サービス残業とは|打刻との差を調べ、未払残業代を精算する確認表
サービス残業は、支払うべき残業代が支払われていない状態です。会社が是正するときは、打刻と実労働の差を調べ、確認できた労働時間で賃金を計算し直して不足分を精算します。
退勤打刻や申請の有無だけでは、労働時間は決まりません。使用者の明示・黙示の指示による業務かを確認します。この記事では、通常の実労働時間で勤怠・給与を管理する従業員について、経理・労務担当が残す記録を表にしました。
打刻と実労働がずれやすい場面
確認するのは、使用者の指揮命令下にあった時間です。会社にいた時間やパソコンの起動時間の全体を、そのまま労働時間と決めるわけではありません。
次の表は、通常の実労働時間管理で調べる場面の例です。労働時間に当たるかは、明示・黙示の指示、業務上の義務付け、作業を余儀なくされた状況などの実態で確認します。
| 場面 | 確認する実態 | 残す資料の例 |
|---|---|---|
| 退勤打刻後の作業 | 打刻後も指示された業務を続けていないか | 打刻、作業履歴、上司の依頼、本人の説明 |
| 始業前の準備・終業後の片付け | 事業場内で、使用者の指示による業務に必要な準備・後始末をしていないか | 担当表、作業手順、入退場記録 |
| 持ち帰り・在宅での作業 | 明示・黙示の指示による業務か、私的な時間を分けられるか | 依頼メール、成果物の更新履歴、本人・上司への聞き取り |
| 待機・研修 | 即時の業務対応を求められ労働から離れられない待機か、参加義務のある研修か | 当番表、対応指示、研修の参加条件 |
根拠は厚生労働省の労働時間適正把握ガイドラインです。本人が「自主的な勉強」と申告していても、実態が指揮命令下の業務なら労働時間として扱います。自由な私的活動とは区別してください。
管理監督者への該当性、みなし労働時間制、高度プロフェッショナル制度などの適用判断は、この表では扱いません。役職名だけで集計から外さず、適用制度を労務担当と確認します。
記録を集め、日別に差の理由を確認する
元の記録を残し、補正の理由が追えるようにします。通常の実労働時間管理では、日ごとの始業・終業を現認、またはタイムカード・入退場・パソコンの使用記録などの客観的な記録を基礎に確認します。
やむを得ず自己申告制で把握する場合は、本人と管理者に適正な申告・運用を説明します。申告と入退場・パソコン記録に著しい乖離があれば、実態調査を行い、所要の労働時間を補正します。
以下は調査用の項目例で、法定様式ではありません。日別に記入し、在場時間と実労働時間を区別します。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 本人・日付・勤務区分 | 所属、対象日、所定勤務、休日の区分 |
| 申告と客観的記録 | 申告の始業・終業・休憩、入退場、パソコン記録 |
| 差の理由と業務の根拠 | 作業内容、指示者、成果物、本人・上司の説明、私的滞在の有無 |
| 補正後の労働時間 | 始業・終業・休憩、補正理由、確認者、確認日 |
退勤後にパソコンが起動したままでも、全時間が業務とは限りません。一方、打刻後の依頼に対応していたなら、その業務時間を確認します。記録どうしが合わない箇所は未確認として残し、根拠なく打刻時刻にそろえない運用にします。
給与計算期間別に未払額を集計・精算する
確定した時間を給与計算期間ごとに集計し、控除前の支払うべき額と既払額を比べます。通常賃金の不足と割増賃金の不足を区別すると、精算の内訳を説明しやすくなります。
以下は会社内で精算を進めるための確認表です。適用される勤務制度・賃金規程を確かめて使います。
| 工程 | 確認・保存するもの |
|---|---|
| 時間を集計 | 補正後の勤怠、所定時間外・法定時間外・法定休日・深夜の区分 |
| 支払うべき額を再計算 | 当時の賃金規程・基礎賃金・所定労働時間、適用する割増率、端数処理 |
| 既払額と照合 | 給与明細と賃金台帳、残業手当の支払実績、対象区分ごとの不足 |
| 本人へ内訳を説明し支払 | 対象期間、時間区分、再計算額、既払額、差額、支払日と支払記録 |
| 記録を整える | 補正前後の勤怠、再計算表、給与・賃金台帳の訂正内容、確認者 |
法定時間内の所定時間外労働と、法定の割増が必要な労働は区別します。単価・割増率・端数処理は残業代の計算方法で確認できます。固定残業代がある場合は、対象区分と充当できる額を固定残業代の記事で確認し、単に手当の総額を引かないでください。
計算機は労働時間の認定や固定残業代の有効性、請求できる額を判定しません。固定残業代との差額比較には対象契約の制限があります。過去分は当時の条件で計算し、税・社会保険・遅延損害金などの処理は別途確認します。
賃金の支払義務は労働基準法の賃金支払の規定、法定の割増賃金は同法の割増賃金の規定で定められています。法令や労使協定による適法な給与控除と、残業代の不払いは分けて照合します。
賃金請求権の時効と付加金を分ける
残業代の請求権と、裁判所が命じ得る付加金は別です。期間の本則と当分の間の経過措置も、次の表で分けて確認します。
賃金請求権の行は2020年4月1日以降に支払期日が到来する残業代などの賃金(退職手当を除く)、付加金の行は同日以降の違反を対象とします。
| 区分 | 本則 | 当分の間の期間 | 起算点 |
|---|---|---|---|
| 退職手当を除く賃金請求権 | 支払期日から5年 | 支払期日から3年 | 各賃金の支払期日 |
| 付加金の請求期間 | 違反時から5年以内 | 違反時から3年以内 | 違反のあった時 |
本則は労働基準法の付加金の規定・時効の規定、経過措置は同法附則の読替え規定によります。時効の完成猶予・更新などは別途確認し、調査日から逆算して古い記録を捨てないでください。
付加金は、割増賃金など法律が対象とする未払金について、労働者の請求により裁判所が同一額の支払を命じ得るものです。通常賃金の不払い全般に自動加算されるものではありません。対象は解雇予告手当・休業手当・割増賃金・年次有給休暇中の賃金で、請求期間は上の表のとおりです。
申告を減らさず、業務と運用を見直す
実際に働いた時間の申告に上限を設けないことが出発点です。残業の承認手続があっても、未承認の実労働を記録から消す運用にしません。
- 残業削減の通達や固定手当が、過少申告の原因になっていないか本人と管理者に確認する。
- 業務量・締切・担当配置を見直し、終わらない業務は上司へ相談できる手順を決める。
- 勤怠の申告と客観的記録の差、補正の状況を継続して確認し、再発する部署の運用を直す。
労働時間そのものの法定・協定上限を守ることと、実績を正しく記録することは両方必要です。未払額を支払っても、違法な長時間労働を是正したことにはなりません。監督署から指導を受けたときの対応は是正勧告の記事にまとめています。
監督指導結果の数字の読み方
厚生労働省の公表結果では、令和7年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案は22,605件で、翌年繰越の未解決事案や倒産・事業主の行方不明による不払いも含みます。
これは賃金不払全体の集計で、サービス残業だけの件数でも、全企業における発生率でもありません。会社の点検では、この集計と自社の打刻・給与の照合を分けて考えます。
よくある質問
申請していない残業は、集計から外してよいですか?
申請の有無だけでは外せません。使用者の明示・黙示の指示による業務など、指揮命令下の時間であれば労働時間です。本人と上司の説明、作業記録を確認し、私的な滞在とは区別します。
持ち帰りの仕事も確認対象ですか?
確認対象です。自宅で行ったという場所だけでは決めず、使用者の明示・黙示の指示による業務か、作業を余儀なくされた状況があったかを確認します。依頼や作業の履歴と聞き取りを使い、私的な時間を分けます。
パソコンが動いていた時間を、そのまま残業時間にしますか?
そのままでは決めません。パソコン記録は実態を確認する資料であり、起動時間の全体が労働時間とは限りません。打刻との差について作業・休憩・私的滞在の実態を調べ、指揮命令下の労働時間を補正します。
まとめ
サービス残業の是正は、記録と給与をつなぐ作業です。打刻との差を調査し、実労働時間を補正して、給与計算期間ごとの不足を精算します。申告を減らして帳尻を合わせず、業務量と勤怠の運用も見直します。
出典
- e-Gov法令検索「労働基準法」(賃金の支払、割増賃金、付加金、時効、附則の経過措置)
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
- 厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されています」
- 厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果」(賃金不払全体の集計)
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。個別の税務・労務相談には応じられません。実労働時間の認定、時効、精算方法については、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士・弁護士等にご確認ください。