ROIとは?計算式・設備投資の計算例と回収期間の違い
ROI(投資利益率)は、投資額に対してどれだけ利益を得たかを示す割合です。設備投資の採算を見るときは、その設備による増加利益を使います。売上が増えても、材料費や維持費が増えれば、その分だけ利益は小さくなります。
この記事は、会社の設備投資を比較するための解説です。年次ROIの式と架空の計算表を示し、利益率と現金の回収期間を分けて確認します。金融商品の利回りや、税制の認定要件の判定は扱いません。
ROIの計算式と分子・分母
設備投資のROIは、年間の増加利益を利払前・税引前・償却後で求め、初期投資額である設備投資額と増加運転資金の合計で割って計算します。日本政策金融公庫「経営情報」No.375の投資利益率法を使い、利益の区分と対象期間を次のように固定します。
本記事の年次ROI(%)=年間増加利益(利払前・税引前・償却後)÷初期投資額(設備投資額+増加運転資金)×100
| 式の要素 | このページで使う範囲 | 混ぜないもの |
|---|---|---|
| 分子の利益 | 設備を入れない場合に比べた、年間の増加利益。支払利息・税金を引く前で、減価償却費を引いた額 | 会社全体の利益、売上の増加額、現金収入 |
| 分母の投資額 | 設備投資額と、それに伴い増える運転資金の合計 | 設備代だけの額、期末の帳簿価額、会社全体の資産 |
| 対象期間 | 通年稼働した場合の年間増加利益。予測と実績は別に表示 | 稼働月数が異なる期間や、複数年の累計利益との直接比較 |
ROIという名前だけでは、利益が税引前か税引後か、対象期間が単年か累計かは分かりません。社内の資料には、率だけでなく計算式と期間を残すと、比較の前提を確認できます。
設備投資の計算例
初期投資と年間の利益を別々に集計してから、ROIを求めます。以下は計算方法を示す架空の設備投資で、実績や目標水準ではありません。
税抜金額の架空設例では、2027年期首に設備を取得して通年稼働すると仮定します。残存価額はなく、5年定額で費用配分します。下表の年額は毎年同額で、借入利息はありません。増加運転資金は初期投資時に確保した後、変わらないものとします。法定耐用年数や税額を求める例ではありません。
| 項目 | 金額・計算 |
|---|---|
| 設備投資額 | 1,000万円 |
| 増加運転資金 | 200万円 |
| 初期投資額 | 1,000万円+200万円=1,200万円 |
| 年間の売上増加額 | 1,000万円 |
| 年間の現金支出を伴う費用増加額 | 560万円 |
| 年間の減価償却費 | 1,000万円÷5年=200万円 |
| 年間増加利益(利払前・税引前・償却後) | 1,000万円−560万円−200万円=240万円 |
| 年次ROI(利払前・税引前・償却後の年間増加利益/初期投資) | 240万円÷1,200万円×100=20% |
実際の費用配分は、資産や会計方針などに応じて確認します。設例の年数・税抜処理を、そのまま税務申告に使うものではありません。
この設例では、売上増加額から現金支出を伴う費用と減価償却費を引いた額を、ROIの分子にしています。設備投資額は分母に含め、償却後の利益からもう一度全額を引きません。
実際の資産の条件を確認して減価償却費を計算するROIと回収期間の違い
ROIは利益の割合、回収期間は投じた資金を現金で取り戻すまでの長さです。ROIの分子に使った償却後の利益を、そのまま回収期間の分母に使うと、現金の増加額とずれます。
公庫の回収期間法は、設備投資額と増加運転資金の合計を、利払後・税引後・償却前の増加キャッシュフローで割ります。以下は年間の増加キャッシュフローが一定の場合の単純計算です。
上の架空設例を続け、税抜の金額と毎年の費用・利益は同じとします。この架空設例では、増加する税金の支払を毎年40万円と仮定します。借入利息と追加の運転資金変動はないものとします。税額は仮定入力であり、税率から計算した額ではありません。毎年末に同額の現金が増え、売却代金や運転資金の戻りは含めません。
| 項目 | 金額・計算 |
|---|---|
| 年間の税引後増加利益 | 240万円−40万円=200万円 |
| 年間の増加キャッシュフロー(税引後・償却加算後) | 200万円+200万円=400万円 |
| 単純回収期間(年間増加CF一定) | 1,200万円÷400万円=3年 |
回収の見通しを作る際は、初期投資時の支出と、その後の現金の増加を時系列に並べます。年ごとの増加キャッシュフローが異なるときは、各年の累計が初期投資額に届く時点を確認します。
利益への減価償却費の加算は簡便な捉え方です。実際には売上代金の未回収、在庫の増減、買掛金の支払なども現金残高を変えます。追加投資や設備の処分時の収支も別途確認します。
計算前に集める資料
最初に、設備を入れない場合と入れる場合の差を集めます。次は社内比較用の確認表です。法定の申請様式や認定要件の一覧ではありません。
| 集める資料 | 確認すること | 見積もりの落とし穴 |
|---|---|---|
| 設備の見積書・付帯工事の明細 | 本体と関連支出の範囲、支払時期、投資総額の集計範囲 | 本体代だけで投資額を比べない |
| 売上・生産計画 | 増加する販売数量と販売単価、売価下落の見込み | 設備の最大生産能力を、そのまま販売数量にしない |
| 材料・人員・維持費の計画 | 増える材料費・労務費・光熱費・発送費など | 歩留まり改善や配置変更で減る費用も確認する |
| 固定資産と償却の計画 | 稼働日、使う期間、償却方法・償却率 | 償却費を落とした利益と、償却後の利益を混ぜない |
| 入出金・運転資金の計画 | 増える在庫・売掛金等と支払条件、金利・税金の支払 | 利益の増加を、そのまま現金の増加としない |
中小機構「設備投資計画における採算性の計算方法」も、販売価格や市場予測、増加する費用を見積もって採算性を評価しています。能力が増える計画と、需要が増える予測を分けることが出発点です。
計算で間違えやすい点
計算では、設備代の二重控除を避け、利益の集計期間と設備による増加分を区別します。
設備代と減価償却費を重ねて引く
資産計上した設備の償却後利益を使う方式では、設備代をさらに全額控除しません。設備の支出は初期投資として集計し、その後の利益計算では減価償却費を織り込みます。当期費用にする広告などの計算式を、そのまま設備に当てはめないようにします。
年次の利益と累計の利益を混ぜる
年間の利益で出したROIと、投資期間全体の累計利益で出したROIは別の数値です。比較表には、利益を集計した期間と初期投資の範囲を併記します。稼働直後の期間を通年稼働の見積もりと比べる場合も、月数の差を切り分けます。
会社全体の利益を設備の成果にする
既存事業の利益をそのまま設備投資の利益にすると、投資効果を取り違えます。設備を導入した場合と導入しない場合の売上・費用の差を見積もります。全社の資本や資産に対する収益性は、ROE・ROAの解説で扱っています。
ROIの目安と見直し方
本記事では、業種を問わず使える合格ラインは置きません。公庫の資料は投資利益率を目標利益率などと比べ、回収期間も併用して評価しています。利益率が高くても、投資規模や資金回収の時期を見なければ資金繰りは分かりません。
また、ここで使ったROIや単純回収期間は、将来の現金を現在の価値に割り引く計算ではありません。長期の投資を比較するときは、正味現在価値など、時間価値を考慮する方法も検討の対象です。
導入後に見直すときは、予測と実績を並べます。販売数量・単価・費用のどこが変わったかを分けると、原因を追いやすくなります。集計期間や投資範囲を途中で変えた場合は、その変更も残す運用が考えられます。
設備投資のROIを読むときは、利益の区分・投資額の範囲・対象期間を確認します。利益率を計算した後は、現金の回収と資金繰りも別に確認します。
よくある質問
ROIの分子は売上ですか?
利益です。本記事の設備投資の計算では、対象設備による年間増加利益のうち、利払前・税引前・減価償却後の額を使います。売上の増加額をそのまま分子にはしません。
ROIが高ければ、投資額も早く回収できますか?
ROIだけでは回収の速さは分かりません。ROIは利益の比率で、回収期間は現金の増加を使います。入出金の時期や運転資金の増減を含め、回収の見通しを別に確認します。
ROIがマイナスのときは何を確認しますか?
本記事のように正の初期投資額で割る方式では、増加利益がマイナスであることを示します。売上・費用の予測、稼働期間、償却費の計上が計画どおりかを確認します。率だけで設備の採否を断定するものではありません。
税制の申請にこの計算を使えますか?
このページは社内の採算比較用で、税制の要件判定用ではありません。申請ではその制度の算式と様式を確認します。先端設備等導入計画の解説では、制度固有の投資利益率を別に説明しています。
出典
- 日本政策金融公庫「経営情報」No.375「適切な設備投資の意思決定を行うために」:投資利益率法・回収期間法・正味現在価値法の説明。投資利益率の利益区分と、増加運転資金を含む投資額の定義。
- 中小企業基盤整備機構「設備投資計画における採算性の計算方法について教えてください」:増加利益・キャッシュフロー、販売数量と費用の見積もり。
計算表の金額・年数は説明用の架空設例です。特定企業の実績、税制の計算例、投資の推奨ではありません。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。個別の税務・労務相談には応じられません。