損益通算とは?できる所得・できない損失と計算順序の早見表
損益通算は、対象となる所得の赤字を、別の所得の黒字から差し引く仕組みです。不動産・事業・山林・譲渡所得の損失が対象ですが、所得の種類や赤字の原因によって除外があります。
給与と副業の損失を通算できるか、株式の損失をどこから引けるかは、同じ答えにはなりません。先に下の早見表で区分を確認し、通算できる赤字だけを法定の順序で計算します。この記事は居住者の所得税を扱います。
損益通算できる所得・できない損失
見るのは「赤字をほかの所得へ持ち出せるか」です。給与所得の黒字から事業所得の赤字を引くことと、給与所得に生じた損失をほかへ持ち出すことは別です。
居住者の所得税で、損失を他の所得の黒字から差し引く側の早見表です。生活に通常必要でない資産の損失は、競走馬の譲渡に係る一定の場合を除き対象外です。所得ごとの主な制限は表中に示します。根拠は国税庁「損益通算」です。
| 赤字が生じた所得 | 扱い・主な制限 |
|---|---|
| 不動産所得 | 対象。ただし土地取得借入金利子等の除外あり。詳細は次の不動産の節 |
| 事業所得 | 対象。雑所得に当たる副業の赤字とは区別する |
| 山林所得 | 対象。他の損益通算を行った後の順序にも注意する |
| 総合課税の譲渡所得 | 対象。分離課税の土地建物等・株式等は次の表で区別する |
| 配当所得・給与所得・一時所得・総合課税の雑所得 | その所得に生じた損失は、他の所得から控除できない |
| 利子所得・退職所得 | 所得金額の計算上、損失は生じない |
副業という呼び方だけで事業所得にはなりません。雑所得に当たる副業の赤字は、給与所得から引けません。事業所得か雑所得かの区分は、その活動の実態を確認する必要があります。
株式・先物・土地建物の売却は別枠で考える
株式等と対象先物の分離課税の損益は、総合課税の所得に混ぜて合計しません。逆に、総合課税の事業損失などを分離課税の株式の利益へ持ち込むこともできません。
次は分離課税等の主な境界です。「同じ区分の中で差し引く」ことと、別の所得から損失を引く「損益通算」を区別します。個別の特例の要件を満たすかは別途確認します。
| 損失の種類 | 差し引く範囲・例外 |
|---|---|
| 上場株式等の譲渡損失 | 給与とは通算不可。課税口座の上場株式等の区分で計算。配当等との通算・繰越の条件は下の表へ |
| 一般株式等の譲渡損失(特定中小会社の発行株式の特例を除く) | 上場株式等の利益や給与とは通算不可。一般株式等の区分で計算 |
| 申告分離課税の先物取引に係る雑所得等の損失 | 同じ先物取引に係る雑所得等の範囲で計算。給与や株式等とは通算不可 |
| 土地建物等の譲渡損失 | 土地建物等の譲渡所得の範囲で計算。他所得とは通算不可だが、一定の居住用財産には特例あり |
| NISA・ジュニアNISA口座内の上場株式等の譲渡損失 | 課税口座との損益通算・繰越控除はできない |
対象となるFXの範囲と申告手続はFXの税金、金融機関の口座と申告の関係は特定口座と確定申告で詳しく説明しています。
生活に通常必要でない資産にも制限がある
ゴルフ会員権や趣味・保養目的の不動産などは、生活に通常必要でない資産の例です。資産を売った赤字なら何でも給与から引けるわけではありません。
生活に通常必要でない資産の範囲は、国税庁の対象範囲と注記で確認できます。
給与と事業の赤字を通算する計算例
通算で減るのは所得の金額です。赤字と同額の税金が戻るわけではありません。ここでは所得の段階だけを計算します。
令和8年分の居住者の架空例です。給与所得控除後の給与所得と、通算対象となる事業所得の損失のみがあり、他の所得・通算制限はありません。金額は年額で、所得控除前の合計を示し、税額・還付額は計算しません。
| 項目 | 年額・計算 |
|---|---|
| 給与所得(給与収入とは異なる) | 400万円 |
| 通算対象となる事業所得の損失 | 60万円の赤字 |
| 損益通算後の所得合計(所得控除前) | 400万円−60万円=340万円 |
給与収入をそのまま表に入れないことがポイントです。源泉徴収票と事業の決算資料で、それぞれの「所得」の金額を確認します。副業の赤字が雑所得なら、この設例と同じ通算はできません。
不動産の赤字と土地取得借入金の利子
不動産所得の赤字のうち、必要経費に入れた土地等の取得借入金利子に相当する部分は通算対象外です。除外する額は、その年の不動産所得の赤字と当該利子の少ない方です。
これは、土地取得借入金の利子を最初から必要経費にしないという意味ではありません。必要経費を引いて赤字を計算した後、他の所得へ持ち出せない部分を分けます。根拠は租税特別措置法の不動産所得に係る損益通算の特例と同施行令の計算規定です。
令和8年分の居住者が通常の賃貸不動産を貸す架空例です。赤字は必要経費算入後、利子は当年の必要経費に入れた土地等取得借入金分の年額です。他の通算制限はなく、借入元本の返済は利子に含めません。
| 項目 | 年額・計算 |
|---|---|
| 必要経費算入後の不動産所得の赤字 | 80万円 |
| 必要経費に入れた土地等取得借入金利子 | 30万円 |
| 損益通算から除く額 | 赤字と土地利子の少ない方=30万円 |
| 残る通算対象の損失 | 80万円−30万円=50万円 |
当年の必要経費に算入した土地等取得借入金の利子が赤字以上なら、この制限を反映した通算対象の損失は残りません。建物取得借入金の利子は、土地分の利子と分けて確認します。
土地と建物をまとめて購入・借入した場合の区分や決算書の見方は、家賃収入と確定申告にまとめています。ここでは、土地分として確認済みの利子を使う計算に絞っています。
土地の利子以外の主な制限
不動産所得の主な制限を示します。詳細は国税庁「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」と損益通算の注記を参照してください。
| 該当する損失 | 制限 |
|---|---|
| 主に趣味・娯楽・保養・鑑賞のため所有する別荘等の貸付損失 | 他の所得との損益通算の対象外 |
| 組合事業・信託に係る特定組合員等の該当損失 | 他所得との損益通算だけでなく、他の不動産所得との内部通算にも制限 |
| 令和3年分以後:国外中古建物の簡便法等による減価償却費相当の損失 | 他所得との損益通算・国内不動産との内部通算不可。複数の建物は、各建物の損失と該当償却費の少ない額を合計 |
損益通算の順序
通算する先は自由に選べません。たとえば、不動産・事業の損失を、経常所得より先に退職所得から引く計算にはしません。
ここでいう経常所得は、総合課税の利子・配当・不動産・事業・給与・雑所得です。分離課税の利子や株式、先物取引等は、下表の経常所得には混ぜません。
総合課税の通算対象の損失について、所得税法施行令「損益通算の順序」の流れを示します。各段階で控除してなお残る損失を次へ回し、先行する通算後の所得を使います。総合課税の損益通算で、控除先の譲渡所得に短期・長期がある場合は短期から控除します。
| 損失の区分 | 先に控除する所得 | なお残る損失の控除先 |
|---|---|---|
| 不動産所得・事業所得 | 経常所得 | 譲渡所得→一時所得→山林所得→退職所得 |
| 譲渡所得 | 一時所得 | 経常所得→山林所得→退職所得 |
| 山林所得 | 他の損益通算後の経常所得 | 譲渡所得→一時所得→退職所得 |
不動産・事業の損失と譲渡損失が同時にあるときは、それぞれ経常所得、一時所得への通算を先に行ってから、残る損失を相互に回します。両方の損失を同じ黒字から重ねて控除しないようにします。
変動所得の損失や被災事業用資産の損失などが混在する場合は、損失の種類ごとの控除順序もあります。特殊な損失を含む場合は、同施行令の「変動所得の損失等の損益通算」も確認します。
上場株式等の損失と繰越控除
株式の損失は、給与の黒字からは引けません。課税口座の上場株式等の損益は、一般株式等や先物取引とは分けて計算します。
配当と通算する場合は、配当側の申告分離課税の選択と、損失側の取引・口座の要件を組み合わせて確認します。給与や総合課税を選んだ配当から引く制度ではありません。
通算・繰越の条件と申告書類
次は令和8年分の居住者について、課税口座で金融商品取引業者等を通じた譲渡等による上場株式等の適格損失の扱いです。相対取引・NISA・ジュニアNISA内の損失は対象外です。付表は損益通算及び繰越控除用、明細書は株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書を指します。出典は国税庁「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」です。
| 年・目的 | 通算・繰越の対象と手続 |
|---|---|
| 当年の配当等との損益通算 | 申告分離課税の上場株式等の配当所得等の金額が上限。適用を受ける旨を申告書に記載し、付表・明細書を添付 |
| 損失を翌年以後へ繰り越す損失年 | 通算後も残る損失について、付表・明細書を添付して申告 |
| その後の継続年 | 付表を添付する申告を連続して提出。株式の譲渡がない年も必要 |
| 繰越控除年(損失年の翌年以後3年間・損失年から所定書類付きで連続申告) | 上場株式等の譲渡所得等・申告分離課税の配当所得等から控除。付表と、一般株式等・上場株式等の譲渡所得等がある場合は明細書を添付 |
同じ源泉徴収あり特定口座の中で行われる精算と、確定申告による通算・繰越控除は区別します。口座の選択と申告による周辺制度への影響は、特定口座の記事で確認できます。
確定申告前に確認すること
まず、所得の種類ごとに計算資料を分けます。給与は源泉徴収票、事業・不動産は決算書や収支の記録、株式は年間取引報告書などを使い、収入と所得を区別して確認します。
- 赤字がどの所得区分に属するかを確認する。副業の事業所得と雑所得を混同しない。
- 所得ごとの計算で赤字を確定し、土地取得借入金利子など通算対象外の部分を分ける。
- 総合課税と分離課税の別枠を守り、対象損失を法定順序で控除する。
- 翌年への繰越控除を使う場合は、当年の損益通算とは別に要件と継続申告を確認する。
同じ所得区分の中で利益と損失を差し引く計算は内部通算と呼ばれます。ただし、特定組合員等や国外中古建物の該当損失には内部通算にも制限があるため、複数物件の収支を無条件で足し合わせないようにします。
還付の有無は所得計算だけでは決まりません。居住者の還付申告は、所得税法「還付等を受けるための申告」のように、控除しきれない源泉徴収税額等を確認して行います。損失の金額そのものが還付額になるわけではありません。
申告書の各表の役割は確定申告書の見方へ。損益通算ができることと、翌年も損失を使えることは別なので、繰越を自動的に適用しないようにします。
赤字所得のない人向け:所得税計算機を見る計算機は赤字所得・分離課税の所得がある人には使えません。損益通算後の金額を入力して代用しないでください。
まとめ
損益通算は、対象の赤字を他の所得の黒字から控除する仕組みです。所得区分を確かめ、対象外の部分を除き、法定順序で計算します。
不動産の赤字には土地取得借入金利子等の制限、株式には通算範囲と申告の要件があります。所得の金額、税額、還付額は分けて確認します。
よくある質問
副業の赤字を給与所得から引けますか?
事業所得に該当する通算対象の損失なら引けます。雑所得に当たる副業の赤字は給与所得と通算できません。副業という名称だけでは区分は決まりません。
配当所得は損益通算できないのですか?
配当所得の赤字を給与などから引くことはできません。別の制度として、上場株式等の損失を申告分離課税の上場株式等の配当等の金額を限度に控除する特例があります。令和8年分の居住者で、課税口座の金融商品取引業者等を通じた適格譲渡損失が対象です。適用の旨を記載した申告書へ所定の付表・計算明細書を添付します。相対取引・NISA・ジュニアNISA内の損失は対象外です。
株式の損失を給与やFXの利益から引けますか?
引けません。株式等と給与、申告分離課税の先物取引に係る雑所得等は別枠で計算します。課税口座の上場株式等と一般株式等も区分が異なり、NISA・ジュニアNISA内の損失は損益通算・繰越控除に使えません。
上場株式等を売らなかった年も繰越の申告が必要ですか?
繰越控除を受けるためには必要です。適格な上場株式等の損失を付表・明細書付きで申告した後、株式の譲渡がない年も付表を添付する確定申告を連続して提出します。控除年の明細書は、その年に株式等の譲渡所得等の金額がある場合に必要です。
出典
- 国税庁「No.2250 損益通算」
- 国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」
- 国税庁「No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い」
- 国税庁「No.1476 特定口座制度」
- 国税庁「所得税基本通達」35-2(業務に係る雑所得の例示)
- 国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」
- e-Gov法令検索「所得税法」69条(損益通算)・122条(還付等を受けるための申告)
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」198条(損益通算の順序)・199条(変動所得の損失等の損益通算)
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」37条の12の2(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除)・41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例)
- e-Gov法令検索「租税特別措置法施行令」26条の6(不動産所得に係る損益通算の特例)
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