限定承認とは|相続放棄との違い・手続きとみなし譲渡課税
限定承認は、相続で得た財産を限度に、亡くなった人の借金や遺贈を支払う相続方法です。借金の総額が分からなくても、清算後に財産が残れば引き継げます。
ただし、共同相続人全員での申述と、その後の公告・清算が必要です。税務の確認事項は、みなし譲渡課税の節で整理します。申述の受理が清算の終わりではない点を、比較表と手順で確認します。
限定承認・相続放棄・単純承認の違い
限定承認は「借金だけを放棄して、欲しい遺産を選ぶ」制度ではありません。相続を承認したうえで、被相続人の債務・遺贈の弁済責任に限度を付ける制度です。
申述欄は共同・個別の単位の比較です。期限と提出物は、後の手続きの節で確認します。
| 方法 | 財産・債務の扱い | 申述の単位 |
|---|---|---|
| 限定承認 | 相続財産の限度で被相続人の債務・遺贈を弁済し、残余を相続 | 共同相続なら相続人全員 |
| 相続放棄 | その相続に関して初めから相続人でなかった扱い | 相続人ごと |
| 単純承認 | 被相続人の権利義務を無限に承継(一身専属のものを除く) | 承認のための申述は不要 |
根拠は民法920〜924条と939条です。放棄の起算点や放棄後の保存義務は、相続放棄の期限と手続きで扱っています。
借金を承継する責任と、相続人が自分で負っている責任は別です。相続人自身が保証人なら、限定承認によって自分の保証債務まで消えるわけではありません。また、清算中の不当な弁済で生じる賠償責任にも注意が必要です。
誰が、いつまでに申述するか
共同相続なら全員、単独相続なら単独
相続人が複数いる場合は、共同相続人全員で限定承認をします。一部の人だけが限定承認を選び、他の人が単純承認する形では進められません。相続人が単独なら、その人だけで申述できます。
相続放棄をした人は、その相続では初めから相続人でなかった扱いになるため、共同申述の相続人には含めません。単に「遺産は要らない」と合意しただけでは、家庭裁判所への相続放棄とは異なります。
戸籍で相続人を確定し、放棄の有無と、既に単純承認に当たる行為をした人がいないかを確認する段階が先です。未成年者などがいる場合の代理や利益相反も、家庭裁判所・弁護士への確認事項になります。
申述期限の起算点を各人ごとに確認する
限定承認の申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です(未成年者・成年被後見人・再転相続・家裁の期間伸長は下の注)。死亡日から一律に数えるものではありません。
調査が終わらず判断材料がそろわない場合は、家庭裁判所への期間伸長の申立てを検討することになります。「調査中だから期限が止まる」「最後に知った相続人に全員の期限を合わせる」とは扱わず、各人の起算点と伸長の要否を確認します。
起算点の主な例外:相続人が未成年者・成年被後見人なら法定代理人がその人のための相続開始を知った時、承認も放棄もせず死亡した相続人の相続では、その者の相続人が自己の相続開始を知った時から数えます。休日の期間計算は公告の表の直前の注にまとめています(民法916・917条、142条)。提出期限は申述先にも確認します。
相続財産の処分は、保存行為や法律所定の期間内の賃貸を除き、法定単純承認の原因になります。限定承認後でも、財産の隠匿・私的な消費・悪意の目録不記載は問題になります。具体的な処分が該当するかは、民法921条の例外も含めて弁護士に確認する事項です。
申述先・必要書類・費用
申述先は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。申述する相続人の住所地ではありません。申述書に相続財産の目録を付け、期限内に提出します。
以下は必要書類の例です。戸籍等の重複提出は不要で、同じ被相続人の期間伸長・相続放棄の申述受理事件で提出済みなら省略できます。入手できない戸籍等は申述後に追加でき、法定相続情報一覧図による代替は申述先に確認します。審理上、追加書類を求められる場合もあります。
| 準備するもの | 確認する内容 |
|---|---|
| 申述書・目録 | 申述人、被相続人、土地・建物・現金・預貯金・株式等の目録。裁判所の書式を使用 |
| 戸籍の例 | 被相続人の出生から死亡までの全戸籍(除籍等を含む)、住民票除票または戸籍附票、申述人全員の戸籍 |
| 追加の戸籍 | 必要範囲が相続関係で変わるため、裁判所の相続関係別リストで確認 |
| 調査資料 | 預金・証券残高、不動産、借入・未払金・保証の資料など。目録作成と清算のため整理 |
相続関係別の必要範囲と書式は、裁判所「相続の限定承認の申述」で確認できます。
限定承認の申述には収入印紙800円分が必要で、別に裁判所ごとに異なる連絡用郵便料がかかります。戸籍取得・官報公告・鑑定・専門家への依頼費用は別です。申述時の印紙代を、清算終了までの総費用と取り違えないようにします。
受理後の公告と清算の流れ
家庭裁判所に受理された後も、債権者への公告・催告と清算が続きます。共同相続では、家庭裁判所が相続人の中から相続財産の清算人を選任します(民法936条)。
公告期限は単独相続と共同相続で異なる
限定承認の公告期限は、単独相続では限定承認をした後、共同相続で選任される清算人では選任後を起点に数えます。根拠は民法927条と936条です。期間末日が休日で、その日に取引をしない慣習がある場合は翌日に満了します。
| 区分 | 期限・期間 |
|---|---|
| 単独相続の限定承認者 | 限定承認をした後5日以内に公告 |
| 共同相続の相続財産の清算人 | 清算人の選任があった後10日以内に公告 |
| 債権者・受遺者の請求申出 | 公告で定める申出期間は2か月以上 |
公告は官報に掲載します。既に分かっている債権者・受遺者には個別の催告も必要で、申出がないからという理由で清算から除外することはできません。
優先権を確認し、債権者から先に支払う
公告の申出期間が満了したら、期間内に申し出た債権者と、その他の既知の債権者に、優先権を害さない範囲で債権額の割合に応じて弁済します。受遺者への弁済は、相続債権者への弁済の後です。
返済期日が来ていない債権も清算の対象です。条件付き・存続期間が不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従います。申出がなく、存在も知らなかった債権者等は残余財産について権利を行使しますが、相続財産に特別担保を持つ者は別扱いです(民法929〜935条)。
公告・催告を怠ったり、定められた順序に反して弁済したりして他の債権者等が弁済を受けられなくなると、限定承認者自身に損害賠償責任が生じます。相続財産内の責任限定だけを見て、請求が来た順に払うことはできません(民法934条)。
実家の売却が必要な場合に競売を止める方法
預金等では弁済できず、実家の売却が必要になる場合に、競売を止める方法があります。債務等の弁済のために相続財産を売却する必要がある場合は競売に付しますが、家裁が選任した鑑定人の評価に従って財産の全部または一部の価額を弁済し、その競売を止める方法があります。
たとえば遺産に実家と預金があり、預金だけでは清算資金が足りない場面です。実家を残すなら、家裁選任の鑑定人の評価に沿った価額を弁済するための資金が問題になります。「自分で見積もった価格を払えばよい」「実家だけ取得して借金は放置できる」という仕組みではありません。
民法932条の競売停止の方法と、抵当権など他の権利関係、税負担、資金の出所を合わせて確認します。自宅があるという理由だけで、限定承認が適するとは決められません。
みなし譲渡課税と準確定申告
実際には売っていなくても、限定承認により所得税が生じる場合があります。居住者だった被相続人の譲渡所得の基因となる資産が限定承認により移転すると、移転時の時価で譲渡したものとみなされるためです(所得税法59条)。
たとえば、居住者だった被相続人の譲渡所得の対象となる土地が限定承認で移転すると、含み益の所得計算は売却代金の受取りの有無とは別に確認します。対象資産、取得費、時価、控除などによって税額は変わるので、相続財産全体に一定率を掛けて済ませることはできません。
預貯金を含む全財産に一律にみなし譲渡課税がかかる、という意味ではありません。
準確定申告は家裁の手続きと別に確認
申告が必要な場合は、清算の終了を待たず、準確定申告と納税の期限を確認します。家裁の熟慮期間の伸長は、税の申告期限の延長手続きではありません。
具体的な期限は国税庁の準確定申告の案内で確認できます。税の期限延長には、災害等の理由による別の制度があります(国税通則法11条)。
必要な資料は、被相続人の取得時の契約書、資産の時価を確認する資料、給与・年金・事業収入、控除関係の資料などです。家裁への目録と税務申告で確認した資産を照合し、申告と納税の要否を税務署・税理士に確認します。手続きの基本は国税庁「納税者が死亡したときの確定申告」を参照できます。
相続税と、被相続人の所得税を清算する準確定申告は別の確認です。
相続税の概算を計算する相続税計算機は、限定承認によるみなし譲渡所得税や清算後の残余財産を計算するものではありません。
利用件数と手続きの負担
最高裁判所「令和7年司法統計年報・家事編」第3表による、令和7年の全家庭裁判所の新受件数です。前年からの繰越や認容件数ではありません。
| 事件 | 新受件数 |
|---|---|
| 相続の限定承認の申述受理 | 637件 |
| 相続の放棄の申述の受理 | 323,524件 |
限定承認は共同相続では全員で申述するため、この件数を相続人の人数や全相続での利用率と読み替えることはできません。また、この統計だけでは利用が少ない原因は分かりません。
制度上の負担としては、共同相続人全員の意思をそろえること、財産・債務を調査して目録を作ること、受理後も公告・換価・弁済を進めることがあります。含み益のある資産では税務の検討も必要です。完了までの期間と費用は財産・債務の内容によるため、一律には示せません。
限定承認を検討する際の確認事項は、相続人と期限、財産・債務、清算の担当者、資産の含み益と納税資金です。借金額だけでなく、受理後の手続きと税務まで整理して相談につなげます。
よくある質問
限定承認はひとりでできますか?
相続人が単独ならできます。共同相続人がいる場合は全員で申述し、一部の人だけでは行えません。家庭裁判所で相続放棄した人は、その相続の共同申述者に含めません。
限定承認で借金は消えますか?
借金を消す制度ではなく、被相続人の債務・遺贈の弁済責任を相続財産の範囲に限る制度です。相続人自身の保証債務や、清算手続きの違反による損害賠償責任は別に考えます。
限定承認なら実家を残せますか?
残せる場合はありますが、無償で確保できるわけではありません。弁済のための売却が必要な場合、家裁選任の鑑定人の評価に従って価額を弁済し、競売を止める方法があります。資金と担保権などの確認も必要です。
相続税がかからなければ税務の手続きは不要ですか?
相続税とは別に、被相続人の所得税の準確定申告を確認します。居住者だった被相続人の土地など譲渡所得の基因となる資産が限定承認で移転すると、時価譲渡とみなされ、所得税が生じる場合があります。
出典
- e-Gov法令検索「民法」915〜917条・920〜937条・939条・142条
- 裁判所「相続の限定承認の申述」(申述先・費用・必要書類・書式)
- e-Gov法令検索「所得税法」59条・125条
- 国税庁 No.2022「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」
- e-Gov法令検索「国税通則法」11条
- 最高裁判所「令和7年司法統計年報 3 家事編」第3表
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法律相談への回答ではありません。実際の判断は家庭裁判所・弁護士・税務署・税理士にご確認ください。個別の税務・労務相談には応じられません。