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家賃収入の確定申告【令和8年分】総収入金額・必要経費・5棟10室を条文で

結論から言うと、家賃収入は不動産所得として申告し、その金額は「総収入金額 − 必要経費」の1本で決まります。所得税法26条2項が定めるのはこれだけで、青色申告決算書(不動産所得用)の1欄から23欄までは、この引き算をそのまま紙に並べたものです。

つまずくのは金額の大きいところではなく、入口の3つです。①総収入金額に入るのは家賃だけではなく、礼金・更新料・共益費・返さないと決まった敷金まで入ります。②計上するのは入金日ではなく契約上の支払日です(所得税基本通達36-5)。ただしこれは原則で、所得税法67条の現金主義の特例を受けている人は入金・支出のあった日で計算します。③赤字が出ても、土地を買うための借入金の利子だけは損益通算から外されます(租税特別措置法41条の4第1項)。決算書にその利子だけを書く専用の欄があるのは、そのためです。

この記事は、令和8年分(2026年1月〜12月)を前提に、収入に入るものと入らないもの、計上の時期、必要経費の7項目とその他の経費の欄、建物と建物附属設備を分けたときの減価償却、そして「5棟10室」が法律の要件ではなく通達の目安であることまでを、条文と国税庁の一次情報で確かめます。金額はすべて具体例の実数で示します。

申告書の形は「収入1〜4欄 − 経費5〜18欄」— まず決算書の骨格を見る

不動産所得の定義は所得税法26条1項にあります。国税庁のページより先に条文を読んでおくと、後の判定が速くなります。

不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。

そして同条2項が「不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする」と定めます。この2つの箱が、青色申告決算書(不動産所得用)の損益計算書にそのまま並んでいます。令和2年分以降用の様式でいうと、収入金額は1欄の賃貸料・2欄の礼金・権利金・3欄の更新料という3項目と、4欄の計。必要経費は5欄の租税公課・6欄の損害保険料・7欄の修繕費・8欄の減価償却費・9欄の借入金利子・10欄の地代家賃・11欄の給料賃金という7項目、そこに12欄から16欄の科目名を自分で書く空欄と17欄のその他の経費を足した6欄が続き、18欄がその計です。数えるなら、収入は3項目+計、必要経費は7項目にその他の6欄を足した13科目+計、になります。

19欄が差引金額、20欄が専従者給与、21欄が青色申告特別控除前の所得金額、22欄が青色申告特別控除額、23欄が所得金額。ここまでは他の決算書と同じ形ですが、この様式にだけ番号のない欄が1つ余分に付いています。「土地等を取得するために要した負債の利子の額」です。様式の注記は、23欄が赤字の人で必要経費に算入した金額のうちに土地等を取得するために要した負債の利子の額がある人は、その負債の利子の額を書いてください、と指示しています。この記事の損益通算の節で扱う仕組みが、様式の側にも現れています。

2ページ目には「不動産所得の収入の内訳」があり、物件ごとに賃貸料の月額と年額、礼金・権利金・更新料、そして保証金・敷金の期末残高を書く列があります。敷金の欄が「収入」ではなく「残高」であることが、次の節の答えを先に示しています。

総収入金額に入るのは家賃だけではない — 礼金・更新料・共益費・返さない敷金

国税庁No.1370は、総収入金額には賃貸料収入のほかに、名義書換料・承諾料・更新料・頭金などの名目で受領するもの、敷金や保証金などのうち返還を要しないもの、共益費などの名目で受け取る電気代・水道代・掃除代なども含まれる、としています。共益費の扱いが実務では見落とされやすいところです。

受け取ったもの総収入金額根拠
家賃・地代(賃貸料)入る所法26条1項
礼金・権利金・頭金入るNo.1370、所基通36-6
更新料・名義書換料・承諾料入るNo.1370、所基通26-6
共益費(電気代・水道代・掃除代の名目を含む)入るNo.1370
敷金・保証金のうち返還を要しない部分入る所基通36-7
敷金・保証金のうち返還する部分入らない(預り金)No.1376
広告のため屋上・塀を使わせる対価入る(不動産所得)所基通26-5
下宿など食事を供する貸付けの対価不動産所得に入らない(事業所得または雑所得)所基通26-4(2)
共益費で受け取った電気代を、支払った電気代と相殺しない

入居者から共益費として受け取った電気代・水道代は、そのまま総収入金額に入れ、電力会社などへ支払った額は必要経費に入れます。差額だけを収入に書くと、収入も経費も同額ずつ小さくなります。所得の金額は同じでも、決算書1欄から4欄までの収入の額と、2ページ目の物件ごとの内訳がずれるので、両建てで書くのが原則です。

境目が動くのは、貸付けに役務が乗ったときです。所得税基本通達26-4は、アパート・貸間のように食事を供さない場合の所得は不動産所得、下宿等のように食事を供する場合の所得は事業所得または雑所得と分けています。同じ建物を貸していても、朝夕の食事を出す下宿にした瞬間に所得区分が変わります。同じく26-2は、いわゆるケース貸しは不動産の貸付けに該当するとし、27-2は有料駐車場について、自己の責任において他人の物を保管する場合の所得は事業所得または雑所得、そうでない場合の所得は不動産所得としています。青空駐車場の月極は不動産所得、車を預かって鍵を管理する駐車場は不動産所得ではありません。

計上するのは入金日ではなく契約上の支払日 — 原則と現金主義の例外

ここが1年分の申告額を数十万円動かします。所得税基本通達36-5(1)は次のとおりです。

契約又は慣習により支払日が定められているものについてはその支払日、支払日が定められていないものについてはその支払を受けた日(請求があったときに支払うべきものとされているものについては、その請求の日)

実際に振り込まれた日ではなく、契約書に書いてある支払日です。同じ12か月分の家賃でも、契約の書きぶりで「令和8年分」に入る12か月がずれます。月8万円・8室のアパートで並べると次のようになります。

契約の支払条件令和8年分に入る12回令和8年分の賃貸料
当月分を当月末日払い令和8年1月分〜12月分7,680,000円
翌月分を前月末日払い(前家賃)令和8年2月分〜令和9年1月分7,680,000円
当月分を翌月10日払い(後払い)令和7年12月分〜令和8年11月分7,680,000円

年額は同じでも、貸し始めた年と貸し終えた年、家賃を改定した年、途中で空室が出た年には差が出ます。そして滞納されていても支払日が来れば収入です。入金が無いことを理由に落とすことはできません。回収できないまま終わったときの処理は事業的規模の節で分かれます。

ここまでは原則。現金主義の特例を受けている人は別

所得税法67条1項は、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者で、不動産所得または事業所得を生ずべき業務を行うもののうち小規模事業者として政令で定める要件に該当するものは、総収入金額と必要経費を「その年において収入した金額及び支出した費用の額」とすることができる、と定めています。要件は所得税法施行令195条1号のその年の前々年分の不動産所得と事業所得の合計額が300万円以下であること(57条を適用しないで計算した金額)。手続は同令197条1項で、適用を受けようとする年の3月15日まで(その年1月16日以後に業務を開始したときは開始から2か月以内)に届出書を税務署長へ提出することが求められます。この特例を選んでいる人にとっては、12月分の家賃が翌年1月に振り込まれたら翌年分です。逆にいえば、承認と要件と届出がそろっていない限り、支払日で計上します。この記事の以下の説明は、特例を受けていない原則の場合を前提にしています。

礼金や更新料のような一時金は、36-6が別に定めています。貸付けに伴う資産の引渡しを要するものは引渡しのあった日、引渡しを要しないものは契約の効力発生の日です。ただし引渡しを要するものについて、契約の効力発生の日で総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める、という但し書きが付いています。3月に契約して4月に引き渡す部屋の礼金は、原則は4月ですが、契約日の3月で申告しても認められます。

敷金は3つに割れる — 返さないと確定した日が年をまたぐ

敷金・保証金は預り金なので、受け取った時点では収入になりません。返さないと決まった部分だけが収入になり、その時期を所得税基本通達36-7が3つに分けています。同じ1件の敷金が、別々の年の収入に割れることがあります。

敷金等のうちに不動産等の貸付期間の経過に関係なく返還を要しないこととなっている部分の金額がある場合における当該返還を要しないこととなっている部分の金額  36-6に定める日

貸付期間の長短に関係なく返さないと最初から決まっている部分は、礼金と同じ日(引渡しの日、または契約の効力発生の日)です。次が期間の経過に応じて返さなくなる部分で、「当該貸付けに係る契約に定められたところにより当該返還を要しないこととなった日」。3つ目が「不動産等の貸付期間が終了しなければ返還を要しないことが確定しない部分の金額」で、その終了により返還を要しないことが確定した金額を、当該不動産等の貸付けが終了した日の年分に入れます。

契約時に受け取る 敷金 200,000円(預り金) ① 期間に関係なく返さない 40,000円 36-7(1) → 引渡しの日=令和8年4月分の収入 ② 期間の経過に応じて返さなくなる 30,000円 36-7(2) → 契約で定めた到来日(毎年1万円ずつ) ③ 退去まで確定しない 130,000円 36-7(3) → 返さないと確定した額だけ終了の日 ③のうち返した分は収入にならない。決算書2ページ目では 「保証金・敷金(期末残高)」の列に、残高として載る。
同じ200,000円の入金でも、収入になる日が3年に分かれます。①は契約書に「敷引き20%」などと書かれた部分、③は原状回復費に充てて精算する部分です。返した部分は最後まで収入になりません。

実務では、契約書の文言がこの3分類のどれに当たるかを先に決めます。「敷引き」「保証金の償却」と書かれていても、それが最初から確定しているのか、年数に応じて増えるのか、退去時の精算次第なのかで、収入に立てる年が変わります。借りる側から見た敷金の経理は敷金・保証金の経理で扱っています。

必要経費は決算書の7項目+その他の経費が骨組み。租税公課は納期でも選べる

必要経費の根拠は所得税法37条1項です。総収入金額を得るため直接に要した費用と、その年における販売費・一般管理費その他その業務について生じた費用で、償却費以外はその年において債務の確定したものに限られます。国税庁No.1370は主なものとして固定資産税・損害保険料・減価償却費・修繕費を挙げています。決算書の欄に沿って整理すると次のとおりです。

中身注意点
5 租税公課固定資産税・都市計画税・不動産取得税・登録免許税・個人事業税・印紙税所得税(所法45条1項2号)と住民税(同4号)は入らない
6 損害保険料火災保険・地震保険のうちその年に対応する部分数年分を一括払いしたら期間按分
7 修繕費原状回復・通常の維持管理資本的支出になれば減価償却へ回る
8 減価償却費建物・建物附属設備・構築物・器具備品土地は償却しない
9 借入金利子元本は経費にならない。利子だけ業務開始前の期間に対応する分は取得価額へ(所基通38-8)。既に賃貸業を営む人の使用開始前の分は原則必要経費で、取得価額に入れるかは選択(37-27)
12〜16 空欄/17 その他の経費管理会社への管理委託料、仲介手数料、共用部の水道光熱費、通信費、旅費交通費自宅兼用の費用は家事按分

租税公課には、意外に自由度があります。所得税基本通達37-6の本文は、必要経費に算入する国税および地方税を、その年の12月31日までに申告などによって納付すべきことが具体的に確定したものに限っています。固定資産税は賦課課税なので、納税通知書が届いた時点で年税額の全額が確定します。ただし同37-6(3)が例外を置いています。

賦課課税方式による租税のうち納期が分割して定められている税額 各納期の税額をそれぞれ納期の開始の日又は実際に納付した日の属する年分の必要経費に算入することができる。

固定資産税は年4期に分かれるのが通常なので、①賦課決定のあった年に年税額の全額、②各納期の開始の日、③実際に納付した日、の3通りから選べます。年の途中で貸し始めた年や、翌年に売却する予定がある年は、この選択で所得が動きます。ただし毎年ころころ変えるものではなく、選んだ方法を続けるのが実務です。

借入金利子は、もう業務を営んでいる人か、これから始める人かで結論が変わります。所得税基本通達37-27の本文は、業務を営んでいる者がその業務の用に供する資産の取得のために借り入れた資金の利子を必要経費に算入する、と定め、ただし当該資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額については当該資産の取得価額に算入することができる、と続けます。語尾が「できる」なので、既にアパートを貸している人が2棟目を買った場合、引渡しから貸し始めるまでの利子も原則は必要経費で、取得価額に載せるかどうかは選べます。

一方、同項の(注)は、不動産所得・事業所得・山林所得・雑所得を生ずべき業務を開始する前に資産を取得している場合の、業務開始前の期間に対応する利子には、この項の適用はなく38-8の適用がある、としています。38-8は、借入れの日から使用開始の日までの期間に対応する部分を取得費または取得価額に算入すると言い切っており、37-27のような選択の余地がありません。初めて賃貸を始める人が、ローンを組んでから貸し始めるまでの数か月の利子を経費に落とせないのはこちらの筋です。「賃貸開始前だから一律に取得価額」ではない点に注意してください。

建物と設備を分けると、同じ3,000万円でも初年度の経費が27万円変わる

減価償却の根拠は所得税法49条1項です。法人と違って個人は「政令で定めるところにより計算した金額とする」と書き切られており、償却を翌年に繰り延べることはできません(この差は減価償却とはで扱っています)。建物は定額法だけ、建物附属設備と構築物も平成28年4月1日以後に取得したものは定額法だけです(所得税法施行令120条の2第1項1号)。土地は時の経過で価値が減らないので、そもそも減価償却資産の範囲(同令6条)に入りません。

ここで効くのが建物と建物附属設備を分けられるかどうかです。減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第一で、鉄筋コンクリート造の住宅用建物は47年、電気設備(照明設備を含む)のその他のものと、給排水又は衛生設備及びガス設備は15年です。定額法の償却率は別表第八で、47年が0.022、15年が0.067、34年が0.030、22年が0.046です。

建物3,000万円の分け方建物本体建物附属設備令和8年分の減価償却費
まとめて建物(47年)30,000,000円 × 0.022660,000円
設備600万円を区分(47年+15年)24,000,000円 × 0.0226,000,000円 × 0.067930,000円

差は270,000円です。区分できるのは、売買契約書や工事の内訳書で建物と建物附属設備の額が分かれているときに限られます。中古で買った物件を後から自分の感覚で割ることはできません。中古資産の耐用年数を短くする簡便法は減価償却の耐用年数で扱っています。

減価償却費の計算機で、取得価額と耐用年数から毎年の償却費と未償却残高を出す

建物の構造別に、住宅用の法定耐用年数と定額法の償却率を並べると次のとおりです。事務所用や店舗用は別の年数になるので、1階が店舗で2階以上が住宅というような建物では、どの区分で引くかを先に決める必要があります。

構造(住宅用)耐用年数定額法償却率取得価額2,400万円の年間償却費
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造47年0.022528,000円
金属造(骨格材の肉厚が4mm超)34年0.030720,000円
金属造(骨格材の肉厚が3mm超4mm以下)27年0.038912,000円
木造・合成樹脂造22年0.0461,104,000円
設例:令和8年1月取得・鉄筋コンクリート造8室のマンション

購入8,000万円(契約書で建物3,000万円・土地5,000万円と区分、うち建物附属設備600万円)、借入6,000万円で令和8年分の支払利子120万円。家賃8万円×8室×12か月=768万円、共益費5,000円×8室×12か月=48万円、礼金2件16万円、更新料3件24万円で総収入金額856万円。必要経費は租税公課60万円・損害保険料8万円・修繕費40万円・減価償却費93万円・借入金利子120万円・管理委託料38万4千円で計359万4千円。不動産所得は496万6千円。8室は26-9(1)のおおむね10室という目安に届きませんが、事業的規模かどうかは室数だけで決まらず、賃貸料の収入の状況や貸付資産の管理の状況等を含めて実質で判定します(5棟10室の節)。ここでは実質で見ても事業的規模には当たらず、かつ青色申告の承認を受けている、という前提を置きます。この前提なら青色申告特別控除は最高10万円(措法25条の2第1項)で、所得金額は486万6千円になります。承認を受けていなければ控除は0円で、所得金額は496万6千円のままです。

修繕費と資本的支出は20万円・60万円・10%の3つの関門で分かれる

所得税基本通達37-10は、固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出になるとし、原則として資本的支出に該当する例示として建物の避難階段の取付け等物理的に付加した部分、用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した金額、機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合の通常の取替えを超える部分を挙げます。逆に37-11は、通常の維持管理のため、又は災害等によりき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費だと定めます。

言葉での区別は現場では決まらないので、通達は形式基準を3段重ねにしています。賃貸物件でよく使うのは次の順です。

関門基準根拠
1一の修理、改良等に要した金額が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行われることが明らかなもの所基通37-12
2資本的支出か修繕費か明らかでない金額が60万円未満、または前年12月31日の取得価額のおおむね10%以下所基通37-13
3それでも決まらないとき、支出額の30%と取得価額の10%のいずれか少ない金額を修繕費とする(継続適用が条件)所基通37-14

先ほどの設例のマンション(建物2,400万円)なら、37-13の10%基準は240万円です。外壁塗装が80万円でも、原状回復か価値を高めるかが明らかでなければ60万円基準は超えますが10%基準に収まるので、修繕費として申告できます。判定の分母は帳簿価額ではなく取得価額で、しかもその固定資産にした過去の資本的支出を含みます。この判定の細部と災害時の特例は修繕費と資本的支出の違いに譲ります。

入居者の入替えごとに行うクロスの貼替えや畳の表替えは、1回あたり20万円未満なら37-12(1)で修繕費として申告できます。おおむね3年以内の周期で行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかなら、金額にかかわらず37-12(2)で修繕費にできます。一方、37-10(2)は「用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した金額」を資本的支出の例に挙げています。ここで効いているのは用途変更という条件です。住宅を住宅のまま使い続けながら和室を洋室にする、ユニットバスを入れ替えるといった工事は、それだけで直ちに用途変更に当たるわけではありません。判定は工事の内容ごとに、その固定資産の価値を高めるか耐久性を増すか(37-10)、それとも通常の維持管理か原状回復か(37-11)で分かれます。間取りを組み替えて使用可能期間を延ばすところまで踏み込めば資本的支出に寄り、傷んだ内装を今の標準的な仕様で元に戻すだけなら修繕費に寄ります。どちらとも決めきれない金額は、上の表の37-13・37-14の形式基準に落として判定します。

5棟10室は法律の要件ではない — 通達の「おおむね」の目安

「5棟10室」は不動産賃貸の世界で最も広く知られた数字ですが、所得税法にも所得税法施行令にもこの数字はありません(両法令の全文を e-Gov API v2 で取得し、「五棟」「十室」「独立家屋」が0件であることを確認しました。同じ全文で「不動産所得」は64件・84件が当たるので、検索経路は生きています)。出どころは所得税基本通達26-9で、しかも本文が先に立てている物差しは室数でも棟数でもありません。

建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。

そして続く2つの号がこうです。

(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

逐語で読むと3つのことが分かります。第1に、判定の本体は社会通念上事業と称するに至る程度の規模であって、室数・棟数はその推定にすぎません。第2に、どちらも「おおむね」です。9室だから必ず外れる、と通達が言っているわけではありません。第3に、10室や5棟に届かなくても、賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があれば事業として扱われる余地が残されています。逆に、10室あっても「特に反証がない限り」という留保が付いているので、絶対の安全弁でもありません。

「10室」は貸せる室数であって、埋まっている室数ではない

26-9(1)は「貸与することができる独立した室数」と書いています。空室があっても、貸せる状態にある独立した部屋なら数に入ります。一方で、独立していない共用部分や、自分が住んでいる部分は入りません。(2)の独立家屋は室数ではなく棟数で数え、「おおむね5棟以上」が目安になります。

国税庁No.1373も同じ立て方で、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって実質的に判断する、としたうえで、ただし建物の貸付けについては(1)(2)のいずれかに当てはまれば原則として事業として行われているものとして取り扱われる、と書いています。形式基準は「原則として」であって、それ自体が要件ではないという順序が、通達にもタックスアンサーにも保たれています。

なお、駐車場や土地の貸付けは26-9の対象外です。個人事業税の側では都道府県が独自の認定基準(東京都なら駐車台数など)を持っており、所得税の事業的規模とは別に判定されます。そちらは個人事業税とはで扱っています。

事業的規模になると4つ変わる。所得の種類は変わらない

まず誤解を1つ外しておきます。事業的規模になっても、所得は不動産所得のままです。事業所得に変わるわけではありません。変わるのは、所得金額の計算の中身です。

論点事業的規模事業的規模でない根拠
青色申告特別控除最高55万円(電子帳簿保存またはe-Taxで65万円)最高10万円措法25条の2第1項・3項・4項
青色事業専従者給与届出の範囲内で相当な額を必要経費適用なし所法57条1項
白色の事業専従者控除配偶者86万円・その他50万円(所得を専従者数+1で割った額が限度)適用なし所法57条3項
取壊し・除却などの資産損失全額を必要経費その年の不動産所得の金額が限度所法51条1項・4項
家賃の回収不能その年の必要経費に算入収入に計上した年分にさかのぼって計算をやり直す所法51条2項・64条1項

青色申告特別控除の条文の書き分けが分かりやすい例です。租税特別措置法25条の2第1項(10万円)は「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている個人」としか書いていません。ところが55万円を定める同条3項は「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている個人で不動産所得又は事業所得を生ずべき事業を営むもの」と、事業の2文字が入ります。10万円と55万円を分けているのは、複式簿記かどうかだけではなく、この「事業」の有無でもあります。控除額の判定そのものは青色申告特別控除青色申告特別控除シミュレーターに譲ります。

青色申告特別控除シミュレーターで、65万・55万・10万のどれになるかを判定する

回収不能の扱いの違いは、条文の括弧書きに現れています。所得税法64条1項は「その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。以下この項において同じ。)の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額(不動産所得又は山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く。以下この項において同じ。)」と書き、事業的規模の不動産所得を自分の適用範囲から外しています。外された側は51条2項に行き、貸倒れの生じた年の必要経費になります。事業的規模でない人だけが64条1項に残り、家賃を計上した過去の年分にさかのぼって、その所得がなかったものとして計算し直します。還付になるかどうかではなく、どの年の所得が減るかが変わるのが要点です。

取壊し損失も同じ構造です。51条4項は、不動産所得を生ずべき業務の用に供される資産の損失について「その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額又は雑所得の金額(この項の規定を適用しないで計算したこれらの所得の金額とする。)を限度として」必要経費に算入する、と限度を置いています。古いアパートを壊して建て替える年に、事業的規模かどうかで必要経費に落とせる額が変わります。

赤字は通算できる。ただし土地の借入金利子だけが切り落とされる

不動産所得の損失は、所得税法69条1項により他の各種所得の金額から控除できます。給与所得のある人が賃貸を始めた最初の年に還付が出るのは、この損益通算が働くからです。ただし、通算の前に2つの切り落としがあります。

1つ目が、この記事の主役です。租税特別措置法41条の4第1項は次のとおりです。

個人の平成四年分以後の各年分の不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合において、当該年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した金額のうちに不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地又は土地の上に存する権利(次項において「土地等」という。)を取得するために要した負債の利子の額があるときは、当該損失の金額のうち当該負債の利子の額に相当する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額は、所得税法第六十九条第一項の規定その他の所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかつたものとみなす。

建物の借入金利子は何も制限されません。土地の分だけです。金額の計算は租税特別措置法施行令26条の6第1項が2つの場合に分けており、土地等の負債利子が損失の金額を超えるときは損失の金額の全部、損失の金額以下のときはその負債の利子の額に相当する金額が、生じなかったものとみなされます。実数にすると次のようになります。

ケース不動産所得の損失うち土地等の負債利子生じなかったとみなす額通算できる損失
利子が損失より大きい(1号)800,000円1,000,000円800,000円0円
利子が損失以下(2号)1,500,000円1,000,000円1,000,000円500,000円
土地の利子がない1,500,000円0円0円1,500,000円
① 不動産所得は赤字か 決算書23欄がマイナスかどうか 黒字 通算の話にならない ② 必要経費に入れた「土地等を取得 するために要した負債の利子」は 損失の金額より大きいか(措令26条の6第1項) 大きい → 全額が 生じなかったとみなす ③ 小さい → 利子の額だけを切り落とす 残りが通算できる損失(措法41条の4第1項) ④ 残った損失を他の所得から控除(所得税法69条1項・政令で定める順序) はい いいえ はい いいえ
切り落とすのは土地等の負債利子だけで、建物の利子は制限されません。②で全額が消える場合、通算できる損失は0円になります。

ここで実務が割れるのが、建物と土地を一括で買って一括で借りたとき、借入金のどこまでが土地の分かという問題です。租税特別措置法施行令26条の6第2項がこう定めています。

個人が不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地等を当該土地等の上に建築された建物(その附属設備を含む。)とともに取得した場合(これらの資産を一の契約により同一の者から譲り受けた場合に限る。)において、これらの資産を取得するために要した負債の額がこれらの資産ごとに区分されていないことその他の事情によりこれらの資産の別にその負債の額を区分することが困難であるときは、当該個人は、これらの資産を取得するために要した負債の額がまず当該建物の取得の対価の額に充てられ、次に当該土地等の取得の対価の額に充てられたものとして、法第四十一条の四第一項に規定する土地等を取得するために要した負債の利子の額に相当する部分の金額を計算することができる。

借入金はまず建物に充てられたものとして計算してよい、という納税者に有利な規定です。ただし条件が2つあります。1つは「一の契約により同一の者から譲り受けた場合に限る」こと、もう1つは負債の額を資産ごとに区分することが困難であることです。先ほどの設例(建物3,000万円・土地5,000万円・借入6,000万円・年間利子120万円)で比べます。

借入金の割り振り土地に対応する借入金土地等の負債利子
取得価額の比で按分する(3,000:5,000)37,500,000円750,000円
措令26条の6第2項(まず建物に充てる)30,000,000円600,000円

差は150,000円です。この額だけ、赤字の年に通算できる損失が増えます。決算書の番号のない欄に書き込むのはこの金額なので、様式のうえでも計算過程が残ります。

2つ目の切り落としは別荘です。国税庁No.1391は、別荘等のように主として趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係る損失は損益通算の対象にならないとしています。根拠は所得税法69条2項と所得税法施行令178条1項2号で、同号は「通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するもの」を生活に通常必要でない資産として挙げています。リゾート物件を貸して赤字を出しても、給与所得からは引けません。

住宅の家賃には消費税がかからない。事務所と店舗にはかかる

同じ「家賃を受け取る」でも、住宅と事業用では消費税の扱いが正反対です。非課税の根拠は消費税法別表第二第13号です。

住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)

条件は契約で居住用と明らかにされていることで、用途が書かれていない契約でも、貸付けの状況から居住用と明らかなら含まれます。除外される「政令で定める場合」は消費税法施行令16条の2にあり、貸付けの期間が1か月に満たない場合と、旅館業法2条1項に規定する旅館業に係る施設の貸付けに該当する場合です。マンスリーではなくウィークリーで貸すと課税、民泊として届け出て貸すと課税、という線がここで引かれます。

貸付け消費税根拠
住宅(居住用と契約で明らか・1か月以上)非課税消法別表第二13号
住宅を1か月未満で貸す課税消令16条の2
旅館業に該当する施設の貸付け課税消令16条の2
事務所・店舗・倉庫・工場課税別表第二に該当なし
更地のままの土地の貸付け(1か月以上・施設の利用を伴わない)非課税消法別表第二1号

納税義務の判定にも効きます。消費税法9条1項は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く)の納税義務を免除します。住宅の家賃は非課税売上なので、この課税売上高にそもそも入りません。住宅だけを貸しているなら、家賃が年に何千万円あっても消費税の納税義務は生じません。判定に積み上げるのは事務所・店舗・駐車場などの賃料だけです。駐車場が課税になるかどうかは施設の有無で割れるので、地代家賃とはの側で詳しく扱っています。インボイスの交付義務や源泉徴収の要否も、支払う側の視点でそちらにまとめています。

よくある質問

Q. 家賃収入がいくらから確定申告が必要ですか?

A. 金額の線は家賃ではなく所得で引かれます。所得税法120条1項が申告書の提出を求めるのは、①総所得金額・退職所得金額・山林所得金額の合計額が所得控除の合計額を超え、かつ②控除後の金額を課税総所得金額等とみなして89条の税率を適用して計算した所得税の額の合計額が配当控除の額を超えるとき、の2段構えです(外国税額控除・源泉徴収税額・予納税額が控除しきれない場合は除かれます)。所得控除を超えただけでは決まらず、税額まで見ます。給与所得者の20万円特例(121条1項1号)も条件が4つあり、その年の給与等が2,000万円以下、1か所からの給与、その全部が183条の源泉徴収または190条の年末調整の対象、そして給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円以下、のすべてを満たす場合の話です。しかも121条1項ただし書により、勤務先に不動産を貸してその対価を受けているときなどはこの特例から外れます。所得税の申告が不要でも住民税の申告は別に必要になることがあります。

Q. 12月分の家賃が翌年1月に振り込まれました。どちらの年の収入ですか?

A. 原則は入金日ではなく契約上の支払日で決まります。所得税基本通達36-5(1)は、契約や慣習で支払日が定められているものはその支払日と定めています。12月分を翌年1月10日払いと契約しているなら、その家賃は翌年分の収入です。逆に翌月分を前月末に受け取る前家賃なら、12月31日に受け取った翌年1月分はその年の収入になります。ただし所得税法67条の現金主義の特例(青色申告の承認を受けた小規模事業者等が届出により選択)を受けている人は、入金のあった日で計算します。

Q. 敷金は受け取った年の収入になりますか?

A. 返さない部分だけが収入になり、その時期は3通りに分かれます。所得税基本通達36-7は、貸付期間に関係なく返さないと決まっている部分は引渡しの日、期間の経過に応じて返さなくなる部分は契約で返さないことになった日、退去しないと確定しない部分は貸付けが終了した日、と分けています。返す予定の部分は預り金で、収入にはなりません。

Q. 事業的規模に当たらないと何が変わりますか?

A. その前に一つ。5棟10室に届かないことと事業的規模でないことは同じではありません。所得税基本通達26-9の室数・棟数は「おおむね」の推定の目安で、届かなくても賃貸料の収入の状況や貸付資産の管理の状況等からこれらに準ずる事情があると認められれば、事業として行われているものとされます。そのうえで実質判定でも事業的規模に当たらないときに変わるのは主に4つです。青色申告特別控除が10万円までになり(租税特別措置法25条の2第1項)、専従者給与と専従者控除が使えず(所得税法57条)、取壊しなどの資産損失はその年の不動産所得を限度としてしか経費にできず(51条4項)、家賃が回収不能になったときは過去の年分の計算をやり直します(64条1項)。所得の種類は事業的規模でも不動産所得のままです。

Q. 赤字になれば給与所得から引けますか?

A. 原則は引けますが、必要経費に入れた土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分は、租税特別措置法41条の4第1項により生じなかったものとみなされます。損失80万円のうち土地の利子が100万円なら通算できる損失は0円、損失150万円で土地の利子が100万円なら50万円だけ通算できます。別荘のように主として趣味・娯楽・保養の目的で持つ不動産の貸付けによる損失も通算できません。

Q. 家賃に消費税はかかりますか?

A. 住宅の貸付けは消費税法別表第二第13号で非課税です。契約でその貸付けが人の居住の用に供することが明らかにされていることが条件で、貸付期間が1か月未満のものと旅館業に当たるものは消費税法施行令16条の2で非課税から外れます。事務所・店舗・倉庫の賃料は課税です。住宅の家賃は非課税売上なので、納税義務を判定する基準期間の課税売上高1,000万円(消費税法9条1項)にそもそも入りません。

Q. 外壁の塗り替えに80万円かかりました。経費にできますか?

A. 資本的支出か修繕費かが明らかでない金額であれば、所得税基本通達37-13により、60万円未満か前年12月31日の取得価額のおおむね10%以下なら修繕費として申告できます。80万円でも建物の取得価額が800万円以上なら10%基準に収まります。どちらにも当たらないときは、37-14により支出額の30%と取得価額の10%のいずれか少ない額を修繕費とする区分もあります。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。

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