限度面積の式は「貸付用を選ぶかどうか」で入れ替わる
小規模宅地等の特例でいちばん誤解が多いのが、限度面積の併用です。条文(租税特別措置法69条の4第2項)は限度面積要件を3つの号に分けて定めており、どの号が働くかは貸付事業用宅地等を選ぶかどうかで決まります。
3号の式を満たせば、自動的に1号(400㎡以下)と2号(330㎡以下)も満たされます(400×200/400=200、330×200/330=200)。つまり貸付用を選んだ時点で、実質の制約は3号ひとつになります。逆に貸付用を選ばなければ3号は発動しないので、1号と2号が別々の枠として残り、合計730㎡まで使えます。
どの土地に枠を使うかで、減額の合計が変わる
3号の按分式のもとでは、1㎡が200㎡の枠を消費する量が区分ごとに違います。特定事業用等は200/400=0.5、特定居住用は200/330≒0.606、貸付事業用は1です。ここから枠1単位あたりの減額額を出すと次のようになります。
| 区分 | 減額割合 | 枠の消費量 | 枠1単位あたりの減額額 |
|---|---|---|---|
| 特定事業用等宅地等 | 80% | 0.5 | 1㎡あたり評価額 × 1.6 |
| 特定居住用宅地等 | 80% | 約0.606 | 1㎡あたり評価額 × 1.32 |
| 貸付事業用宅地等 | 50% | 1 | 1㎡あたり評価額 × 0.5 |
「自宅を優先すればよい」とよく言われますが、正しくは単価しだいです。事業用の土地の1㎡あたりの評価額が自宅の1.32÷1.6=約0.83倍を超えていれば、事業用に先に枠を使ったほうが減額は大きくなります。このツールは入力された面積と評価額から単価を出し、この順序で機械的に配分したうえで、貸付用を選ばない案とも比較して有利な方を表示します。
自宅の敷地で特例を使えるのは誰か
特定居住用宅地等として特例を受けられる取得者は、次の4つのいずれかです(措置法69条の4第3項2号)。誰が取得するかで要件がまったく違います。
| 取得する人 | その人に課される要件 |
|---|---|
| 被相続人の配偶者 | 取得者ごとの要件はありません(申告期限まで持ち続ける必要も、住み続ける必要もありません) |
| 被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族(同居親族) | 相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつ、その宅地等を相続開始時から申告期限まで有していること |
| 上記以外の親族(いわゆる「家なき子」) | 次の6つの要件をすべて満たすこと |
| 被相続人と生計を一にしていた親族(その親族自身の居住用の敷地) | 相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を申告期限まで有していること |
- 居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと
- 被相続人に配偶者がいないこと
- 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと
- 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者・取得者の配偶者・取得者の三親等内の親族・取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く)に居住したことがないこと
- 相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと
- その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
3年以内に始めた事業・貸付は対象から外れる
相続の直前に土地を買って賃貸を始めれば特例が使える——という節税を封じるため、事業用と貸付用の両方に3年の縛りがあります。年数は同じ3年ですが、除外されないための例外がまったく違います。
特定事業用宅地等(3項1号)— 相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は対象外です。ただし、その事業に使っていた建物・構築物・減価償却資産の相続開始時の価額の合計額が、その宅地等の相続開始時の価額の15%以上である場合は、対象から外れません。
貸付事業用宅地等(3項4号)— 相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は対象外です。ただし、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち準事業以外のもの=事業的規模の貸付け)を行っていた被相続人等の、その特定貸付事業の用に供された土地は対象から外れません。15%の基準はこちらには使いません。
老人ホームに入って空き家だった自宅
被相続人が老人ホームに入居して、相続開始の直前に自宅が空き家だった場合でも、入居直前の居住の用を「被相続人の居住の用」に含めます(措置法69条の4第1項かっこ書)。次のいずれかに当てはまることが条件です。
- 介護保険法の要介護認定・要支援認定または介護保険法施行規則140条の62の4第2号に該当していた被相続人が、認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居・養護老人ホーム・特別養護老人ホーム・軽費老人ホーム・有料老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院・サービス付き高齢者向け住宅に入居または入所していたこと
- 障害支援区分の認定を受けていた被相続人が、障害者支援施設(施設入所支援が行われるもの)または共同生活援助を行う住居に入所または入居していたこと
ただし、居住の用に供されなくなった後に、その家を事業の用または被相続人等以外の人の居住の用に供した場合は対象外です。空き家のあいだに人に貸すと特例を失います。
特例で0円になる場合も申告が要る
この特例は、申告書に適用を受けようとする旨を記載し、計算に関する明細書その他の書類を添付した場合に限り適用すると定められています(措置法69条の4第7項)。基礎控除以下かどうかの判定はこの特例を適用する前の課税価格で行うため(国税庁 No.4205)、特例を使って相続税が0円になる場合も、期限内に申告して初めて0円が確定します。黙って無申告でよいわけではありません。
また、相続税の申告期限までに遺産分割が終わっていない宅地等には特例は使えません(同条4項)。ただし申告期限から3年以内に分割された場合は、更正の請求などにより適用を受けられます。申告期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
よくある質問
Q. 小規模宅地等の特例で、いくら減額されますか?
A. 区分によって違います。特定居住用宅地等(自宅の敷地)は330平方メートルまで80%減、特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等は400平方メートルまで80%減、貸付事業用宅地等(アパートや貸駐車場)は200平方メートルまで50%減です。条文はこれを「課税価格に算入すべき価額は百分の二十(貸付事業用は百分の五十)を乗じた金額とする」という書き方で定めています(租税特別措置法69条の4第1項)。限度面積を超える部分には特例は及びません。
Q. 自宅と事業用の土地は両方に特例を使えますか?
A. 貸付事業用宅地等を選ばない場合に限り、特定事業用等宅地等400平方メートルと特定居住用宅地等330平方メートルをそれぞれ独立に使えるので、合計730平方メートルまで完全に併用できます(租税特別措置法69条の4第2項1号・2号)。ただし貸付事業用宅地等を1平方メートルでも選ぶと同項3号の按分式に切り替わり、事業用×200/400+居住用×200/330+貸付用の合計が200平方メートル以下でなければならなくなります。730平方メートルの併用は使えなくなります。
Q. アパートの土地も特例に入れたほうが得ですか?
A. 必ずしも得ではありません。貸付事業用宅地等を選んだ瞬間に限度面積の式が按分式に切り替わり、200平方メートルの枠を全区分で分け合うことになるためです。80%減の自宅や事業用の枠を削ってまで50%減の貸付用を入れると、減額の合計はかえって小さくなることがあります。逆に貸付用の土地の1平方メートルあたりの評価額が飛び抜けて高い場合は、貸付用を選んだほうが有利になります。このツールは両方の案を計算して有利な方を提示します。
Q. どの土地から順に限度面積を使うと得ですか?
A. 按分式のもとでは、1平方メートルが200平方メートルの枠を消費する量が区分ごとに違います。特定事業用等は0.5、特定居住用は約0.606、貸付事業用は1です。したがって枠1単位あたりの減額額は、特定事業用等が1平方メートルあたり評価額の1.6倍、特定居住用が1.32倍、貸付事業用が0.5倍となり、この値が大きい区分から枠を使うのが最大の減額になります。「自宅を優先すればよい」とは限らず、事業用の土地の単価が高ければ事業用が先になります。
Q. 相続開始前3年以内に始めた賃貸でも特例は使えますか?
A. 原則として使えません。相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は貸付事業用宅地等から除かれます(租税特別措置法69条の4第3項4号)。ただし相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(事業的規模の貸付け)を行っていた被相続人等のその貸付けの用に供された土地は除外されません。事業用の土地にも同じ3年の縛りがありますが、こちらの例外は「その事業に使う建物・構築物・減価償却資産の価額が宅地等の価額の15%以上」という別の基準です。年数は同じでも例外の中身が違うので取り違えないでください。
Q. 老人ホームに入っていた親の家でも自宅として特例が使えますか?
A. 一定の条件を満たせば使えます。被相続人が要介護認定・要支援認定を受けて養護老人ホーム・特別養護老人ホーム・有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅などに入居していた場合や、障害支援区分の認定を受けて障害者支援施設等に入所していた場合は、入居直前の居住の用を「被相続人の居住の用」に含めます(租税特別措置法69条の4第1項かっこ書)。ただし空き家になった後にその家を人に貸したり事業に使ったりすると対象から外れます。
Q. 特例を使って相続税が0円になれば申告は不要ですか?
A. 申告が必要です。この特例は「申告書に適用を受けようとする旨を記載し、計算に関する明細書その他の書類を添付した場合に限り適用する」と定められています(租税特別措置法69条の4第7項)。基礎控除以下かどうかの判定はこの特例を適用する前の課税価格で行うため、特例を使って初めて0円になる場合は、期限内に申告して初めて0円が確定します。申告期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
出典
- 租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)69条の4 — 1項1号・2号(課税価格に算入すべき割合は百分の二十・百分の五十)/2項1号〜3号(限度面積要件と按分式)/3項1号〜4号(各区分の定義と3年以内の除外)/4項(未分割の宅地等)/7項(申告書への記載と明細書の添付が適用の要件)
- 国税庁 タックスアンサー No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例) — 減額される割合等の表(400㎡80%・330㎡80%・200㎡50%)、限度面積の判定式と「両方を選択する場合は合計730㎡」の明文、特定居住用宅地等の取得者ごとの要件(家なき子の6要件)、3年以内事業宅地等の15%算式、老人ホーム入居の要件
- 国税庁 タックスアンサー No.4205 相続税の申告と納税 — 基礎控除以下かどうかの判定は小規模宅地等の特例を適用する前の課税価格で行うこと
条文は e-Gov 法令検索の法令APIから取得して逐語で確認しています。このページは一般的な情報提供であり、個別の事案についての税務上の助言ではありません。各区分に該当するかどうかの判断(同居していたか・生計を一にしていたか・事業的規模か)は事実認定を伴うため、実際の申告にあたっては税理士にご相談ください。
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