労災認定とは:認定基準・請求・決定通知と不服手続き
労災認定は、労災保険給付の請求に対して労働基準監督署長が行う判断です。会社が「労災ではない」と考えていても、それだけで請求を止めることはできません。
経理・労務担当者は、事故や勤務の事実を整理し、請求する給付と提出経路を確認します。以下は雇用される労働者の一般的な手続きの確認表です。個別の事故・疾病が認定されるかの判定、特別加入、公務災害は扱いません。
まず区別する:認定・会社の証明・保険給付
会社の事業主証明と、監督署長による支給決定は別です。書類を受け付けてもらえたことも、支給が決まったことを意味しません。
| 段階 | 誰が何をするか | 会社側の確認 |
|---|---|---|
| 給付の請求 | 被災労働者などの請求権者が、対象の給付を請求する | 療養・休業など、何を請求する書類か |
| 事業主証明 | 会社が請求書の証明欄に対応する | 災害発生状況・賃金等を記録と照合する |
| 調査・支給判断 | 監督署が調査し、署長が支給・不支給を決定する | 照会された事実と資料を確認する |
| 決定後 | 請求人が通知内容を確認する | 支給決定と実際の振込を混同しない |
会社に過失があったかと、労災保険給付の対象かも同じ問題ではありません。厚生労働省のQ&Aは、業務と傷病との相当因果関係が認められれば給付が行われると説明しています。民事上の損害賠償については別の判断になります。
どの災害か:業務・通勤・複数業務要因
災害は、業務災害・通勤災害・複数業務要因災害に分かれます。区分ごとに確認する事情と記録が異なります。
| 区分 | 認定で確認すること | 整理する記録の例 |
|---|---|---|
| 業務災害 | 業務上の負傷・疾病などか。事故では事業主の支配下と業務との因果関係を確認 | 作業内容、指示、発生場所、設備の状態、勤務記録 |
| 通勤災害 | 就業に関する法定の移動区分、合理的な経路・方法、逸脱・中断を確認。業務性のある移動は除く | 出退勤の時刻、経路、移動の目的、逸脱・中断の事情 |
| 複数業務要因災害 | 発症時又は原因・要因となる事由の発生時に、異なる事業主に同時雇用された人の対象疾病を総合評価。単独事業で認定できる場合を除く | 関係する各勤務先の労働時間、仕事内容、負荷に関する記録 |
複数業務要因災害の対象疾病は、脳・心臓疾患や精神障害などです。雇用とフリーランスの組合せだけで対象になるわけではありません。発症時に掛け持ちをしていなくても、原因・要因となる事由の発生時に異なる事業主に同時雇用されていた人を含みます。この点は、労災保険法施行規則の対象者の定めも確認します。
通勤の対象は、就業に関し合理的な経路・方法で行う、住居と就業場所の往復などの法定の移動で、業務の性質を有するものを除きます。日常生活上必要な省令所定の行為を、やむを得ない事由で必要最小限行った場合は、経路に戻った後の移動が対象になり得ます。具体的な条件は通勤災害の範囲と寄り道の扱いで確認できます。
「仕事中」だけでは決まらない認定の考え方
業務上の負傷は、事業主の支配下にあるかという業務遂行性と、業務が原因となったかという業務起因性が確認の軸です。会社の建物内かどうかだけで結論は出せません。
次の表は、労災保険の適用事業で働く労働者の業務上の負傷について、東京労働局の説明を整理したものです。個別事案の認定結果を示す表ではありません。
| 発生した状況 | 確認の考え方 |
|---|---|
| 施設内の作業中に私用等で負傷 | 私的・恣意的行為が原因の負傷、故意の災害、個人的恨みによる暴行は、業務災害とは認められない |
| 施設内の昼休み・就業前後だった | 私的行為による負傷は対象外だが、施設管理が原因なら業務災害となる。トイレなど生理的行為は業務に付随する行為として扱う |
| 出張・社用の外出中だった | 施設外でも事業主の支配下にある。積極的な私的行為など特段の事情がないかを確認 |
| 地震・台風で負傷した | 天災が原因でも、立地・作業条件・環境など、業務上災害を受けやすい事情があれば業務災害と認められる場合がある |
たとえば「昼休みに転倒」とだけ記録すると、私的な遊びでの転倒か、壊れた設備が原因の転倒かが分かりません。会社の経過記録では、時刻に加え、何をしていたか、何が事故の原因として確認できたかを分けて残します。
病気は発症場所より、業務との因果関係を確認する
疾病は、業務との相当因果関係が認められるかが問題です。業務上の有害因子の種類、さらされた量・期間、発症の経過と病態の医学的な妥当性などが確認されます。
就業時間中の発症でも業務が原因とは限らず、就業時間外の発症でも業務上疾病と認められることがあります。「その病名がある」「残業があった」だけで会社が認定結果を決めることはできません。
疾病別の認定基準は、厚生労働省「業務上疾病の認定等」から確認できます。このページでは疾病別の判定を行いません。
請求の進め方:会社が確認する書類と経路
給付は、療養・休業・障害など請求する内容に応じて手続きが分かれます。日常的には「労災申請」と呼ばれますが、書類上は労災保険給付の請求です。
| 確認する順序 | 担当者が整理すること | 取違えやすい点 |
|---|---|---|
| 事故・疾病の事情 | 日時・場所・作業内容・勤務状況、記録の所在を整理 | 本人の説明と会社で確認できた事実を分ける |
| 請求する給付 | 治療の給付、立て替えた療養費、休業等を確認 | 療養の請求だけで休業の請求も済んだと思わない |
| 災害と様式の区分 | 業務・複数業務要因用か、通勤用かを確認 | 療養費用は薬局・施術先・訪問看護等でも様式が異なる |
| 証明・提出 | 事業主や診療担当者等の証明欄と添付資料、提出先を確認 | 様式ごとの記載要領を読み、関係資料の写しを控える |
| 照会・通知 | 監督署等の照会への回答と決定通知を確認 | 会社での受付日と、提出先への提出日を分ける |
請求書は厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー」から入手できます。様式番号を過去の社内書類だけから転記せず、請求する給付と災害区分を確かめます。個別に求められる資料は請求先に確認してください。
療養は指定医療機関かどうかで経路が変わる
業務災害の療養補償給付では、指定医療機関で療養の給付を受ける場合、その医療機関を経由して請求します。指定外の医療機関で療養した場合は費用を立て替え、療養の費用を労働基準監督署長に請求します。
治療費をすでに支払った場合や、医療機関の変更がある場合は、その事情を医療機関と監督署に伝えて提出する書類を確認します。休業の要件・給付額・請求書は労災の休業補償に分けて解説しています。
会社が証明しない場合も請求はできる
事業主証明が得られなくても、労災保険の請求は可能です。証明を得られない事情を労働基準監督署に相談します。これは支給を保証する意味ではなく、認定は請求後の調査と決定によります。
会社の証明が整うまで本人からの相談を止める、社内承認だけで認定済みと扱う、といった処理を避けます。未確認の事実は未確認として整理します。
決定通知を受け取ったら確認する項目
通知では、対象の給付と決定内容を確認します。支給決定の通知は支給できるかと決定額を知らせます。支払振込の通知は口座振込の手続きを行ったことを知らせるものです。別々に届く場合と、一体のはがきで届く場合があります。
次は会社で照合用の記録を作る場合の例です。法定の統一帳票ではありません。決定通知の原本や請求書に代わるものでもありません。
| 記録欄の例 | 記入・照合する内容 |
|---|---|
| 請求の識別 | 請求人、災害発生に関する記録、請求した給付、提出先 |
| 日付 | 提出日、通知日、本人が決定を知った日を別欄にする |
| 決定内容 | 通知に書かれた支給・不支給、対象期間や決定額等 |
| 照合結果 | 請求した内容との差、理由についての不明点、問合せ先 |
| 次の対応 | 通知の不服申立ての案内、本人への返却・共有状況 |
たとえば「療養の手続き済み・休業分は未提出」なら、記録をひとまとめに「労災認定済み」で閉じず、請求した給付ごとの状況を残します。会社の給与処理と、本人に対する保険給付の通知も別に照合します。
不支給などに不服があるときの手続き
労災保険給付の決定に対する審査請求を扱うのは、労働者災害補償保険審査官です。単なる再提出と不服申立ては同じ手続きではありません。
以下は現在の処分に対する不服申立ての期間です。正当な理由で期間内に請求できなかったことを疎明した場合の例外があります。郵便・信書便で提出する場合は、送付に要した日数を算入しません。労災保険給付の審査・再審査請求の期限は、末日が行政機関の休日に当たれば翌開庁日扱いです。
| 手続き | 申立て先 | 期間の起算点 |
|---|---|---|
| 監督署長の保険給付の決定への審査請求 | 決定した監督署長を管轄する都道府県労働局の労災保険審査官 | 原処分があったことを知った日の翌日から3か月以内 |
| 審査官の決定への再審査請求(通常の謄本送付) | 労働保険審査会 | 審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内 |
再審査請求の「送付」は、審査官の決定を請求人に送達することを指します。表は通常の謄本送付による場合を扱い、公示送達の起算点は対象外です。個別の満了日は通知の教示と窓口で確認してください。古い処分に関する経過措置も、この表の対象外です。
審査官の決定後は、再審査請求のほか、原処分の取消訴訟を提起する道もあります。再審査請求を経なければ裁判に進めないという一本道ではありません。審査官の決定を経ない出訴が認められる例外もあります。出訴期間や選択する手続きは、通知書と法律相談の窓口で確認します。
相談時は、対象となる決定通知、請求書の控え、決定を知った日、争点に関係する記録を整理します。問合せ中に申立期間が止まると考えず、期限と提出方法を確認してください。
担当者が最後に確認すること
- 会社の証明と、労働基準監督署長による労災保険給付の支給・不支給決定を区別する。
- 業務災害・通勤災害・複数業務要因災害について、該当する事情と記録を整理する。
- 請求する給付と様式、提出経路を確認し、通知を給付ごとに照合する。
- 決定に不服がある場合は、通知の教示と、申立ての起算点・期限を確認する。
給付の請求・認定と、会社が行う労働者死傷病報告も別の手続きです。報告側の対象や提出方法は労働者死傷病報告で確認できます。
労災保険料を含む会社負担の試算は、法定福利費の計算ツールで確認できます。労災認定を判定するツールではありません。
法定福利費計算ツールで会社負担を確認よくある質問
労災認定は会社が決めるのですか?
いいえ。労災保険給付の請求に対し、労働基準監督署長が支給・不支給を決定します。会社の事業主証明は、監督署長による支給判断とは別です。
会社が労災と認めず、証明してくれない場合は?
事業主証明が得られなくても労災保険の請求は可能です。証明が得られない事情を労働基準監督署に相談してください。支給されるかは調査後の決定によります。
仕事中に発症した病気なら労災認定されますか?
仕事中というだけでは決まりません。疾病は業務との相当因果関係を確認し、就業時間外の発症でも業務上疾病と認められることがあります。業務上の有害因子、量・期間、発症経過などが判断に関係します。
療養の請求をすれば、休業の給付も自動で受けられますか?
療養と休業は別の請求です。休業の給付にはその要件があり、休業に関する請求書の提出が必要です。療養の書類だけで休業の請求も済んだとは扱いません。
不支給決定に不服がある場合はどうしますか?
現在の労災保険給付の決定への審査請求は、原処分を知った日の翌日から3か月以内に、決定した監督署長を管轄する労災保険審査官へ行います。正当な理由で遅れたことを疎明した場合の例外、郵便・信書便の送付日数不算入、休日満了時の延長があります。通知の教示と上の期間表を確認してください。
出典
- 厚生労働省「労災保険に関するQ&A:会社が責任を認めない場合」
- 東京労働局「業務災害について」
- 福井労働局「労災認定の考え方」
- 厚生労働省「労働災害が発生したとき」
- 厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー」
- 厚生労働省「労災保険給付の受給者の皆様へ」
- 厚生労働省「労災保険審査請求制度」
- e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法施行規則」:複数事業労働者に類する者と対象疾病の範囲。
- 厚生労働省「労働保険審査官及び労働保険審査会法」
- e-Gov法令検索「行政機関の休日に関する法律」
- 厚生労働省「労災保険給付の決定を裁判で争う場合」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務・労務相談には応じられません。実際の認定・請求手続きは労働基準監督署等に、個別の紛争は弁護士等にご確認ください。