給与所得控除 — 令和8年・令和9年分は最低74万円(収入額が上限)。本則の69万円と5万円ずれている
結論から言うと、給与所得控除は給与をもらう人の「経費」の代わりに、収入金額に応じて法律が決めた額を差し引く仕組みです。領収書は要りません。令和8年分と令和9年分は、収入が74万円以上220万円以下なら74万円です(74万円未満なら控除額は収入金額と同額)。
この74万円は2年限りの特例です。令和8年度税制改正で所得税法の本則のうち収入360万円以下の区分(28条3項1号)が「8万円+収入金額×30%(69万円に満たない場合は69万円)」に組み替えられた一方、租税特別措置法29条の4第1項が令和8年・令和9年に限って収入220万円以下の控除額を74万円(収入74万円未満は収入額)に置き換えています。つまり本則の最低保障額69万円と5万円ずれており、現行法のままなら令和10年分からは最低保障額が69万円になります。ただし同じ改正の附則101条は、令和10年分以後の給与所得控除の最低保障額を、2年ごとに物価の変化率を基準として見直すことを基本とする、としています。現行法のままなら、収入69万円超220万円未満の人の控除額は、2年後に下がる方向で変わるということです。
そしてもうひとつ、令和8年分・令和9年分の特定支出控除前の給与所得の金額には、速算表だけでは答えが出ない帯が2つあります。収入69万1,000円以上220万円未満は「控除額」ではなく特定支出控除前の給与所得の金額そのものが5区分で決まり、収入220万円以上660万円未満の特定支出控除前の給与所得は所得税法別表第五の4,000円刻みの表で求めます(いずれも令和8年分・令和9年分)。この記事では、年分別の速算表、2つの例外帯、毎月の源泉徴収との関係、住民税への流れ方までを条文と国税庁の資料で確認します。
令和8年分・令和9年分の速算表 — 収入74万円以上220万円以下は74万円
給与所得の金額は、所得税法28条2項が「その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額」と定めています(ただし収入660万円未満は同条4項の別表第五、令和8・9年分の69万1,000円以上220万円未満は措置法29条の4第2項の金額によります。特定支出控除を適用する居住者は、所得税法57条の2・措置法29条の4第3項による追加控除があります)。引く額は収入金額で決まります。令和8年分・令和9年分の控除額は次のとおりです。
| 給与等の収入金額(源泉徴収票の支払金額。同じ年分の票が2枚以上なら重複を除いて合計。前職分通算済みの現職票に前職票を足さない) | 給与所得控除額 |
|---|---|
| 2,200,000円まで | 740,000円(収入が74万円未満なら収入金額) |
| 2,200,001円から 3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
| 3,600,001円から 6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
| 6,600,001円から 8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
| 8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
220万円のところで段差がないのが、この表の設計です。令和8・9年分の220万円ちょうどは特例で74万円、220万1円は「収入金額×30%+8万円」で計算しますが、220万円に本則の式を当てると 220万円×30%+8万円 = 74万円 で一致します。360万円・660万円・850万円の各境目も同じように連続しています(360万円なら 8万+108万 = 116万円、660万円なら 116万+60万 = 176万円、850万円なら 176万+19万 = 195万円)。控除額の算式そのものには段差がありません。ただし後述のとおり、令和8・9年分は、収入220万円以上660万円未満は別表第五の4,000円刻み、収入219万1,000円以上220万円未満は措置法29条の4第2項3号〜5号の3段で特定支出控除前の給与所得が決まるので(69万1,000円以上219万1,000円未満は同項1号・2号で0円または収入−74万円、69万1,000円未満は別表第五の0円の行。ただし74万1,000円の境目では0円から1,000円へ上がります)、その帯の境目では年収が1円増えると特定支出控除前の給与所得(基本額)が数千円上がります(別表第五の360万円以下の帯では2,800円、360万円超の帯では3,200円、措置法の3段では219万3,000円で2,000円・219万6,000円で3,000円・220万円で4,000円。例: 年収2,999,999円の特定支出控除前の給与所得2,017,200円に対し、3,000,000円は2,020,000円)。段差があるのは控除額の算式ではなく、この表のほうです。
令和8・9年分の収入金額が74万円に満たない場合は、控除額もその収入金額までです(措置法29条の4第1項のかっこ書き)。控除額が収入を超えてマイナスの所得になることはありません。
令和8年分の特定支出控除前・所得金額調整控除前の給与所得を年収別に当てはめると次のようになります。給与所得の列は、別表第五で求める250万円〜600万円の行では、後述する別表第五の帯の起点に当たる年収(4,000円で割り切れる額)を選んであります(150万円・200万円の行は措置法29条の4第2項2号、700万円以上の行は速算表で求めた額です)。
| 給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | 給与所得の金額(特定支出控除前・所得金額調整控除前) | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1,500,000円 | 740,000円 | 760,000円 | 措置法29条の4第2項2号 |
| 2,000,000円 | 740,000円 | 1,260,000円 | 措置法29条の4第2項2号 |
| 2,500,000円 | 830,000円 | 1,670,000円 | 別表第五 |
| 3,000,000円 | 980,000円 | 2,020,000円 | 別表第五 |
| 4,000,000円 | 1,240,000円 | 2,760,000円 | 別表第五 |
| 5,000,000円 | 1,440,000円 | 3,560,000円 | 別表第五 |
| 6,000,000円 | 1,640,000円 | 4,360,000円 | 別表第五 |
| 7,000,000円 | 1,800,000円 | 5,200,000円 | 速算表 |
| 8,500,000円 | 1,950,000円 | 6,550,000円 | 速算表 |
| 10,000,000円 | 1,950,000円 | 8,050,000円 | 速算表 |
年収850万円を超えると控除額は195万円で頭打ちです。ただし年収850万円超で、本人が特別障害者、23歳未満の扶養親族がいる、特別障害者の同一生計配偶者または扶養親族がいる、のいずれかに当たる人は、ここから所得金額調整控除をさらに差し引けます(この表には含めていません)。
源泉徴収票の②「給与所得控除後の金額(調整控除後)」を計算機で出す最低保障額は年分で3回変わる — 55万円・65万円・74万円、そして現行法では69万円
給与所得控除でいちばん事故が起きるのが、何年分の表を見ているかです。令和2年分以後でも最低保障額(控除額の下限。収入がそれに満たなければ収入額まで)は2回変わっており、現行法では令和10年分からもう一度変わります(附則101条で2年ごとの見直しが基本とされています)。
| 年分 | 最低保障額 | その額になる収入の上限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 令和2年分〜令和6年分 | 55万円 | 162万5,000円 | 当時の所得税法28条3項1号(収入金額×40%−10万円、55万円に満たない場合は55万円) |
| 令和7年分 | 65万円 | 190万円 | 国税庁 No.1410「令和7年分」の表 |
| 令和8年分・令和9年分 | 74万円(収入74万円未満は収入額) | 220万円 | 租税特別措置法29条の4第1項 |
| 令和10年分以後 | 69万円(現行法) | —(8万円+収入金額×30%が69万円を下回る範囲) | 所得税法28条3項1号(令和8年法律第12号附則101条で、物価の変化率を基準に見直すことが基本とされている) |
注目してほしいのはいちばん下の行です。令和10年分からは特例が切れ、現行法では本則の最低保障額69万円が適用されます(附則101条により、令和10年分以後の最低保障額は2年ごとに物価の変化率を基準として見直すことが基本とされています)。本則の1号は「8万円と当該収入金額の百分の三十に相当する金額との合計額(当該合計額が六十九万円に満たない場合には、六十九万円)」なので、69万円の保障が効くのは収入が約196万6,667円まで(整数円では1,966,666円以下)の範囲です。令和8年・令和9年分と現行法の令和10年分を比べると、収入74万円以上1,966,666円以下では控除額が5万円下がります。1,966,667円以上220万円未満では本則の式のほうが69万円を上回るので、下がり幅は5万円より小さくなります(収入200万円なら74万円→70万円で4万円、210万円なら74万円→71万円で3万円、220万円ちょうどは74万円のままで減少0円)。これは控除額の算式上の比較で、給与所得を求める別表第五の2,026,000円という境界とは別です。
特例が2年限りであることは、条文の冒頭に書いてある
措置法29条の4第1項は「令和八年又は令和九年において」という書き出しです。年分を限定する語が条文の先頭にあるので、この条を見つけたら必ず最初の一句まで読んでください。条番号だけを控えておくと危険で、同じ29条の4は令和8年11月30日まで「退職勤労者が弁済を受ける未払賃金に係る課税の特例」という別の制度でした。条番号は使い回されます。
令和8・9年分は収入69万1,000円以上220万円未満の「特定支出控除前の給与所得」が直接決まる
措置法29条の4は第1項で控除額を74万円(令和8・9年分の収入220万円以下。74万円未満は収入額)にしたうえで、第2項で別のことを定めています。控除額ではなく、給与所得の金額そのものを5つの区分で指定しています。
令和八年又は令和九年において、その年中の給与等の収入金額が六十九万千円以上二百二十万円未満である場合には、当該給与等に係る給与所得の金額については、前項及び所得税法第二十八条第二項から第四項までの規定にかかわらず、次に定めるところによる。
「前項……の規定にかかわらず」とあるので、この帯に入る人は第1項の74万円の引き算よりも第2項が優先します。区分は次の5つです。
| 給与等の収入金額 | その給与等に係る給与所得の金額(特定支出控除前) |
|---|---|
| 69万1,000円以上 74万1,000円未満 | なし(0円) |
| 74万1,000円以上 219万1,000円未満 | その収入金額 − 74万円 |
| 219万1,000円以上 219万3,000円未満 | 145万1,000円 |
| 219万3,000円以上 219万6,000円未満 | 145万3,000円 |
| 219万6,000円以上 220万円未満 | 145万6,000円 |
1区分目が実務で効きます。令和8・9年分の特定支出控除前の計算では、収入74万円ちょうどから74万1,000円未満の人は、第1項だけを読むと給与所得が0円から1,000円未満の端数として残りそうに見えますが、第2項1号が「ないものとする」と定めているので0円です。収入が69万1,000円に届かない人は第2項の対象外ですが、所得税法28条4項により別表第五で給与所得の金額を求めることになり、改正後の別表第五の最初の行は「691,000円未満 → 0」です(第1項のかっこ書きで控除額が収入金額と同額になることとも一致します。国税庁の令和8年分の年末調整用の表は第2項を織り込んで「741,000円未満 → 0」としています)。結果として、令和8年分・令和9年分は収入74万1,000円未満なら特定支出控除前の給与所得は0円です。
令和8・9年分の特定支出控除前の計算では、3〜5区分目は、219万1,000円以上219万3,000円未満(幅2,000円)・219万3,000円以上219万6,000円未満(幅3,000円)・219万6,000円以上220万円未満(幅4,000円)のそれぞれの帯の中なら、収入が違っても給与所得が同じ額に固定される帯です。令和8・9年分の219万1,000円の人も219万2,999円の人も、特定支出控除前の給与所得は145万1,000円で同じになります。
令和8・9年の所得税法190条に規定する居住者について、年内に支払うべきことが確定した給与等が69万1,000円以上220万円未満の場合、この5区分は、年末調整のための「給与所得控除後の給与等の金額」にも同じように効きます(令和8年分は令和8年12月1日以後に行う年末調整が対象で、令和8年11月30日以前に最後の給与で年末調整を受けた人の年末調整には改正後の控除が適用されていないため、改正後の控除を受けるには確定申告が必要ですが、令和8年11月30日以前に準確定申告書(年の中途で死亡・出国した場合の確定申告書で、この「出国」は納税管理人の選任届出をしないで国内に住所等を有しないこととなることをいい、選任届出をしてから国内に住所等を有しないこととなった人はこの準確定申告ができず通常の確定申告と同様の方法による)を提出済みの人は、同年12月1日から令和13年12月1日までの更正の請求(その申告の法定申告期限前なら訂正申告書の提出で、国内に住所・居所がない間に更正の請求をするなら納税管理人の選任届出書を出して納税管理人を選任する必要がある)で改正後の控除の適用を受けます)。令和8・9年に限り措置法29条の4第4項が、所得税法190条2号の規定(別表第五を含む)にかかわらず第2項の金額とする、と定めているためです(同項は令和8年12月1日施行の改正後の条文で、早期に年末調整を受けた人の扱いは前の括弧のとおりです)。源泉徴収票の書き方と②欄の計算はこの帯を織り込んであります。
収入220万円以上660万円未満は、速算表で引いた答えと合わないことがある
所得税法28条4項は、収入金額が660万円未満の場合は前2項の規定にかかわらず別表第五で給与所得の金額を求める、と定めています(令和8年分・令和9年分の69万1,000円以上220万円未満は、前の節の措置法29条の4第2項が優先します)。改正後の別表第五は、691,000円以上2,026,000円未満が「給与等の金額から690,000円を控除した金額」という算式の行で、その上は2,026,000円から2,028,000円の2,000円幅の行を経て660万円未満まで4,000円刻みの帯になり、各帯の起点の額で所得税法28条3項(本則・最低保障69万円)により計算した値が載っています(例: 2,028,000円以上2,032,000円未満は、起点の8万円+2,028,000円×30%=688,400円が69万円に満たないので控除額69万円、給与所得1,338,000円)。令和8・9年分は220万円未満に措置法の74万円と第2項の5区分が優先するので、この記事の令和8・9年分の速算表で起点を計算して表と一致するのは220万円以上660万円未満の帯です。660万円以上は算式に戻り、特定支出控除前・所得金額調整控除前の給与所得の金額は、660万円以上850万円未満は収入×90%−110万円、850万円以上2,000万円未満は収入−195万円、2,000万円ちょうどは1,805万円です(660万円以上の居住者は1円未満切捨てで、特定支出控除の適用を受ける人や、年収850万円超で所得金額調整控除の対象になる人(本人が特別障害者、または年齢23歳未満の扶養親族・特別障害者である同一生計配偶者・特別障害者である扶養親族を有する人)は、この額からさらにその控除額を差し引きます)。
特定支出控除前・所得金額調整控除前の具体例で見ます。令和8年分、年収299万9,000円の人です。
- 速算表で手計算すると:控除額 = 2,999,000円×30%+80,000円 = 979,700円 → 特定支出控除前の給与所得 2,019,300円
- 別表第五では:2,996,000円以上3,000,000円未満の帯に入るので特定支出控除前の給与所得は 2,017,200円(=2,996,000円 − 978,800円)
2,100円の差が出ます。速算表が間違っているのではなく、法律が表のほうを正としているのがこの差の正体です。令和8・9年分の特定支出控除前・所得金額調整控除前の計算で、220万円以上660万円未満で年収が帯の起点にぴったり当たる人(4,000円で割り切れる年収の人)は両者が一致します。
この表そのものは源泉徴収票の書き方のツールが内蔵しているので、ここでは再掲しません。令和8年12月1日以後に行う令和8年分の年末調整で使う「令和8年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」は、220万円以上の帯は別表第五と同じですが、220万円未満は措置法29条の4第2項の5区分を織り込んだ表になっています。
令和8年の毎月の給与では、まだ引かれていない
「令和8・9年分は給与所得控除の最低保障額が74万円(収入額が上限、収入220万円以下)になったのに、毎月の給与明細の所得税が変わらない」という質問が出ます。これは正常です。国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」は、令和8年の源泉徴収事務についてこう書いています。
令和8年11月までの給与等の源泉徴収事務に変更は生じません。
令和8年度税制改正のうち基礎控除の引上げ等(給与所得控除の最低保障額の引上げを含む)は原則として令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税について適用されます。施行日が年の途中に置かれているため、月々の源泉徴収は改正前の源泉徴収税額表のまま行い、12月の年末調整で1年分をまとめて精算するという組み立てになっています(令和8年11月30日以前に令和8年分の最後の給与を受け、そのときに年末調整を受けた人(年の中途で非居住者となった人・死亡により退職した人・年末までに復職しない休職者など)や、年の中途で退職して年末調整を受けない人は、改正後の控除を受けるには確定申告が必要で、令和8年11月30日以前に準確定申告書(年の中途で死亡・出国した場合の確定申告書で、この「出国」は納税管理人の選任届出をしないで国内に住所等を有しないこととなることをいい、選任届出をしてから国内に住所等を有しないこととなった人はこの準確定申告ができず通常の確定申告と同様の方法による)を提出済みの人は、同年12月1日から令和13年12月1日までの更正の請求(その申告の法定申告期限前なら訂正申告書の提出で、国内に住所・居所がない間に更正の請求をするなら納税管理人の選任届出書を出して納税管理人を選任する必要がある)で改正後の控除の適用を受けます)。同じ資料は、令和8年12月に行う年末調整の際に引き上げ後の基礎控除額と改正後の「令和8年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」で1年間の税額を計算し、改正前の源泉徴収税額表で計算した源泉徴収税額と精算する、と説明しています(11月30日以前に最後の給与で年末調整を受けた人の年末調整には、改正後の控除は適用されていません)。
月額表・日額表そのものが差し替わるのは、その次の年です。同じ資料は「基礎控除額の引上げ及び給与所得控除の最低保障額の引上げに伴い、令和9年分以後の『源泉徴収税額表』が改正されました」と書いています。令和8年は旧表で毎月引き、12月に精算(11月30日以前に最後の給与で年末調整を受けた人や年末調整を受けない人は改正後の控除を受けるために確定申告。令和8年11月30日以前に準確定申告書(年の中途の死亡・出国による確定申告書で、「出国」は納税管理人の選任届出をしないで国内に住所等を有しないこととなることをいい、選任届出をしてから国内に住所等を有しないこととなった人は通常の確定申告と同様の方法による)を提出済みなら、改正後の控除は令和8年12月1日から令和13年12月1日までの更正の請求で、その申告の法定申告期限前なら訂正申告書の提出で受ける(国内に住所・居所がない間に更正の請求をするなら、納税管理人の選任届出書を出して納税管理人を選任する必要がある)。源泉徴収税額0円なら還付なし)。令和9年は新表で毎月引く。この違いを押さえておくと、令和8年12月1日以後の年末調整で改正後の控除が効き、精算する源泉徴収税額がある人の12月の還付額が例年より大きくなることがある理由も説明できます。
同一年分なら勤め先が2か所でも、給与所得控除は1回だけ
同一年分の副業やダブルワークで給与が2か所から出ている場合、勤め先ごとに給与所得控除を引くのではありません。所得税法28条2項が「その年中の給与等の収入金額」と定めているとおり、1年分の給与を合計してから1回だけ引きます。国税庁タックスアンサーNo.1410も注書きで同じことを書いています(ただし前職分を通算して年末調整した現職の票は前職分を含むので、その票に前職の票を足しません)。
No.1410の注4は「同一年分の給与所得の源泉徴収票が2枚以上ある場合には、それらの支払金額の合計額により上記の表を適用してください」としていますが、前職分を通算して年末調整した現職の票は支払金額に前職の給与を含む(法定調書の手引の支払金額欄)ので、その票に前職の票を重ねて足さずに合計します。
令和8年分・同一年分の特定支出控除前・所得金額調整控除前の設例で差を見ます。A社から年150万円、B社から年150万円、合計300万円の人の場合です。
- 誤り:各社で74万円ずつ引いて 150万−74万 + 150万−74万 = 給与所得152万円
- 正しい:合計300万円で1回だけ引いて 300万−98万 = 給与所得202万円
50万円の違いです。年の途中で転職した人も同じで、前職分を通算していない場合は前職と現職の支払金額を合計して1回だけ引きます。前職分を通算して年末調整した現職の票は前職分を含むため、前職の票を足しません(前職分を含めて年末調整する場合は、前職の源泉徴収票を現職へ提出します)。収入・所得・課税所得がどこで分かれるかは収入と所得の違いで整理しています。
住民税にも給与所得控除は流れる。基礎控除は流れない
所得税の改正が住民税にどう及ぶかは、制度ごとに違います。給与所得控除は流れ、基礎控除は流れません。理由は地方税法の作りにあります。
所得割の課税標準について、地方税法32条2項(道府県民税)と313条2項(市町村民税)は同じ文を置いています。
前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例により算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。
給与所得の金額を出す計算は、地方税法又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除き「所得税法その他の所得税に関する法令」による計算の例によるので、所得税法28条の給与所得控除は、特別の定めがない限り住民税の総所得金額にも使われます。住民税の最低保障額を令和9年度分・令和10年度分に限って74万円とすることは、令和8年度税制改正の大綱で地方税の改正項目として別に置かれています(65万円を69万円に引き上げたうえで、5万円引き上げる)。一方、所得控除は地方税法が自前の規定を持っています。市町村民税の基礎控除は地方税法314条の2第2項1号で、前年の合計所得金額が2,400万円以下の人は「四十三万円」です(2,400万円超は段階的に減ります)。所得税の基礎控除が62万円(居住者で合計所得金額2,350万円以下の場合。措置法41条の16の2の加算を含めると、令和8・9年分で居住者の合計所得金額489万円以下なら104万円)に引き上げられても、住民税の基礎控除は43万円(前年の合計所得金額2,400万円以下の場合)のままです。
いつの年度から反映されるかは、地方税法32条1項の「所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額……とする」で決まります。令和8年分の所得に対する住民税は令和9年度分なので、給与所得控除の最低保障額74万円(収入74万円未満は収入額、収入220万円以下)が住民税に効くのは令和9年度分と令和10年度分の2年度です。令和8年度分の住民税は令和7年分の所得で計算されているため、給与所得控除の最低保障額は65万円(収入65万円未満は収入額、収入190万円以下)のままです。
間違えやすい5つのところ
1. タックスアンサーの「現在法令等」の日付を見ないで読む。 国税庁のタックスアンサーは冒頭に基準日が書かれています。No.1410は令和8年4月1日現在法令等で、令和8年分・令和9年分の74万円まで反映されています。一方、同じ年の「源泉徴収のあらまし」など公表時点の法令で書かれた資料には、改正前の「190万円以下は65万円」が載っていることがあります。同じ国税庁の資料でも基準日が違えば中身が違います。
2. 給与所得控除と所得控除を同じものだと思う。 給与所得控除は収入から引いて「所得」を出すものです。基礎控除・社会保険料控除・生命保険料控除などの所得控除は、その後の「所得」から引いて課税所得を出すものです。引く段階が違うので、各所得控除の要件を満たす場合は併用できます(基礎控除は合計所得金額2,500万円以下の居住者に限ります)。
3. 支払金額の中身を確かめない。 速算表の「給与等の収入金額」は源泉徴収票の支払金額です(同じ年分の票が2枚以上なら合計。前職分を通算した票と前職の票は足さない)。通勤手当のうち通常必要と認められる部分として政令で定めるものは所得税法9条1項5号で非課税なので、この支払金額には入りません。通勤手当の非課税限度額を超えた部分は課税されるので支払金額に入ります。
4. 実費が多いから経費を増やそうとする。 給与所得控除は領収書で金額が動く仕組みではありません。居住者が実費で上積みできるのは特定支出控除だけで、特定支出の合計が給与所得控除額の2分の1を超える部分に限られ、確定申告書(修正申告書・更正請求書でも可)に適用を受ける旨と特定支出の合計額を記載し、各特定支出の明細書と給与の支払者の証明書(研修費・資格取得費のうち教育訓練に係る部分はキャリアコンサルタントの証明でも可)を添付し、支出の事実・金額を証する書類も添付又は提出時に提示する必要があります(給与の支払者が非課税で補塡した部分と、教育訓練給付金・母子家庭自立支援教育訓練給付金・父子家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分は特定支出に入らず、図書費・衣服費・交際費等は合計65万円が上限です)。
5. 給与と副業の両方がある人が、給与所得控除で副業の経費も見たつもりになる。 給与所得控除が引けるのは給与所得の計算だけです。事業所得・雑所得(公的年金等に係る雑所得を除く)は、家内労働者等の必要経費の特例が適用される場合を除き、実際の必要経費で計算します。ただし家内労働者等に当たる人には必要経費の別の最低保障があり、令和8年分以後は69万円(給与所得を有する場合は69万円から給与所得控除額を引いた残額)です(事業所得・雑所得(公的年金等に係る雑所得を除く)の総収入金額が限度なので、この特例で損失は作れません)。給与もある人はこの最低保障額が「69万円 − 給与所得控除額」になるため、令和8年分以後の給与の収入金額が69万円以上ある人はこの特例の枠が残りません(家内労働者等の必要経費の特例)。
まとめ
- 令和8年分・令和9年分の給与所得控除は、収入74万円以上220万円以下なら74万円(74万円未満は収入金額。措置法29条の4第1項)。
- 74万円は2年限りの特例で、所得税法の本則の最低保障額は69万円(改正前は65万円)。現行法では令和10年分から69万円(附則101条で物価に応じた見直しが予定)。
- 令和8年分・令和9年分は、収入69万1,000円以上220万円未満は控除額ではなく給与所得の金額が5区分で直接決まり、収入74万1,000円未満は給与所得0円(特定支出控除を受ける人は措置法29条の4第3項の読替えで別の計算)。
- 令和8年分・令和9年分の収入220万円以上660万円未満は速算表ではなく別表第五(4,000円刻み)で特定支出控除前の給与所得を求めるため、手計算と数千円ずれることがある。
- 令和8年11月までの源泉徴収事務に変更はなく、12月の年末調整で精算する(11月30日以前に最後の給与で年末調整を受けた人や年末調整を受けない人は改正後の控除を受けるために確定申告で精算。令和8年11月30日以前に準確定申告書(年の中途の死亡・出国による確定申告書で、「出国」は納税管理人の選任届出をしないで国内に住所等を有しないこととなることをいい、選任届出をしてから国内に住所等を有しないこととなった人は通常の確定申告と同様の方法による)を提出済みなら、改正後の控除は令和8年12月1日から令和13年12月1日までの更正の請求で、その申告の法定申告期限前なら訂正申告書の提出で受ける(国内に住所・居所がない間に更正の請求をするなら、納税管理人の選任届出書を出して納税管理人を選任する必要がある)。源泉徴収税額0円なら還付なし)。源泉徴収税額表が変わるのは令和9年分以後。
- 同一年分の給与なら勤め先が2か所以上でも、前職通算分の重複を除いた支払金額を合計してから1回だけ引く。
- 住民税の総所得金額にも給与所得控除が使われ、最低保障額は令和9年度分・令和10年度分の2年度だけ74万円。住民税の基礎控除は43万円のまま(前年の合計所得金額2,400万円以下の場合)。
よくある質問
給与所得控除を受けるために、何か手続きは要りますか?
給与所得控除のための専用の申請は要りません(令和8年分に早期の年末調整を受けた人などが改正後の控除を受けるための確定申告は別で、この回答の最後に書きます)。所得税法28条2項が給与所得の金額を「その年中の給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額」と定めているので、給与所得を計算する時点で自動的に差し引かれます。年末調整でも確定申告でも、申告書に控除額を書く欄はありません。居住者が特定支出控除を受ける場合(対象となる特定支出の合計が給与所得控除額の2分の1を超えるとき)は、確定申告書(修正申告書・更正請求書でも可)に適用を受ける旨と特定支出の合計額を記載し、各特定支出の明細書と証明書を添付し、支出の事実・金額を証する書類を添付又は提出時に提示する必要があります(対象支出・証明者・除外給付・65万円上限は本文「4.」参照)。また令和8年分は、令和8年11月30日以前に最後の給与で年末調整を受けた人(年の中途で非居住者となった人・死亡により退職した人・年末までに復職しない休職者)や、年の中途で退職して年末調整を受けていない人は、改正後の控除の適用を受けるには確定申告が必要です(源泉徴収税額0円なら還付はなく、令和8年11月30日以前に準確定申告書(年の中途で死亡・出国した場合の確定申告書で、この「出国」は納税管理人の選任届出をしないで国内に住所等を有しないこととなることをいい、選任届出をしてから国内に住所等を有しないこととなった人はこの準確定申告ができず通常の確定申告と同様の方法による)を提出済みの人は、同年12月1日から令和13年12月1日までの更正の請求(その申告の法定申告期限前なら訂正申告書の提出で、国内に住所・居所がない間に更正の請求をするなら納税管理人の選任届出書を出して納税管理人を選任する必要がある)で改正後の控除の適用を受けます)。
パート・アルバイトでも給与所得控除は引けますか?
引けます。給与所得控除は雇用形態ではなく、所得税法28条1項の給与等(俸給、給料、賃金、歳費、賞与およびこれらの性質を有する給与)に係る所得かどうかで決まります。令和8年分・令和9年分は、収入が74万1,000円未満なら特定支出控除前の給与所得は0円になります。業務委託で受け取る報酬も、給与等(給料・賃金などの性質を有する給与)に当たらなければ給与所得控除の対象外です。
令和8・9年分の同じ収入額について、特定支出控除前・所得金額調整控除前の速算額と会社の源泉徴収票の金額が数千円ずれています。間違いですか?
令和8年分・令和9年分の収入金額が220万円以上660万円未満では、特定支出控除前・所得金額調整控除前の別表第五の基本額と速算額を比較し、該当行と照合して一致する給与所得と速算との差に限り、制度によるずれと確認できます。差が数千円以内というだけでは正しいと判断できません(年収300万円では表も速算も202万円なので、表による差はありません)。特定支出控除前の計算では、所得税法28条4項により、660万円未満は速算表ではなく所得税法別表第五で給与所得の金額を求めるためです(69万1,000円以上220万円未満は措置法29条の4第2項の5区分が優先し、74万1,000円以上219万1,000円未満は収入−74万円なので速算表の計算とずれません)。220万円以上660万円未満の別表第五は4,000円刻みの帯で、帯の起点の額で計算した値が載っているため、帯の途中の年収では速算表の計算結果より小さい給与所得になります。220万円以上660万円未満の特定支出控除前・所得金額調整控除前の計算で年収が4,000円で割り切れる人は一致します。令和8・9年分の特定支出控除前の計算では、74万円超74万1,000円未満では給与所得は0円なので、収入−74万円という速算との差は最大999円になります。こうした表の差を超える大きな差や、収入74万1,000円以上219万1,000円未満での差があるときは別の原因が考えられるので、勤務先の給与計算の担当部署に確認してください。
令和10年分から給与所得控除の最低保障額が下がるというのは本当ですか?
現行法のままなら、最低保障額は下がります。74万円は租税特別措置法29条の4第1項による令和8年・令和9年限りの特例で、所得税法28条3項1号の本則は「八万円と当該収入金額の百分の三十に相当する金額との合計額(当該合計額が六十九万円に満たない場合には、六十九万円)」です。現行法のままなら、令和10年分以後は本則が適用され、低い収入帯の最低保障は69万円になります。ただし改正法の附則101条は、令和10年分以後の給与所得控除の最低保障額を2年ごとに物価の変化率を基準として見直すことを基本とする、としています。収入220万円を超える帯の控除額は今回の改正では変わっていません。
給与所得控除と基礎控除は、どちらか一方しか使えないのですか?
両方使えます(基礎控除は合計所得金額2,500万円以下の居住者に限ります)。引く順番と引く相手が違うためです。給与所得控除は収入金額から引いて給与所得を出すもの、基礎控除は所得から引いて課税所得を出す所得控除です。令和8年分・令和9年分は、給与所得控除の最低保障74万円と、合計所得金額489万円以下の人の基礎控除104万円(居住者の場合。所得税法86条の62万円+租税特別措置法41条の16の2の加算42万円)が重なるため、給与だけの人が所得税の課税対象になり始める収入は上がりました。
2か所から給与をもらっています。給与所得控除は2回引けますか?
引けません。所得税法28条2項は「その年中の給与等の収入金額」から引くと定めており、国税庁タックスアンサーNo.1410も、同一年分の源泉徴収票が2枚以上ある場合はそれらの支払金額の合計額で表を当てはめるよう案内していますが、前職分通算済みの現職票には前職分が含まれるので、前職票を重ねて足しません。合計してから1回だけ引きます。
源泉徴収票のどこを見れば、給与所得控除が引かれた後の金額が分かりますか?
「給与所得控除後の金額(調整控除後)」の欄です。支払金額の右隣にあり、年末調整をした受給者についてのみ記載されます。令和8年分は、令和8年12月1日以後に年末調整をした場合、「令和8年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」で求めた金額(220万円以上660万円未満は別表第五と同じ帯の値、69万1,000円以上220万円未満は措置法29条の4第2項の5区分を織り込んだ値で、手計算と数千円ずれることがあります)が入り、所得金額調整控除の適用がある人は、この表で求めた金額から所得金額調整控除の額を1回だけ差し引いた後の金額が入ります。令和8年11月30日以前に最後の給与で年末調整をした人の票は、改正後の控除が適用されていない金額です。年末調整をしていない場合は、この欄の記載対象外です。欄ごとの読み方は源泉徴収票の見方で扱っています。
出典
所得税法・租税特別措置法・地方税法の条文と、国税庁の令和8年分の資料の原文を読んで作成(2026年10月3日取得)
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「租税特別措置法」(昭和32年法律第26号) — 29条の4(給与所得控除の最低控除額等の特例)1項・2項・4項。令和8年12月1日施行版(法令改正版ID 332AC0000000026_20261201_508AC0000000012)https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「所得税法」(昭和40年法律第33号) — 9条1項5号(非課税所得・通勤手当)、28条(給与所得)1項〜4項。令和8年12月1日施行版(法令改正版ID 340AC0000000033_20261201_508AC0000000012)https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「地方税法」(昭和25年法律第226号) — 32条(所得割の課税標準)1項・2項、313条2項、314条の2(所得控除)2項1号https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
- 国税庁「No.1410 給与所得控除」[令和8年4月1日現在法令等] — 令和8年分・令和9年分、令和7年分、令和2年分から令和6年分の各表と注1〜注4https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
- 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」 — 「昨年と比べて変わった点」⑵給与所得控除の最低保障額の引上げ(イ・ロ・ハ)、【令和8年の給与等の源泉徴収事務における留意事項】、47〜54ページ「令和8年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/pdf/nencho_all.pdf
この記事は一般的な情報提供であり、個別の方の税額や申告についての助言ではありません。給与所得控除は給与所得の金額の計算に用いるもので、事業所得・雑所得の必要経費とは別の仕組みです(家内労働者等の必要経費の特例(令和8年分以後の最低保障額69万円)は、事業所得・雑所得の必要経費の合計がその最低保障額に満たない場合に限り、事業所得・雑所得(公的年金等に係るものを除く)の総収入金額を限度として適用され、給与所得を有する場合は69万円から給与所得控除額を差し引いた残額が最低保障額になります)。本文の金額はすべて理解のための設例で、所得金額調整控除・特定支出控除・給与以外の所得・各種の所得控除は織り込んでいません。実際の年末調整・確定申告については、勤務先の担当部署または税理士にご確認ください。