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労働基準監督署の臨検と是正勧告 — 「是正勧告」という言葉は、労働基準法にも労働安全衛生法にも一度も出てこない

結論から言うと、是正勧告書は「処分」ではありません。行政手続法2条6号にいう行政指導です。だから、受け取っても法律上の義務がその場で発生するわけではなく、従わなかったこと自体に罰則もありません。逆に、不服があっても行政不服審査法の審査請求はできません。処分ではないものに対する不服申立ての制度が、そこには用意されていないからです。

そもそも「是正勧告」という言葉が、法令に存在しません。労働基準法・労働安全衛生法・労働基準法施行規則の全文270,207字を機械で走査したところ、この語の出現は3法令とも0回でした。「指導票」も0回です。労働基準法に出てくる「是正」はただ1回、それも両罰規定(121条2項)の中の一語で、監督とは関係がありません。「勧告」もただ1回で、女性主管局長が下級の官庁の長に対して行うものです。同じ走査で「労働」が1,047回・1,051回・1,190回当たることは対照として確かめています。

ただし、「罰則がない」のは勧告に従わないことについてだけです。ここを混同すると足をすくわれます。監督官が来ること自体には条文の裏づけがあり、臨検を拒む・帳簿を出さない・尋問に虚偽を答えるには、労働基準法120条4号で30万円以下の罰金が用意されています。そして同じ行為でも、監督官が労働安全衛生法91条の立入検査として来ているなら、罰金の上限は50万円に変わります。この記事では、その分かれ目まで条文で確かめます。

結論 — 監督署から来る紙は3種類あり、法的な強さが全部違う

労働基準監督署から交付される書面は、実務上おおむね3種類に分かれます。名前が似ているので同じものに見えますが、法的な性質はまったく違います。

書面法的な性質従わなかったこと自体の罰則審査請求
是正勧告書行政指導(行政手続法2条6号)無いできない
指導票行政指導(同上)無いできない
使用停止等命令書処分(安衛法98条1項・99条1項)ある(安衛法119条2号・6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)できる

是正勧告書と指導票は、どちらも行政指導です。一般に、法令違反が現に認められたものを是正勧告書で、違反とまでは言えないが改善が望ましいものを指導票で示す運用とされています。ただしこの使い分けは条文に書かれたものではありません——先に見たとおり、どちらの語も法令に0回だからです。

監督署から交付される書面 是正勧告書 法令違反が認められたとき → 行政指導(行手法2条6号) 指導票 改善が望ましいとき → 行政指導(同上) 使用停止等命令書 安衛法98条1項・99条1項 → 処分(命令) 従わないこと自体の罰則 無 し 無 し 6月以下の拘禁刑/50万円以下の罰金 審査請求(行政不服審査法2条) できない できない できる
是正勧告書と指導票は行政指導、使用停止等命令書は処分。従わないこと自体に罰則があるのは3番目だけで、審査請求ができるのも3番目だけ。
「罰則がない」を「放っておいてよい」と読み替えない

勧告に従わないこと自体に罰則はありませんが、勧告の中身として指摘されている違反行為には、たいてい元々の罰則があります。たとえば時間外労働の割増賃金を払っていないなら、労働基準法37条違反として119条1号の罰則(6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)の対象です。勧告に従わないまま是正されなければ、監督官は次に司法警察員として動けます(後述)。勧告は、罰則のない紙ではなく、罰則のある違反を任意に直す機会として置かれている紙です。

「是正勧告」も「指導票」も、3法令270,207字に0回

実際に数えました。e-Gov法令API v2 で3法令の全文を取得し、空白を除いた本文テキストに対して語の出現を数えた結果です。

労働基準法
(63,733字)
労働安全衛生法
(119,357字)
労働基準法施行規則
(87,117字)
是正勧告000
指導票000
是正120
勧告1160
臨検300
労働(対照)1,0471,0511,190

0という数字は、走査が壊れていても同じように0になります。そこで対照として「労働」を同じ手順で数え、3法令とも4桁で当たることを先に確かめました。走る経路が生きている状態での0件です。

残った1回ずつの「是正」「勧告」も、監督の話ではありませんでした。労働基準法の「是正」は121条2項、両罰規定の中で事業主が違反行為を知りその是正に必要な措置を講じなかった場合を指す一語です。「勧告」は100条2項で、女性主管局長が労働基準主管局長およびその下級の官庁の長に対して行うものです。労働基準法の条文に、監督官が事業主へ是正を勧告するという規定は置かれていません。

では実務は何を参照するのか

是正勧告書は、監督官が臨検(労基法101条)で違反を認めたときに、行政指導として交付する運用上の書面です。したがって契約書や社内規程に「是正勧告を受けないこと」と書いても、参照先の条文が存在しません。書くなら、違反の対象になっている条文そのもの(労基法32条、37条、89条など)を名指しするほうが、後から読んだ人に意味が伝わります。

臨検と立入検査 — 同じ行為に、法律が2つの別の言葉を当てている

監督官が事業場に来る根拠は、労働基準法と労働安全衛生法に1本ずつあります。まず労働基準法101条1項です。

労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。

次に労働安全衛生法91条1項。

労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、若しくは作業環境測定を行い、又は検査に必要な限度において無償で製品、原材料若しくは器具を収去することができる。

同じ人が同じ事業場に来る行為なのに、労働基準法は「臨検」、労働安全衛生法は「立ち入り」「検査」と、別の言葉を使っています。実測でも、臨検は労働基準法に3回あるだけで、労働安全衛生法には0回です。安衛法側は作業環境測定と収去(サンプルの持ち帰り)まで書き込んでいて、範囲が物理的に広くなっています。

もう一つ、実務でいちばん効く違いがここにあります。身分証明の書きぶりが違います。

労働基準法101条2項労働安全衛生法91条3項
条文の義務身分を証明する証票を携帯しなければならない身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならない
提示の明文無いある
犯罪捜査でない旨無いある(91条4項)

労働安全衛生法91条4項は、こう明言しています。

第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

労働基準法101条には、この歯止めの条項がありません。労働基準法の臨検には、犯罪捜査のために認められたものではないという明文の限定が置かれていないということです。次の節で見るとおり、監督官は司法警察員としての顔も持っているので、この差は形式的なものではありません。

断ると罰金。ただし30万円と50万円の2つがある

臨検も立入検査も、拒めば罰則があります。ただし金額が違います。労働基準法120条は柱書で30万円以下の罰金を定め、その4号がこう書いています。

第百一条(第百条第三項において準用する場合を含む。)の規定による労働基準監督官又は女性主管局長若しくはその指定する所属官吏の臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者

一方、労働安全衛生法120条の柱書は50万円以下の罰金で、その4号が91条1項の立入り・検査・作業環境測定・収去・検診の拒否と、質問に対する陳述拒否・虚偽陳述を挙げています。

行為労働基準法上限労働安全衛生法上限
立ち入りを拒む120条4号30万円120条4号50万円
質問・尋問に答えない/虚偽を述べる120条4号30万円120条4号50万円
帳簿書類を出さない/虚偽の帳簿を出す120条4号に明記30万円91条1項の「検査」の拒否として50万円
報告をしない/虚偽の報告/出頭しない120条5号(104条の2)30万円120条5号(100条1項・3項)50万円
是正勧告に従わない罰則そのものが無い

条文の書きぶりにも差があります。労働基準法120条4号は帳簿書類の不提出と虚偽記載の提出を名指しで挙げていますが、労働安全衛生法120条4号にその文言はなく、帳簿を見せないことは91条1項の検査を拒む行為として読むことになります。労働基準法のほうが、帳簿について具体的に書いているということです。

そして表の最終行が、この記事のいちばんの要点です。拒むことには罰金があり、従わないことには罰金がありません。調査に応じる義務と、勧告の内容を実行する義務は、法的にまったく別の階層にあります。

また、労働基準法121条と労働安全衛生法122条は、どちらも両罰規定ですが構造が違います。労働基準法121条1項には免責の但書があり、事業主が違反の防止に必要な措置をした場合には罰金刑を科さないとしています。労働安全衛生法122条にはこの但書がありません。さらに労働基準法121条2項は、事業主が違反の計画を知りながら防止措置を講じなかった場合などに、事業主も行為者として罰するとしており、両罰の枠を超えた重い扱いを用意しています。

監督官のもう一つの顔 — 労基法102条だけが、刑事訴訟法に無い言葉を使っている

労働基準監督官は行政の監督官であると同時に、刑事手続の担い手でもあります。労働基準法102条です。

労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。

労働安全衛生法92条は、同じことをこう書いています。

労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察員の職務を行なう。

気づきにくい違いがあります。労働基準法は「司法警察官」、労働安全衛生法は「司法警察員」と書いています。そこで刑事訴訟法の全文196,838字を数えました。

現行の刑事訴訟法での出現回数
司法警察官0
司法警察員45
司法巡査6
司法警察職員62
検察官(対照)512

労働基準法102条が名指ししている「刑事訴訟法に規定する司法警察官」という言葉は、現行の刑事訴訟法に一度も出てきません。現行法が使うのは司法警察員と司法巡査で、両者をまとめた総称が司法警察職員です。労働基準法は1947年(昭和22年)の制定で、当時の刑事訴訟法はまだ大正時代のもの、現行の刑事訴訟法は翌1948年(昭和23年)の制定です。1年ずれた立法の用語が、そのまま79年間残っていると読むのが素直でしょう。1972年制定の労働安全衛生法のほうは、現行刑事訴訟法の語に揃っています。

この区別は形式ではありません。刑事訴訟法199条2項は逮捕状の請求ができる者を検察官と司法警察員に限り、246条は事件を検察官に送致する義務を司法警察員に課しています。司法巡査にはどちらの権限もありません。実務では、労働基準監督官は労働基準法違反についても送検を行っており、司法警察員に相当する立場として扱われています。

労働基準監督官 行政監督としての臨検 労基法101条/安衛法91条 司法警察員としての捜査 労基法102条/安衛法92条 是正勧告書・指導票(行政指導) 従わないこと自体の罰則は無い 送致(刑訴法246条) 逮捕状の請求(刑訴法199条2項)
同じ監督官に2つの立場がある。左は行政指導で終わる道、右は刑事手続の道。是正勧告が置かれているのは左側で、そこに強制力が無いことと、右側が存在することは両立している。

勧告に納得できないとき — 使えるのは行政手続法の3か条

是正勧告書の内容が事実と違う、と考えたときに何ができるか。まず審査請求はできません。行政不服審査法2条はこう定めています。

行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。

そして行政手続法2条6号の行政指導の定義は、こうなっています。

行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。

末尾が処分に該当しないものをいうです。行政指導であることと処分であることは、定義上両立しません。審査請求の対象は処分なので、行政指導である是正勧告書はその外にあります。

代わりに使えるのが、行政手続法の第4章です。実務で意味があるのは3か条です。

条文何を定めているか実務でどう効くか
32条1項行政指導の内容はあくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現される任意であることが条文で確認されている
32条2項従わなかったことを理由に不利益な取扱いをしてはならない従わないことを理由とする報復が禁じられている
35条1項趣旨・内容・責任者を明確に示さなければならない誰の判断かを明らかにするよう求められる
35条3項口頭でされた行政指導は、求めれば書面を交付する口頭の指導を書面化できる
36条の2行政指導の中止等の求め(根拠となる規定が法律に置かれているものに限る下記の但書に注意

32条1項の条文はこうです。

行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
36条の2は、そのまま使えるとは限らない

行政手続法36条の2第1項は、法令違反の是正を求める行政指導の相手方が、その中止を求められる制度です。ただし括弧書きでその根拠となる規定が法律に置かれているものに限ると絞っています。この記事の冒頭で数えたとおり、是正勧告について定めた規定は労働基準法にも労働安全衛生法にも置かれていません。条文の文言をそのまま当てると、是正勧告書がこの括弧書きの範囲に入るかは自明ではありません。実際に中止の求めを出すかどうかは、対象となっている条文と事実関係によって変わるので、弁護士または社会保険労務士に確認する場面です。

現実的な順序としては、事実誤認があるなら、勧告の前提になっている事実(たとえば労働時間の集計)を資料で示して監督官と再確認する、というのが最初になります。是正勧告書には根拠となる法条が記載されるので、そこに書かれた条番号が何を要求しているのかを条文で確かめるのが出発点になります。

是正報告書 — 「依頼」なのか「命令」なのかで、法的な意味が変わる

是正勧告を受けると、期日までに是正報告書(是正(改善)報告書)を出すよう求められるのが通例です。ここに、見落とされやすい分岐があります。

是正報告書という言葉も、法令には0回です。行政指導としての勧告に対する任意の応答であれば、提出しないこと自体に罰則はありません。ところが、労働基準法104条の2にはこういう規定があります。

行政官庁は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

2項では、労働基準監督官自身も同じ権限を持つと定めています。そしてこの規定による報告をしなかった、虚偽の報告をした、出頭しなかった場合は、労働基準法120条5号で30万円以下の罰金の対象です。労働安全衛生法でも同じ構造で、100条1項・3項の報告義務違反が120条5号で50万円以下の罰金にかかります。

同じ「報告してください」が、2つの階層にまたがっている

行政指導としての報告の求めなら罰則はなく、104条の2(安衛法なら100条)による報告命令なら罰則があります。紙の見た目では区別がつかないことがあります。提出期限や様式について疑義があるときは、それが行政指導としての依頼なのか、104条の2に基づく報告命令なのかを監督署に確認しておくと、判断を誤りません。行政手続法35条1項が責任者を明確に示すよう求めているのは、まさにこうした場面のためです。

勧告と命令を取り違えない — 使用停止等命令だけは処分

労働安全衛生法98条1項は、都道府県労働局長または労働基準監督署長が、作業の全部または一部の停止、建設物等の使用の停止または変更などを命ずることができると定めています。これは行政指導ではなく処分です。従わなければ、労働安全衛生法119条2号により6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります。

98条3項には、現場でそのまま効いてくる規定があります。

労働基準監督官は、前二項の場合において、労働者に急迫した危険があるときは、これらの項の都道府県労働局長又は労働基準監督署長の権限を即時に行うことができる。

急迫した危険があるときは、監督官がその場で署長の権限を行使できます。署に持ち帰って決裁する時間を待たない、ということです。労働基準法103条にも、寄宿舎について同じ構造の即時権限が置かれています。

もう一つ、発注者側にとって重要な条項が98条4項です。請負契約によって行われる仕事について使用停止等命令をしたとき、労働局長または署長は、その仕事の注文者に対して、労働災害を防止するため必要な事項について勧告または要請を行うことができるとされています。数次の請負であれば、命令を受けた注文者を除く先次のすべての請負契約の当事者である注文者が対象に含まれます。命令の名宛人でなくても、発注者に紙が来る経路があるということです。

是正勧告でいちばん多い割増賃金の不足額を、単価から計算する

申告した労働者への不利益取扱い — 安衛法だけが「取引の停止」まで禁じている

監督署が調査に入るきっかけの一つが、労働者からの申告です。労働基準法104条は2項構成です。

事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。

2項で、使用者は申告したことを理由として労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならないと定め、この2項に違反すると、労働基準法119条1号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。臨検拒否(罰金のみ)より重い扱いになっています。

労働安全衛生法97条にも同じ規定がありますが、3項が1つ多いのが特徴です。

注文者、機械等貸与者その他第一項の作業従事者に係る事業を行う者の契約の相手方は、同項の申告をしたことを理由として、当該事業を行う者に対し、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。

労働者個人への不利益取扱いだけでなく、申告があった会社との取引を止めることまで禁じています。労働基準法104条にこの3項はありません。労働安全衛生法119条1号は97条2項と3項をともに挙げているので、取引停止も6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象です。元請・発注者の立場で「安全衛生の申告が出た取引先を切る」という判断をすると、ここに触れます。

条文が名指ししている帳簿は3つだけ

臨検で求められる資料は幅がありますが、労働基準法が名指しで作成・保存を義務づけている帳簿は3つです。

帳簿条文作成の単位
労働者名簿労基法107条各事業場ごと・各労働者について(日日雇い入れられる者を除く)
賃金台帳労基法108条各事業場ごと・賃金支払の都度遅滞なく記入
出勤簿等(労働時間の記録)労基法109条の「労働関係に関する重要な書類」

保存期間の条文はこうです。

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。

ただし附則143条1項が、当分の間、109条中の「五年間」を「三年間」と読み替えています。本則は5年、実際に適用されるのは3年です。条文だけを見て5年と答えると外れるので、附則まで確かめる必要があります。

臨検で見られるものは、この3つに加えて就業規則(労基法89条・常時10人以上の事業場)、36協定(労基法36条)、健康診断個人票(安衛法66条)、安全衛生推進者等の選任状況などが典型です。労働時間の集計と割増賃金の計算が合っているかは、賃金台帳と出勤簿を突き合わせて確認されます。割増賃金の不足は是正勧告の対象として最も多い類型の一つなので、固定残業代を採用している場合は、その額が実際の時間外労働に足りているかを先に自分で数えておくと話が早く進みます。

よくある質問

Q. 是正勧告に従わないと、どうなりますか?

A. 勧告に従わないこと自体に罰則はありません。是正勧告書は行政手続法2条6号にいう行政指導で、同法32条1項は行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであるとしています。ただし勧告の対象になっている違反行為そのものには、元々の罰則があります。たとえば割増賃金の不払いは労働基準法37条違反として119条1号の対象で、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。是正されないまま推移すれば、監督官は労働基準法102条により司法警察員としての職務を行い、刑事訴訟法246条の送致に進むことができます。

Q. 臨検を断ることはできますか?

A. 断ると罰則の対象になります。労働基準法120条4号は、労働基準監督官の臨検を拒み、妨げ、忌避した者、尋問に対して陳述をせず、または虚偽の陳述をした者、帳簿書類の提出をせず、または虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者を、30万円以下の罰金としています。労働安全衛生法91条1項の立入検査を拒んだ場合は、同法120条4号により50万円以下の罰金です。是正勧告に従う義務と、調査に応じる義務は別のもので、罰則があるのは後者です。

Q. 是正勧告書に不服がある場合、審査請求はできますか?

A. できません。行政不服審査法2条は、審査請求ができるのを行政庁の処分に不服がある者としています。一方、行政手続法2条6号は行政指導を、指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものと定義しており、行政指導であることと処分であることは定義上両立しません。使えるのは行政手続法の規定で、32条2項は従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを禁じ、35条1項は趣旨・内容・責任者を明確に示すよう求めています。36条の2の中止の求めは、根拠となる規定が法律に置かれている行政指導に限られているため、適用の可否は個別に確認が必要です。

Q. 指導票と是正勧告書は何が違いますか?

A. 法的な性質はどちらも行政指導で同じです。運用上は、法令違反が現に認められたものを是正勧告書で、違反とまでは言えないが改善が望ましいものを指導票で示すとされています。ただしどちらの言葉も法令には出てきません。労働基準法・労働安全衛生法・労働基準法施行規則の全文270,207字を機械で走査すると、是正勧告も指導票も出現は0回です。

Q. 是正報告書を出さないと罰則がありますか?

A. 求められ方によって変わります。行政指導としての報告の求めであれば、提出しないこと自体に罰則はありません。しかし労働基準法104条の2に基づく報告命令であれば、報告をせず、虚偽の報告をし、または出頭しなかった場合は同法120条5号により30万円以下の罰金の対象です。労働安全衛生法でも100条1項・3項の報告について同法120条5号が50万円以下の罰金を定めています。書面の見た目だけでは区別がつかないことがあるため、根拠を確認しておくのが確実です。

Q. 労働基準監督官は逮捕もできるのですか?

A. 労働基準法102条は、監督官がこの法律違反の罪について刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行うと定め、労働安全衛生法92条は司法警察員の職務を行うと定めています。刑事訴訟法199条2項は逮捕状を請求できる者を検察官と司法警察員に限り、246条は事件を検察官に送致する義務を司法警察員に課しています。実務では監督官は送検を行っており、司法警察員に相当する立場として扱われています。なお現行の刑事訴訟法196,838字に司法警察官という語は0回で、使われているのは司法警察員45回・司法巡査6回・司法警察職員62回です。

Q. 労働者が監督署に申告したことを理由に、その社員を配置転換してもよいですか?

A. 労働基準法104条2項は、使用者が申告をしたことを理由として労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならないと定めており、違反は同法119条1号により6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象です。労働安全衛生法97条2項にも同じ規定があり、同法119条1号で6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金となります。さらに安衛法97条3項は、注文者などの契約の相手方が、申告を理由として当該事業を行う者に対し取引の停止その他の不利益な取扱いをすることも禁じています。

Q. 臨検に来た人が本当に監督官かどうか、確認できますか?

A. 条文の書きぶりが2つの法律で違います。労働基準法101条2項は、監督官がその身分を証明する証票を携帯しなければならないと定めるだけで、提示までは明文になっていません。労働安全衛生法91条3項は、身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならないとしています。労働安全衛生法の立入検査については提示が条文上の義務です。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案についての助言ではありません。自社が受けた是正勧告書・指導票の内容の当否、是正報告書の書き方、行政手続法36条の2による中止の求めの可否については、所轄の労働基準監督署、または社会保険労務士・弁護士にご確認ください。

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