給与所得者の保険料控除申告書 — 証明書が要るもの・要らないものは政令が8つ列挙している
結論から言うと、この申告書は「控除の申請書」ではなく「証明書とセットで初めて効く伝票」です。金額を書いただけでは、年末調整では控除されません。
根拠は所得税法190条2号ロで、年末調整で差し引ける保険料を「書類の提出又は提示のあつたものに限る」と限定しています。申告書の記載と証明書は、どちらか一方では足りない仕組みになっています。
では、どの控除に証明書が必要なのか。ここが実務でいちばん混乱するところですが、答えは所得税法施行令319条が8つの場合を列挙しているという形で決着しています。そしてその列挙には、見落とされやすい非対称が2つあります。社会保険料で証明書が要るのは国民年金保険料と国民年金基金の掛金だけであること。年間9,000円以下で証明書を省けるのは旧生命保険料だけで、旧個人年金保険料には同じ免除が無いことです。
この記事では、申告書そのものの仕組み——何を書き、何を書かないのか、いつまでに出すのか、証明書が要るのはどれか、出し忘れると何が起きるのか、出したあと書類はどこへ行くのか——を条文で確認していきます。各控除の計算方法そのものは、それぞれの解説記事に譲ります。
この申告書が引き受ける4つの控除
正式名称は「給与所得者の保険料控除申告書」です。これは通称ではなく、所得税法196条3項が定めた法律上の名前です。
第一項の規定による申告書は、給与所得者の保険料控除申告書という。
同条1項が対象として挙げているのは、社会保険料・小規模企業共済等掛金・新生命保険料・旧生命保険料・介護医療保険料・新個人年金保険料・旧個人年金保険料・地震保険料です。控除の名前でまとめると、次の4つになります。
| 控除 | 根拠条文 | この申告書で扱う中身 |
|---|---|---|
| 社会保険料控除 | 所得税法74条 | 自分で払った分だけ(国民年金、家族の国民健康保険など) |
| 小規模企業共済等掛金控除 | 所得税法75条 | 自分で払った分だけ(iDeCoの個人払込など) |
| 生命保険料控除 | 所得税法76条 | 一般・介護医療・個人年金の3区分、新旧の別 |
| 地震保険料控除 | 所得税法77条 | 地震保険料と、経過措置の長期損害保険料 |
年末調整で使う書類は全部で4種類あり、この申告書はそのうちの1枚です。どの用紙に何を書くかという記入の手順は年末調整の書き方にまとめてあります。
給与から天引きされた分は書かない
毎月の給与から引かれている健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料は、この申告書には書きません。書く欄が無いのではなく、条文が最初から除いています。196条1項2号がこう定めています。
その年中に支払つた第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料(給与等から控除されるものを除く。)の金額
括弧書きの「給与等から控除されるものを除く」が効いています。小規模企業共済等掛金についても、同じ号に同じ括弧書きが置かれています。
除かれている理由は、二重に数えないためです。年末調整の計算式を定めた190条2号は、給与から控除される社会保険料等をイで、それ以外に自分で支払った分をロで、別々に拾う構造になっています。イは会社が給与計算から自動的に把握するので、申告書に書かせる必要がありません。
同じiDeCoでも、給与天引き(事業主払込)なら会社が把握しているので申告書には書きません。個人の口座から引き落とす個人払込なら、この申告書に書き、国民年金基金連合会の証明書を添えます。契約は同じでも、払い方で扱いが分かれます。欄の位置・証明書・転職した年の扱いはiDeCoの年末調整にまとめています。
期限は12月31日ではない
提出期限は年末ではありません。196条1項は次のように書いています。
その年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに
最後の給与日そのものではなく、その「前日」までです。12月25日が最後の給与日なら、法律上の期限は12月24日ということになります。実際には会社が計算する時間が要るので、社内の締切は11月中旬から下旬に置かれるのが普通です。
なお、そもそも年末調整の対象にならない人もいます。190条本文は対象をその年に支払うべきことが確定した給与等の金額が2,000万円以下の人に限っているので、給与収入2,000万円超の人はこの申告書を出しても年末調整では控除されません。この場合は確定申告で控除します。
証明書が要るもの・要らないもの — 施行令319条の8つ
196条2項は、証明書の提出または提示を義務づけたうえで、その具体的な範囲を「政令で定めるところにより」と政令に投げています。受けているのが所得税法施行令319条で、証明書が要る場合を8つ列挙しています(1項のみ・8号、枝番号なし)。
| 号 | 証明書が要る場合 | 金額の条件 |
|---|---|---|
| 1号 | 社会保険料(74条2項5号のものに限る) | 条件なし |
| 2号 | 小規模企業共済等掛金 | 条件なし |
| 3号 | 新生命保険料 | 条件なし |
| 4号 | 旧生命保険料 | 9,000円を超えるものだけ |
| 5号 | 介護医療保険料 | 条件なし |
| 6号 | 新個人年金保険料 | 条件なし |
| 7号 | 旧個人年金保険料 | 条件なし |
| 8号 | 地震保険料 | 条件なし |
非対称① 社会保険料は「国民年金だけ」
1号は、社会保険料のうち74条2項5号に掲げるものに限るという括弧書きを持っています。
当該申告書に法第百九十六条第一項第二号に規定する社会保険料(法第七十四条第二項第五号(社会保険料控除)に掲げるものに限る。)の金額を記載する場合
74条2項は社会保険料を13号にわたって列挙しており(枝番号の「二の二」を含むため、目で数えると12と数え違えます。号数は tools/egov_elm.py で木構造から計数しました)、そのうち5号が国民年金の保険料と国民年金基金の掛金です。国民健康保険は2号、後期高齢者医療は2号の2、介護保険は3号にあり、いずれも1号の括弧書きの外にあります。
つまり条文の建て付けとしては、国民健康保険料・介護保険料・後期高齢者医療保険料は、年末調整で証明書の添付・提示を求められていません。申告書に金額を書けば足ります。国民年金だけ日本年金機構の「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」が要るのは、この5号限定によるものです。
非対称② 9,000円で省けるのは「旧生命保険料」だけ
4号だけが金額の条件を持ちます。旧生命保険契約等のうち、その年に支払った金額が「九千円を超えるものがあるとき」に、その超えるものについて証明書が要る、という書き方です。
ここから3つのことが読めます。
- 契約ごとの判定です。合計額ではありません。旧契約が3本あって年8,000円・年8,000円・年12,000円なら、証明書が要るのは3本目だけです。
- 9,000円ちょうどは「超える」に当たりません。証明書は不要です。
- この免除は旧生命保険料だけです。3号の新生命保険料は「記載する場合」とだけ書かれていて金額の条件が無く、1円でも証明書が要ります。7号の旧個人年金保険料にも同じ免除はありません。「旧契約なら9,000円以下は要らない」と覚えると、個人年金で外します。
証明書を付け忘れると何が起きるか
申告書が無効になるわけではありません。証明書が無かった控除だけが、年末調整の計算から落ちます。190条2号ロが、年末調整で差し引ける金額をこう限定しています。
第百九十六条第二項に規定する書類の提出又は提示のあつたものに限る。
生命保険料と地震保険料については、同じ号のなかで申告書に記載され、かつ、書類の提出または提示があったものという書き方になっています。記載と証明書の両方が揃って初めて控除されます。
落ちた控除は、確定申告で取り戻せます。年末調整で控除されなかった保険料を確定申告書に記載し、証明書を添付または提示する形です。年末調整はいつまでかもあわせて確認してください。
控除証明書は10月ごろに保険会社から届きますが、間に合わないことがあります。一般には、①再発行を依頼して社内締切に間に合わせる、②その控除だけ確定申告に回す、のどちらかになります。申告書に金額だけ書いて証明書を後から出す扱いは、会社が年末調整の計算を確定させる前であれば実務上受け付けられますが、190条2号ロの条文上は計算の時点で提出または提示があることが前提です。
出したあと、書類はどこへ行くのか
196条1項を読むと、この申告書の名宛人は税務署長です。給与等の支払者を経由して、所轄の税務署長に提出しなければならない、と書かれています。ところが実際には、会社から税務署に送られることはありません。198条1項が受理の時点でみなしを置いているからです。
その申告書は、その受理された日にこれらの規定に規定する税務署長に提出されたものとみなす。
会社が受け取った日に、税務署長へ提出されたことになります。そのうえで所得税法施行規則76条の3が、税務署長が提出を求めるまでの間、会社が保存すると定めています。保存義務が終わるのは次の時点です。
翌年一月十日の翌日から七年を経過する日後においては、この限りでない。
起算日が提出日ではない点が独特で、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から数えます。令和8年分の申告書なら、令和9年1月11日から7年ということになります。1月10日は、12月分の源泉所得税の納付期限にあたる日です。
実務上の含意はひとつで、「税務署に送っていないのだから出し直せばよい」とは言えないということです。受理された時点で提出があったものとして扱われ、書類は会社に7年残ります。訂正するなら、会社が年末調整をやり直すか、確定申告で精算するかのどちらかになります。
令和8年12月の改正でも、このルールは変わらない
令和8年12月1日には所得税法の大きな改正が施行され、基礎控除や給与所得控除の条文が組み替わります。では保険料控除申告書の証明書ルールも変わるのか——変わりません。
e-Gov 法令API v2 で所得税法施行令の令和8年5月22日施行版と令和8年12月1日施行版を取得し、319条を条単位で突き合わせたところ、ハッシュまで完全に一致しました。
ただし「一致した」だけでは、比較そのものが空振りしていた可能性を排除できません。そこで同じ2つの版で全条文を機械的に比較したところ、463条のうち差分があるのは2条だけで、そのひとつが施行令205条(雑損控除の適用を認められる親族の範囲)でした。この条は次の金額が動きます。
| 令和8年5月22日施行版 | 令和8年12月1日施行版 | |
|---|---|---|
| 雑損控除の対象になる親族の所得 | 合計額が58万円以下 | 合計額が62万円以下 |
| 施行令319条(証明書のルール) | 完全に一致(変更なし) | |
比較の経路が生きていることを確かめたうえでの「変わらない」です。証明書の要否は、令和8年分の年末調整でも令和9年分でも、施行令319条の8つの列挙で決まります。
よくある質問
Q. 給与から天引きされている厚生年金保険料も、保険料控除申告書に書くのですか?
A. 書きません。所得税法196条1項2号が、この申告書に書く社会保険料を「給与等から控除されるものを除く」と括弧書きで限定しているためです。給与から天引きされた分は、年末調整の計算式を定めた190条2号イが別に拾うので、会社が給与計算から自動的に反映します。二重に数えないための建て付けです。この申告書に書くのは、国民年金保険料や家族の国民健康保険料のように、自分の口座から支払った分だけになります。同じ考え方は小規模企業共済等掛金にも当てはまり、iDeCoが給与天引き(事業主払込)なら書かず、個人払込なら書きます。
Q. 国民健康保険料には控除証明書が同封されていません。控除は受けられませんか?
A. 受けられます。年末調整で証明書の提出または提示が求められる場合は所得税法施行令319条が列挙しており、その1号は社会保険料のうち「法第七十四条第二項第五号(社会保険料控除)に掲げるものに限る」と限定しています。74条2項5号は国民年金の保険料と国民年金基金の掛金であり、国民健康保険は同項2号なので、この限定の外にあります。したがって国民健康保険料は、申告書に支払った金額を記載すれば足り、証明書の添付は条文上求められていません。同じ理由で、介護保険料(3号)や後期高齢者医療の保険料(2号の2)も証明書は不要です。金額は自治体から届く納付済額のお知らせなどで確認します。
Q. 旧契約の生命保険が年8,000円です。証明書は要りますか?
A. 要りません。所得税法施行令319条4号は、旧生命保険料について、その年に支払った金額が「九千円を超えるもの」がある場合に証明書が必要だと定めています。9,000円以下のものは列挙の対象になっていません。判定は契約ごとで、合計額ではありません。旧契約が年8,000円と年12,000円の2本なら、証明書が要るのは12,000円のほうだけです。9,000円ちょうどは「超える」に当たらないので不要です。ただしこの免除は旧生命保険料に限られます。同条7号の旧個人年金保険料には金額の条件が無いため、少額でも証明書が要ります。
Q. 保険料控除申告書はいつまでに出せばよいですか?
A. 所得税法196条1項は「その年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに」と定めています。最後の給与日そのものではなく、その前日である点に注意が必要です。12月25日が最後の給与日であれば、法律上の期限は12月24日になります。ただし会社は年末調整の計算と源泉所得税の納付を行う必要があるため、実際の社内締切は11月中旬から下旬に置かれるのが一般的です。社内締切は法律上の期限より早く設定できます。なお、その年の給与収入が2,000万円を超える人は190条本文により年末調整の対象外なので、この申告書を出しても控除は確定申告で行うことになります。
Q. 提出した申告書は税務署に送られるのですか?
A. 送られません。所得税法196条1項は税務署長あてに提出すると書いていますが、198条1項が「その受理された日に……税務署長に提出されたものとみなす」と定めているため、会社が受け取った時点で提出があったことになります。実際の書類は会社が保管し、所得税法施行規則76条の3により、税務署長が提出を求めるまでの間は会社が保存します。保存義務が終わるのは、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年を経過した後です。令和8年分であれば令和9年1月11日から7年間ということになります。税務署に届いていないから訂正が自由にできる、という性質のものではありません。
Q. 控除証明書を出し忘れたまま年末調整が終わりました。もう控除は受けられませんか?
A. 確定申告で受けられます。所得税法190条2号ロは、年末調整で差し引ける保険料を「書類の提出又は提示のあつたものに限る」と限定しているため、証明書が無かった控除は年末調整の計算から落ちます。ただし落ちるのはその控除だけで、申告書そのものや他の控除が無効になるわけではありません。落ちた分は、確定申告書に金額を記載し、控除証明書を添付するか提出の際に提示することで適用を受けられます。源泉徴収票と控除証明書を用意して申告します。会社が年末調整の再計算に応じてくれる場合は、翌年1月末までであれば会社側で精算できることもあります。
出典
- 所得税法(昭和40年法律第33号)196条 — 給与所得者の保険料控除申告書。1項(対象となる8種類の保険料、提出期限「その年最後に給与等の支払を受ける日の前日まで」、経由と名宛人)、1項2号(給与等から控除されるものを除く旨の括弧書き)、2項(証明書の提出または提示。社会保険料は74条2項5号に限る)、3項(申告書の名称)を e-Gov 法令API v2 のリビジョン 340AC0000000033_20261201_508AC0000000012 で取得
- 所得税法190条 — 年末調整。本文(対象は給与等2,000万円以下)、2号イ(給与から控除される社会保険料等)、2号ロ(申告書に記載され、かつ書類の提出または提示のあつたものに限る旨の限定)
- 所得税法198条1項 — 給与所得者の源泉徴収に関する申告書の提出時期等の特例。受理された日に税務署長へ提出されたものとみなす規定。5項は電磁的方法による控除証明書データの提供
- 所得税法74条2項 — 社会保険料の定義。号数は13で、うち1つが枝番号「二の二」(後期高齢者医療)。
tools/egov_elm.pyにより木構造から計数。国民健康保険は2号、介護保険は3号、国民年金および国民年金基金は5号 - 所得税法施行令(昭和40年政令第96号)319条 — 保険料控除申告書に関する書類等の提出又は提示。証明書が必要な場合を8号にわたって列挙。金額の条件が付くのは4号(旧生命保険料・9,000円超)のみ
- 所得税法施行令205条 — 雑損控除の適用を認められる親族の範囲。令和8年5月22日施行版は「五十八万円以下」、令和8年12月1日施行版は「六十二万円以下」。本記事では319条の新旧比較が空振りしていないことの対照として用いた(同じ2版で全463条を比較し、差分は11条の2と205条の2条のみ)
- 所得税法施行規則(昭和40年大蔵省令第11号)76条の3 — 給与所得者の源泉徴収に関する申告書の保存。税務署長が提出を求めるまで支払者が保存し、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年を経過する日後は保存を要しない
- 国税庁タックスアンサー No.1140 生命保険料控除 — 確定申告における控除証明書の添付・提示と、旧契約で年間保険料9,000円以下のものおよび年末調整で控除を受けたものは添付を要しない旨。根拠法令等として所法76、120、所令262を挙げている
- 国税庁タックスアンサー No.2665 年末調整の対象となる人(令和7年4月1日現在法令等)— 給与総額2,000万円超の人が年末調整の対象から除かれること。根拠法令等として所法190、194、198を挙げている
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の控除の可否や申告の要否については、所轄の税務署または税理士にご確認ください。