法人の節税対策|決算前の確認表と現金・翌期への影響
法人の節税対策は、税額だけでなく、支払後に残る現金と翌期への影響で比べます。決算賞与や前払いで当期の損金を増やす方法と、設備投資・賃上げの税額控除は、効果も手続も違います。
まず計上漏れを確認し、予定していた支出について使える制度を調べます。この記事は、決算賞与・短期前払費用・設備投資・賃上げの比較と準備資料に絞った、法人経理向けの確認表です。
決算前に対策を選ぶ確認表
追加支出の前に、当期に帰属し、期末までに債務が確定した費用の計上漏れを確認します。支払が翌期という理由だけで、当期の費用から外す必要はありません。逆に、将来の支出予定を未払計上するだけでは、当期の損金にできません。
債務確定は、償却費以外の通常の販管費について、期末までの債務成立・給付原因事実の発生・金額の合理的算定で判定します(別に定めるものを除く)。賞与・役員給与・減価償却などは、それぞれの取扱いも必要です。根拠は法人税法22条と法人税基本通達の債務確定の判定です。
次の表は、適用可否を調べる入口です。各制度の要件を満たした場合の取扱いであり、支出や通知だけで適用が決まるものではありません。税制の対象法人・資産・事業年度は、下の各節で確認します。
| 対策 | 先に確かめること | 着手する時点 |
|---|---|---|
| 決算賞与の未払計上 | 同時期の支給対象者全体への通知か。在職条件付きでないか | 当期中に各人別通知・損金経理。通知した事業年度終了の日の翌日から1か月以内に通知額全額を支払う |
| 短期前払費用 | 支払日から1年以内の継続役務か。収益対応費用でないか。支払年度の損金算入を継続できるか | 当期中の実際の支払に先立ち、契約と役務期間を確認する |
| 設備投資の特別償却 | 青色申告・対象中小企業者等・新品対象設備・国内指定事業か。所有権移転外リースは除く | 発注前に対象を調べ、取得等と供用を制度の期限内に終える |
| 設備投資の税額控除 | 税額控除の対象法人・新品対象設備・国内指定事業か。所有権移転外リースも含めて確認 | 供用年度の申告に向け、控除前の税額と明細を用意する |
| 賃上げ促進税制 | 青色申告の対象中小企業者等か。国内雇用者給与が所定の増加率を満たすか | 給与計画を決めるときから前期比較し、申告時に明細を添付する |
使用人の賞与と役員の給与は分けて扱います。設備投資の税制も、資本金だけでは適用を判定できません。
資金流出・当期税額・翌期を比べる
損金は所得から引き、税額控除は計算した税額から引きます。特別償却や短期前払費用による費用の前倒しは、後の年度に計上する費用も変えます。税額控除による負担減とは分けて見積もります。
次の比較は、各制度の適用要件を満たす場合の方向性です。当期に所得や控除可能な税額がない場合、当期の納税額が下がらないことがあります。資金流出には、税金の減少とは別に支払計画を作ります。
| 対策 | 資金流出 | 当期の税務 | 翌期以降 |
|---|---|---|---|
| 決算賞与 | 賞与の支払が必要 | 適格な未払賞与は、通知年度の損金 | 支払時に同じ賞与を再び損金にしない |
| 短期前払費用 | 将来の役務分を、先払い | 適格な支払額を支払年度の損金にする | 前倒し済みの額を二重に算入せず、継続処理を管理 |
| 特別償却 | 設備取得に応じた支払 | 普通償却に加えた償却で所得を圧縮 | 先に償却した分、後の償却に使う残額が減る |
| 設備の税額控除 | 設備取得に応じた支払 | 対象額を上限の範囲で法人税額から控除 | 減価償却と、未控除額の繰越管理を分ける |
| 賃上げの税額控除 | 給与・賞与の増額に伴う支払 | 給与の損金算入とは別に、要件と上限内で控除 | 継続する人件費と、未控除額の利用条件を確認 |
不要な支出で現金が減る計算例
支出が全額損金になっても、支出額がそのまま税金から戻るわけではありません。必要のない買い物を増やすと、税負担が下がっても事業に使える現金が減ります。
架空法人の当期の追加支出を全額当期損金とし、税軽減額を「支出額×仮定率」で計算する例です。仮定率は法定税率・実効税率ではありません。消費税・社会保険等の影響は除き、端数は生じない設定です。
| 項目 | 仮定・結果 |
|---|---|
| 追加の支払額 | 100万円 |
| 税軽減の仮定率 | 30% |
| 当期の税軽減額 | 100万円 × 30% = 30万円 |
| 税軽減後の現金減少 | 100万円 − 30万円 = 70万円 |
この架空例では、何も買わない場合に比べて手元の現金は減ります。設備の購入や役務の前払いでは、購入・支払額と当期の損金額が異なることもあるため、この例の軽減額をそのまま当てはめません。
比較するときは、対策をしない場合と、対策後の納税見込みを並べます。その差額を追加の支払額から差し引きます。支払は先、税金の軽減は後になる場合もあるため、資金繰り表では日付も分けます。
決算賞与は通知と支払を一組で管理
未払決算賞与は、下記の通知・支払・経理の要件を確認します。通知の例外は下の注を参照してください。ここで扱うのは、法人税法施行令72条の3の、通知年度に損金算入する使用人賞与の取扱いです。
- 通知は当期中に、確定額を各人別・同時期支給の全使用人へ行います(賞与支給上の区分を設けず、支給日在職条件を付けない場合)。通知書と到達が分かる記録を残します。
- 支払は、通知した事業年度終了の日の翌日から1か月以内に、通知した使用人全体へ通知額全額を支払います。
- 支給額は通知した年度に損金経理します。決算の未払残高と、翌期の振込・消込を照合します。
主な注意点:賞与支給上パート・臨時雇い等とその他の使用人を区分する場合、継続雇用で他の使用人と同様に賞与対象となる者をパート等から除き、区分ごとに通知を判定できます。支払期限を休日なら自動で延ばせると扱わず、銀行の営業日・着金日を踏まえて支払を手配します。
使用人兼務役員の使用人職務に対応する賞与は、この使用人賞与に含まれます。一方、役員としての給与は法人税法34条の要件を別に確認します。利益が出たから役員へ追加支給すれば損金になる、という扱いではありません。
未払計上の別ルートや対象使用人の区分は、決算賞与の損金算入で確認できます。役員給与の改定・届出は役員報酬の決め方へ進んでください。
短期前払費用は継続できる支払か確認
短期前払費用は、将来の費用を前に寄せる取扱いです。契約の名前が「年払い」であることだけでは適用を決められません。一定の契約に基づく継続的な役務で、役務の期間と実際の支払を確認します。
短期前払費用は、一定契約の継続役務の期末未提供分を支払い、支払日から1年以内の役務分を継続して支払年度の損金にする取扱いです。収益計上との対応が必要な費用は除きます。
商品の内金など単発の取引への前払いと、継続的な役務への前払いは分けます。未払計上だけでの適用や、利益が出た期だけの処理にも使えません。契約書、対象期間、支払記録、前期からの処理をそろえます。
当期に前倒しした費用を、翌期の役務提供時にもう一度損金にしないことも必要です。前払額の管理表と翌期の仕訳予定を一緒に残します。取扱いの根拠は国税庁「短期前払費用として損金算入ができる場合」、会計の区分との違いは前払費用と短期前払費用で確認できます。
設備投資は購入と供用を分けて確認
設備は、購入額と当期の損金額を分けて見積もります。通常の減価償却では、損金経理した償却費のうち償却限度額までを算入します。根拠は法人税法31条です。少額資産等の別の取扱いもあるため、支払済みという理由で全額を費用にしません。
中小企業投資促進税制では、青色申告の対象中小企業者等が、令和9年3月31日までに次の両方を行うことを確認します。新品の対象設備の取得等と、国内の指定事業への供用です。発注・支払だけでなく、稼働開始までの工程を見ます。
同じ対象設備について、特別償却と税額控除は選択であり、重ねて適用できません。特別償却は償却の前倒しです。税額控除は、対象法人の要件を満たす場合に、上限の範囲で税額から差し引きます。
主な例外:資本金・株主構成・過去の所得等により対象法人から外れる場合があります。中古設備、対象外の業種・用途、解散・清算の年度等にも注意します。所有権移転外リースは特別償却が使えず、税額控除の対象になるかを別に確認します。
税額控除の対象法人は特別償却より狭いため、先に区分を確定します。対象設備の金額基準、税額控除を選べる法人の範囲、控除上限と繰越期間は、中小企業投資促進税制にまとめています。一次資料は国税庁の中小企業投資促進税制の案内です。
賃上げは対象年度と給与資料から確認
賃上げ促進税制は、対象となる給与の前期比較と、控除前の法人税額をそろえて確認します。社長の報酬を増やすことと、対象となる国内雇用者の給与を増やすことは別です。
ここでは、賃上げ促進税制のうち、青色申告の対象中小企業者等が令和8年4月1日から令和9年3月31日までに開始する事業年度の確認点を扱います。設立年度、合併以外の解散年度、清算中の年度、中堅企業向け措置の適用年度等は除かれます。
- 給与台帳から国内雇用者の対象給与を抽出し、前期比較に使う金額と所定の増加率を確認します。役員、使用人兼務役員、役員と特殊の関係がある一定の者は除きます。
- 前期と当期の月数が違う場合や組織再編があった場合は、単純な給与総額の引き算で判定しません。補塡額・雇用安定助成金等の調整も確認します。
- 増加率の判定と税額控除額の計算は分けます。給与の増加額と、控除率を掛ける対象額が一致しない場合があります。
- 調整前法人税額を基礎とする上限を確認し、申告の明細を添付します。未控除額があれば、繰越期限・青色申告の連続・各年度の明細を管理します。
賃上げ促進税制の教育訓練費による上乗せは、令和8年4月1日以後に開始する事業年度では適用できません。以前の年度の最大控除率を、そのまま今期の見積もりに使わないようにします。
中小企業者等向けの繰越控除を使う年度も、対象給与が比較額を超えることが必要です。控除残があることと、その期に控除できることは分けて確認します。要件・控除率・上限の計算は賃上げ促進税制、一次資料は国税庁の中小企業者等向け賃上げ促進税制の案内を参照してください。
決算から翌期までの引継ぎ表
税額だけの一覧にせず、証憑と翌期の処理まで残します。担当者が替わっても、採用した制度と支払・申告・繰越の残作業を追えるようにします。
| 時点 | 確認すること | 残す資料 |
|---|---|---|
| 決算前 | 利益見込み、損金算入時期、制度の対象、支払余力 | 試算表、税務調整の見込み、対策前後の資金繰り表 |
| 賞与の通知時 | 規程の在職条件、各人別確定額、支払対象と支払日 | 通知書、賞与規程、到達記録、承認記録 |
| 前払・設備の実行時 | 支払日、役務期間、設備の取得等と供用日 | 契約書、振込記録、納品・検収書、稼働開始記録 |
| 申告準備 | 適用区分、対象額、税額控除の上限と添付書類 | 固定資産台帳、給与比較表、別表の計算明細 |
| 翌期への引継ぎ | 未払消込、前払の二重計上防止、控除残の利用条件 | 残高明細、翌期仕訳予定、繰越明細と期限管理表 |
特別償却・税額控除は、対象取引を帳簿に記録するだけでは申告の準備が終わりません。制度ごとの計算明細と、必要に応じた適用額明細書も確認します。採用を決めた時点で、申告担当と必要書類を照合すると添付漏れを防ぎやすくなります。
まとめ
- 追加支出の前に、当期に帰属する費用の計上漏れと債務確定を確認する。
- 決算賞与・前払費用・特別償却・税額控除は、当期税額と翌期への影響を分けて比べる。
- 必要な支出でも、支払日と税軽減の時期を分けて資金繰りを確認する。
- 実行後は証憑、申告明細、翌期の消込・二重計上防止・控除残の管理まで引き継ぐ。
法人税の簡易計算は、税額控除・地方税・社会保険料等を含む対策後の総負担を計算しません。所得金額を整理した後の、対象範囲内の税額確認に使います。
よくある質問
決算直前に買えば、その支払額が損金になりますか?
支払っただけでは決まりません。通常の費用は当期の帰属と債務確定を、設備は減価償却等の取扱いを確認します。前払いにも役務期間や継続適用などの要件があります。
特別償却と税額控除は同じ効果ですか?
違います。特別償却は費用計上の前倒しで、税額控除は要件と上限の範囲で税額から差し引く仕組みです。中小企業投資促進税制では同じ資産に両方を重ねて適用できません。
法人税が減るなら、予定外の支出にも意味がありますか?
税軽減額より支払額が大きければ、その差だけ現金は減ります。必要性、支払後の資金残高、翌期以降の費用や給与負担を合わせて比較します。
賃上げ促進税制は役員報酬の増額にも使えますか?
役員報酬は対象となる国内雇用者給与に含めません。使用人兼務役員と、役員と特殊の関係がある一定の者も除かれるため、給与台帳の対象者を分けて確認します。
出典
確認日:2026年11月7日。国税庁「使用人賞与の損金算入時期」等と、e-Gov法令検索「法人税法」等を参照。出典の法令基準日と、この記事の確認日は区別しています。
- e-Gov法令検索「法人税法」22条(所得・損金の計算)
- e-Gov法令検索「法人税法」31条(減価償却)、同34条(役員給与)
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」72条の3(使用人賞与の損金算入時期)
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」42条の6、同42条の12の5
- 国税庁「法人税基本通達」販売費及び一般管理費等(債務の確定、短期の前払費用)
- 国税庁「使用人賞与の損金算入時期」
- 国税庁「短期前払費用として損金算入ができる場合」
- 国税庁「中小企業投資促進税制」
- 国税庁「中小企業者等における賃上げ促進税制」
- 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」(賃上げ促進税制の見直し)
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談には応じられません。実際の適用・計算・申告は、税理士または所轄の税務署にご確認ください。