電子署名とは|契約の本人確認と証拠保管のチェック表
電子署名は、電子文書の作成者を示し、内容が改変されていないか確認するための仕組みです。会社で電子契約を扱うなら、署名の表示に加え、相手の本人性・契約を結ぶ権限・後から確かめられる証拠を確認します。
この記事は民間の契約締結と証拠管理を扱います。まず下の表で担当作業を確認し、サービスの仕組みは後半で確かめてください。税務上の保存要件は電子帳簿保存法の解説で別に扱います。
締結前後の確認表
電子契約では、送信前から解約・移行前まで、場面に応じて相手や契約内容、証拠を確認します。次の表は会社で電子契約を回すための運用例です。各項目を一律に義務付ける法律上のチェックリストではありません。契約の重要性や、争いになった場合の影響に応じて確認方法を決めます。
| 場面 | 確認すること | 残す記録の例 |
|---|---|---|
| 送信前 | 相手の会社名・氏名と送信先が、確認済みの担当者情報に合うか | 連絡先を確認したメール、打合せ記録 |
| 署名前 | 署名する人に、当該契約を結ぶ権限があるか | 委任の範囲を示す資料、相手の決裁権者への確認記録 |
| 締結時 | 合意した最終版と、署名を求めるファイルが一致するか | 最終版を特定できるやり取り、締結済みの電子ファイル |
| 締結後 | 署名の検証結果と、誰がいつ操作したかを確認できるか | 署名・証明書等の検証情報、締結履歴、認証結果 |
| 解約・移行前 | サービス外でも契約と成立過程の証拠を取り出せるか | 出力した契約ファイルと履歴、問い合わせ先・取得手順 |
送信担当と署名担当が違う会社では、誰の操作を署名として記録するかを先に確認しておくと、後日の説明がしやすくなります。これは本記事の運用上の提案です。
電子署名の意味と推定の範囲
電子署名には、作成者を示し、改変の有無を確認できる機能が必要です。一定の条件を満たすと文書の真正な成立が推定されますが、契約の条項の有効性などまで確定するものではありません。
作成者を示すことと、改変を確かめること
電子署名法の定義では、作成者を示す機能と、改変の有無を確認できる機能の両方を満たす必要があります。根拠は 電子署名及び認証業務に関する法律2条1項 です。
画面に氏名や印影が見えるだけでは、これらの機能を備えているか分かりません。見た目を確かめる作業と、署名情報を検証する作業を分けてください。
推定されるのは、本人の意思で作られたこと
電子署名法3条 は、一定の場合に電磁的記録が真正に成立したものと推定する規定です。真正な成立の推定には、必要な符号・物件の適正な管理により本人だけが行える電子署名が本人の意思に基づいて行われることが必要です(公務員が職務上作成した電磁的記録は対象外)。
ここでいう真正な成立は、文書が作成名義人の意思に基づいて作られたことです。記載内容が真実か、契約の条項が有効か、署名者に会社を代理する権限があるかまでを、署名の存在だけで確定するものではありません。
他方、特段の定めがある場合を除き、私法上の契約は当事者の意思の合致で成立し、書面や押印は成立の必要条件ではありません。内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」の契約成立に関する問 は、契約の成立と証拠の問題を分けて説明しています。
対象は民間の一般的な契約です。書面等の方式を求める特別な定めのある契約は、その法令に適合する手続が別に必要です。本記事では個別契約の有効・無効を判断しません。
クラウド型で確かめる仕組み
サービス提供事業者の署名鍵を使うことだけで、法の推定対象から外れるわけではありません。ただし、方式の名称だけで推定が働くともいえません。デジタル庁・法務省「電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」 の問「サービス提供事業者が利用者の指示を受けて……」では、次の仕組みを含めて説明しています。
まず、事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思だけで暗号化等が行われることが担保される必要があります。付随情報を含む措置全体から、利用者の意思に基づくと分かることも必要です。そのうえで、利用者側と事業者内部の両過程について十分な固有性が必要です。片方の安全性だけでは足りません。
事業者自身の署名鍵を使うサービスについて、公的Q&Aの評価例を、導入担当者の確認事項に置き換えた表です。暗号の強度・鍵の管理・利用者ごとの個別性を含むサービス全体で評価されるため、表を満たせば推定が保証されるわけではありません。
| 確認する場所 | 事業者へ尋ねること | 確認資料の例 |
|---|---|---|
| 利用者側の認証 | 署名する本人の操作だとどのように確認するか | 認証方法の説明、なりすまし防止の仕様 |
| サービス内部 | 暗号強度、鍵管理、利用者と処理の紐付けはどうなっているか | セキュリティ仕様、運用設計、監査に関する資料 |
| ログの保護 | アクセスや操作の記録を、後から書き換えたり削除したりできないか | ログの保存・改変防止の仕様 |
| 証拠の提出 | 必要なときにログ・監査記録・仕様書等を提出できるか | 保管期間、提出手続、解約後の、取扱い |
利用者側の評価例には、登録メールアドレスとログインパスワードに加え、登録メールアドレス以外の経路で取得したワンタイムパスワードを入力する認証があります。ただし、その方法が法定の必須条件という意味ではありません。他の方法でも十分な固有性を満たす余地があります。
また、サービスの内部処理が安全でも、署名した利用者と契約書の作成名義人が同一かは別の立証事項です。身元確認やなりすまし防御の水準が低いと、裁判で推定には不十分とされる可能性があります。契約の重要性・金額と、推定が得られない場合の損害を考えて確認水準を決めます。
公的Q&Aも、具体的な事案で推定の対象となるかは裁判所の判断に委ねられるとしています。導入資料の「法対応」という表示を、個別契約についての保証に読み替えないでください。
本人確認と署名者の権限
本人だと分かることと、その人が会社を代表・代理して契約できることは、別に確認します。取引先の担当者から届いたメールでも、その担当者が契約金額や内容について権限を持っているかは分かりません。
代理の基本的なルールとして、e-Gov法令検索「民法」99条 は、代理人が権限内で本人のためにすることを示してした意思表示の効力が、本人に直接生じると定めています。会社名を契約当事者として表示することと、担当者の権限の範囲を確認することを分けて扱います。
以下は相手方の権限を確認するための社内運用例です。列挙した資料の取得が常に法定義務になるという意味ではありません。資料があっても権限の有効性を本表だけで確定することはできません。
| 署名する相手 | 確認の例 | 取り違えやすい点 |
|---|---|---|
| 代表者 | 会社の登記事項と契約上の名義を照合する | 登記上の名前が分かることと、操作した人の本人性は別 |
| 部門の責任者 | 当該契約を締結できる役職・委任の範囲を確認する | 権限を、肩書やメールの署名欄だけで決めない |
| 窓口担当者 | 契約を結ぶ人か、書類を送る人かを相手に確かめる | サービスの送信先がそのまま契約上の権限者とは限らない |
| 共有窓口 | 実際の署名者と、署名を指示した人を識別できるようにする | 共有メールを受信できることだけでは個人を特定できない |
たとえば、購買担当者が条件交渉をし、部長が署名する運用なら、担当者との合意経緯と、部長が署名することの確認を契約記録にまとめます。これは架空の運用例です。会社の代表者等を調べる書類は登記事項証明書の解説を参照してください。
サービス提供事業者による身元確認は、推定のために常に必要とされるものではありません。しかし、推定を主張する側には、利用者と作成名義人が同一であることの立証が必要です。相手との取引過程で行った確認も、そのための手段になり得ます。根拠は デジタル庁・法務省「電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」 の身元確認に関する問です。
契約書と一緒に残す証拠
締結済みファイルと、誰がどの内容に合意したかを説明する記録を、ひとまとまりで管理します。画面の「締結済み」を見て処理を終える前に、社内の保管先へ何を取り出せるか確かめます。
次は、内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」の立証手段に関する問 が挙げる本人確認・メール等の成立過程・認証記録の保存を参考にした保管例です。署名検証情報など、利用サービスの仕様に応じて取得できるものを確認します。税務上の保存期間を示す表ではありません。
| 保管するものの例 | 後で確かめる内容 | 保管時の確認 |
|---|---|---|
| 締結済み電子ファイル | 合意した契約の内容と署名情報 | 署名されたファイルをそのまま取得し、閲覧できるか確かめる |
| 締結履歴・操作記録 | 送信先、操作した利用者、日時、完了までの経緯 | 当該契約の記録だと紐付けられる識別情報を残す |
| 署名の検証情報 | 署名・証明書等を検証した結果と検証方法 | 確認日と結果を残し、不明な表示は事業者へ確認する |
| 本人・権限の確認記録 | 誰を相手として、どの範囲の契約を結んだか | 確認資料、問い合わせ内容、回答者を、まとめる |
| 合意形成のやり取り | 契約内容を確定した経緯 | メール本文・送受信日時・添付の最終版を関連付ける |
保管手順の例は、契約ごとの管理番号でフォルダーを作り、締結済みファイル・締結履歴・確認記録を分けて置く方法です。ファイル名だけで関係が分からなくならないよう、社内台帳から保管先を辿れるようにします。
印刷物や画面の画像は閲覧用の控えとして扱い、署名された電子ファイルや事業者の記録も保管対象として確認してください。画像だけでは、元の電子ファイルに含まれる署名情報を同じように検証できません。
長期保管する契約では、将来も署名情報をどう確認できるか、証明書等の有効性に関する情報をどう保管するかを、事業者へ尋ねます。サービスの解約後に記録を取得できるかも含めて、契約書の閲覧と証拠の取得を別に確認する運用です。
本表は、指定の資料を保存すれば証拠として十分になるという保証ではありません。保管先へのアクセス権限や取得できる個人情報の範囲も、会社の情報管理ルールに合わせて決めます。
検証できないときの確認手順
署名の検証で不明・警告が出たら、すぐに「契約無効」と扱わず、表示された内容と元ファイルを保存して調べます。以下は確認を進める運用例です。
- 表示されたメッセージ、確認した日時、使用した閲覧ソフトを記録する。
- 署名された元の電子ファイルと、閲覧・編集した別ファイルを区別する。
- 事業者へ、表示の意味、締結時の記録、検証方法と取得できる証拠を問い合わせる。
- 本人性や権限に疑問があれば、確認済みの連絡経路で相手に事実を確認し、法務担当へ記録を渡す。
電子文書の真正な成立は、法の推定だけで判断されるものではありません。デジタル庁・法務省「電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」 の成立過程の証拠に関する問では、その証拠等を提出できれば有効な立証手段になり得ると説明しています。最終的には、裁判所が証拠全般を踏まえて判断します。
そのため、不明点が出た段階で履歴ややり取りを上書きせずに確保し、争点が署名の仕組みか、本人の意思か、権限かを整理するのが実務上の出発点になります。
まとめ
会社の電子契約は、相手の本人性と権限を確かめ、合意した最終版に署名し、契約書と成立過程を保管する流れで管理します。署名の表示を確かめる作業と、権限や証拠を確かめる作業を担当表に分けると、締結後の引継ぎにも使えます。
よくある質問
印影の画像を貼れば電子署名になりますか?
画像を貼ったという事実だけでは、法律上の電子署名に該当するとは判断できません。作成者を示す機能と、改変の有無を確認できる機能の両方が必要です。見た目ではなく、文書に対してどのような措置が行われているかを確かめます。
クラウド型なら契約の証拠として使えませんか?
クラウド型という名称だけで、証拠として使えないとはいえません。法の推定が働くかは、本人の意思やサービスの具体的な仕組みを含めて判断されます。推定が働かない場合にも、成立過程を裏付ける証拠等を提出することで、真正な成立の立証手段となり得ます。
会社のメールアドレスなら署名者の権限も分かりますか?
メールアドレスだけでは、当該契約を結ぶ権限までは分かりません。実際に署名する人の本人性と、代表・代理する権限の範囲を分けて確認します。相手の決裁権者への確認や、委任の範囲が分かる資料の記録が運用例です。
締結した契約書は印刷して保管すれば足りますか?
署名の検証や成立過程の説明に備えるなら、印刷物に加え、署名された電子ファイルと締結履歴等も確認・保管します。紙だけでは元ファイルの署名情報を検証できません。税務上の保存要件は別に確認してください。
出典
- e-Gov法令検索「電子署名及び認証業務に関する法律」2条・3条
- 総務省・法務省・経済産業省「電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第2条関係)」
- デジタル庁・法務省「電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(身元確認・サービス内部の処理・証拠全般による立証)
- 内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」
- e-Gov法令検索「民法」99条(代理の権限と効力)
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・労務相談には応じられません。制度の適用は、最新の一次情報と専門家にご確認ください。