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組戻しとは — 振込は「取り消す」のではなく、受取人に返してもらう手続き

結論から言うと、組戻し(くみもどし)は振込を「取り消す」手続きではありません。受取人の口座への入金が済んでしまえば、そのお金はもう受取人と銀行のあいだの預金です。振込を依頼した側と銀行のあいだの話ではなくなっているので、銀行は依頼人の申し出だけでその預金を減らすことができません。銀行にできるのは、受取人に連絡して返すことを承諾してもらうことまでです。

ここを取り違えると、対応の順番をまるごと間違えます。「銀行に電話すれば取り消してもらえる」と思って窓口とのやり取りに時間を使い、そのあいだに相手が資金を使ってしまう、というのがいちばんよくある失敗です。承諾が得られなかったときに請求する相手は、銀行ではなく受取人本人で、根拠は民法703条の不当利得です。これは銀行の手続きではなく、当事者どうしの民事の話になります。

費用も見落とされがちです。三菱UFJ銀行の場合、振込組戻手数料は880円で、個人も法人も同額。そして最初に払った振込手数料は戻ってきません。個人のインターネットバンキングで3万円未満を他行あてに振り込んで間違えると、最初の154円は消えたうえ、組戻して振り込み直すのに880円と新しい振込手数料がかかります。この記事では、組戻しと訂正の違い、費用の実額、承諾が得られなかったときの請求の根拠、仕訳と消費税区分、そして原因のほとんどを占める「名義の書き方」までを、条文と銀行の公表資料で確かめられる範囲で整理します。

組戻しは「取り消し」ではない。誰と誰の話かが途中で変わる

振込は、ひとつづきの動作に見えて、途中で当事者の組み合わせが入れ替わります。最初は「依頼人と銀行」の話です。依頼人が振込を依頼し、銀行が資金を預かって、受取人の口座がある銀行へ送ります。ところが受取人の口座に入金が記帳された瞬間から、それは「受取人と銀行」の話になります。受取人はその金額の預金を持っている状態になり、いつでも引き出せます。

この切り替わりが、組戻しの性質を決めています。切り替わる前なら、依頼人の指示で処理を止められる余地があります。切り替わったあとは、依頼人が何を言っても、銀行は受取人の預金を勝手に減らせません。だから組戻しは、受取人に「返してもいいですか」と聞きに行く手続きになるのです。銀行が組戻しの依頼を受け付けても、それは「返します」という約束ではなく、「受取人に確認します」という約束にすぎません。

「組戻しを依頼した」は「戻ってくる」ではありません

銀行が組戻依頼を受け付けたことと、資金が戻ってくることは別です。受取人が承諾しなければ戻りません。連絡が取れないだけでも戻りません。相手が個人で口座を放置している、法人で担当者が退職している、といった理由で返事そのものが来ないことは実務では珍しくありません。組戻依頼を出したあとも、資金が返ってくるまでは「回収できていない」ものとして扱ってください。

振込を依頼 銀行が発信 受取人の口座に入金 依頼人と銀行の話 処理を止められる余地がある 受取人と銀行の話 承諾がなければ動かせない この線がどこに引かれるかは各行の振込規定による 組戻し=右側の領域で、受取人に返してもらう手続き 左側で止まれば「取り消し」に近い扱いになるが、止まる保証はない
振込の途中で、当事者の組み合わせが入れ替わる。組戻しは入れ替わったあとの手続きなので、受取人の承諾なしには完結しない。線が引かれる時点は各行の振込規定によるため、この図では位置を特定していない。

実務でひとつ効いてくるのは、この入れ替わりが起きる時刻は、振込を出した側では決められないという点です。受取人の口座に入金が記帳されるのは、受取人の金融機関が全銀システムにつながっている時間帯に為替通知が届いてからで、その時間帯は金融機関ごとに違います。間違いに気づいたのが夜間や土日で、相手の金融機関がその時間帯につながっていなければ、まだ左側の領域にとどまっている可能性があります。逆に相手が24時間つながっている銀行なら、数分後にはもう右側です。曜日別にどれだけ差があるかは振込の反映時間の記事に実測を載せています。気づいたらまず銀行へ連絡するのは、この時間差を少しでも左側で使うためです。

「組戻し」と「訂正」は別の手続き — 手数料表が分けている

実務で混同されやすいのが訂正です。名前が似ていて、どちらも「振込を出したあとに直す」手続きですが、目的が違います。組戻しは資金を依頼人に戻すもの。訂正は資金は先へ進めたまま、内容を直すものです。受取人名のカナを間違えた、振込依頼人名を直したい、といった場合が訂正にあたります。

これは筆者の整理ではなく、銀行の手数料表がそう分けています。三菱UFJ銀行の振込手数料ページは「その他振り込みに関する手数料」という区分を置き、振込組戻手数料・振込組戻手数料(再振込)・振込訂正手数料の3つを別々の行として並べています。金額はいずれも880円ですが、別の行になっているということは、別の役務として扱われているということです。

手続き資金はどこへ受取人の承諾三菱UFJ銀行の手数料
組戻し依頼人に戻るいる880円
組戻し(再振込)戻したうえで振り込み直すいる880円+振込手数料
訂正戻らない。先へ進む不要な場合がある880円

もうひとつ、同じページに実務上とても重要な注記が置かれています。三菱UFJダイレクト(インターネットバンキング)での振り込みの場合、振込受付後の振込内容の訂正はできないという注記です。つまり、ネットバンキングで名義を間違えて振り込んでしまったら、安い訂正という選択肢がそもそも無く、組戻ししかないということになります。窓口で振り込んだ場合とは打てる手が違うわけです。

訂正で直せる範囲そのものが、行とチャネルで狭まっていることもあります。三井住友銀行は、SMBCダイレクトでの振込の変更手続きは依頼人名の変更のみと案内しています。受取人名や金額は訂正の対象になりません。しかも受取人の通帳等に表示される依頼人名の表記そのものは変更されないとされています(銀行が先方銀行へ変更内容を伝え、先方銀行が受取人へ連絡する扱い)。「訂正なら安く直せる」と当て込める場面は、実際にはかなり狭いということです。

取引チャネルによって選べる手続きが変わります

同じ銀行でも、窓口・ATM・インターネットバンキング・法人向けバンキングで、できることと手数料が違います。上の注記はその一例です。自社が使っているチャネルで何ができるのかは、取引銀行の手数料ページと振込規定で確認してください。この記事で挙げている金額は三菱UFJ銀行のもので、他行では異なります。

なお、スマホアプリから個人どうしで送ることら送金には、この組戻しに当たる手続き自体がありません。運営する株式会社ことらは、送金の取り消しはできないとしたうえで、送る前に名義確認照会機能で相手を確かめるよう案内しています。戻してもらえる可能性が低いのではなく、戻すよう依頼する窓口が用意されていないという点で、銀行振込とは性格が違います。

どの時点まで止められるか — 先日付なら画面から、振込済みなら電話から

入金が記帳される前なら止められる余地がある、という話をしました。その線がどこに引かれるかは各行の振込規定によりますが、銀行が自分の案内ページに書いている範囲なら確かめられます。三井住友銀行と三菱UFJ銀行の案内を読むと、止められるかどうかは「気づくのが早かったか」だけでなくどの種類の振込か、どのチャネルから振り込んだかで決まっていることが分かります。

いちばん救われるのは先日付振込(予約振込)です。三井住友銀行のSMBCダイレクトは、先日付振込であれば振込指定日の午前4時まで、パソコン・スマートフォンから自分で取り消せると案内しています。しかも手数料は無料です。「振込・振替」メニューの「予約振込の明細確認・取消」で対象の明細を取り消し、正しい内容で振込をやり直します。組戻手数料も、受取人の承諾を待つ必要もありません。気づいたら、まず予約振込の一覧を開くのが最初の一手になります。

この時限は、同じ銀行の予約振込の取消ページにも「取消は振込指定日の午前4時までに手続を完了してください」と書かれています。そして午前4時を過ぎると組戻しの手続きになり、三井住友銀行は組戻し手数料として660円(消費税込)がかかる場合があると案内しています。ここで分かるのは、組戻手数料は行によって違うということです。この記事で先に挙げた三菱UFJ銀行の880円と、三井住友銀行のこの660円は別の金額なので、自分の取引銀行の手数料表で確かめてください。また、先日付振込の明細は内容(金額・振込先等)を変更できません。いったん取り消してから、正しい内容で入れ直すことになります。

取消の時限を「前営業日まで」と読み違えない

この時限を「振込指定日の前営業日まで」と説明している解説を見かけますが、三井住友銀行の案内は「振込指定日の午前4時まで」です。金曜を指定日にしている場合、前営業日と指定日当日では取り消せる時間が1日近くずれます。無料で直せる余地があるかどうかが変わるので、取引銀行の案内で「何日の何時まで」かを自分で読んでください。

すでに振込が済んでいる場合は組戻しになります。このとき受付の窓口はチャネルで決まっていて、こちらでは選べません。ここを知らずに動くと空振りします。

どこから振り込んだか組戻しの受付銀行の案内
三井住友銀行・SMBCダイレクトコールセンター「店頭では承ることができません」と明記
三井住友銀行・店頭/ATM来店手続きをした店舗か最寄りの支店へ事前に連絡のうえ来店。店舗外ATM・コンビニATMからの振込は最寄りの支店へ
三菱UFJ銀行・三菱UFJダイレクトテレフォンバンキング「オペレータ対応のみの取り扱い」。組戻手数料880円(消費税込)

両行に共通しているのは、インターネットバンキングで振り込んだ組戻しは、その画面からは申し込めないということです。ログインして探しても見つからないのが正常で、電話が唯一の入口になります。逆に窓口やATMで振り込んだ場合は電話では終わらず、来店が要ります。どちらの経路も営業時間に縛られるので、気づいた時点で受付時間を確かめてください。

組戻しを頼むまでもなく戻ってくる場合があります

口座番号や名義が食い違って振込そのものが成立しなかったときです。三井住友銀行は、振込先の内容相違で振込ができなかった場合、連絡することなく出金口座へ資金を戻すと案内しています。ただし振込手数料は戻りません。入金を待つあいだに組戻しを申し込んで手数料を払ってしまうと、払わずに済んだ費用になります。明細を見て「振込不能で返っていないか」を先に確かめてください。

そして、手数料がどの時点で発生するかも行の案内で確かめる論点です。三井住友銀行の案内は「資金が返却された場合には、別途組戻手数料がかかります」という書き方をしています。一方で「返金が成立しなくても組戻手数料は戻らない」と説明している解説もあります。成立しなかったときに手数料を負担するのかどうかは行と手続きで異なり得るため、この記事では一次資料で確認できていない行の扱いを一般化していません。申し込む前に、取引銀行の案内と手数料表で確かめてください。

銀行に伝える項目と、窓口へ持っていくもの

組戻しは電話または窓口で依頼する手続きなので、こちらがその振込を特定できる情報を出せないと受付が進みません。次は、銀行が求める持ち物と、振込を特定するのに要る項目から整理したものです(銀行の案内をそのまま写したリストではありません)。連絡する前に手元に並べてください。1回の連絡で終わるかどうかが、ここで決まります。

窓口やATMで振り込んだ場合は来店になるので、持ち物が加わります。三井住友銀行の案内は、その銀行に口座を持っているかどうかで別のリストを出しています。ここを取り違えると、来店してから出直すことになります。

持ち物その銀行に口座がある場合口座が無い場合
ATMや窓口で受け取った振込明細の控要る要る
本人確認書類顔写真付き顔写真付き
印鑑お届けの印鑑認印(シャチハタ以外)
通帳やキャッシュカード要る—
手数料要る要る

見落としやすいのはお届けの印鑑です。届出印がどれだったか分からない状態で来店すると、その場では終わりません。口座を持っていない人(現金でATM振込をした場合など)はシャチハタでは受け付けられません。手数料もその場で払う前提の記載なので、現金を用意しておいてください。なお、この持ち物は三井住友銀行が個人のお客さま向けの案内として示しているもので、行ごとに違います。事前の連絡のときに何を持っていけばよいか確かめるのが確実です。

法人で総合振込のデータを出している場合は、依頼の単位が1件ずつになります。名義エラーが複数件出たときはどの明細のどの行かを伝えられるように、送信したデータと受付結果の控えを開いてから連絡してください。

費用の実額 — 最初の振込手数料は戻らない

組戻しの費用を考えるときに落としやすいのが、最初に払った振込手数料は返ってこないという点です。振込という役務は提供済みだからです。したがって、間違えて振り込み、組戻して、正しい相手に振り込み直すと、手数料は3回ぶんかかることになります。

三菱UFJ銀行・個人の三菱UFJダイレクトで、他行あて(三菱UFJ信託銀行・auじぶん銀行あてとメインバンク プラスの無料優遇を除く)に3万円未満を振り込んだ場合の実額で数えます。

内訳金額説明
最初の振込手数料154円戻らない
組戻手数料(再振込)880円個人・法人とも同額
振り込み直しの振込手数料154円新しい振込として発生
合計1,188円最初の154円の約7.7倍
1回で済んだ場合 154円 間違えて組戻し、振り込み直した場合 合計 1,188円 154 組戻 880 154 帯の長さは金額に比例(1円=0.35px)。組戻手数料880円が費用の大半を占める。
三菱UFJ銀行・個人の三菱UFJダイレクトで他行あて(三菱UFJ信託銀行・auじぶん銀行あてとメインバンク プラスの無料優遇を除く)3万円未満を振り込んだ場合の実額。組戻手数料が全体の約74%を占める。

金額帯や取引区分を変えると、割高さの度合いが変わります。組戻手数料は振込金額にも顧客区分にも関係なく880円で固定なので、もともとの振込手数料が安い取引ほど、間違えたときの割増しが重く効きます。

取引振込手数料間違えたときの合計倍率
個人ダイレクト・他行あて3万円未満154円1,188円約7.7倍
個人ダイレクト・他行あて3万円以上220円1,320円6.0倍
法人BizSTATION・他行あて3万円未満484円1,848円約3.8倍
法人BizSTATION・他行あて3万円以上660円2,200円約3.3倍

「合計」は、最初の振込手数料+組戻手数料880円+振り込み直しの振込手数料です。倍率は合計を最初の振込手数料で割ったものです。法人の総合振込のように1回あたりの単価が高い取引では倍率は下がりますが、絶対額はむしろ増えます。件数が多い総合振込で名義エラーがまとまって出ると、この880円が件数ぶん積み上がります。

上記の金額は、三菱UFJ銀行の振込手数料ページを2026年8月24日に確認したものです。同ページ自体は「2023年10月2日現在」と表示しています。手数料は改定されるものなので、実際に手続きをする前に、取引銀行の最新の手数料表で確かめてください。銀行別の振込手数料の比較は振込手数料の比較にまとめています。

承諾が得られないとき、請求する相手は受取人(民法703条)

受取人が承諾しない、あるいは連絡が取れない場合、銀行の手続きはそこで終わります。ここから先は銀行の話ではなく、依頼人と受取人のあいだの民事の問題になります。根拠になるのは民法703条です。

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

受け取る理由がないのにお金が入ってきた人は、法律上の原因なく利益を受けたことになります。そして振り込んだ側は同じ金額を失っています。したがって受取人は返す義務を負う、という組み立てです。返す義務を負っているのは受取人であって、銀行ではありません。銀行はこの取引について利益を得ていない(受け取っているのは手数料だけ)ので、703条の受益者にはあたりません。

条文には見落としやすい限定が付いています。「その利益の存する限度において」です。返す義務の範囲は、受け取った金額そのものではなく、受取人の手元に利益として残っている限度とされています。相手がすでに使ってしまっている場合に、この限定がどう働くかは事案によって結論が変わるところで、一般論として断定できません。ただ実務的な含意ははっきりしていて、時間が経つほど回収は難しくなるということです。気づいたその日に動くかどうかが、実際の回収可能性を大きく左右します。

相手の口座番号・氏名を銀行が教えてくれるとは限りません

受取人に直接請求しようとすると、まず「相手が誰か」が必要になります。しかし振り込んだ側が持っているのは、自分が入力した口座番号と名義だけです。相手の住所や連絡先は分かりませんし、銀行は他の顧客の情報を第三者に開示できる立場にありません。訴訟を前提に開示を求める手続きはありますが、費用と時間がかかります。回収額より手続費用のほうが大きくなることは普通に起こりますので、少額の場合は費用対効果も含めて判断することになります。

利息が付く場合と、そもそも請求できない場合(704条・705条)

703条の隣には、結論を左右する2つの条文が並んでいます。まず704条です。

悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

ここでいう悪意は、日常語の「悪気がある」ではなく、法律上の原因がないことを知っていたという意味です。身に覚えのない入金であることを分かったうえで持ち続けていた場合が、これにあたります。そのときは元本だけでなく利息を付けて返す義務になり、さらに損害があればその賠償まで負います。実務上は、こちらから「誤って振り込んだので返してほしい」と連絡した時点以降は、相手はもう事情を知っていることになります。連絡した事実と日付を記録に残しておくことが、後で効いてきます。

もうひとつ、向きが逆の条文が705条です。

債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。

払う必要がないと知りながら払った場合は、返してもらえないという規定です。うっかり間違えた場合とは前提が違います。ただ、経理の現場ではこの線が問題になる場面があります。たとえば「請求内容に納得していないが、とりあえず払っておいて後で返してもらおう」という処理です。払う理由がないと分かったうえで払うと、この条文の射程に入り得ます。争いがある支払いを先に済ませたい場合は、留保の意思を書面で残したうえで支払う、支払わずに供託する、といった別の組み立てを検討することになります。実際の対応は個別事情によりますので、弁護士にご相談ください。

状況条文結論
うっかり間違えて振り込んだ703条利益の存する限度で返還を請求できる
相手が事情を知りながら持ち続けている704条利息を付けた返還、損害があれば賠償も
債務が無いと知りながら払った705条返還を請求できない

消費税 — 通常の国内円建て振込の組戻手数料は課税、外国送金の手数料は非課税

ここが、競合の解説記事でいちばん曖昧に書かれているところです。通常の国内円建て振込にかかる手数料と組戻手数料は課税取引で、外国送金にかかる手数料は非課税です。同じ「送金の手数料」なのに扱いが割れます。主な例外: auじぶん銀行の国内外貨建て送金サービスでは、送金・組戻・照会手数料に消費税はかかりません(2026/02/27時点の表示)。

理由は、消費税法が非課税を限定列挙していることにあります。銀行の役務は原則として課税で、別表第二に挙げられたものだけが非課税になります。金融まわりで関係するのは第3号(利子を対価とする貸付金等)と第5号です。そして第5号ニが、次のように定めています。

外国為替及び外国貿易法第五十五条の七(外国為替業務に関する事項の報告)に規定する外国為替業務(銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第十条第二項第五号(業務の範囲)に規定する譲渡性預金証書の非居住者からの取得に係る媒介、取次ぎ又は代理に係る業務その他の政令で定める業務を除く。)に係る役務の提供

非課税とされているのは外国為替業務であって、通常の国内円建て振込(内国為替)ではありません。非課税を定めているのは消費税法別表第二第5号ニの「外国為替業務」だけです。通常の国内円建て振込・組戻しは、非課税の列挙のどこにも出てきません。

国税庁の消費税法基本通達6-3-1は、別表第二第3号によって非課税となる取引を17項目にわたって列挙していますが、この区間にも「振込」「為替」「送金」は一度も出てきません。列挙されていない以上、原則どおり課税になります。

この読み方は、銀行自身の表示とも一致します。三菱UFJ銀行の振込手数料ページは、ご留意事項として「手数料には消費税が含まれております」と明記しています。非課税なら消費税は含まれませんから、銀行の側も課税取引として扱っていることが分かります。条文からの読みと、実際に請求している側の表示が噛み合っている、ということです。

誤って振り込んだ元本そのものは、消費税の対象外です

間違いなく分けたいのはここです。手数料は課税仕入れですが、誤って振り込んでしまった元本は「不課税」です。資産の譲渡等の対価として払ったお金ではないからです。同じ理由で、組戻しで戻ってきた元本も課税売上にはなりません。伝票を切るときに、元本と手数料を同じ税区分でまとめて入力してしまうと、課税仕入れが誤って膨らみます。

仕訳 — 元本は不課税、手数料だけが課税仕入れ

組戻しは、依頼した日と資金が戻る日がずれます。決算をまたぐこともあります。したがって「出ていったが、まだ決着していないお金」を持つ科目が要ります。実務では仮払金で持つのが素直です。相手に対する返還請求権として整理するなら未収入金を使う考え方もあります。どちらにするかは、社内の科目運用に合わせて決めてください。

個人のインターネットバンキングで、他行あてに20,000円を誤って振り込んだ場合で示します。

① 誤って振り込んだ日

借方金額貸方金額
仮払金20,000普通預金20,154
支払手数料154

仮払金20,000円は不課税、支払手数料154円は課税仕入れです。

② 組戻しが成立して資金が戻った日

借方金額貸方金額
普通預金20,000仮払金20,000
支払手数料880普通預金880

組戻手数料880円も課税仕入れです。銀行によっては戻る資金から手数料を差し引いて入金することがあり、その場合は通帳の入金額が19,120円になります。通帳の金額だけを見て仮払金を19,120円で消してしまうと、880円が宙に浮きます。差引後の入金であっても、上のように総額で起票して手数料を別に立ててください。

③ 戻らないことが確定したとき

受取人が承諾せず、回収を断念する判断をした場合、仮払金を落とすことになります。ただしどの科目で落とすか、いつの時点で損金・必要経費になるかは、税務上の判断が必要です。回収不能が客観的にいつ確定したのかによって、計上できる事業年度が変わり得ます。ここは一般論で決められる論点ではありませんので、顧問税理士にご相談ください。決算を未決着のままでまたぐ場合は、仮払金の内容と発生日、相手方、回収に向けて行った行為を、勘定科目内訳明細書に書ける形で残しておいてください。

なお、正しい相手に振り込み直したときの振込手数料は、通常どおり支払手数料(課税仕入れ)です。誤った振込の手数料を含め、これらの手数料は自社の都合で発生した費用なので、正しい取引先への支払額から差し引くことはできません。振込手数料をどちらが負担するかという論点そのものは振込手数料の先方負担の計算で扱っています。

受取人名を全銀フォーマットのカナに変換してチェックする

給与を多く振り込んでしまったとき

給与振込のミスは、他の誤振込と少し性質が違います。相手が従業員なので連絡は取れる一方で、賃金には労働基準法の保護がかかるからです。「翌月の給与から引いておきます」という処理は、いちばん手軽に見えて、いちばん慎重さが要るところです。

振込先そのものを間違えた場合(他人の口座に振り込んでしまった場合)は、この記事の他の節と同じ扱いになります。組戻しを依頼し、受取人の承諾を得るしかありません。従業員に給与が届いていないことに変わりはないので、組戻しの結果を待たずに、正しい口座へ支払う手当てを先に決める必要があります。

金額を多く振り込んだ場合(過払い)は、給与計算の訂正の問題になります。過払い分の精算方法、源泉所得税・社会保険料・住民税をどう直すか、賃金台帳の記録をどう残すかは給与計算を間違えたときの訂正方法で扱っていますので、そちらを参照してください。この記事の範囲で言えるのは、過払い分を次の給与から一方的に差し引く処理は、賃金の支払いに関するルールとの関係で問題になり得るということです。本人と合意のうえで進めるか、社会保険労務士に相談してください。

予防 — 組戻しの原因は「名義の書き方」に集中する

組戻しは、起きてからでは費用も手間もかかります。そして原因は散らばっておらず、受取人名の書き方に集中します。口座番号を1桁間違えた場合、多くは該当口座が存在せず、資金が返ってくることのほうが多い。厄介なのは口座は実在するのに名義が食い違うケースと、実在する別人の口座に届いてしまうケースです。

全銀フォーマットで使える文字には制限があります。カナのヲ・小文字・長音記号「ー」は使えず、記号は受取人名などのフィールドでは4種類( ( ) - . )だけです。長音は「-」、中黒は「.」、小書き文字は大文字に倒します。ヰ・ヱ・ヵ・ヶは半角に存在しないので、イ・エ・カ・ケへ倒すことになります。この変換を人手でやると必ずぶれます。

詳しい仕様と、取り込めないときの原因の切り分けは全銀フォーマットの作り方にまとめています。振込データを作る前に、受取人名を全銀カナ変換に通しておくと、使えない文字がその場で分かります。

まとめ

  • 組戻しは取り消しではない。入金が済めば、そのお金は受取人の預金になっている
  • 先日付振込は指定日の午前4時まで画面から無料で取り消せる(三井住友銀行のSMBCダイレクト)。組戻しに進む前に予約の一覧を開く
  • 振込済みの組戻しは受付の窓口がチャネルで決まる。ネットバンキング分は電話のみ、窓口・ATM分は来店(三井住友銀行・三菱UFJ銀行の案内)
  • 組戻手数料は行で違う。三菱UFJ銀行は880円、三井住友銀行は660円(消費税込)がかかる場合があると案内している
  • だから受取人の承諾がなければ戻らない。組戻依頼の受付は「戻る」という意味ではない
  • 承諾が得られないときの請求先は銀行ではなく受取人(民法703条の不当利得)
  • 返還義務は「利益の存する限度」。時間が経つほど回収は難しくなる
  • 相手が事情を知っていれば利息付き(704条)。債務が無いと知って払った場合は請求できない(705条)
  • 三菱UFJ銀行の組戻手数料は880円で個人・法人とも同額。最初の振込手数料は戻らない
  • 通常の国内円建て振込の組戻手数料は課税仕入れ。外国送金の手数料は非課税(別表第二第5号ニ)。主な例外: auじぶん銀行の国内外貨建て送金サービスでは、送金・組戻・照会手数料に消費税はかかりません(2026/02/27時点の表示)。
  • 誤って振り込んだ元本そのものは不課税。手数料と同じ税区分にしない

よくある質問

振込を間違えました。銀行に電話すれば取り消してもらえますか?

受取人の口座への入金が済んでいる場合、銀行が一方的に取り消すことはできません。入金が済んだ時点で、そのお金は受取人と銀行のあいだの預金になっているためです。銀行に依頼できるのは組戻しという手続きで、これは銀行が受取人に連絡して返還の承諾を得るものです。受取人が承諾すれば戻りますが、承諾しない場合や連絡が取れない場合は戻りません。まだ発信前など早い段階であれば処理を止められる余地があります。とくに先日付振込は指定日の午前4時まで自分で取り消せるという案内があり、受付の窓口もチャネルで決まります(この記事の「どの時点まで止められるか」の節)。いずれにしても、気づいた時点でできるだけ早く取引銀行に連絡することが、実際に戻る可能性を高める唯一の方法です。

組戻しの手数料はいくらですか。振込金額によって変わりますか?

三菱UFJ銀行の場合、振込組戻手数料は880円で、振込金額にも顧客区分にも関係なく同額です。個人のお客さま向けの表と法人のお客さま向けの表の両方に同じ880円が載っています。組戻したうえで振り込み直す場合は880円に新しい振込手数料が加わります。加えて、最初に払った振込手数料は返ってきません。したがって個人の三菱UFJダイレクトで他行あて(三菱UFJ信託銀行・auじぶん銀行あてとメインバンク プラスの無料優遇を除く)に3万円未満を振り込んで間違えると、最初の154円と組戻の880円と振り込み直しの154円で合計1,188円かかることになります。他の銀行では金額が異なりますので、取引銀行の手数料表で確認してください。

相手が組戻しに応じてくれません。泣き寝入りするしかないのでしょうか?

銀行の手続きとしてはそこで終わりますが、民事の請求は別に残ります。受け取る理由がないのにお金を受け取った人は、民法703条により不当利得として返還する義務を負います。この義務を負っているのは受取人であって銀行ではないため、請求先は受取人本人になります。ただし条文は「その利益の存する限度において」と限定しており、相手がすでに使ってしまっている場合の結論は事案によって変わります。また、相手の住所や連絡先が分からないと請求自体が進みませんし、開示を求める手続きには費用と時間がかかります。回収額と手続費用を比べたうえで判断することになりますので、進め方については弁護士にご相談ください。

誤って振り込んだお金は、消費税の課税仕入れになりますか?

なりません。誤って振り込んだ元本は、資産の譲渡等の対価として支払ったものではないため不課税です。同じ理由で、組戻しによって戻ってきた元本も課税売上にはなりません。通常の国内円建て振込では、課税仕入れになるのは手数料の部分だけです。通常の国内円建て振込手数料と組戻手数料は消費税法別表第二の非課税の列挙に含まれていないため課税取引で、三菱UFJ銀行も手数料ページに「手数料には消費税が含まれております」と表示しています。主な例外: auじぶん銀行の国内外貨建て送金サービスでは、送金・組戻・照会手数料に消費税はかかりません(2026/02/27時点の表示)。元本と手数料を同じ税区分でまとめて起票すると課税仕入れが過大になりますので、伝票の段階で分けてください。

海外送金の手数料も課税仕入れですか?

外国送金の手数料は非課税です。消費税法別表第二第5号ニが、外国為替及び外国貿易法55条の7に規定する外国為替業務に係る役務の提供を非課税と定めているためです。通常の国内円建て振込は内国為替であってこの規定にあたらないので課税になります。同じ「送金の手数料」という名前でも、通常の国内円建て振込と外国送金で税区分が異なるということです。会計ソフトの科目に税区分を紐づけて運用している場合、支払手数料をすべて課税仕入れにしていると、海外送金の分だけ誤ることになります。海外取引がある場合は、その分の税区分を分けて設定してください。主な例外: auじぶん銀行の国内外貨建て送金サービスでは、送金・組戻・照会手数料に消費税はかかりません(2026/02/27時点の表示)。

インターネットバンキングで振り込みました。組戻しも同じ画面から申し込めますか?

少なくともこの記事で挙げた2行では申し込めません。三井住友銀行はSMBCダイレクトでの振込の組戻しについて、コールセンターで承り店頭では承ることができないと案内しています。三菱UFJ銀行も、組み戻しはテレフォンバンキング(オペレータ対応)のみの取り扱いと記載しています。つまりネットバンキングで振り込んだ場合、画面をいくら探しても組戻しの申込先は見つからず、電話が入口になります。逆に窓口やATMで振り込んだ場合は電話では終わらず来店が必要で、振込明細の控・顔写真付きの本人確認書類・お届けの印鑑・手数料などを持っていくことになります。どのチャネルから振り込んだかで受付の窓口が決まるので、まず自分がどこから振り込んだかを確かめてください。

振込日を先に指定して予約してあります。まだ取り消せますか?

先日付振込なら自分で取り消せる余地があります。三井住友銀行のSMBCダイレクトは、先日付振込について振込指定日の午前4時までパソコン・スマートフォンから取り消せるとしており、この取消に手数料はかかりません。「振込・振替」メニューの「予約振込の明細確認・取消」で対象の明細を取り消し、正しい内容で振込をやり直します。組戻手数料も受取人の承諾も要らないので、気づいた時点でまず予約の一覧を開いてください。時限を「前営業日まで」と説明している解説もありますが、三井住友銀行の案内は「振込指定日の午前4時まで」です。他の銀行では時限が異なりますので、取引銀行の案内で何日の何時までかを確かめてください。

名義を間違えただけです。訂正なら安く済みますか?

訂正が使えるかどうかは、どのチャネルで振り込んだかによります。三菱UFJ銀行の振込手数料ページには、三菱UFJダイレクトでの振り込みの場合は振込受付後の振込内容の訂正はできない、という注記があります。つまりインターネットバンキングで振り込んだ場合、訂正という選択肢がなく組戻しになります。窓口で振り込んだ場合は振込訂正手数料880円の手続きが用意されていますが、金額は組戻手数料と同額なので、費用面で有利になるわけではありません。訂正が組戻しより有利なのは、資金を先へ進めたまま直せるため、正しい相手への着金が遅れないという点です。

決算をまたいでも組戻しが決着しません。どう処理すればよいですか?

決着していない以上、損失として落とすかどうかは判断が必要です。仮払金や未収入金として残す場合は、発生日・相手方・金額・回収に向けて行った行為を記録に残し、勘定科目内訳明細書に説明できる状態にしておいてください。回収不能が客観的に確定した時点がいつなのかによって、損金または必要経費に算入できる事業年度が変わり得ますので、落とす判断とその時期については顧問税理士にご相談ください。なお、決着を待つあいだも相手に対する返還請求は続いていますので、連絡した日付とその内容を残しておくことが、後の判断の材料になります。

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出典

民法・消費税法の条文をe-Gov法令検索で確認し、消費税法基本通達と三菱UFJ銀行・三井住友銀行の公表ページを実読して作成。

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。実際に組戻しが可能かどうか、いつまでに何をすべきかは取引銀行の振込規定によって決まりますので、まず取引銀行にご連絡ください。返還請求の進め方や相手方の特定については弁護士へ、回収不能となった場合の税務処理については税理士へ、給与の過払いの精算については社会保険労務士へご確認ください。

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