利益剰余金とは?内訳・配当と積立ての仕訳・現預金との違い
利益剰余金は、会社が得た利益のうち、配当などで社外に出さずに残してきた部分を示す純資産の項目です。現預金の残高ではないため、利益剰余金が多くても、その額をそのまま支払えるとは限りません。
株式会社の個別貸借対照表では、利益剰余金を「利益準備金」と「その他利益剰余金」に分けます。繰越利益剰余金は、その他利益剰余金の内訳です。配当の仕訳では、この内訳の振替と、会社の外へ出る配当を分けて確認します。
利益剰余金の内訳を早見表で確認する
「利益剰余金」と「繰越利益剰余金」は、同じ残高を指す名前ではありません。株式会社の個別貸借対照表では、次のように全体と内訳の関係になります。
| 項目 | どこに含まれるか | 内容・見方 |
|---|---|---|
| 利益剰余金 | 純資産の部の株主資本 | 利益準備金とその他利益剰余金の合計 |
| 利益準備金 | 利益剰余金 | 利益から法令に従って積み立てる準備金 |
| その他利益剰余金 | 利益剰余金 | 任意積立金と繰越利益剰余金などの内訳を持つ |
| 任意積立金 | その他利益剰余金 | 決議により設定した別途積立金など |
| 繰越利益剰余金 | その他利益剰余金 | 任意積立金などの科目で表示する部分以外の残高 |
区分の根拠は会社計算規則第76条です。繰越利益剰余金という表示名は、企業会計基準「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」でも定められています。この記事は株式会社の個別会計を対象とし、連結決算や持分会社の仕訳は扱いません。
資本剰余金との違い
利益剰余金は利益を源泉とする区分です。これに対し、株主の払込みのうち資本金にしなかった額などは資本剰余金に区分します。同じ純資産でも、出資による部分と利益を留保した部分を分けて読みます。
減資で生じる剰余金も、減少の法的効力が発生したときにその他資本剰余金に計上するもので、減資しただけで当期の利益が増えるわけではありません。資本金の増減と手続は減資の記事、決算書全体の位置は貸借対照表の見方で確認できます。
何をすると増え、何をすると減るか
利益剰余金全体が動く取引と、内訳だけが動く取引を区別します。主な例を並べると次のとおりです。
| 取引の例 | 繰越利益剰余金 | 利益剰余金の合計 |
|---|---|---|
| 当期純利益の振替 | 増える | 増える |
| 当期純損失の振替 | 減る | 減る |
| 繰越利益剰余金からの金銭配当 | 配当額と利益準備金の積立額だけ減る | 配当額だけ減る |
| 繰越利益剰余金から別途積立金へ振替 | 減る | 変わらない |
| 別途積立金を繰越利益剰余金へ戻す | 増える | 変わらない |
利益準備金や別途積立金へ振り替えても、利益剰余金の内訳が変わるだけです。積立てを費用にして利益を減らしたり、積み立てた分を利益剰余金の合計からもう一度引いたりしません。
当期純利益・当期純損失によるその他利益剰余金の増減は、会社計算規則第29条に定められています。合併や遡及修正、資本金への組入れなどがある会社では、上の取引以外の増減も確認します。
配当・積立ての仕訳と増減の設例
仕訳では、利益の振替、配当の計上、準備金の積立て、実際の支払を分けます。次の架空の株式会社の設例で、借方・貸方と利益剰余金の増減を確認します。
以下は当期中の取引をまとめた設例です。配当と別途積立金への振替は、必要な決議を経たものとします。この設例の配当日の資本金は1,000万円、資本準備金は0円、配当前の利益準備金は10万円。その他利益剰余金のみを原資とする金銭配当で、分配可能額を別途確認済みと仮定します。金額は万円単位で端数は生じません。支払行は源泉徴収の預り・振込手数料を省いた総額表示で、実際の振込額を示すものではありません。
| 設例の取引 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 当期純利益の振替 | 損益 60万円 | 繰越利益剰余金 60万円 |
| 利益を原資とする配当の計上 | 繰越利益剰余金 20万円 | 未払配当金 20万円 |
| 配当に伴う利益準備金の積立て | 繰越利益剰余金 2万円 | 利益準備金 2万円 |
| 配当債務の支払による消込み | 未払配当金 20万円 | 普通預金 20万円 |
| 別途積立金への振替 | 繰越利益剰余金 10万円 | 別途積立金 10万円 |
当期純損失を振り替える場合は、利益の振替とは借方・貸方が逆になります。借方が繰越利益剰余金、貸方が損益です。決算の締切処理を会計ソフトが自動で行う場合には、同じ振替を重ねて入力しないよう確認します。
配当の計上時点は、決議で定めた効力発生日を確認します。決算後に効力が生じる配当を、決算日までに発生した当期の減少として混ぜないようにします。配当の決定事項は会社法第454条に定められています。
配当額と内訳の振替を分けて読む
上の設例では、繰越利益剰余金から配当額と内訳の振替分が減り、利益剰余金全体から減るのは配当分です。準備金や別途積立金への振替は内訳の移動なので、合計からもう一度差し引きません。
上の設例の配当債務を後で支払うときは、未払配当金と預金を減らします。配当計上済みの利益剰余金を、支払時にも重ねて減らす処理ではありません。
別途積立金を取り崩す場合
別途積立金を繰越利益剰余金へ戻す仕訳は、借方「別途積立金」、貸方「繰越利益剰余金」です。この振替だけでは利益剰余金合計も現預金も変わりません。会社法第452条は、株主総会の決議による任意積立金の積立てなどの剰余金処分を定めています。
目的のために現金を使うことと、積立金の内訳を戻すことは別の処理です。預金口座を分けただけで利益剰余金の内訳が変わったり、別途積立金を取り崩すだけで預金が増えたりするわけではありません。
配当時に利益準備金を積む条件
利益が出たという理由だけで、毎期同じ割合の利益準備金を積むわけではありません。配当時の積立ては、会社法第445条と会社計算規則第22条によって、配当日の残高を使って確認します。
次の表は利益のみを原資とする金銭配当の利益準備金の積立てです。配当日の準備金合計は「資本準備金+利益準備金」、比較する資本金も配当日の額です。
| 配当日の準備金合計 | 利益準備金の積立額 |
|---|---|
| 資本金の4分の1以上 | 積立てなし |
| 資本金の4分の1未満 | 資本金の4分の1までの不足額と、配当額の10分の1のうち、小さい方 |
その他資本剰余金も原資とする配当では、利益剰余金配当割合に応じた計算が加わります。上の表をそのまま使わず、資本側と利益側を分けて確認します。
利益準備金に積み立てる分は、その他利益剰余金から減らします。配当額だけを繰越利益剰余金から減らし、準備金の相手科目を費用にする処理ではありません。根拠は会社計算規則第23条です。
現預金・分配可能額との違い
利益剰余金は利益の蓄積、現預金は資産の残高、分配可能額は配当などの上限を計算するための額です。
| 確認したいこと | 見る項目・資料 | 利益剰余金だけでは分からない理由 |
|---|---|---|
| 利益がどれだけ残っているか | 利益剰余金とその内訳 | 配当・積立て・損益の影響を反映した残高を見る |
| 支払日に資金が足りるか | 現預金・入出金予定・資金繰り表 | 売掛金・設備などに資金が充てられていることがある |
| 配当できる上限はいくらか | 分配可能額の計算資料 | 自己株式などの調整項目や法令上の制限がある |
例えば、利益を現金で回収した後に設備を現金購入すると、預金は減って設備という資産に置き換わります。その購入自体を理由に利益剰余金を直接減らすのではなく、減価償却などを通じて損益に反映される部分を区別します。掛け売上なら、利益を計上していても入金前という場合があります。
配当として交付する金銭等の帳簿価額の総額は、効力発生日の分配可能額を超えられません。会社法第446条の剰余金を出発点とし、同法第461条の調整を行うため、利益剰余金残高をそのまま配当上限にはできません。
主な確認項目は、自己株式の帳簿価額、決算後の配当や自己株式取引、法定の承認を受けた臨時計算書類による利益・損失の調整です。さらに、会社計算規則第158条では、のれん等の額や評価差額などによる調整を定めています。
株式会社の純資産額が300万円未満の場合は、剰余金の配当はできません。これは資本金の額による判定ではありません(会社法第458条)。実際の配当では、上限と手続の確認に加え、支払後の運転資金も別に確認します。
預金の増減の読み方はキャッシュフロー計算書、売上・費用・利益の区別は損益計算書の見方を参照してください。
マイナス残高と決算時の確認手順
繰越利益剰余金はマイナス残高になることがあります。当期の損失が以前の蓄積を上回る場合などです。任意積立金や利益準備金に残高があれば、繰越利益剰余金のマイナスと利益剰余金合計のマイナスも一致しません。
また、利益剰余金がマイナスでも、それだけで債務超過とは判断しません。貸借対照表の純資産全体には資本金や資本剰余金なども含まれるためです。判定方法は債務超過の記事にまとめています。
欠損をほかの純資産項目で補う処理は、利益を新しく稼ぐこととは違います。その他資本剰余金による欠損填補は、年度決算時の利益剰余金の負の残高が対象です。期中に生じた負の残高をその都度振り替える処理とは区別します(企業会計基準「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」)。
残高が合わないときに確認する順序
- 期首の内訳を前期末と照合する。遡及適用・誤謬の訂正などがある場合は、期首残高への影響額も確認します。
- 当期純利益・当期純損失を損益計算書と照合する。税引前の利益を転記していないか、損益の振替を重ねていないかを確認します。
- 配当の効力発生日と原資を確認する。配当・利益準備金の積立て・債務の支払を区別し、株主総会議事録などと照合します。
- 積立てと取崩しを内訳ごとに追う。繰越利益剰余金の増減と、利益剰余金合計の増減を分けて集計します。
- 期末残高を貸借対照表と合わせる。株主資本等変動計算書の変動事由ごとに、漏れた取引や内訳の振替がないか確認します。
計算書の作成方法・表示区分・注記は株主資本等変動計算書の読み方と作り方へ進んでください。本記事の仕訳は残高の動きを確かめるための例で、源泉徴収や現物配当、減資・準備金減少の手続を含む実際の配当処理一式を示すものではありません。
原価・売価から粗利と粗利率を計算するよくある質問
利益剰余金と繰越利益剰余金は同じですか?
違います。株式会社の個別貸借対照表では、利益剰余金を利益準備金とその他利益剰余金に分けます。繰越利益剰余金は、その他利益剰余金のうち、任意積立金などの科目で表示する部分以外の残高です。
利益剰余金は銀行口座にあるお金ですか?
預金残高ではありません。利益剰余金は利益の蓄積を示す純資産の項目で、資金が設備や売掛金などの形になっている場合もあります。支払能力は現預金と入出金予定を別に確認します。
別途積立金を積み立てると利益は減りますか?
繰越利益剰余金から別途積立金への振替では、当期の損益も利益剰余金の合計も変わりません。利益剰余金の内訳を移す処理であり、費用計上や預金の移動とは別です。
利益剰余金がプラスなら配当できますか?
プラスという理由だけでは判断できません。配当として交付する金銭等の総額を効力発生日の分配可能額と比較し、純資産額による制限や決議などの手続も確認します。利益残高の確認と、支払資金の確認も分けて行います。
利益剰余金がマイナスなら債務超過ですか?
それだけでは判断できません。債務超過の帳簿上の確認では、資本金や資本剰余金なども含めた貸借対照表の純資産合計を見ます。繰越利益剰余金だけがマイナスの場合は、利益剰余金全体の内訳も確認します。
出典
- e-Gov法令検索「会社法」第445条・第446条・第452条・第454条・第458条・第461条
- e-Gov法令検索「会社計算規則」第22条・第23条・第29条・第76条・第96条・第158条
- 企業会計基準委員会「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」
- 企業会計基準委員会「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務・労務相談には応じられません。実際の判断は税理士・公認会計士などにご確認ください。