実質賃金とは?計算式と、名目賃金・2つの系列の違い
実質賃金とは、名目賃金を物価指数で割った指標で、賃金の購買力を表します。賃金の購買力とは、その賃金でどれだけの物やサービスを買えるかのことです。
厚生労働省の毎月勤労統計調査は、「実質賃金指数=名目賃金指数÷消費者物価指数×100」で実質賃金指数を計算しています。同調査の実質賃金は、2025年3月分速報から、割る消費者物価指数が違う2つの系列で公表されています。
この記事は、計算式、2つの系列の違い、公表値の読み方、自社の昇給率を物価と比べる計算を順にまとめます。景気や政策の見通しは扱いません。
実質賃金の計算式
毎月勤労統計調査の実質賃金指数は、名目賃金指数を消費者物価指数で割り、100を掛けたものです。
実質賃金指数 = 名目賃金指数 ÷ 消費者物価指数 × 100
名目賃金指数と消費者物価指数は、どちらも基準年からの変化を示す指数です。実質賃金指数は、その2つの比を示します。
毎月勤労統計調査は、実質賃金の前年同月比を、その月の指数を前年同月の指数で割って1を引き、100を掛ける式で示しています。ただし、公表値には、2024年の賃金の前年同月比など、公表の指数から計算した値と一致しないものがあります。
名目賃金に入るもの
名目賃金は、毎月勤労統計調査では、一人平均の月間現金給与額を指します。推計した現金給与額の支払総額を、推計した常用労働者の総数で割って出しています。
現金給与額は、同調査では、労働の対償として使用者が労働者に通貨で支払うもので、所得税や社会保険料などを差し引く前の金額で、退職を事由に支払われる退職金は含みません。
同調査の結果の概要に載る実質賃金指数は、現金給与総額について計算したものです。現金給与総額は、きまって支給する給与と、夏冬の賞与などの特別に支払われた給与の合計です。
差し引く前の金額なので、毎月勤労統計調査の実質賃金は、手取りの額を表す数字ではありません。額面から手取りまでの引かれ方は手取りの計算の記事にまとめています。
2つの系列の違い — 割る物価指数が違う
毎月勤労統計調査の実質賃金は、2025年3月分速報から、消費者物価指数の「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化した系列と、「総合」で実質化した系列で公表されています。消費者物価指数の「総合」は、持家の帰属家賃を含みます。
次の表は、毎月勤労統計調査の実質賃金の2つの系列を、厚生労働省の説明で比べたものです。
| 比べる点 | 持家の帰属家賃を除く総合で実質化 | 総合で実質化 |
|---|---|---|
| 割る指数 | 消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合) | 消費者物価指数(総合) |
| 系列を作る目的 | 賃金の購買力を示す。実際に取引が行われている財・サービスに限定 | 国際比較 |
| 公表の始まり | 1951年1月分以降の実質賃金。当時の指数の名称は「総合」 | 2025年3月分結果から |
持家の帰属家賃とは、持家を借家とみなした場合に支払われるであろう家賃のことです。実際の消費支出ではなく、毎月勤労統計調査の賃金にも含まれていません。
厚生労働省は、賃金の購買力を見る場合、こうした品目を除いた物価指数で割ると、労働者の生活実感により近い指標になると説明しています。
国際比較について厚生労働省は、アメリカ・イギリス・ドイツなどが消費者物価指数の「総合」で実質賃金を算定していることを挙げています。これらの国と比べるときは、日本も「総合」で割った実質賃金を使うほうがより適切だとしています。
ただし、イタリアのように月次の持家の帰属家賃の物価を公表していない国もあり、比べる国によっては留意が必要とされています。
厚生労働省は、2つの系列の公表を、統計を使う人が用途に応じて選べるようにしたものと説明しています。
「総合」という名前は途中で入れ替わっている
毎月勤労統計調査は、1951年(昭和26年)1月分以降の実質賃金を公表しています。当時の消費者物価指数に持家の帰属家賃は無く、当時の「総合」は現在の「持家の帰属家賃を除く総合」にあたります。
消費者物価指数は、1970年基準への改定(1971年11月)から、持家の帰属家賃を算定するようになりました。
消費者物価指数の1985年基準への改定(1986年8月)で、従来の「総合」は「持家の帰属家賃を除く総合」に改められ、帰属家賃を含む指数が「総合」と表記されるようになりました。
毎月勤労統計調査の実質賃金は、その後も「持家の帰属家賃を除く総合」で計算されてきました。同調査が「総合」を使った実質賃金も算出するようになったのは、2025年3月分結果からです。
厚生労働省の資料は、毎月、実質賃金を公表している主な国を、日本・アメリカ・イギリス・ドイツの4か国としています。
同じ資料によると、主な国のうち実質賃金の算定に「総合」を使う国はアメリカ・イギリス・ドイツで、日本も2025年3月分結果から「総合」を使った実質賃金を算出しています。主な国のうち「持家の帰属家賃を除く総合」を使う国は、日本とイギリス(参考値として公表)です。
公表値で見る名目賃金と実質賃金
次の表は、毎月勤労統計調査の結果の概要に載る値で、調査産業計・事業所規模5人以上・就業形態計の現金給与総額についてのものです。
| 項目 | 2025年(確報) | 2026年8月(速報) |
|---|---|---|
| 現金給与総額(名目賃金) | 355,941円(2.3%増) | 311,364円(3.8%増) |
| 実質賃金指数(持家の帰属家賃を除く総合で実質化) | 98.0(1.3%減) | 83.7(1.5%増) |
| 消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の上昇率 | 3.7% | 2.2% |
| 実質賃金指数(総合で実質化) | 99.8(0.8%減) | 85.6(1.9%増) |
| 消費者物価指数(総合)の上昇率 | 3.2% | 2.0% |
2025年の列は年平均の確報で、かっこ内は前年比です。2026年8月の列は速報で、かっこ内は前年同月比です。実質賃金指数は、2020年平均を100としています。
- 速報値は確報で改訂される場合があります。
- 表の2つの列は、年平均と単月という別の期間の値です。指数の水準を2つの列のあいだで比べる表ではありません。
年ごとの前年比
次の表は、毎月勤労統計調査の2025年分結果確報の付表にある、各年平均の前年比です。調査産業計・事業所規模5人以上の現金給与総額についての値で、単位は%です。物価の列は、総務省が公表する消費者物価指数の前年比です。2024年の名目賃金の前年比は、推計に使う労働者数を更新した影響を除くための参考値と比べて算出されています。
| 年 | 名目賃金 | 実質賃金(除く総合) | 物価(除く総合) | 実質賃金(総合) | 物価(総合) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2021年 | 0.3 | 0.6 | −0.3 | 0.5 | −0.2 |
| 2022年 | 2.0 | −1.0 | 3.0 | −0.5 | 2.5 |
| 2023年 | 1.2 | −2.5 | 3.8 | −2.0 | 3.2 |
| 2024年 | 2.8 | −0.3 | 3.2 | 0.0 | 2.7 |
| 2025年 | 2.3 | −1.3 | 3.7 | −0.8 | 3.2 |
「除く総合」は、消費者物価指数の「持家の帰属家賃を除く総合」のことです。
この表の2022年から2025年までの4年は、毎月勤労統計調査の名目賃金(調査産業計・事業所規模5人以上の現金給与総額)の前年比がプラスで、「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化した実質賃金の前年比がマイナスです。
公表値を読むときの注意
次の4点は、毎月勤労統計調査の公表値を読むときの注意です。
- 対象の範囲: 数値は、特に断りのない限り、調査産業計・事業所規模5人以上・常用労働者(パートタイム労働者を含む)についてのものです。
- 速報と確報: 速報値は、確報で改訂される場合があります。
- 増減率の出し方: 前年比などの増減率は、指数等から算出されています。実数で計算した場合と必ずしも一致しません。
- 系列の確認: 実質賃金の数字を引用するときは、どちらの消費者物価指数で実質化した系列かを確かめます。
自社の昇給率を物価と比べるとき
自社の賃金の上昇率から物価の伸びを除くときも、実質賃金指数の式と同じように、割り算を使います。
物価の伸びを除く計算
= {(1+賃金の上昇率÷100)÷(1+物価の上昇率÷100)−1}× 100
※賃金の上昇率と物価の上昇率は、同じ期間のものを使います。
設例として、賃金の上昇率が4.0%、同じ期間の消費者物価指数の上昇率が2.4%の場合を置きます。この設例の場合、(1.04÷1.024−1)×100で、物価の伸びを除いた上昇率は約1.56%です。
上昇率どうしを引き算した値は近似で、この設例の場合は4.0−2.4=1.6となり、割り算の結果とは少しずれます。
毎月勤労統計調査の実質賃金と見比べるなら、物価指数も同じ系列(「持家の帰属家賃を除く総合」か「総合」か)を使います。
公表されている伸び率どうしをこの式に入れても、公表の実質賃金の前年比と一致しないことがあります。毎月勤労統計調査の増減率は、指数等から算出されているためです。
毎月勤労統計調査の伸び率と定期昇給
毎月勤労統計調査の名目賃金は、マクロの賃金データです。厚生労働省は、その伸び率について、ベースアップの影響を受けやすく、各労働者の定期昇給による賃金増の影響は受けづらいと説明しています。
同じ説明で、ベースアップは賃金表の改定により賃金水準を引き上げること、定期昇給は労働協約や就業規則などで定めた制度に従い、一定の時期に毎年増額する昇給とされています。ベースアップの影響は、特に一般労働者の所定内給与に反映されるとされています。
厚生労働省の資料は、ベースアップが無いと総人件費が変わらず、一人平均の月間現金給与額は変わらないという例を示しています。例の仮定は次の4つです。
- 毎年一定の定期昇給がある
- 給与が年齢で決まる
- どの年齢も労働者数が同じ
- 途中の退社と入社が無い
次の表は、厚生労働省の資料が、定期昇給込みの賃金の伸び率を見ることができる統計の例として挙げる3つです。対象と期間は、同じ資料の記載によります。
| 統計 | 対象 | 調べている内容 |
|---|---|---|
| 厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」 | 常用労働者100人以上の企業 | 1月〜12月の賃金改定状況 |
| 厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」 | 資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合 | 春季賃上げの妥結状況 |
| 中央労働委員会「賃金事情等総合調査」 | 資本金5億円以上かつ労働者1,000人以上の企業 | 7月〜翌年6月の賃金改定状況。ベースアップ分のみも把握可能 |
同じ資料は、これらの統計は調査対象や集計方法が異なり、機械的に比べた結果には留意が必要としています。
手取り計算機で、額面の月給から手取りを確かめる給与の引上げと法人税の税額控除の関係は、賃上げ促進税制の記事にまとめています。
まとめ
- 実質賃金は、名目賃金を物価指数で割った指標で、賃金の購買力を表します。
- 計算式は、毎月勤労統計調査では「実質賃金指数=名目賃金指数÷消費者物価指数×100」です。
- 2025年3月分速報から、毎月勤労統計調査の実質賃金は、「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化した系列と「総合」で実質化した系列で公表されています。
- 厚生労働省の説明では、「持家の帰属家賃を除く総合」の系列は賃金の購買力を示すため、「総合」の系列は国際比較のためのものです。
- 現金給与額は、毎月勤労統計調査では、所得税や社会保険料などを差し引く前の金額です。
- 厚生労働省は、毎月勤労統計調査の名目賃金の伸び率を、ベースアップの影響を受けやすく、定期昇給の影響は受けづらいと説明しています。
よくある質問
実質賃金と名目賃金の違いは何ですか?
毎月勤労統計調査の名目賃金は、一人平均の月間現金給与額です。同調査の実質賃金指数は、名目賃金指数を消費者物価指数で割って100を掛けたもので、賃金の購買力を見るために使われます。
実質賃金がマイナスとは、どういう状態ですか?
実質賃金指数の前年比(月次なら前年同月比)がマイナスになった状態です。毎月勤労統計調査の実質賃金指数は名目賃金指数を消費者物価指数で割ったものなので、名目賃金指数の伸びが消費者物価指数の伸びを下回ると、前年比はマイナスになります。
2つの実質賃金は、どちらを見ればよいですか?
厚生労働省は、毎月勤労統計調査の2つの系列を、用途に応じて選べるように公表していると説明しています。賃金の購買力を見る場合は「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化した系列、アメリカ・イギリス・ドイツなどとの国際比較は「総合」で実質化した系列が挙げられています。
実質賃金は、手取りの増減を表しますか?
表しません。毎月勤労統計調査の現金給与額は、所得税や社会保険料などを差し引く前の金額です。同調査の実質賃金指数は、その差し引く前の額の指数を消費者物価指数で割ったものです。
出典
厚生労働省の毎月勤労統計調査の公表資料で確認して作成。確認日:2026年10月12日。
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査の実質賃金について」
- 厚生労働省「具体的な利用場面での注意点」(毎月勤労統計調査の実質賃金の利用上の注意)
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」(2026年2月25日公表)
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026(令和8)年8月分結果速報」(2026年10月7日公表)
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査における賃金の伸び率について」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は社会保険労務士などの専門家にご確認ください。