昇進とは?昇格・昇給との違いと、辞退された会社の確認表
昇進は上位の役職に就くことですが、辞退できるかは職務の変更内容や労働契約・就業規則によって検討します。本人の申出を受けた会社は、変更する責任・権限・処遇と、本人が懸念する条件を確認します。
昇格・昇給との違い、辞退対応の確認表、協議メモの記入例、給与担当への引継ぎをまとめます。民間企業の従業員の任用を扱い、役員への就任は対象外です。
昇進・昇格・昇給の違いを規程で確認
社内で何が変わるかを、役職・資格等級・賃金に分けます。次の表は用語を整理するための見方で、各社共通の法定定義ではありません。
| 用語 | 一般的な整理 | 照合する資料の例 |
|---|---|---|
| 昇進 | 上位の役職・ポストに就くこと | 組織図、職務権限規程、役職任用基準 |
| 昇格 | 職能資格等の等級が上がること | 等級規程、評価基準、資格等級別の賃金表 |
| 昇給 | 本人の賃金が上がること | 賃金規程、昇給の決定資料、給与明細 |
例えば、等級は同じまま主任に任用する制度と、専門職として等級を上げても部下を持たない制度では、確認する職務も給与も違います。自社が役職の変更を「昇格」と呼ぶ場合も、言葉を置き換えるより変更内容を記録すると整理できます。
均等法上の昇進には、役職の上方移動を伴わない昇格も含まれます。厚生労働省の指針の「昇進」の説明に示されています。社内で昇進と昇格を呼び分けても、等級の選考を性別差別の確認から外すことはできません。
賃金表全体の引上げと本人の昇給の違いは、ベースアップと定期昇給で確認できます。
辞退の申出を受けた会社の確認表
先に、本人が引き受けられないと考える条件を具体化します。昇進そのものを望まないのか、勤務地・勤務時間・担当範囲・給与の説明に懸念があるのかで、協議する内容が変わります。
次は会社内の対応を整理する作業例です。法定の様式や、辞退・命令の有効性を自動判定する表ではありません。
| 確認すること | 資料・質問の例 | 記録する内容 |
|---|---|---|
| 申出の段階 | 打診、内示、正式発令のどの段階か | 会社の説明内容、本人の回答、未確定の条件 |
| 変更する職務 | 部下の評価、決裁、顧客対応をどこまで任せるか | 現在と変更後の責任・権限・業務量 |
| 契約・規程の根拠 | 雇用契約書、役職任用規程、職種等の限定合意 | 適用条項、個別の約束、本人への周知状況 |
| 本人の懸念 | 業務負担、健康、家庭事情、説明不足など | 本人が述べた事実と、会社が未確認の事項 |
| 調整の余地 | 開始時期、担当業務、補佐者、研修を調整できるか | 提案した条件と本人の回答、再協議する事項 |
| 最終的な回答 | 発令、延期、候補の再検討等をどう整理したか | 決定内容、説明理由、実施日、社内の担当者 |
「やる気がない」と評価する前に、負担の中身を確かめます。本人が懸念しているのが夜間の呼出しなら、役職名の説明を繰り返すより、対応範囲・代替要員・連絡体制を明らかにする方が協議の材料になります。
昇進を断れるかは契約と変更内容を分けて確認
昇進という名称から、本人が自由に拒否できるとも、会社が当然に強制できるとも決まりません。役職の任用だけなのか、約束した職種・勤務条件まで変えるのかを確認します。
就業規則があるだけで結論を出さない
労働契約法7条は、契約締結時に合理的な労働条件を定めた就業規則を周知していた場合の、契約内容の扱いを定めています。規則の存在だけを確認して終えず、内容・周知と個別合意を見ます。
個別に約束した条件があれば、就業規則と異なる部分の内容も確認します。社内の任用規程に広い裁量が書かれていても、個別に約束した職務の限定などを確認する必要があります。
労働条件を変更する場合は変更の根拠を確認
労使の合意による労働条件の変更は、労働契約法8条に定められています。本人が説明を聞いたことと、変更に合意したことは分けて記録します。
就業規則を変えて不利益に労働条件を変更する場合は、同法9条・10条の問題になります。就業規則による不利益変更を検討するときは、本人の合意の有無に加え、変更後の規則の周知、変更の合理性、規則変更では変更しないという個別合意の有無を確認します。
合理性は、不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉状況などで判断されます。就業規則の変更では変更しないと個別合意した条件には、最低基準を下回る場合を除き、その変更は及びません。
同法3条は、契約の締結・変更における仕事と生活の調和への配慮や、労働契約上の権利濫用の禁止等を定めています。この原則だけから、特定の昇進命令を拒否できるかまで結論づけることはできません。
勤務地・職種の変更も伴う場合は、人事異動の契約上の権限と限定合意を併せて確認します。
本人との協議と記録の残し方
協議記録は、本人の申出と会社の回答を分けて書くと後から確認できます。次は社内記録の作成例です。本人に包括的な権利放棄や、将来の不利益への同意を求める書式ではありません。
| 欄 | 記入例 |
|---|---|
| 提示した変更 | 主任への任用。新人指導と日常業務の取りまとめを担当。採用決定権は付与しない |
| 本人の申出 | 家族の介護があり、勤務終了後の突発対応が難しいとの申出 |
| 会社の説明 | 時間外の対応範囲と代替担当を整理して再提示する |
| 未決定の事項 | 任用開始時期、業務分担、本人の最終回答 |
| 次の対応 | 人事担当が担当業務案を作成し、本人と再協議する |
健康や家庭の情報は、業務調整に必要な範囲を確かめて記録する運用が考えられます。給与担当への引継ぎは、決定した役職・等級・支給条件を中心にし、相談時の情報まで同じ一覧に載せない形にすると管理しやすくなります。
「今回の開始時期を延期する」という回答と、「今後の昇進機会を希望しない」という回答は違います。会社が提案した条件、本人が同意した範囲、未回答の点を記録上も分けます。
辞退への懲戒・評価を即断しない
辞退の申出があったという事実だけで、懲戒の有効性は決まりません。対象となる命令の内容と根拠、本人の事情、会社の説明や調整の経緯を確認します。
労働契約法15条は、使用者が懲戒できる場合でも、行為の性質・態様その他の事情に照らし、客観的合理性と社会通念上の相当性を欠く懲戒を無効としています。同条自体が会社に懲戒権限を与えるわけではありません。
確認を要する点は、就業規則等の懲戒根拠、どの行為が対象なのか、事情に照らして処分が相当なのかです。命令の有効性に争いがある状態で、辞退を理由とする減給・降格・解雇までまとめて決めることは避け、労務の専門家に具体的資料を渡して確認します。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働基準法89条による就業規則の作成・届出が必要です。通常の賃金の決定・計算等と昇給に関する事項を記載し、制裁は定める場合に種類と程度を記載します。
上の通常の賃金の記載事項は臨時の賃金等を除き、賞与等の臨時の賃金は定める場合の記載事項です。昇給規定を設けることと、毎年の昇給が約束されていることも分けて確認します。
昇進選考では性別による差別も確認
男女雇用機会均等法6条は、昇進等において性別を理由とする差別的取扱いを禁止しています(法令・指針上の例外は下の注)。同じ雇用管理区分の中で、候補者の選び方や試験・評価の基準を確認します。
厚生労働省の指針では、下の注の例外に該当しない昇進で、同じ雇用管理区分の女性だけ昇進機会を与えないことや、女性だけ上司の推薦を試験の受験条件とすることなどが禁止例です。本人の意向を聞かずに、家庭事情を理由として候補から外す判断にも注意が必要です。
主な例外として、同じ雇用管理区分で女性が男性に比べ相当程度少ない役職への昇進について、機会・待遇の支障の改善を目的とした、指針に沿う女性への積極的改善措置があります。対象となる職務などが限られる他の例外や、間接差別については、男女雇用機会均等法の禁止事項と例外および上記指針で確認できます。
発令後は役職・等級・賃金を別々に引き継ぐ
給与担当には、「昇進した」という通知に加え、変更する給与項目と適用日を渡します。役職手当を追加するのか、基本給も変えるのか、現在の手当がどうなるのかを、自社規程と決定資料で照合します。
次は給与担当へ渡す項目の例です。支給額や支給開始日は、会社の規程・契約と今回の決定内容によります。
| 区分 | 確認すること |
|---|---|
| 役職 | 新旧の役職、担当職務、役職手当の対象 |
| 等級 | 新旧の等級・号俸、基本給の対応、変更の有無 |
| 支給時期 | 適用日、賃金計算期間、初回の支払日、日割りの扱い |
| 他の給与項目 | 旧手当の終了、賞与等の算定基礎、遡及差額の有無 |
| 残業代の設定 | 管理監督者の判断、時間外・休日・深夜の各取扱い |
厚生労働省「モデル就業規則」には役付手当と昇給の規程例があります。これは各事業場の実情に応じて作るための例であり、モデルの支給時期が自社にそのまま適用されるわけではありません。
昇進したことだけで残業代を止めない
会社の管理職と、労働基準法上の管理監督者は同じではありません。厚生労働省の管理監督者の説明は、職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇の実態から総合的に判断するとしています。
管理監督者に当たらない場合は、役職手当を支給したという理由で時間外・休日の割増賃金を不要とは扱えません。管理監督者でも、深夜割増賃金と年次有給休暇は適用されます。詳しい範囲は管理監督者の労働時間と給与の取扱いで確認できます。
例えば、主任になって新人を指導しても、労務管理上の権限や勤務の実態が変わらないなら、肩書の変更だけで給与システムの残業計算を外す根拠にはなりません。
決定した額面給与から手取りの目安を試算する手取りの試算で、昇進命令の有効性や管理監督者の該当性は判定できません。
まとめ
昇進辞退の対応は、役職名だけで決めず、変更する職務と処遇、契約・規程、本人の懸念を対応させて整理します。協議で決まった内容と未決定事項を記録し、発令後は役職・等級・給与項目を分けて引き継ぎます。
よくある質問
昇進と昇格は同じですか?
社内制度では、役職が上がることと資格等級が上がることを区別する使い方がありますが、自社の定義を確認します。均等法上の昇進には、役職の上方移動を伴わない昇格も含まれます。
昇進は本人が断れば取り消す必要がありますか?
申出だけでは決まりません。変更する職務・処遇、契約と規程の根拠、個別の約束、本人の事情を確認して検討します。昇進という名称だけで、自由に拒否できるとも会社が強制できるとも決まりません。
昇進したら給与も上がりますか?
自社の賃金規程と決定内容によります。役職任用、等級変更、基本給・手当の変更を分け、支給の開始時期も確認します。
課長に昇進すれば残業代は不要ですか?
役職名では決まりません。労基法上の管理監督者に当たるかは、職務・権限・勤務態様・待遇の実態から総合的に判断します。管理監督者にも深夜割増賃金と年次有給休暇は適用されます。
出典
- e-Gov法令検索「労働契約法」(契約の原則・就業規則・労働条件の変更・懲戒)
- e-Gov法令検索「労働基準法」(労働時間等の適用除外・就業規則の記載事項)
- e-Gov法令検索「男女雇用機会均等法」(昇進等の性別差別禁止・女性労働者に係る特例)
- 厚生労働省「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」
- 厚生労働省「モデル就業規則」(人事異動・役付手当・昇給の規程例と解説)
- 厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は社会保険労務士などの専門家にご確認ください。