決算書の読み方|利益・現金・財政状態をつなぐ
決算書は、損益計算書の「利益」、貸借対照表の「残高」、キャッシュフロー計算書の「資金の増減」をつないで読みます。まず利益が出ているかを見ます。次に、その利益を現金として回収できているか、何に資金を使ったかを確かめます。
このページでは、同じ架空会社の決算を使い、黒字でも現金が減る理由を追います。科目を暗記するより、表どうしの数字がどうつながるか、次にどの明細を開くかが分かる読み方を目指します。
対象は日本基準の一般的な事業会社の個別決算です。決算書の作成手続きや投資判断ではなく、経理担当が社内説明に使う確認工程を扱います。
決算書を読む順番と確認表
まず資料の範囲をそろえ、利益の計算、資産・負債の変化、現金の動きの順に読みます。この順番は、利益と資金の違いを説明するための本記事の進め方です。支払いの確認を急ぐ場面では、現預金と直近の支払予定から確認します。
損益計算書は期間の業績、貸借対照表は期末時点の財政状態を表します。日本政策金融公庫の決算書の解説も、稼ぐ力と資金調達・運用のバランスを分けて説明しています。
| 資料 | 最初の問い | 次につなぐ数字 |
|---|---|---|
| 損益計算書(P/L) | 売上から何の費用を引き、利益が残ったか | 営業利益、当期純利益 |
| 貸借対照表(B/S) | 資産・負債・純資産は前期末からどう変わったか | 売掛金・在庫・買掛金・借入金の増減 |
| C/F | 営業・投資・財務で資金がどう動いたか | 現金及び現金同等物の期首・期末残高 |
キャッシュフロー計算書が手元にないときは、貸借対照表の比較だけで支出を決めつけず、入出金明細や固定資産台帳、借入返済予定表で補います。後の設例は接続を学ぶためのものです。残高差をそのまま当てはめれば実際の計算書を作れる、という意味ではありません。
比較する前にそろえる条件
数字の大小を比べる前に、同じ範囲を見ているかをそろえます。会社単体の損益とグループ全体の現金を混ぜると、関係のない差を探すことになります。
| 確認する欄 | そろえる内容 |
|---|---|
| 会社と集計範囲 | 個別決算か連結決算か、同じ会社・グループか |
| 対象期間 | 期首・期末と期間の長さ。決算期変更の有無 |
| 金額の単位 | 円・千円・百万円などの表示単位と丸め |
| 比較欄と注記 | 前期の表示組替え、会計方針変更、訂正の有無 |
| 事業の範囲 | 買収・売却・事業撤退など、比較対象が変わっていないか |
比較条件が違うときは、差があることを先にメモします。増減をそのまま成長・悪化と評価しません。会計方針を変えた影響は、企業会計原則と継続性の考え方も参考になります。
売上の増加を見つけたら、数量・単価・商品構成・事業範囲のどこが変わったかを確認します。利益の増減も、販売の変化と費用の変化を分けると、部門別や取引先別の資料へ戻れます。
損益計算書で利益の残り方を読む
売上高だけでなく、どの段階で利益が減ったかを読みます。売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた営業利益は、本業の費用を含めた損益を見る入口です。営業利益と当期純利益が違えば、その間の営業外損益、特別損益、税金の欄をたどります。
営業利益・経常利益の関係は、財務諸表等規則の営業損益の表示と経常損益の表示に対応しています。科目や区分の詳しい説明は、損益計算書の見方へ分けています。
以下は架空A社・当期の個別決算の設例です。基準日は2026年11月5日です。損益は税抜で、消費税の影響はありません。金額は万円単位の整数で設定し、丸めはありません。営業外費用は支払利息で、特別損益と営業外収益はありません。法人税等は税率から算出した額ではなく、設定値です。税効果も考えません。
| 項目 | 当期 |
|---|---|
| 売上高 | 2,000万円 |
| 売上原価 | 1,300万円 |
| 売上総利益 | 700万円 |
| 販売費及び一般管理費 | 600万円 |
| 営業利益 | 100万円 |
| 支払利息 | 10万円 |
| 経常利益・税引前当期純利益 | 90万円 |
| 法人税等 | 30万円 |
| 当期純利益 | 60万円 |
この架空A社の当期は、売上総利益から販管費を引いて営業利益が残ります。当期純利益は、この架空A社の設例では営業利益から支払利息と法人税等を差し引いた額です。この段階では、売上代金の回収が済んでいるかは分かりません。
利益の増減を見つけたら内訳を分ける
売上が伸びても売上総利益が伸びなければ、販売単価や仕入原価、商品構成の変化を調べます。売上総利益が残っていても営業利益が減れば、人件費・家賃・広告費など販管費の明細を開きます。
営業利益と最終利益の方向が違うときは、固定資産の売却などの特別損益や税金の影響も分けます。最終利益の増加を、そのまま本業の改善と読まないためです。
貸借対照表で増減の行き先を読む
資産の合計ではなく、何の資産が増えたかを読みます。貸借対照表の資産は、現金のほか、売掛金・棚卸資産・設備などを含みます。資産が増えても、支払いに使える現金が増えているとは限りません。
財務諸表等規則の資産・負債・純資産の分類を踏まえ、以下は主要項目に絞った比較表です。流動・固定などの表示区分は省略しています。実際の科目の分類は貸借対照表の見方で確認できます。
以下も架空A社・当期の個別決算に対応する前期末・当期末残高です。単位は万円で、丸めはありません。記載外の資産・負債はありません。配当・増減資・評価差額・過年度修正はなく、純資産は当期純利益による増加とします。現金預金は使用制限がなく、現金同等物は保有しない設定です。
| 項目 | 前期末 | 当期末 |
|---|---|---|
| 現金預金 | 300万円 | 220万円 |
| 売掛金 | 200万円 | 350万円 |
| 棚卸資産 | 100万円 | 180万円 |
| 固定資産(帳簿価額) | 400万円 | 450万円 |
| 資産合計 | 1,000万円 | 1,200万円 |
| 買掛金 | 150万円 | 180万円 |
| 借入金 | 400万円 | 500万円 |
| 未払法人税等 | 30万円 | 40万円 |
| 純資産 | 420万円 | 480万円 |
| 負債・純資産合計 | 1,000万円 | 1,200万円 |
この架空A社では、売掛金と在庫に資金が振り向けられ、純資産が増えても現金預金は減っています。増えた売掛金は期日どおりに回収できるか、在庫は販売予定に合うかを、残高明細で確かめる段階です。
純資産が増えた額と現金が増えた額は別
純資産は「自由に使える現金の積立額」ではありません。利益が残っても、その資金が売掛金や在庫、設備の形になっていることがあります。純資産の増減理由は株主資本等変動計算書などで確認します。
実際の会社では配当や増資、評価差額なども純資産を変えるため、当期純利益だけで前期末からの差を説明しません。株主資本等変動計算書の解説と合わせて読むと、利益以外の要因を分けられます。
利益から現金の増減へつなぐ
この架空A社の設例では、営業活動・設備取得・借入れと元本返済による増減を期首現金に加減し、期末現金につなぎます。換算差額等はありません。間接法では、税引前当期純損益から、資金が動かない損益項目を調整します。売上債権・棚卸資産・仕入債務などの増減や、投資・財務に属する損益項目も調整します。
この調整の考え方は、財務諸表等規則の営業活動によるキャッシュフローの表示で確認できます。下表は、架空会社の数字の接続を確認するため、資金の期首・期末も並べた照合表です。
以下は架空A社・当期の個別決算の資金増減です。単位は万円で、丸めはありません。固定資産の変動は現金取得と減価償却によるものとし、減価償却費は販管費に含めます。利息の支払額は、この架空A社の当期の設例では費用と同額と仮定し、営業活動に表示する方法を選びます。税金納付は設定値です。記載外の取引・換算差額・非資金取引はありません。
| 項目 | 加減・残高 |
|---|---|
| 税引前当期純利益 | 90万円 |
| 減価償却費の加算 | 50万円 |
| 支払利息の加算 | 10万円 |
| 売掛金の増加 | −150万円 |
| 棚卸資産の増加 | −80万円 |
| 買掛金の増加 | 30万円 |
| 小計 | −50万円 |
| 利息の支払額 | −10万円 |
| 法人税等の支払額 | −20万円 |
| 営業CF | −80万円 |
| 設備取得(投資CF) | −100万円 |
| 借入収入 | 200万円 |
| 借入元本返済 | −100万円 |
| 財務CF | 100万円 |
| 現金預金の増減 | −80万円 |
| 期首現金預金 | 300万円 |
| 期末現金預金 | 220万円 |
架空A社の当期は、換算差額等なしの前提で、期首現金300万円−営業80万円−投資100万円+財務100万円=期末現金220万円です。
売掛金・在庫・買掛金の増加は逆向きに働く
この架空A社の設例では、未回収の売掛金と棚卸資産が増え、利益に比べて営業資金が減っています。一方、買掛金の増加は支払いがまだ済んでいない分なので、営業資金の減少を抑える側に働きます。買掛金の増加自体を、業績の改善と扱うわけではありません。
ただし、実際の残高差には事業の取得、為替換算、科目の振替などが含まれる場合があります。貸借対照表の差だけで営業収支を逆算せず、取引の内容と注記を確認します。
費用の計上額と実際の支払額を分ける
この架空A社の設例では、減価償却費は損益に含まれていても、当期の現金支出ではないため営業キャッシュフローの計算で加算します。設備を現金で取得した支出は、投資活動として別に扱います。
また、この架空A社の税金費用と納付額は一致していません。差は未払法人税等の残高に表れます。この架空A社では、損益計算書の税金費用をそのまま当期の納付額として差し引くと、期末の現金につながりません。
設備取得と借入元本の返済の分類は、投資活動の表示と財務活動の表示に対応します。借入元本の返済は費用とは分け、利息と区別して確認します。
この設例では、税引前利益に含まれる利息費用をいったん加算し、実際の支払額を別の行で差し引いています。費用を戻す行と、支払った行を分けて読むと、二重に引いていないことを確かめられます。
利息の支払いは営業活動に表示する方法のほか、財務活動に表示する方法もあります。実際の計算書は採用した方法を確認します。利息・配当金の表示方法は財務諸表等規則の該当規定を参照できます。
最後は注記と現金残高で照合する
実際の計算書では、現金及び現金同等物の期末残高を、貸借対照表の科目金額との関係を示す注記で確かめます。貸借対照表の「現金及び預金」と、対象となる資金の範囲が違うことがあるためです。
財務諸表等規則のキャッシュフロー計算書に関する注記も、この期末残高の関係を記載対象にしています。上の設例は現金同等物を保有せず、使用制限のある預金もないため、現金預金の残高とつながります。
決算書から明細へ戻る確認手順
読み取った増減は、「理由の仮説」と「確認する資料」に分けて残します。決算書の合計だけで原因を確定させず、相手先や支払日まで戻るための確認表です。
| 気づいた変化 | 開く資料 | 確かめる問い |
|---|---|---|
| 売掛金が増えた | 取引先別残高・入金明細 | 売上拡大による増加か、回収の遅れか |
| 在庫が増えた | 在庫明細・棚卸記録・販売予定 | 必要な仕入れか、滞留・評価の見直しがあるか |
| 買掛金が増えた | 仕入先別残高・支払予定 | 仕入れの増加か、期日の変更や遅延か |
| 固定資産が増えた | 固定資産台帳・契約書・支払記録 | 取得と償却、売却、未払いを区別できるか |
| 借入金が増えた | 借入明細・返済予定表 | 新規借入と返済元本、今後の期日を確認できるか |
| 利益と現金が違う | 上の明細・税金の納付記録 | 未回収・未払い・投資・返済のどこに差があるか |
売掛金の増加だけで回収不能、在庫の増加だけで過剰在庫とは決めません。事業の拡大や季節要因で増えている場合もあるため、予定と実績、相手先の状況を確認します。
損益の改善を調べるときは、売上高営業利益率などの指標も使えます。支払能力の検討は流動比率、資金調達の構成は自己資本比率で確認できますが、比率の高さだけで安全と断定しません。
決算日の現金が残っていても、その後の支払日に足りるかは別の問いです。入出金の予定を日付順に並べる仕事は、財務の仕事と資金予定の作り方で確認できます。
読み終わったら残すメモ
決算書を読んだ結果は、利益がどこで変わったか、資金がどの残高に移ったか、次に何の明細を確かめるかに分けて残します。利益と現金の違いまで説明できると、数字の一覧から次の確認作業につながります。
社内メモには、対象会社・期間・単位、変化した科目、仮説、確認資料、担当者、確認予定日を置きます。「売掛金増加の理由を、取引先別残高と入金実績で照合する」のように、分かったことと調べることを分けて書けます。
入出金予定の下調べに日数・営業日計算を使う営業日計算は日付の下調べ用です。契約上の支払期限や金融機関の入金反映日は、契約・取扱案内で確認します。
よくある質問
決算書はどこから読めばよいですか?
まず会社・期間・単位をそろえ、損益計算書の利益、貸借対照表の前期末からの増減、キャッシュフロー計算書の資金増減の順に確認すると、利益と現金の違いを追えます。直近の支払いを調べる場面では、現預金と支払予定を先に確認します。
黒字なのに現金が減るのはなぜですか?
売上を計上しても未回収であったり、在庫の購入、設備投資、借入元本の返済などで現金が出ていったりするためです。損益計算書の利益は、その期間の現金の増加額とは一致しません。売掛金・在庫・買掛金の増減と、投資・返済の記録を分けて確認します。
純資産が多ければ、その額を支払いに使えますか?
純資産の金額を、そのまま支払いに使えるわけではありません。資産と負債の差額を表すもので、現金預金だけの残高ではないためです。使える現預金と、回収・支払の予定を別に確認します。
キャッシュフロー計算書が手元にないときはどう読みますか?
損益計算書と前期末・当期末の貸借対照表を用意し、入出金明細、固定資産台帳、借入返済予定表などで資金の動きを補います。残高差には非資金取引などが含まれることがあるため、貸借対照表の差だけで入出金額を決めつけません。
出典
日本政策金融公庫の決算書解説と、財務諸表等規則を参照しています。
- 日本政策金融公庫「経営者が知って得する税務講座~わかりやすい!決算書の見方~」:損益計算書と貸借対照表の役割、業績の細分化、資金調達と運用の確認。
- e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」:資産・負債・純資産、営業損益、経常損益、キャッシュフローの表示と注記。
- e-Gov法令検索「会社計算規則」株主資本等変動計算書:純資産の構成と当期の変動理由。
- 中小企業基盤整備機構「経営自己診断システム 個別指標一覧」:利益率・流動比率・自己資本比率の意味。
- 中小企業基盤整備機構「資金繰り表って何ですか?また、どのようにして作成するのですか?」:現金収支と資金不足の見通し。
- 架空A社の損益・残高・資金増減は、本文に示した前提による計算例です。実在企業の決算値や税額の算定例ではありません。
本記事は一般的な情報提供であり、個別の相談への回答ではありません。個別の税務・労務相談には応じられません。実際の会計処理や判断は、顧問の会計専門家にご確認ください。