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人的資本経営とは|施策・指標・開示の対応表と記録例

人的資本経営は、人の知識・能力を生かすための投資を、経営戦略と中長期の企業価値向上につなげる考え方です。研修費を増やすだけでなく、事業に必要な人材を定め、育成・採用・働く環境の施策と成果を確かめます。

社内の分担例として、経理と人事で費用・人数・期間の定義をそろえる方法があります。下の対応表と研修の記録例から、支出と活動量、到達状況を分けて整理できます。法令上の開示義務は、会社の提出書類や対象制度に応じて別に確認します。

人的資本経営と人材管理・開示の違い

社内の記録を、管理・施策の検討・開示のために分けて整理する例を示します。配置や給与を正確に管理する仕事を土台に、将来の事業に必要な能力をどう育て、確保するかまで経営の課題として考えます。

人的資本可視化指針(改訂版)は、目指す組織・人材の姿と現状との差から投資を検討し、その進捗や効果を把握して見直す考え方を示しています。

社内で整理するときの着眼点
整理する仕事確認する問いの例
人材の管理誰が在籍し、どの仕事・条件で働いているか
人的資本経営事業に必要な能力を、どの施策で確保・活用するか
人的資本の開示施策を選んだ理由と、進捗・成果を社内外へどう伝えるか

経営上の「投資」と、会計上の資産計上は区別します。同指針も、人的資本投資の大宗は販管費等の費用として処理されると説明しています。人的資本経営に取り組むこと自体が、研修費を資産に振り替える根拠にはなりません。

施策・指標・開示の対応表

指標は、解決したい事業課題から選びます。次表は指針の考え方を仕事に落とし込む社内記録例で、法定開示項目の一覧や、実施が義務付けられた施策表ではありません。

事業課題と施策・指標・説明をつなぐ社内記録例
課題の例施策の例確認する指標の例開示・説明に添えること
新しい業務を担う人が不足必要な技能を定めて研修・実務演習受講時間、技能確認の到達状況必要な技能と研修後の配置・業務の変化
必要な職種の採用が進まない採用要件・選考・受入れ方法の見直し必要人数に対する採用・配置の充足状況どの事業・職種の不足を補うか
技能のある人が定着しない面談、処遇、配置、業務負担の検討離職状況、面談で把握した課題対象集団、離職の理由、施策の進捗
能力を発揮しにくい職場働く環境や管理職の支援の見直し従業員の意識調査と回答状況設問・対象・調査方法と改善への反映
多様な人材が役割を広げにくい育成機会・登用・働き方の検討対象層別の育成・登用の状況対象の定義と機会を広げる取組

下の研修例では、受講時間を活動量、外部受講料を投入費用として記録します。業務の成果も確かめる場合は、この例とは別に配属後の業務の記録を設け、到達確認の結果と組み合わせて見ます。

離職の集計は、離職率の計算方法と集計対象で詳しく説明しています。離職率を比較する作業では、リンク先の対象・分母・期間と自社の集計定義を照合する手順にします。

事業課題から施策を決める進め方

最初に決めるのは、増やす指標ではなく、実現したい事業と必要な人材像です。以下は、指針の検討の流れを社内で使うために整理した例です。

事業課題から人的資本施策の見直しまで事業に必要な人材を定め、現状との差を確認し、施策と指標を選び、記録から見直す流れ。 事業に必要な人材・能力を定める 現状との差と優先する課題を確かめる 施策・指標・担当・確認時期を決める 記録を読み、施策と目標を見直す
指針の考え方を応用した社内検討の流れ。

必要な能力と現状との差を言葉にする

請求業務を電子化する架空例では、担当者に求める能力を、システムの操作・取引内容の確認・例外処理と設定してみます。どの仕事をどの水準まで担える必要があるか、事業部門と人事で整理します。

現在の人数に加え、技能や経験、配置の状況を確認すると、採用で補う部分と、既存社員の育成で補う部分を分けられます。全社の合計に埋もれる課題は、事業・職種・地域などに分けて検討する方法もあります。

影響と時間軸から優先順位を付ける

優先順位は、施策を実施した場合の効果と、実施しない場合の事業上のリスクを照らして検討します。必要な費用だけでなく、受講する時間や、現場で仕事を教える人の負担も確認事項に入れます。

施策の担当、確認時期、目指す状態を記録し、経営層と認識をそろえます。従業員との対話も通じて、施策の目的と仕事との関係を共有することが大切です。

比較できる指標の記録項目

比較する前に、指標名に加えて分母と対象期間を確認する手順にします。下表は社内記録例です。法定公表の指標には、その制度で定める対象・算定方法を確認して用います。

指標を引き継ぐための定義表の例
記録する項目記載内容の例
目的と施策どの事業課題を確かめ、どの施策を見直す指標か
対象範囲単体・連結、部門、雇用区分、出向者や休職者の扱い
分子・分母何を数えるか。実人数か延べ人数か。重複の扱い
期間・基準日期間中の累計か、期末の状態か。費用と人数の対象期間
算式・費用範囲除算の順序、単位、丸め方、費用に含めるもの
原票・確認者使用したデータの版、抽出日、作成者、確認者
変更・欠測定義の変更点、未取得の範囲、前期との比較可否

この社内記録例では、未取得の範囲と理由を残します。未取得と実績なしは、別の区分として記録します。集計方法を変えた場合は、変更後の定義で前期を再集計できるかも確認します。

研修時間・受講料・到達状況の架空例

次は、経理部で新しい業務の担当者を育成する架空の記録例です。同じ研修について「投入した時間・費用」と「社内の技能確認」を別々の指標にします。公的な統一算式や、実在企業の実績・目標水準ではありません。

架空例:2026年4月〜9月の単体会社・経理部の社内研修で、分母は重複を除く実受講者12人、費用は外部受講料のみ(人件費・旅費・システム費を除く)、合格は社内基準で判定します。

研修の原票から社内指標を計算する架空例
指標原票の集計計算結果
受講者当たり受講時間各受講者の受講時間の合計:120時間120時間 ÷ 実受講者12人10時間/人
受講者当たり外部受講料外部受講料の合計:360,000円360,000円 ÷ 実受講者12人30,000円/人
受講者のうち社内確認の合格者割合社内基準の合格者:9人9人 ÷ 実受講者12人 × 10075%

この架空例の計算は端数が生じません。この架空例の受講時間は、各回の開催時間ではなく各人の受講時間を合計する設定です。合格者は期間末までの社内確認で数える設定です。

受講者の分母は、受講記録の社員識別子を使い、同じ人を重複させずに集計します。外部受講料は、請求書と社内の費用明細を照合し、研修の対象期間に対応する額をそろえます。

この架空例で示したのは社内確認の到達状況で、請求処理の誤りや売上の変化は測っていません。業務の成果を確かめるなら、処理件数や誤りの定義、業務量の変化なども分けて記録する設計にします。

開示の枠組みと会社ごとの義務

人的資本経営への取組と、法令上の開示義務は分けて確認します。指針に挙げられた指標例を、全企業が共通に公表する義務の一覧として扱うことはできません。

人的資本可視化指針(改訂版)は、経営戦略と人材戦略を関連付け、独自性のある指標と比較可能性の高い指標を組み合わせる考え方を示しています。次表は、その開示の枠組みを社内確認に応用した例です。

開示内容を組み立てるための社内確認例
枠組み確認する問いの例
ガバナンス誰が人材戦略・投資を決め、取締役会はどう監督するか
戦略事業に必要な人材と現状との差を、どの施策で埋めるか
リスク管理人材に関するリスク・機会をどう把握し、管理するか
指標及び目標何をどの範囲で測り、目標と実績をどう比較するか

有価証券報告書の対象会社は現行の様式を確認

金融庁は、人的資本開示の見直しで、連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略などの追加を示しています。提出書類・様式による法定の記載と、社内で独自に測る研修指標は別です。

人的資本開示の見直しは、対象の提出会社の有価証券報告書等について、2026年3月31日以後に終了する事業年度から適用されます。人的資本開示の見直しは、改正府令の施行日以後に提出する有価証券報告書へ早期適用することも可能です。

具体的な記載項目と持株会社等の扱いは、金融庁「人的資本開示に関する制度見直し」と、同ページに掲載された改正後の様式・附則で確認します。人的資本開示の見直しと、SSBJ基準の適用対象・開始時期を混同しないようにします。

人事と経理の分担・見直し方

経理は費用の集計、人事は人数・研修・配置の記録を持ち寄る形から始められます。下表は、社内で相談するための分担の例です。

原票をそろえる分担の例
担当の例そろえる記録確認する点
事業部門必要な技能、業務の到達確認事業課題と施策のつながり
人事対象者名簿、受講・採用・配置の履歴人数の定義と重複・対象外の扱い
経理請求書、費用明細、集計資料対象期間、費用範囲、原票との一致
経営企画・開示担当事業計画、目標、開示原稿戦略・指標・説明の整合性

未達の原因と次の対応も残す

目標に届かなかった場合は、数値を示すとともに原因と対応策を整理します。指針も、望ましい数字が現れていない場合に、その原因や対応策とともに開示することの有用性を紹介しています。

例えば受講が進まなければ、対象者の選び方、業務との調整、研修内容の適合を確認します。集計対象を変えた場合は、変更内容を残し、当初の課題との関係を確認する手順にします。

休暇など働く環境を見直す場合は、働き方改革の制度・確認書類を参照できます。有給休暇の計算機の使い方と対応範囲は、下のリンク先で確認してください。

有給休暇の計算機の使い方を見る

社内の記録は、事業課題・施策・指標を結び付けて残します。比較する前に分母と期間をそろえ、活動の実績と業務の成果を分けて確認しましょう。開示では、自社の戦略との関係と、数字の読み方が伝わる説明を添えます。

よくある質問

人的資本経営は、研修費を増やすことですか?

研修費を増やすことだけではありません。事業に必要な人材と現状との差を確かめ、育成・採用・配置や働く環境への施策を選び、進捗と効果を見直す考え方です。

人的資本の情報は、全企業に同じ開示義務がありますか?

全企業が同じ項目を開示する仕組みではありません。有価証券報告書等の提出対象や、各法令の公表義務を確認し、法定の記載と任意の情報発信を分けて対応します。

経理担当は何から始められますか?

人事と対象範囲・分母・期間・費用範囲をそろえ、原票と集計表を対応させるところから始められます。この架空例では、投入した時間・費用と社内確認の到達状況を別々に記録しています。

この研修例の指標は、業績向上の証拠になりますか?

この研修例の指標だけで業績向上を証明することはできません。この例は受講時間・外部受講料・社内確認の到達状況を集計したもので、業績のデータや施策の効果を比較する設計は含めていません。

次に読む

出典

考え方と開示の枠組みは人的資本可視化指針(改訂版)、法定開示の改正は金融庁の公表資料を参照しています。対応表・分担表・研修の数値は、社内確認のための編集上の例です。

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案への助言や適法性の判断を行うものではありません。実際の制度運用は、該当する行政機関や専門家などにご確認ください。個別の税務・労務相談には応じられません。

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