前条第一号及第二号ノ事実アリタルコトヲ知リタルトキ亦同ジ
ここに2つの読みどころがあります。1つは「将来ニ向テ」で、解除してもすでに発生している責任は消えません。もう1つは後段で、会社が通知しなくても、保証人が自分で事実を知ったときは同じように解除できます。会社が黙っていれば保証人を縛り続けられる、という作りにはなっていません。
では、会社が3条の通知を怠ったらどうなるか。この法律には罰則が1か条もありません。全6か条を通して、罰金も拘禁刑も出てきません。効いてくるのは次の5条です。
極度額まで必ず取れるわけではない — 5条の「一切ノ事情ヲ斟酌ス」
裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス
この条文は、裁判所が金額を決めるときに何を見るかを名指ししています。並んでいるのは4つです。
- 従業員の監督について、会社側に過失があったかどうか
- その人が身元保証人になった経緯、および保証するにあたってどの程度注意を払ったか
- 従業員の任務や身上の変化
- その他一切の事情
1番目が先頭に置かれているのが要点です。会社が管理を怠っていた結果の損害を、そのまま保証人へ回すことはできません。3条の通知を怠っていたことも、この「使用者ノ過失」や「一切ノ事情」として考慮されうる位置にあります。罰則がない代わりに、取れる金額が減る形で効くという構造です。
したがって、極度額は上限であって、必ず取れる金額ではありません。金額をいくらにするかについて、身元保証ニ関スル法律にも民法にも基準は書かれていません。高く書けば高く取れる、という条文にはなっていないということは、様式を作り直すときに知っておく価値があります。
そして6条が、この法律全体を片側だけ固い規定にしています。
本法ノ規定ニ反スル特約ニシテ身元保証人ニ不利益ナルモノハ総テ之ヲ無効トス
無効になるのは身元保証人に不利益な特約だけです。保証人に有利な方向(期間を1年に短くする、金額をさらに絞る)は妨げられません。契約書に「期間は10年とし、身元保証ニ関スル法律2条は適用しない」「異動があっても保証人への通知は要しない」といった条項を置いても、その部分は効きません。
保証人が亡くなったら元本は確定する。従業員が破産しても確定しない
2020年の改正では、極度額とあわせて元本確定事由も個人根保証契約全体に広がりました。民法465条の4第1項です。
次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
一債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
二保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
「元本が確定する」とは、その時点より後に発生した債務は、もう保証の対象にならないということです。身元保証にあてはめると、次のようになります。
| 起きたこと | 元本は確定するか | 条文 |
|---|---|---|
| 身元保証人が亡くなった | 確定する | 465条の4第1項3号 |
| 従業員本人が亡くなった | 確定する(同じ3号の「主たる債務者」) | 465条の4第1項3号 |
| 身元保証人が破産した | 確定する | 465条の4第1項2号 |
| 従業員本人が破産した | 確定しない | 2項は個人貸金等根保証契約だけを対象にしている |
4行目が、条文を読まないと逆に理解しやすいところです。従業員が破産すると、会社としてはむしろ保証人に頼りたい場面ですが、2項の対象は「個人貸金等根保証契約」に限られているため、身元保証では従業員の破産で元本は確定しません。死亡は1項なので身元保証にも及び、破産は2項なので及ばない——この非対称は、条文の項が分かれていることから来ています。
3号の効果として、身元保証人が亡くなったあとに起きた損害は、相続人に及びません。相続されうるのは、死亡の時点ですでに発生していた分です。以前から同じ趣旨で理解されてきた場面ですが、2020年以後は条文の中に確定事由として置かれています。
公正証書も情報提供義務も、身元保証には及ばない
2020年の保証まわりの改正には、極度額のほかにも耳目を集めたものが2つあります。どちらも身元保証には及びません。理由は同じで、条文が自分で対象を限定しているからです。
| 制度 | 条文の対象 | 身元保証 |
|---|---|---|
| 保証意思を確認する公正証書が要る | 465条の6第1項「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約」など | 及ばない。公正証書は不要 |
| 主たる債務者の財産・収支の情報提供義務 | 465条の10第1項「事業のために負担する債務を主たる債務とする保証」など | 及ばない |
身元保証で新しく守らなければならなくなったのは、極度額と、その書面化だけです。逆に言うと、この2つを外していれば、ほかを丁寧にやっていても保証は成立していません。
もうひとつ、条文の位置として面白いのが民法629条です。有期の雇用が期間満了後も黙って続いたときの規定で、2項がこうなっています。
従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、身元保証金については、この限りでない。
民法本体が「身元保証」という言葉を使っているのは、実はここだけです。しかも扱っているのは身元保証契約ではなく、身元保証金——実際に預けたお金のほうです。雇用が黙示に更新されたとき、担保は消えるのに、預けた身元保証金だけは残るという書き分けになっています。
では、いま何を書くのか
条文から出てくる要件を、様式の側から並べ直すと次のようになります。
| 書く欄 | 根拠 | 抜けたときに起きること |
|---|---|---|
| 極度額(上限金額) | 民法465条の2第2項 | 保証契約そのものが効力を生じない |
| 書面であること・記名(電磁的記録も可) | 民法446条2項・3項(465条の2第3項が準用) | 同上 |
| 期間 | 身元保証ニ関スル法律1条・2条1項 | 書かなければ3年。5年超と書けば5年に短縮 |
| 保証の対象(どの雇用についての保証か) | 同1条「被用者ノ行為ニ因リ使用者ノ受ケタル損害」 | 範囲が不明確になる |
逆に、書いても効かない条項もはっきりしています。
- 期間を5年より長くする条項 — 2条1項で5年に短縮される
- 自動更新条項 — 2条2項は更新を「スルコトヲ得」と書くにとどまり、更新時から5年の上限もかかる
- 3条の通知を不要とする条項 — 6条により、保証人に不利益な特約は無効
- 5条の斟酌を排除する条項 — 同じく6条にかかる
- 題名を「誓約書」に替えて法律の適用を外す — 1条が「名称ノ如何ヲ問ハズ」と先回りしている
なお、入社時に身元保証書と一緒に署名を求められることが多い秘密保持や競業避止の誓約書は、まったく別の法律の話です。身元保証は保証人(第三者)が負う義務ですが、そちらは本人が負う義務で、根拠になる法律も違います。金額をあらかじめ書けないという点だけは似ていますが、理由が別で、競業避止の誓約書に違約金の額を書くことは労働基準法16条が禁じています。詳しくは競業避止義務とは — 条文があるのは取締役と譲渡会社だけで扱っています。
運用の側でひとつだけ挙げるなら、3条の通知を誰が出すかを決めておくことです。異動や配置転換は人事が動かしますが、身元保証書を保管しているのが総務や経理だと、2号に当たる異動があったことが保管側に伝わりません。通知を出さなかったこと自体に罰則はなくても、5条で金額が削られる方向に働きます。異動の決裁のチェック項目に、身元保証人の有無を一行入れておくだけで足ります。
よくある質問
Q. 極度額を書き忘れた身元保証書は、あとから金額を追記すれば有効になりますか?
A. 一方的に会社が数字を書き足しても、保証人が合意していない以上、その金額を合意した極度額として扱うことはできません。民法465条の2第2項は、個人根保証契約は極度額を定めなければその効力を生じない、と定めており、同条3項が準用する民法446条2項は、保証契約は書面でしなければその効力を生じない、と定めています。極度額の定めについても書面での合意が求められる形になっているため、実務としては、金額を入れた書面をあらためて取り交わす形になります。従業員本人ではなく保証人の合意が必要である点にも注意が要ります。個別の事案でどう扱われるかについては、弁護士にご確認ください。
Q. 身元保証書に「期間は10年」と書いてしまいました。無効ですか?
A. 契約全体が無効になるわけではありません。身元保証ニ関スル法律2条1項が、身元保証契約の期間は五年を超えることを得ず、若しこれより長き期間を定めたるときは其の期間はこれを五年に短縮す、と定めているためです。10年と書いた身元保証は、5年の身元保証として効力を持ちます。ここは民法465条の3の作りと違うところで、そちらは長すぎる元本確定期日の定めそのものが効力を生じない形になっています。ただし465条の3の対象は個人貸金等根保証契約なので、身元保証には適用されません。同じ3年・5年という数字が両方に出てくるため混ざりやすい部分です。
Q. 身元保証人が亡くなりました。相続人に請求できますか?
A. 亡くなった後に発生した損害については請求できません。民法465条の4第1項3号が、主たる債務者又は保証人が死亡したときに個人根保証契約の主たる債務の元本は確定する、と定めているためです。元本が確定するとは、その時点より後に発生した債務が保証の対象から外れるという意味です。したがって相続の対象になりうるのは、死亡の時点ですでに発生していた保証債務にとどまります。なお同じ3号は主たる債務者、つまり従業員本人が亡くなった場合も挙げているため、そちらでも元本は確定します。
Q. 従業員が自己破産しました。身元保証人に請求できますか?
A. 従業員本人の破産では、身元保証の元本は確定しません。民法465条の4は、第1項で保証人についての強制執行や破産、および主たる債務者又は保証人の死亡を確定事由として挙げていますが、主たる債務者の破産手続開始の決定を挙げているのは第2項で、その第2項は個人貸金等根保証契約だけを対象にしています。身元保証の主たる債務は従業員の行為による損害賠償債務であって貸金等債務ではないため、第2項は及びません。ただし請求できるかどうかと、いくら取れるかは別の問題で、金額については身元保証ニ関スル法律5条により裁判所が使用者の過失の有無なども斟酌して定めることになります。
Q. 「身元引受書」「入社時の誓約書」という題名なら、この法律はかかりませんか?
A. かかります。身元保証ニ関スル法律1条は、引受、保証其の他名称の如何を問わず、と書き出しており、書面の題名で適用が変わらないことを条文の最初に置いています。判断されるのは中身で、被用者の行為により使用者が受けた損害を賠償することを約する内容であれば、この法律の身元保証契約です。あわせて、保証人が個人であれば民法465条の2の個人根保証契約にも当たると一般に解されているため、極度額の定めも必要になります。逆に、秘密保持や競業避止だけを約束する誓約書で、損害賠償を引き受ける第三者がいないものは、身元保証契約ではありません。
Q. 会社が異動を身元保証人に通知しなかった場合、罰則はありますか?
A. 罰則はありません。身元保証ニ関スル法律は全部で6か条あり、罰金や拘禁刑を定めた条文は置かれていません。ただし効果がないわけではなく、2つの形で効いてきます。1つは同法4条で、身元保証人は通知を受けたときに将来に向かって契約を解除でき、通知がなくても自ら3条1号・2号の事実を知ったときは同じように解除できます。もう1つは同法5条で、裁判所が身元保証人の損害賠償の責任と金額を定めるにあたり、被用者の監督に関する使用者の過失の有無その他一切の事情を斟酌します。通知を怠っていた事実は、取れる金額が減る方向に働くことになります。
Q. 極度額はいくらに設定すればよいですか?
A. 法令に基準はありません。身元保証ニ関スル法律にも民法にも、極度額の水準を定めた規定は置かれていません。ただし高く書けば高く取れるという構造にもなっていません。民法465条の2第1項は極度額を責任の限度として位置づけているだけで、実際の金額は身元保証ニ関スル法律5条により、裁判所が使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証をするに至った事由や払った注意の程度、被用者の任務や身上の変化その他一切の事情を斟酌して定めます。金額の決め方は個別の事情に左右されるため、実際の様式を作るときは弁護士にご確認ください。
関連する記事・ツール
出典
- e-Gov法令検索「昭和八年法律第四十二号(身元保証ニ関スル法律)」(昭和八年法律第四十二号)第1条から第6条まで(全6か条)。法令API v2 で全文を取得。罰則を定めた条文が置かれていないことは、全文を通して確認
- e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)第446条(保証人の責任等)、第465条の2(個人根保証契約の保証人の責任等)、第465条の3(個人貸金等根保証契約の元本確定期日)、第465条の4(個人根保証契約の元本の確定事由)、第465条の6(公正証書の作成と保証の効力)、第465条の10(契約締結時の情報の提供義務)、第629条(雇用の更新の推定等)、附則第21条。法令API v2 で条単位に取得
- e-Gov法令検索「民法」の改正前リビジョン(平成三十年法律第七十二号による改正・2019年7月1日施行版)の第465条の2・第465条の4。法令API v2 のリビジョン指定で取得し、現行条文と比較して、極度額の要求が2020年4月1日から個人根保証契約全体へ広がったことを確認
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。身元保証書の様式の作成、極度額の設定、既に交わした書面の有効性の判断については、弁護士にご確認ください。