学生が起業すると扶養はどうなる?契約・所得申告・親への確認表
学生が起業しても、開業しただけで親の扶養から外れるとは決まりません。税の扶養は子の合計所得金額、健康保険の扶養は認定時点以降の見込み収入などで、別々に確認します。
個人で事業を始める学生と、その家族・親の勤務先の担当者向けに、契約から所得の集計、扶養の見直しまでを整理します。給与収入向けの「年収の壁」を、事業の売上にそのまま当てはめないことが出発点です。
始める前の確認表
「学生だから大丈夫」「開業届を出したら扶養を外れる」と一括りにせず、次の順で確認します。
| 確認すること | 見る資料・相手 | 分けて考える点 |
|---|---|---|
| 契約を結べるか | 年齢、未成年なら法定代理人の同意・営業の許可 | 学校に在籍しているかとは別に確認 |
| 本人の所得と申告 | 売上・経費の記録、給与の源泉徴収票 | 売上の総額と、所得の金額を分ける |
| 親の所得税の控除 | 子の合計所得金額と親の年末調整書類 | 子自身の税額が出るかとは別に確認 |
| 親の健康保険の扶養 | 見込み収入・経費の内訳、加入先保険者 | 税務上の必要経費をそのまま使わない |
未成年者の契約と営業の許可
民法第4条では、18歳で成年になります。成年の学生について、学生であることだけを理由に親の同意が必要になるわけではありません。融資・口座・サービスの申込みは、利用条件や審査も別に確認します。
未成年者の法律行為には法定代理人の同意が必要ですが、単なる権利取得・義務免除、法定代理人が許した財産の処分(目的指定があればその範囲内)、許された営業に関する行為は例外です。同意が必要な行為を同意なく行ったときは、取り消すことができます。最初から無効になるという意味ではありません。
財産処分の許可は、法定代理人が目的を定めた場合にはその目的の範囲内で効力を持ち、目的を定めずに処分を許した財産も自由に処分できます(民法第5条)。
法定代理人から営業を許された未成年者は、許された営業について、成年者と同じ行為能力を持ちます。営業に堪えられない事由があるときは、法定代理人が親族に関する規定に従って許可を取り消し、または制限できるとされています(民法第6条)。
ここでいう営業の許可は、法定代理人からの許可です。業種ごとの行政上の許認可や、契約相手の利用条件を済ませたという意味ではありません。何の契約を、誰の名義で結ぶかを先に整理してください。
売上と所得を分けて集計する
事業の売上は、そのまま税の所得にはなりません。事業所得に当たる場合は、総収入金額から必要経費を差し引いて所得を計算します。総収入金額には売上以外の収入が含まれることもあります。
必要経費は、収入を得るための売上原価や販売費・管理費などです。私生活の支出はそのまま経費にできません。自宅兼事務所の費用などは、業務に必要な部分を明らかに区分する必要があります(国税庁「事業所得の課税のしくみ」)。
アルバイトもしているなら、給与は給与所得として計算し、事業の所得と区別してから合計所得金額を確認します。給与所得控除を事業の売上から引くことはできません。事業所得か雑所得かなど、所得の区分も「起業した」という呼び名だけで決めないでください。
青色申告特別控除や家内労働者等の特例、損失がある場合などは計算が変わります。以下の単純な設例に当てはまらない場合は、収入と所得の違いや申告の案内で、該当する所得の計算を確認します。
親の税扶養は合計所得金額で確認
親の所得税の控除は、子の売上ではなく合計所得金額で確認します。子自身の基礎控除などを差し引いた後の課税所得とは違います。
この表の所得税の改正基準は令和8年12月1日施行で、令和8年分から適用されます。
次は令和8年分の通常の年末調整で、国内居住の子が親と生計を一にし、年末の年齢が19歳以上23歳未満の場合の合計所得金額による区分です。親子に年内の死亡・出国がなく、事業専従者に当たらず、控除の重複などもない場合を扱います。特定親族自身が特定親族特別控除を受ける場合や、親子の扶養申告と源泉徴収による制限にも該当しないことが前提です。
| 子の年間の合計所得金額 | 確認する控除 |
|---|---|
| 62万円以下 | 扶養控除の対象となる所得区間 |
| 62万円超123万円以下 | 特定親族特別控除の対象となる所得区間。所得に応じて控除額が変わる |
| 123万円超 | 扶養控除・特定親族特別控除の所得要件を満たさない |
表の年齢区分に当てはまらない学生は、扶養控除の区分と要件を確認してください。学生であることだけで特定扶養親族・特定親族になるわけではありません。
扶養控除と特定親族特別控除は、有利なほうを選んで重ねて使うものではありません。控除額の詳細は特定親族特別控除の早見表で確認できます。子の所得に事業分があるときは、リンク先でも給与収入への換算欄を使わず、合計所得金額の欄を見ます。
主な確認事項:その年に青色事業専従者給与を受けた子や白色申告の事業専従者は対象外です。同じ子を父母双方で重複して控除することはできません。子自身が特定親族特別控除を受けている場合などにも制限があります。親子が互いを特定親族として扶養申告する場合は、申告と源泉徴収の状況も確認します(国税庁「特定親族特別控除」)。
年齢等の判定は年末が基本ですが、本人・子の年内の死亡や、親が納税管理人の届出をせずに出国する場合は判定時点が変わります。この表の通常の年末調整とは分け、所得税法第85条と上記の国税庁の案内を確認してください。
令和8年11月30日以前に提出する同年分の死亡・出国に伴う準確定申告では、この表の改正後の控除を適用できませんが、令和8年12月1日以降の更正の請求で適用できます(国税庁の適用関係の注記)。
扶養控除の対象になる場合の控除額を試算するこのツールは扶養控除の試算用です。特定親族特別控除の段階的な控除額は計算しません。対象になる控除を確認してから使ってください。
健康保険は見込み収入を別に確認
健康保険の被扶養者認定では、税の合計所得金額をそのまま使いません。認定時点と、その後の年間の見込み収入で確認します。
協会けんぽの被扶養者資格のFAQでは、自営業の年収を、年間総収入から社会通念上明らかにその所得を得るために必要な経費を引いた額としています。それ以外の費用は差し引けません。税務で経費にした額が、そのまま認定されると考えないでください。
扶養認定日が令和7年10月1日以降で、その年末の年齢が19歳以上23歳未満の配偶者以外の人は、年間収入150万円未満が収入要件です(障害者の基準は別)。日本年金機構の案内は、収入以外の要件は変わらないとしています。
この年齢区分に当てはまらない学生は、日本年金機構の収入要件で該当する区分を確認してください。
親によって主に生計を維持されていることなど、収入以外も確認します。同居なら親の収入との比較、別居なら仕送り額との比較があり、同居時の比較には世帯の状況による取扱いもあります。国内居住の要件・例外や、他の健康保険資格との重複も含め、社会保険の扶養の条件で確認してください。
見込み収入には、給与や事業収入のほか、失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金・出産手当金も含まれます。両親とも収入がある場合は、収入の多い側での認定や例外も確認します。給与だけの場合の労働契約による認定を、事業収入もある人へそのまま広げないでください(日本年金機構の被扶養者認定の案内)。
同じ売上でも判定用の額が違う設例
税と健康保険で、引ける経費が違う場合を計算してみます。次は経費の認定結果を保証する例ではありません。
設例の仮定:個人の事業所得だけで、売上以外の収入はなく、総収入は年120万円です。税務上の必要経費を年40万円、健康保険で認められる必要経費を年30万円と仮定します。青色申告特別控除等は考慮せず、健康保険も同じ対象期間の見込み額とします。
| 計算するもの | 仮定に沿った計算 | 結果の意味 |
|---|---|---|
| 税の事業所得 | 総収入120万円−必要経費40万円=所得80万円 | 所得控除を引く前の所得。親の税扶養も所得で確認 |
| 健康保険の認定用収入 | 総収入120万円−認定される経費30万円=収入90万円 | 税とは別の見込み収入。生計維持等も確認 |
売上が同じでも、税の所得と健康保険の認定用収入は違うことがあります。申告書の所得欄だけを見て保険の扶養を判断せず、経費の内訳を保険者に示して確認します。
本人の申告と開業手続き
学生という理由だけで、所得税の確定申告が免除されるわけではありません。年間の所得と所得控除、税額控除、申告不要制度を確認して申告要否を判断します。還付を受けるために申告する場合もあります(国税庁「確定申告」)。
アルバイトの年末調整を受けても、事業の所得まで精算されたことにはなりません。所得税の申告が不要となる場合も、住民税の申告については居住する市区町村に確認してください。
事業を始める届出や、青色申告を選ぶ場合の申請は、開業届の提出期限と関連手続きで確認します。開業届と青色申告の申請は同じ期限とは限りません。法人を設立する場合は会社設立の手続きへ進み、法人の売上と、自分が受け取る役員報酬等を分けて考えます。
家族・勤務先・保険者へ渡す資料
親に「売上はいくら」と伝えるだけでなく、次の項目を分けて共有すると確認が進みます。これは家族と担当者のための確認メモの例で、所定の申告書や認定書類の代わりではありません。
| 項目 | 用意する内容の例 | 確認先 |
|---|---|---|
| 事業の内容と開始時期 | 仕事内容、個人か法人か、契約の名義 | 家族、契約相手 |
| 税の所得の見積り | 総収入、必要経費、特別控除、給与等を加えた合計所得金額 | 親、親の勤務先の年末調整担当 |
| 健康保険の見込み収入 | 事業・給与・給付等の収入予定と経費の明細 | 親の勤務先、加入先保険者 |
| 同居・別居と生活費 | 誰が生活費を負担しているか、仕送りの記録 | 親、加入先保険者 |
| 見積りからの変更 | 受注増減、経費変更、給与開始などの変更内容 | 親の勤務先、加入先保険者 |
保険の収入確認では、自営業について直近の確定申告書の写しが案内されています。開業直後でまだ申告書がない場合は、何の資料で見込みを確認するかを保険者に尋ねてください。税務上の経費明細を示し、認定で差し引ける費用と、収入が変わった際の届出も確認します。
まとめ
学生の起業では、契約できる範囲、本人の申告、親の税扶養、健康保険の扶養を分けて確認します。事業の総収入から税の所得を求め、健康保険用の見込み収入は認められる経費を確認して別に集計しましょう。
よくある質問
学生が開業届を出すと、親の扶養から外れますか?
開業届を出したという事実だけでは決まりません。税の扶養は子の合計所得金額や生計などの要件、健康保険は認定時点以降の見込み収入や生計維持などの要件で、別々に確認します。
売上が給与の年収の壁を超えたら、税の扶養から外れますか?
事業の売上を給与収入の壁と直接比較することはできません。事業所得に当たる場合は総収入から必要経費などを反映して所得を求め、給与等の他の所得も合わせた合計所得金額で、親の控除の要件を確認します。
税の扶養に入れれば、健康保険の扶養にも入れますか?
税の扶養に入れるだけでは決まりません。健康保険は見込み収入や生計維持などの要件で別に認定します。自営業の経費についても税務と同じ額を差し引けるとは限らないため、加入先保険者に内訳を示して確認してください。
学生でも確定申告が必要ですか?
必要になる場合があります。学生という理由だけの免除ではなく、本人の年間所得と所得控除・税額控除、申告不要制度で確認します。親が扶養控除を受けられるかどうかと、本人の申告要否も別の判定です。
出典
- e-Gov法令検索「民法」第4条・第5条・第6条
- 国税庁「事業所得の課税のしくみ」「確定申告」
- 国税庁「扶養控除」「特定親族特別控除」「令和8年分 年末調整のしかた」
- e-Gov法令検索「所得税法」第28条・第37条・第84条・第84条の2・第85条・第120条
- 日本年金機構「若い方の被扶養者認定の年間収入要件の変更」「従業員が家族を被扶養者にするときの手続き」
- 全国健康保険協会「被扶養者資格の再確認について」
この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。個別の税務・労務相談には応じられません。実際の申告は税務署・税理士、健康保険の認定は加入先保険者にご確認ください。