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源泉徴収簿とは — 条文に名前の無い帳簿が、源泉徴収の法定義務を1枚でつなぐ。書き方・保存期間・賃金台帳との兼用

源泉徴収簿は、給与の支払者が従業員1人ごとに、毎月の給与・徴収した所得税と年末調整の計算を記録する帳簿です。法律で作成を命じられた帳簿ではなく、国税庁が配っている様式なので、必要な記録が分かる給与台帳やエクセルで代用できます。

正式名称は「給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿」です。この記事では令和8年分の様式を上から順に読みます。源泉徴収の制度そのものは源泉徴収とはにまとめています。

源泉徴収簿とは — 条文に名前の無い帳簿

源泉徴収簿は、給与の支払者が従業員1人ごとに、扶養親族等の申告内容・毎月の給与額・控除した社会保険料・徴収した所得税額・年末調整の計算過程を記録する帳簿です。国税庁の手続案内「A2-2 給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿の作成」は、この帳簿の性格を次のように説明しています。

なお、この源泉徴収簿は、源泉徴収事務の便宜を考慮して作成したものであり、法令で定められたものではありませんので、源泉徴収義務者の皆様が使用している給与台帳等であっても、毎月の源泉徴収の記録などが分かり、年末調整のためにも使用できるものであれば、それを利用して差し支えありません。

つまり様式は任意です。国税庁のPDF(令和8年分は「給与所得に対する源泉徴収簿」と「退職所得に対する源泉徴収簿」の2種類、入力用PDFもある)を使っても、給与ソフトが出力する台帳でも、自作のエクセルでもかまいません。条件は2つだけ — ①毎月の源泉徴収の記録が分かること、②年末調整に使えること。

法令で定められたものではない国税庁自身が「法令で定められたものではありません」と書いています。所得税法にも所得税法施行規則にも「源泉徴収簿」という語はありません。施行規則の第四編第一章「給与所得に係る源泉徴収」(73条〜76条の3)にも、源泉徴収簿の作成を定める規定はありません。所得税法183条・185条・186条・187条・190条・194条・198条・226条は、令和8年12月1日施行の改正版でも本文は同一です。

なぜ「法令に無い帳簿」が要るのか — つないでいる5つの法定義務

この帳簿には、源泉徴収・年末調整の計算や記録に用いる欄があります。源泉徴収簿は、次の5つを従業員1人につき1枚でつなぐ計算用紙兼記録簿です。

国税庁は、源泉徴収事務の便宜を考慮して源泉徴収簿を掲載し、年末調整の手順をこの様式で説明しています。

源泉徴収簿 法令の定め無し・国税庁の様式 (給与台帳等で代用可) 所得税法183条 給与の支払の際の徴収と納付 所得税法185条・186条 税額表の甲欄・乙欄/賞与の算出率 所得税法190条 年末調整 所得税法226条 源泉徴収票の作成・交付 所得税法施行規則76条の3 受け取った申告書の保存 労働基準法108条 賃金台帳(こちらは法定・兼用できる)
源泉徴収簿そのものに法令の根拠は無いが、その欄が受け持つ5つの仕事(上段と下段左・中)はすべて法定義務。点線の賃金台帳は労働基準法上の法定帳簿で、源泉徴収簿と1冊にできる。各条文の対象者・期限・例外は本文の各節で説明する。

源泉徴収簿の年末調整欄には、給与総額⑦、給与所得控除後の給与等の金額(調整控除後)⑪、所得控除額の合計額㉑、年調年税額㉖を記録します。国税庁は、年末調整終了後に給与所得の源泉徴収票を作成する手順を案内しています。源泉徴収票側の読み方は源泉徴収票の見方で解説しています。

5つそれぞれの対象者と例外は、甲欄と乙欄の使い分け・年末調整の対象になる人・源泉徴収票を税務署に提出する範囲・保存期間の各節に書いています。

令和8年分の様式の読み方 — 表面は5つのブロック

国税庁の令和8年分「給与所得に対する源泉徴収簿」はA4横の両面で、表面が本体です。上から順に見ると、次の5ブロックに分かれます。

ブロック欄何を書くか対応する条文
① 見出し甲欄/乙欄の表示、所属・職名・住所・氏名・生年月日・整理番号その人が甲欄適用か乙欄適用かをまず決める。氏名・生年月日185条(甲欄・乙欄)
② 前年からの繰越前年の年末調整に基づき繰り越した過不足税額/月別の還付又は徴収した税額/差引残高前年の年末調整で精算しきれなかった額を翌年の給与で還付・徴収する記録。前年の㉜・㉞とつながる190条
③ 給料・手当等(1〜12月)主な欄: 支給月日/総支給金額/社会保険料等の控除額/社会保険料等控除後の給与等の金額/扶養親族等の数/算出税額/年末調整による過不足税額/差引徴収税額毎月の給与ごとに1行。年の計が①②③183条・185条
④ 賞与等主な欄: 支給月日/総支給金額/社会保険料等の控除額/社会保険料等控除後の給与等の金額/扶養親族等の数/税率(%)/算出税額/年末調整による過不足税額/差引徴収税額賞与の支給ごとに1行。税額の求め方は賞与欄の書き方の節。年の計が④⑤⑥186条
⑤ 扶養控除等の申告・各種控除額と年末調整申告の有無・源泉控除対象配偶者・控除対象扶養親族・障害者・寡婦又はひとり親・勤労学生などの人数と、年末調整欄⑦〜㉞右半分。申告書の内容を写す欄と、年末調整の計算欄194条・190条

⑤の「各種控除額」に印字されている金額

⑤の「各種控除額」の行には、1人当たりの控除額が万円単位で印字されています。

扶養控除額及び障害者等の控除額の合計額は⑲に記入します。

配偶者控除・配偶者特別控除は⑰に書く

配偶者控除・配偶者特別控除の額は、本人と配偶者双方の合計所得金額に応じて計算し、⑰に記入します。令和8年分の対象は次のとおりです。

月々の書き方 — 甲欄・乙欄と「扶養親族等の数」

毎月の給与日ごとに③ブロックを1行埋めます。手順は6つです。

  1. 総支給金額 — 基本給・手当などの合計(通勤手当の非課税分は含めない)
  2. 社会保険料等の控除額 — 給与から天引きした健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料などの社会保険料と、給与から天引きした小規模企業共済等掛金との合計。毎月の給与から天引きした小規模企業共済等掛金は右端の注記欄に内数として書く
  3. 社会保険料等控除後の給与等の金額 — 1から2を引いた額。税額表は社会保険料等控除後の給与等の金額で引く
  4. 扶養親族等の数 — 扶養控除等申告書の内容から所得税法187条の数え方で求めた人数を書く
  5. 算出税額 — 甲欄は3の額と4の人数に応じた税額。通常の乙欄は3の額に対応する乙欄の税額を使う。表の引き方は源泉徴収税額表【令和8年分】の見方に早見表がある
  6. 差引徴収税額 — 算出税額と、年末調整による過不足額の精算等を区別して記録します。 還付しきれない過納額は、その後に納付する「給与、退職手当及び弁護士、司法書士、税理士等に支払われる報酬・料金に対する源泉徴収税額」から順次還付する場合があります
源泉徴収税額 計算機を開く

甲欄と乙欄の使い分け

居住者に支払う給与のうち月額表で税額を求めるものでは、主たる給与の支払者に出す扶養控除等申告書の提出がある場合は甲欄、ない場合は乙欄を使います。見出しブロックの「甲欄/乙欄」はこの結果を示す印です。申告書の書き方は扶養控除等申告書の書き方を参照してください。

「扶養親族等の数」の数え方

「扶養親族等の数」は、申告書に書かれた源泉控除対象配偶者と源泉控除対象親族の人数が基本です(所得税法187条)。源泉徴収簿の右上「扶養控除等の申告・各種控除額」欄は、この判定に要る情報を1年分まとめて置く場所です。

2か所以上から給与を受ける人 — 従たる給与の申告書

「従たる給与についての扶養控除等申告書」は、2か所以上から給与を受け、主たる給与だけでは控除しきれないと見込まれる人が、従たる給与の支払者に出す申告書です。主たる給与と従たる給与の申告内容を区別して確認します。

賞与欄の書き方 — 算出率の表を使う場合と月額表を使う場合

④ブロックは賞与専用で、月給と違って「税率(%)」の欄があります。税額の求め方は、前月の普通給与との関係で次の3つに分かれます。

表は、主たる給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している人(甲欄)の求め方です。「控除後」は社会保険料等控除後の金額を指します。月額表の税額は、その人の扶養親族等の数に応じて求めます。賞与の計算期間が6か月を超える場合は、表の「6」をすべて「12」に読み替えます。

賞与の区分使う表税額の求め方
前月中に賞与以外の普通給与の支払がある(前月中の普通給与の10倍を超える賞与を除く)賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表の甲欄前月中の控除後の給与等の金額と扶養親族等の数に応じた率を、控除後の賞与の金額に乗じる。1円未満の端数は切り捨てる
前月中に普通給与の支払がない月額表の甲欄控除後の賞与を6で割り、1円未満を切り捨てる。その金額に応じた税額を6倍する
控除後の賞与が、前月中の控除後の給与の10倍を超える月額表の甲欄控除後の賞与を6で割って1円未満を切り捨て、前月中の控除後の給与に加える。その合計額の税額から前月中の控除後の給与の税額を引き、差額を6倍する

普通給与を月の整数倍の期間ごとに支払っている会社では、次のどちらかに当たるとき、賞与の支払の直前に支払った普通給与の月割額を、前月中の普通給与の額とみます。

賞与の源泉所得税の具体例は賞与の源泉所得税|前月給与がない・扶養人数が変わった場合にまとめています。

年末調整欄 ①〜㉞ — 源泉徴収簿は計算用紙でもある

年末調整欄は、給与・徴収税額の集計、所得控除や年税額の計算、過不足額の精算を記録する欄です。所得税法190条は、1年分の徴収税額の合計(1号)と年税額(2号)の過不足を精算するよう定めています。

年末調整の対象になる人・ならない人

年末調整は、原則として給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している人について行います。次の人は対象になりません。

行う時期は、本年最後に給与の支払をする時です。年の中途で死亡により退職した人など、退職の時に年末調整を行う人は退職の時に行います。年の中途で海外の支店へ転勤したことなどにより非居住者となった人は、非居住者となった時に行います。

丸数字の流れ

源泉徴収簿の丸数字は次の順に流れます。

丸数字欄どこから来るか・注意点
①〜⑧給料・手当等の計(①金額・②社会保険料等・③税額)、賞与等の計(④⑤⑥)、その合計(⑦金額・⑧税額)③④ブロックの「計」行を基に集計する。前職で扶養控除等申告書を提出して受けた給与がある人は、その給与と徴収税額を合算する
⑨給与所得控除後の給与等の金額令和8年12月1日以後に行う令和8年分の年末調整では、⑦を「令和8年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」(190条2号の別表第五)に当てる
⑩⑪所得金額調整控除額、調整控除後の金額⑩は(⑦−8,500,000円)×10%、1円未満切上げ、最高150,000円。適用の有無を右欄で明示する
⑫〜⑭社会保険料等(⑫給与天引き分=②+⑤、⑬申告分、⑭小規模企業共済等掛金)⑬以降は各申告書を確認して記入します
⑮〜⑳⑮生命保険料、⑯地震保険料、⑰配偶者(特別)控除、⑱特定親族特別控除、⑲扶養控除・障害者等、⑳基礎控除⑲の扶養・障害者等控除は、扶養控除等(異動)申告書を確認した上で集計します。⑲は前述の万円早見表×人数
㉑所得控除額の合計額⑫〜⑳の合計。源泉徴収票の「所得控除の額の合計額」になる
㉒㉓差引課税給与所得金額(⑪−㉑、1,000円未満の端数は切捨て)と算出所得税額㉒は1,000円未満切捨て(190条2号)。㉓は㉒に税率表を当てた額
㉔㉕(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額、年調所得税額㉕=㉓−㉔、マイナスなら0
㉖年調年税額㉕×102.1%(復興特別所得税込み)、100円未満切捨て。復興特別所得税を含む年調年税額
㉗差引超過額又は不足額㉖−⑧。プラスなら不足、マイナスなら超過(還付)
㉘〜㉜超過額の精算(㉘本年最後の給与から徴収する税額に充当、㉙未払給与の未徴収税額に充当、㉚差引還付額、㉛本年中に還付、㉜翌年に還付)㉜が翌年の源泉徴収簿の「前年の年末調整に基づき繰り越した過不足税額」欄につながる
㉝㉞不足額の精算(㉝本年最後の給与から徴収、㉞翌年に繰り越して徴収)㉞が翌年の源泉徴収簿の「前年の年末調整に基づき繰り越した過不足税額」欄につながる

⑩を適用するのは、年末調整の対象となる給与の総額が850万円を超え、次のいずれかに当たる人です。所得金額調整控除申告書の提出が要ります。

この欄を見ると、源泉徴収簿は1年で完結しない帳簿だと分かります。給与の支払者が翌年に繰り越して還付・徴収する場合、㉜・㉞の繰越額は翌年の用紙の最上段に転記され、翌年1月以降の給与で還付・徴収した額を月別に消し込んでいく。年をまたぐ精算の記録が、前年と翌年の2枚に分かれて残る設計です。年末調整の書類側の手順は年末調整の書き方|令和8年分、期限は年末調整はいつまで?で整理しています。

令和8年分の控除額の確認 ⑱には特定親族特別控除額、⑳には本人の合計所得金額に応じた基礎控除額を記入します。特定親族の年齢・生計・所得等の要件と、令和8年分の控除額表を確認してください。

国税庁の設例で、⑦から還付額の㉛までを数字で追う

次の表は、国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」に載っている源泉徴収簿の設例の金額です。設例の人は、年間給与総額が8,970,000円で他の所得がなく、1月から12月までに徴収された税額の合計額⑧が156,670円で、本年最後に支払う給与(賞与)に対する税額計算を省略して年末調整を行っています。表の金額はこの設例の人のもので、給与の額、扶養親族、支払った保険料、住宅借入金等特別控除の有無が違えば各欄の金額は変わります。

丸数字と欄設例の金額設例での求め方
⑦ 給料・手当等と賞与等の計8,970,000円給料・手当等①7,170,000円と賞与等④1,800,000円の合計
⑨ 給与所得控除後の給与等の金額7,020,000円⑦を「給与所得控除後の金額の算出表」に当てて求める。8,970,000円−1,950,000円
⑩ 所得金額調整控除額47,000円⑦8,970,000円のうち850万円を超える部分の10%。設例の人は本年分の給与の総額が850万円超で、年齢23歳未満の扶養親族を有するため適用がある
⑪ 給与所得控除後の給与等の金額(調整控除後)6,973,000円所得金額調整控除の適用がある設例なので、⑨7,020,000円から⑩47,000円を引く
㉑ 所得控除額の合計額4,826,102円設例の人の控除額の合計。内訳は表の下
㉒ 差引課税給与所得金額2,146,000円⑪6,973,000円−㉑4,826,102円=2,146,898円の1,000円未満の端数を切り捨てる
㉓ 算出所得税額117,100円「令和8年分の年末調整のための算出所得税額の速算表」により、2,146,000円×10%−97,500円
㉔ 住宅借入金等特別控除額76,500円設例の前提として与えられた額
㉕ 年調所得税額40,600円㉓117,100円−㉔76,500円
㉖ 年調年税額41,400円㉕40,600円に102.1%を乗じ、100円未満の端数を切り捨てる
㉗ 差引超過額115,270円㉖41,400円と⑧156,670円を比べると、徴収された税額の合計額の方が多い
㉚ 差引還付する金額・㉛ 本年中に還付する金額115,270円超過額を過納額として本人に還付する

㉑の内訳は次のとおりです。金額は、上と同じ設例の人のものです。

㉑の内訳設例の金額
社会保険料等の控除額1,386,102円
生命保険料の控除額120,000円
地震保険料の控除額50,000円
配偶者控除額380,000円
特定親族特別控除額410,000円
扶養控除額等1,860,000円
基礎控除額620,000円
合計(㉑)4,826,102円

自社の源泉徴収簿や給与ソフトの計算を確かめるときは、この設例の前提を入れて同じ金額になるかを見ると、欄ごとの式と端数処理の違いに気づけます。還付の時期と不足額の徴収は年末調整の還付金にまとめています。

税務署に還付を請求するときは、源泉徴収簿の写しを添付する

給与の支払者のところで年末調整の過納額を還付できない次の場合は、税務署に還付を請求します。

このときは、還付請求書兼残存過納額明細書に、各人の源泉徴収簿の写しと、過納額の請求・受領の委任状を添付して提出します。

源泉徴収票との違い — 帳簿は社内に残し、票は本人に交付する

名前が似ている「給与所得の源泉徴収票」は、源泉徴収簿とは別の書類です。源泉徴収簿は給与の支払者が毎月の徴収と年末調整の計算を記録して手元に置く帳簿で、源泉徴収票は所得税法226条1項が、居住者に給与等の支払をする者に作成と交付を命じている書類です。

比べる点源泉徴収簿給与所得の源泉徴収票
法令上の位置づけ国税庁の手続案内が「法令で定められたものではありません」としている所得税法226条1項が、居住者に給与等の支払をする者に作成を命じている
載せる内容月ごとの支給額・社会保険料等の控除額・算出税額と、年末調整の計算過程その年の1月から12月までの間に支払の確定した給与の金額や源泉徴収税額など
渡す先税務署への提出を命じる条文は無い。支払者の記録として残す給与等の支払を受ける者に交付する。税務署長への提出は、提出範囲に当たるものが対象

2つは作業の順でつながっています。源泉徴収簿で年末調整の計算を終え、その結果を源泉徴収票に写します。源泉徴収票の欄の読み方は源泉徴収票の見方を参照してください。

源泉徴収票を税務署に提出する範囲

本人への交付と税務署への提出は区別してください。税務署への提出範囲は、提出すべき時期で変わります。

賃金台帳と1冊にできるか — 労基則54条の8項目との差

源泉徴収簿と混同されやすいのが賃金台帳です。こちらは労働基準法108条で調製を命じられた法定帳簿で、こちらを作らないことは法律違反になります。

使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。

記入事項は労働基準法施行規則54条1項が8つの号で定めています — 氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜の労働時間数、基本給・手当その他賃金の種類ごとの額、控除額。様式は同規則55条で様式第二十号(日々雇い入れられる者は様式第二十一号)と決まっていますが、同じ事項が載っていれば自社様式でよいというのが一般的な運用です。詳しくは賃金台帳とは|記載項目・保存期間・給与明細との違いで解説しています。

国税庁が「給与台帳等であっても…利用して差し支えありません」と言っているのはここにつながります。賃金台帳の様式に源泉徴収簿の欄を足せば、2冊を1冊にできる。そのとき足りないものを突き合わせると、次の表になります。

項目賃金台帳(労基則54条)源泉徴収簿(国税庁様式)
氏名○○
性別○生年月日の記載欄あり。性別の記載は兼用帳簿で別途確認
賃金計算期間○支給月日の記載欄あり。賃金計算期間は兼用帳簿で別途確認
労働日数・労働時間数○兼用帳簿で記載を確認
時間外・休日・深夜の労働時間数○×
基本給・手当の種類ごとの額○△(裏面の内訳欄)
控除額○(賃金の一部を控除した額)○(社会保険料等の控除額・徴収税額)
扶養親族等の数・甲欄乙欄の別×○
算出税額・年末調整の計算過程×○

つまり、賃金台帳を源泉徴収簿として使うには扶養親族等の数・算出税額・年末調整欄を、源泉徴収簿を賃金台帳として使うには性別・賃金計算期間・労働日数・労働時間数・時間外等の時間数を、それぞれ足す必要があります。給与ソフトの「賃金台帳」出力の多くは両方を持っているので1冊で済みますが、国税庁の様式だけを使っている会社は賃金台帳が別に要ります。

保存期間 — 源泉徴収簿そのものを名指しする条文は無い

源泉徴収簿は、綴じ込む扶養控除等申告書などと同じ7年で保存するのが実務上の標準です。労働基準法の3年(当分の間)で処分すると税法側が欠けます。

作成義務が法令に無いので、「源泉徴収簿」という名前を挙げて保存期間を定めた条文もありません。保存期間を考えるときは、源泉徴収簿に綴じ込む書類と、源泉徴収簿が兼ねている帳簿のそれぞれの条文を見ることになります。

対象期間起算根拠
扶養控除等申告書・保険料控除申告書・配偶者控除等申告書など、従業員から受け取った申告書税務署長から提出を求められるまでの間。起算の日から7年を経過する日後は保存不要提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日。従たる給与についての扶養控除等申告書は表の下の注所得税法施行規則76条の3
賃金台帳(源泉徴収簿を兼ねていればその帳簿)5年、当分の間3年最後の記入をした日(賃金の支払期日が後ならその日)労働基準法109条・附則143条、同施行規則56条
法人の帳簿(給与の支払・源泉所得税の預り金を記録した帳簿として)7年その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日法人税法施行規則59条
青色申告の個人事業主の帳簿7年帳簿閉鎖の日の属する年の翌年3月15日の翌日所得税法施行規則63条

従たる給与についての扶養控除等申告書は、提出期限の属する年ではなく、受理した日または記載事項の電磁的提供を受けた日の属する年の翌年1月10日の翌日から7年を数えます。

7年の起算日は条文ごとに違い(上の表の「起算」の列)、いちばん遅いものに合わせておけば安全です。保存期間の横断的な整理は賃金台帳の記事と給与明細の見方の保管の節も参照してください。

条文で確かめる

申告書の7年は、施行規則76条の3が、受理した申告書等について税務署長が提出を求めるまでの間は保存するとしたうえで、ただし書で期限を区切っている構造です。

これらの規定に規定する税務署長が当該給与等の支払者に対しその提出を求めるまでの間、当該給与等の支払者が保存するものとする。ただし、当該申告書等に係るこれらの規定に規定する提出期限の属する年(…)の翌年一月十日の翌日から七年を経過する日後においては、この限りでない。

賃金台帳の方は労働基準法109条が「五年間」と書きながら、附則143条で当分の間「三年間」に読み替えています。

使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。

そして法人の場合、法人税法施行規則59条1項1号は、仕訳帳・総勘定元帳だけでなく「当該青色申告法人の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿」を7年の保存対象にしています。給与の支払と源泉所得税の預り金はどちらも負債に影響する取引なので、それを各人別に記録した源泉徴収簿はこの「その他の帳簿」に当たると読むのが自然です。

マイナンバーは書かなくてよい

源泉徴収簿には従業員の個人番号(マイナンバー)を書く欄がありません。国税庁の「源泉所得税関係に関するFAQ」Q3-2も、次のとおり明言しています。

源泉徴収簿には従業員のマイナンバー(個人番号)を記載する必要はありません。

個人番号を書くのは、税務署に出す源泉徴収票・法定調書と、従業員から受け取る扶養控除等申告書の側です。法定調書側の扱いは法定調書合計表の書き方で整理しています。

扶養控除等申告書の個人番号を省略できる帳簿

給与の支払者が次の帳簿を備えているときは、扶養控除等申告書には、その帳簿に記載されている個人番号の記載を要しません(所得税法198条4項)。

これは源泉徴収簿とは別の機能の帳簿なので、源泉徴収簿に個人番号を足してそれを兼ねさせる場合は、特定個人情報として安全管理措置の対象になる点に注意が要ります。

よくある質問

源泉徴収簿は税務署に提出しますか?

通常、毎年提出する書類ではありません。毎年の提出を命じる条文が無く、そもそも作成自体が法令で定められていません。税務署への提出対象は、提出範囲に当たる源泉徴収票と法定調書合計表で、源泉徴収簿はそれらを作るための社内の記録です。ただし給与の支払と徴収の記録として、調査の際に確認の対象になることはあります。また、年末調整の過納額の還付を税務署に請求する場合は、各人の源泉徴収簿の写しを添付します。

給与ソフトの台帳やエクセルで代用できますか?

できます。国税庁の手続案内が「給与台帳等であっても、毎月の源泉徴収の記録などが分かり、年末調整のためにも使用できるものであれば、それを利用して差し支えありません」と明記しています。条件はこの2つだけで、様式の指定はありません。

源泉徴収簿と源泉徴収票は何が違いますか?

源泉徴収簿は、給与の支払者が毎月の徴収と年末調整の計算を記録する帳簿で、国税庁の手続案内は法令で定められたものではないとしています。給与所得の源泉徴収票は、所得税法226条1項が居住者に給与等の支払をする者に作成を命じ、給与等の支払を受ける者に交付する書類です。源泉徴収簿には、税務署への提出を命じる条文がありません。

源泉徴収簿と賃金台帳は何が違いますか?

根拠法と目的が違います。賃金台帳は労働基準法108条で調製を命じられた法定帳簿で、労働日数・労働時間数・時間外労働時間数など労務管理の項目を持ちます。源泉徴収簿は法令の定めの無い国税庁様式で、扶養親族等の数・算出税額・年末調整の計算過程を持ちます。両方の項目を載せれば1冊にできます。

源泉徴収簿は何年保存しますか?

実務では7年でそろえるのが標準です。源泉徴収簿を名指しした保存規定はありませんが、綴じ込む扶養控除等申告書などの保存は7年(所得税法施行規則76条の3)、法人の帳簿も7年(法人税法施行規則59条)だからです。7年の起算日は書類ごとに違います。賃金台帳を兼ねている場合、労働基準法側は当分の間3年ですが、税法側の7年が上回ります。

年の途中で入社した人の源泉徴収簿はどう書きますか?

年末調整では、前職で扶養控除等申告書を提出して受けた給与を合算します。前職の源泉徴収票等で給与と徴収税額を確認できるまでは年末調整を見合わせます。所得税法190条1号は、その年に他の支払者を経由して扶養控除等申告書を出していた場合、その支払者からの給与等を含めて計算すると定めています。

年の途中で退職した人はどうなりますか?

通常の中途退職者は年末調整の対象外です。ただし、死亡により退職した人など、退職の時に年末調整を行う例外があります。例外に当たる人の範囲は、国税庁「年末調整のしかた」の「年末調整を行う時」の表のとおりです。居住者である退職者の給与所得の源泉徴収票は、退職の日以後1か月以内に作成・交付します(所得税法226条1項)。退職金を払ったときは、給与の源泉徴収簿とは別に「退職所得に対する源泉徴収簿」の様式があります。

扶養控除等申告書を出していない人の源泉徴収簿も作りますか?

源泉徴収簿を使って管理する場合は、申告書未提出者も記録します。源泉徴収簿そのものの作成義務はなく、必要事項を確認できる給与台帳等でも構いません。居住者に支払う給与のうち月額表で税額を求めるものでは、扶養控除等申告書を提出していない人に乙欄を適用します。その年最後に給与を支払う時までに扶養控除等申告書を提出していない人は、年末調整を行いません。

源泉徴収簿にマイナンバーは書きますか?

書きません。国税庁のFAQ Q3-2が「源泉徴収簿には従業員のマイナンバー(個人番号)を記載する必要はありません」としています。税務署提出用の源泉徴収票には個人番号を記載しますが、本人交付用には記載しません。扶養控除等申告書では、支払者が所定の帳簿を備えるなどの条件により記載を省略できる場合があります。

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出典

所得税法・所得税法施行規則・法人税法施行規則・労働基準法・同施行規則をe-Gov法令検索で確認し、国税庁の令和8年分様式(PDF)と手続案内ページの原文で確認。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の税務相談ではありません。個別のケースについては税理士等の専門家にご相談ください。

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