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見積書の書き方 — 書式を定めた法律は無い。それでも5本の法律が「見積書」を名指しする

結論から言うと、見積書の書式を定めた法律は建設業を除いて存在しません。何を書くか、どう並べるか、印鑑を押すかどうかは、すべて商慣行の側にあります。テンプレートが会社ごとにばらばらなのは、揃える根拠がそもそも無いからです。

ところが「書き方は自由なのに、条文には出てくる」という、ややこしい書類でもあります。e-Gov法令検索で条文本文に「見積書」という語をそのまま含む法律は5本あります —— 法人税法施行規則、所得税法施行規則、電子帳簿保存法、印紙税法、建設業法です。この5本が決めているのは書き方ではなく、保存・電子化・印紙・建設業の見積りの4方向です。

実務で外しやすいのはここから先です。見積書の保存期間は「7年」と説明されることが多いのですが、個人事業主は青色でも5年です(所得税法施行規則63条1項のかっこ書き)。メールにPDFを添付して送った時点で電子帳簿保存法の電子取引に該当します。そして見積書自体に収入印紙は要らないのに、注文書に「見積書No.○○のとおり」と書くと、その見積書の金額が注文書の記載金額として印紙税の計算に取り込まれます(印紙税法別表第一 通則4ホ(二))。順に条文にあたって整理します。

見積書の書式を定めた法律は、建設業を除いて無い

まず前提として、契約そのものに決まった形式がありません。民法522条2項がこう定めています。

契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

つまり見積書を作らなくても契約は成立しますし、作ったとしてもその様式を縛る一般法はありません。「見積書に法定記載事項はありますか」という問いへの答えは、一般の取引については「ありません」です。適格請求書(インボイス)のように記載事項が条文で列挙されている書類とは、そこが決定的に違います。

この「自由である」という事実は、裏を返せば間違えても法律違反にはならない代わりに、誰も守ってくれないということでもあります。有効期限を書き忘れたときに何が起きるかは民法の申込みの規定で決まりますし(後述)、金額の書き方を工夫した結果として印紙税がかかることもあります。書式が自由なのは、条文がその書類に無関心だからではなく、効き方が別の法律に散らばっているからです。

それでも5本の法律が「見積書」を名指ししている

e-Gov法令API v2 で条文全文を取得して「見積書」という語を数えると、次の5本に出てきます。それぞれ何を決めているのかを整理すると、書き方を決めている条文は建設業法の1本だけだと分かります。

法令見積書が出てくる場所そこで決めていること
法人税法施行規則59条1項3号(青色申告法人)
67条1項1号(普通法人等=白色)
保存の対象書類
所得税法施行規則63条1項3号(青色申告者)保存の対象書類
電子帳簿保存法2条5号(「取引情報」の定義)電子取引に当たるかどうか
印紙税法別表第一 通則4ホ(二)他の課税文書の記載金額の認定
建設業法20条(建設工事の見積り等)記載事項・交付・見積期間
見積書 1枚 書式の定めは無い 法人税法施行規則 59条・67条/保存 所得税法施行規則 63条/保存は5年 電子帳簿保存法 2条5号/電子取引 印紙税法 通則4ホ(二)/記載金額 建設業法 20条/書き方の定め 「書き方」を定めているのは建設業法だけ 残る4本は 保存・電子化・印紙 の側から効く
条文で「見積書」を名指しする5本の法令と、それぞれが決めていること。書式を定めているのは建設業法20条だけで、他の4本は見積書を作ったあとの取り扱いを決めている。

保存期間は7年とは限らない。個人事業主は5年

見積書の保存期間は「7年」と説明されることが多いのですが、条文を読むと法人と個人で違います。まず法人(青色申告法人)は法人税法施行規則59条1項で、3号にこう書かれています。

取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し

これを「起算日から七年間」保存します。起算日は決算日ではなく、59条2項が「その作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月……を経過した日」と定めており、確定申告の提出期限にあたる日です。

一方、個人の青色申告者は所得税法施行規則63条1項です。ここにかっこ書きで例外が入っています

起算日から七年間(第三号に掲げる書類のうち、現金預金取引等関係書類に該当する書類以外のものにあつては、五年間)

第三号が見積書を含む書類の号です。では見積書は「現金預金取引等関係書類」に当たるのか、というのが分かれ目になりますが、その定義は同条3項にあります。

現金の収受若しくは払出し又は預貯金の預入若しくは引出しに際して作成されたもの

見積書は現金の動きに際して作られる書類ではありません。領収書や預金取引の記録とは作られるタイミングが違うので、通常はこの定義に当たりません。したがって個人事業主の見積書は、青色申告であっても原則5年ということになります。起算日は63条4項で「その作成又は受領の日の属する年の翌年三月十五日の翌日」です。

区分根拠条文「見積書」の名指し見積書の保存期間起算日
法人・青色法人税法施行規則59条1項3号ある7年事業年度終了の日の翌日から2月を経過した日
法人・白色(普通法人等)法人税法施行規則67条1項1号・2項ある7年同上(59条2項を引用)
個人・青色所得税法施行規則63条1項3号ある5年翌年3月15日の翌日
個人・白色所得税法施行規則102条3項2号・4項無い書類は5年63条4項の起算日を引用
7年と5年を分けているのは書類の種類個人の青色申告では、同じ取引に関して受け取った書類でも領収書のように現金・預金の動きに際して作られたものは7年、見積書や注文書のようにそれ以外のものは5年、と条文の中で分かれています。書類の束をまとめて7年置いておく運用は条文より安全側なので問題ありませんが、「見積書は7年保存が義務」という説明は、個人事業主については条文より重い義務を述べていることになります。

白色の個人だけ、条文の書類リストに見積書が無い

もうひとつ、条文を並べて初めて見えることがあります。4つの区分のうち、白色申告の個人だけ、書類の列挙に「見積書」が入っていません。所得税法施行規則102条3項2号はこう書いています。

その年において法第二百三十二条第一項に規定する業務に関して作成し、又は受領した請求書、納品書、送り状、領収書その他これらに類する書類(自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものは、当該写しを含む。)

青色の側(所得税法施行規則63条1項3号・法人税法施行規則59条1項3号)が挙げているのは「注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類」です。白色の側は「請求書、納品書、送り状、領収書その他これらに類する書類」で、例示されている書類が入れ替わっています。青色にある注文書・契約書・見積書が白色には無く、白色にある請求書・納品書が青色の列挙には無い、という関係です。

もっとも、どちらの条文も末尾に包括的な受け皿を置いているので、白色の個人が見積書を捨ててよいという読み方にはなりません。「その他これらに類する書類」に含まれるかどうかの判断になります。実務上は、区分にかかわらず取引書類は一括して保存しておくのが安全です。ここで押さえておきたいのは、条文の列挙が区分ごとに違うという事実そのもので、「どの書類が名指しされているか」を根拠に義務の有無を語ると、区分を跨いだときに外れるということです。

メールでPDFを送った時点で「電子取引」になる

見積書をPDFにしてメールで送る運用は一般的ですが、この時点で電子帳簿保存法の電子取引に当たります。同法2条5号が「電子取引」をこう定義しているためです。

取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。

ここでも見積書が名指しされています。そして7条が、電子取引を行った場合の電磁的記録の保存を義務づけています。

所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。

注意したいのは、この義務が「電子取引を行った場合」に自動的に発生することです。紙で受け取った見積書をスキャンして保存するかどうか(スキャナ保存)は選択できますが、最初からデータで授受した見積書については、データのまま保存する以外の選択肢がありません。印刷して紙で綴じただけでは要件を満たさないので、送信済みメールの添付ファイルを別途ファイルサーバに残すなどの運用が必要になります。検索要件の満たし方は電子帳簿保存法の検索要件で整理しています。

受け取った見積書だけでなく、送った見積書も対象2条5号の定義は「受領し、又は交付する」と両方向を書いています。自社が発行した見積書のPDFも取引情報なので、送信側にも保存義務が及びます。見積書は失注すると管理が緩みがちですが、契約に至らなかった見積書も「取引に関して交付した」ものである以上、区別する条文上の根拠はありません。

有効期限は営業マナーではなく、撤回できるかどうかのスイッチ

見積書に「本見積の有効期限は発行日より30日間」と書くのは慣行ですが、これは礼儀の問題ではありません。民法の申込みの規定を切り替えるスイッチです。

見積書が契約の申込みに当たる場合、期限を書いたときは民法523条1項が適用されます。

承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。

そして2項で、期間内に承諾がなければ申込みは自動的に失効します。

申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。

期限を書かなかった場合は525条1項です。

承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。

両者を並べると、実務上の意味がはっきりします。期限を書いても書かなくても、原則として撤回はできません。違うのは終わり方で、期限を書けばその日で自動的に効力を失うのに対し、書かなければ「相当な期間」という不確定なものに委ねられます。半年後に「あの見積で発注します」と言われたときに争いになるのは、この不確定さが原因です。

そして両方の条文に、同じただし書きが付いています。撤回する権利を留保しておけば撤回できるということです。原材料価格が動く商材で「市況により改定することがあります」と書き添える運用は、このただし書きに対応しています。

「有効期限」と「撤回権の留保」は別のこと有効期限は523条2項の自動失効を働かせるためのもので、期限内に撤回できるようにするものではありません。期限内でも撤回する可能性があるなら、期限とは別に撤回権を留保する一文が要ります。逆に、見積書が「申込みの誘引」(相手からの注文を待つ案内)にとどまる書き方であれば、そもそも523条・525条の場面に入りません。どちらとして扱われるかは、見積書の文面と当事者のやりとり全体で判断されます。

印紙は要らない。ただし注文書に番号を書くと金額が引っ張られる

見積書に収入印紙は不要です。印紙税は印紙税法2条により別表第一の課税物件の欄に掲げる文書にだけ課されるところ、見積書はそこに掲げられていないためです。

ところが印紙税法は、見積書を他の文書の金額を認定する材料として使います。別表第一の「課税物件表の適用に関する通則」4ホ(二)がその規定です。

第一号又は第二号に掲げる文書に当該文書に係る契約についての契約金額又は単価、数量、記号その他の記載のある見積書、注文書その他これらに類する文書(この表に掲げる文書を除く。)の名称、発行の日、記号、番号その他の記載があることにより、当事者間において当該契約についての契約金額が明らかであるとき又は当該契約についての契約金額の計算をすることができるときは、当該明らかである契約金額又は当該計算により算出した契約金額を当該第一号又は第二号に掲げる文書の記載金額とする。

読み下すと、こうなります。1号文書(不動産譲渡・運送など)や2号文書(請負)に当たる書面が「見積書No.○○のとおり」と書いていて、その見積書から金額が分かるなら、その金額がその書面の記載金額になるということです。注文請書に金額を書かずに「見積No.1234による」とだけ記載しても、金額を書かなかったことにはなりません。印紙税額は記載金額で決まるので、ここで階段が1段変わることがあります。

なお、その注文請書の側にも別の分かれ道があります。課税物件表に「売買に関する契約書」という区分が無いため、物品を購入するだけの注文請書はそもそも不課税で、請負に当たる場合だけ第2号文書になります。金額を書かないと逆に第7号文書の4,000円になる境界もあります。詳しくは注文請書に収入印紙は必要かにまとめました。

もうひとつ、印紙税では書類の名前を見ません。通則5が「契約書」をこう定義しています。

契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含む。以下同じ。)の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実(以下「契約の成立等」という。)を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。

「名称のいかんを問わず」「当事者の一方のみが作成する文書」も含む、と書かれています。つまり表題が「御見積書」であることは、印紙が要らないことの理由にはなりません。相手方の押印欄を設けて署名して返送させる様式にしていると、その1枚が契約の成立を証する文書として扱われる余地が出てきます。見積書を承諾書と兼ねる様式は、そこだけ注意が要ります。

収入印紙がいくら必要かを判定する(全20号の印紙税額一覧つき)

建設業だけは条文がある。しかも2025年12月に変わった

唯一、見積書の中身を条文が定めているのが建設業です。しかも建設業法20条は2024年(令和6年)の改正で書き換えられ、2025年12月12日から施行されています。改正前の20条1項(施行日2025年6月1日時点のもの)は「工事の種別ごとの材料費、労務費その他の経費の内訳並びに工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を明らかにして、建設工事の見積りを行うよう努めなければならない」という書き方でした。現在はこうなっています。

建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際しては、工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費及び当該建設工事に従事する労働者による適正な施工を確保するために不可欠な経費として国土交通省令で定めるもの(以下この条において「材料費等」という。)その他当該建設工事の施工のために必要な経費の内訳並びに工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を記載した建設工事の見積書(以下この条において「材料費等記載見積書」という。)を作成するよう努めなければならない。

変わった点は3つあります。第一に、「見積りを行う」ではなく「見積書を作成する」という書類の作成義務の形になりました。第二に、「材料費等記載見積書」という法律上の名前が付きました。第三に、労務費に加えて「適正な施工を確保するために不可欠な経費として国土交通省令で定めるもの」が内訳の対象に入りました。

そのうえで2項が、努力義務ではない禁止規定を置いています。

前項の場合において、材料費等記載見積書に記載する材料費等の額は、当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るものであつてはならない。

交付についても4項が義務の形で書いています。

建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない。

さらに6項は注文者の側を縛り、材料費等を著しく下回るような変更を求めてはならないとしています。7項では、これに違反した発注者に対して国土交通大臣または都道府県知事が勧告できる仕組みが置かれました。作成は努力義務、金額の水準と交付は義務、注文者側にも禁止と勧告がある——という三層構造になっているのが現行の20条です。

見積期間は施行令「5条の9」にある

注文者が見積りのために設けなければならない期間は、20条3項が政令に委ねています。その政令は建設業法施行令第5条の9です(条番号が枝番になっているので、6条を見ても載っていません)。

法第二十条第三項に規定する見積期間は、次に掲げるとおりとする。ただし、やむを得ない事情があるときは、第二号及び第三号の期間は、五日以内に限り短縮することができる。
工事1件の予定価格見積期間やむを得ない事情がある場合
500万円未満1日以上短縮できない(1号は対象外)
500万円以上 5,000万円未満10日以上5日以内に限り短縮可(最短5日)
5,000万円以上15日以上5日以内に限り短縮可(最短10日)
予定価格 見積期間(日数) 500万円未満 1日以上 短縮できない 500万〜5,000万円 10日以上 最短5日まで短縮可 5,000万円以上 15日以上 最短10日まで短縮可 破線は「やむを得ない事情があるとき」に短縮できる5日ぶん。短縮できるのは第2号・第3号だけで、第1号の1日は短縮の対象外。
建設業法施行令5条の9が定める見積期間。短縮の対象は2号と3号に限られ、上限は「五日以内」と条文に書かれている。

実務で書く項目と、条文由来で外せない項目

ここまでを踏まえると、見積書に書く項目は「商慣行として書くもの」と「条文の効き方から書いておいた方がよいもの」に分かれます。前者は自由に決めてよく、後者は書かないと後で困るものです。

項目位置づけ理由
宛名・発行者・発行日商慣行法定ではないが、印紙税の通則4ホ(二)が「発行の日」を認定の手がかりにしている
見積書番号商慣行(ただし影響あり)注文書側がこの番号を引くと、その金額が注文書の記載金額になる(通則4ホ(二))
品目・数量・単価・金額商慣行単価と数量が書かれていると、そこから契約金額を計算できるものとして扱われる(通則4ホ(一))
消費税額・税率区分商慣行見積書は適格請求書ではないので記載事項の定めは無い。ただし税抜・税込が不明だと金額の争いになる
有効期限実質的に必須書かないと民法525条1項の「相当な期間」に委ねられる
撤回権の留保必要に応じて523条1項・525条1項のただし書き。期限とは別に必要
納期・支払条件・備考商慣行後続の契約書に引き継がれる前提の記載
材料費・労務費等の内訳、工程ごとの日数建設業は条文建設業法20条1項(材料費等記載見積書)

押印については、法定の要求がありません。民法522条2項のとおり契約に方式は不要ですし、印紙税の通則5はむしろ「署名を欠く文書」も契約書に含めうると書いています。押印の有無で印紙の要否が決まるわけではないという点だけ、誤解されやすいので押さえておくとよいと思います。

なお、見積書の金額をそのまま請求まで通す運用にしている場合、請求書側にはインボイスの記載事項が必要になります。消費税法57条の4第1項が適格請求書の交付義務を生じさせているのは、課税資産の譲渡等を行った場合に、その譲渡等を受ける他の事業者から交付を求められたときです。条文が挙げている書類も「請求書、納品書その他これらに類する書類」です。取引の前に出す見積書は、この定義の外にあります。見積書に登録番号を書いても差し支えありませんが、それでインボイスの要件を満たしたことにはなりません。

よくある質問

Q. 見積書に決まった書式や法定記載事項はありますか?

A. 建設業を除いて、書式を定めた法律はありません。契約そのものについて民法522条2項が「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と定めており、見積書の様式を縛る一般法もないためです。適格請求書のように記載事項が条文で列挙されている書類とは、そこが異なります。ただし建設業については建設業法20条1項が、工事の種別ごとの材料費・労務費・国土交通省令で定める経費などの内訳と、工程ごとの作業および準備に必要な日数を記載した「材料費等記載見積書」を作成するよう努めなければならないと定めています。

Q. 見積書は何年保存すればよいですか?

A. 法人と個人で違います。法人は青色・白色とも7年で、根拠は法人税法施行規則59条1項3号と67条1項1号です。個人の青色申告者は所得税法施行規則63条1項のかっこ書きにより、現金預金取引等関係書類に該当しない書類は5年とされています。見積書は同条3項が定める「現金の収受若しくは払出し又は預貯金の預入若しくは引出しに際して作成されたもの」ではないため、通常はこの5年の側に入ります。起算日も違い、法人は事業年度終了の日の翌日から2月を経過した日、個人は翌年3月15日の翌日です。書類をまとめて7年保存する運用は条文より安全側なので問題ありません。

Q. メールでPDFの見積書を送っただけでも、電子帳簿保存法の対象になりますか?

A. 対象になります。電子帳簿保存法2条5号が「電子取引」を、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引と定義しており、その「取引情報」の定義の中に見積書が名指しで入っているためです。同法7条は、電子取引を行った場合に取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないと定めています。紙で受け取ったものをスキャンして保存するかどうかは選択できますが、最初からデータで授受したものについてはデータのまま保存することになります。定義が「受領し、又は交付する」と両方向を書いているので、自社が送った見積書のPDFも対象です。

Q. 見積書に有効期限を書かないと、どうなりますか?

A. 見積書が契約の申込みに当たる場合、民法525条1項により「申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない」という状態になります。撤回できない点は期限を書いた場合(523条1項)と同じですが、いつ終わるかが「相当な期間」という不確定なものに委ねられる点が違います。期限を書いておけば523条2項により、その期間内に承諾の通知がなければ申込みは自動的に効力を失います。争いを避けるという意味では、期限は書いておいた方が明確です。

Q. 見積書に収入印紙は必要ですか?

A. 見積書そのものには不要です。印紙税法2条は別表第一の課税物件の欄に掲げる文書にだけ印紙税を課すと定めており、見積書はそこに掲げられていないためです。ただし注意点が2つあります。1つは別表第一の通則4ホ(二)で、1号文書や2号文書に「見積書No.○○のとおり」といった記載があり、その見積書から契約金額が分かる場合には、その金額がその文書の記載金額として扱われます。もう1つは通則5で、印紙税では「名称のいかんを問わず」契約の成立等を証すべき文書が契約書とされるため、表題が見積書であることは判断の決め手になりません。

Q. 相手が見積書に署名・押印して返してきたら、契約書になりますか?

A. 印紙税の場面では、その可能性があります。別表第一の通則5が契約書を「契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず」契約の成立等を証すべき文書と定義し、当事者の一方のみが作成する文書や署名を欠く文書であっても、当事者間の了解や商慣習に基づいて契約の成立等を証することとされているものを含むとしているためです。表題ではなく、その文書が契約の成立を証しているかどうかで判断されます。見積書に承諾欄を設けて返送させる様式にしている場合は、この点を確認しておくのが安全です。

Q. 建設業の見積期間は短縮できますか?

A. 一部だけ短縮できます。建設業法施行令5条の9のただし書きが「やむを得ない事情があるときは、第二号及び第三号の期間は、五日以内に限り短縮することができる」と定めています。第2号は予定価格500万円以上5,000万円未満の10日以上、第3号は5,000万円以上の15日以上なので、それぞれ最短5日・最短10日までということになります。第1号の500万円未満の1日以上は短縮の対象に入っていません。なお条番号は建設業法施行令の6条ではなく、枝番の5条の9にあります。

Q. 見積書にインボイスの登録番号を書く必要はありますか?

A. 必要ありません。消費税法57条の4第1項が適格請求書の交付義務を定めているのは、課税資産の譲渡等を行った場合において、その譲渡等を受ける他の事業者から交付を求められたときです。取引の前に出す見積書はこの場面に入りません。条文が挙げている書類も「請求書、納品書その他これらに類する書類」で、見積書は挙げられていません。見積書に登録番号を書いても差し支えありませんが、それによって適格請求書の要件を満たしたことにはならないので、請求の段階で改めて記載事項を満たした書類を交付することになります。

Q. 白色申告の個人事業主でも、見積書の保存義務はありますか?

A. 条文の列挙に「見積書」という語は入っていません。所得税法施行規則102条3項2号が挙げているのは「請求書、納品書、送り状、領収書その他これらに類する書類」で、青色申告者向けの63条1項3号にある注文書・契約書・見積書が現れません。ただし末尾の「その他これらに類する書類」という包括的な受け皿があるため、名指しされていないことをもって保存しなくてよいという結論にはなりません。保存期間は102条4項により書類は5年とされています。実務上は区分にかかわらず取引書類を一括して保存しておくのが安全です。

Q. 失注した見積書も保存が必要ですか?

A. 条文の書き方からは、契約に至ったかどうかで区別されていません。法人税法施行規則59条1項3号は「取引に関して、相手方から受け取つた……見積書」および「自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し」を保存対象としており、成約したものに限るという限定はありません。電子帳簿保存法2条5号の取引情報の定義も「受領し、又は交付する」書類に通常記載される事項としており、同様に成否での限定がありません。見積書は失注すると管理が緩みがちですが、区別する条文上の根拠は見当たらないので、発行したものは一律に残しておくのが安全です。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。

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