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損益分岐点の求め方 — 決算書には「変動費」も「固定費」も1回も出てこない。だから並べ替えから始まる

結論から言うと、損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率です。式はこれ1本で、限界利益率は「1円売ったときに手元に残る割合」を指します。年間の固定費が4,400万円、限界利益率が40%なら、損益分岐点売上高は 4,400万円 ÷ 0.40 = 1億1,000万円。ここまでは電卓で30秒です。

問題は、その「固定費4,400万円」と「限界利益率40%」を、決算書のどこから持ってくるのかにあります。答えは「どこにも無い」です。この記事では実際に条文を数えました。上場会社が使う財務諸表等規則の条文テキスト176,991字にも、すべての株式会社が使う会社計算規則の112,885字にも、「変動費」「固定費」「限界利益」はいずれも1回も出てきません。制度会計の損益計算書はどの業務で発生したか(機能)で箱を分けており、売上に連動するかどうかでは分けていないからです。

つまり損益分岐点は「決算書を読む」作業では出ません。費用を全部いったん出して、2つの山に積み直す作業から始まります。この記事では、条文がどう切っているかを確かめたうえで、勘定科目の並べ替え方、基本料金と従量料金が混ざった費用の分け方(高低点法)、出てきた比率の読み方、そして5%の値引きが損益分岐点の数量を14.3%押し上げるという値決めの話までを、年商1億2,000万円の会社の実数で通します。

この記事の設例(以下ずっとこの会社で通します)

年商 1億2,000万円(単価1,000円の商品を12万個)。売上原価 7,800万円、販売費及び一般管理費 3,800万円、営業利益 400万円。金額は千円単位で表記し、120,000千円のように書きます。この会社の費用を並べ替えると変動費 72,000千円・固定費 44,000千円になり、限界利益率は40%、損益分岐点売上高は110,000千円になります。

決算書に「変動費」も「固定費」も無い — 2つの規則を全文検索した

損益分岐点の解説はたいてい「決算書から変動費と固定費を拾ってきて」という一文から始まります。しかし決算書の様式を決めている法令には、その2つの言葉がありません。確かめるために、損益計算書の作り方を定めている2つの規則の条文テキストを e-Gov 法令API v2 で取得し、語の出現回数を数えました。

損益計算書の様式を定める2規則を全文検索した結果(2026年8月25日取得のリビジョン)
財務諸表等規則
(条文テキスト 176,991字)
会社計算規則
(条文テキスト 112,885字)
変動費0回0回
固定費0回0回
限界利益0回0回
貢献利益0回0回
損益分岐0回0回
(対照)売上原価35回3回
(対照)販売費及び一般管理費34回4回
(対照)減価償却35回20回

下の3行は対照です。数え方そのものが壊れていれば何を当てても0回になってしまうので、確実に条文に出てくる語を同じ手順で当て、0でないことを先に確かめてあります。そのうえでの0回です。

では規則は何で分けているのか。財務諸表等規則70条が、収益と費用の分類をこう定めています。

収益又は費用は、次に掲げる項目を示す名称を付した科目に分類して記載しなければならない。

続けて号として並ぶのは、売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失の7つです。会社計算規則も同じ7区分で組み立てられており、そこから5つの利益が計算されます(この7区分と5つの利益の関係は損益計算書の見方で詳しく扱っています)。

ここで注目したいのは、3番目の箱の中身を決めている84条です。

会社の販売及び一般管理業務に関して発生したすべての費用は、販売費及び一般管理費に属するものとする。

判定の基準になっているのは、その費用が販売の業務または一般管理の業務に関して発生したものかどうかであって、売上に比例するかどうかではありません。だから売れた個数に完全に比例する販売手数料も、1個も売れなくても毎月同じ額が出ていく役員報酬も、同じ「販売費及び一般管理費」という1つの箱に入ります。売上原価の箱も同じで、仕入高(売上に連動する)と工場の減価償却費(連動しない)が同居します。

制度会計の区分は「間違っている」わけではない

7区分は、外部の利害関係者に対してどの活動でいくら儲けたかを示すための切り方です。本業か、財務活動か、臨時のできごとか。目的が違うので、意思決定のための切り方(売上に連動するか)と一致しないのは当然です。2つの切り口は直交しているので、片方から他方は導けません。導けないものを導こうとするから「決算書から変動費を拾う」で止まってしまいます。

決算書の並び(機能別) 組み替え後(連動別) 売上高 120,000 単価1,000円 × 12万個 売上原価 78,000 仕入高など 66,000 労務費・製造の償却 12,000 販売費及び一般管理費 38,000 販売手数料・荷造運賃 6,000 人件費・家賃・償却 32,000 営業利益 4,000 変動費 72,000 売上原価から 66,000 販管費から 6,000 固定費 44,000 売上原価から 12,000 販管費から 32,000 限界利益 = 120,000 − 72,000 = 48,000 限界利益率 = 48,000 ÷ 120,000 = 40% 損益分岐点 = 44,000 ÷ 0.40 = 110,000
1つの箱が2つの山に割れる。決算書の3行を横に切り直す作業が、損益分岐点の計算の実体(単位: 千円)。

式は3本だけ — 限界利益・限界利益率・損益分岐点売上高

並べ替えが済んでいれば、あとは3本の式を順に通すだけです。

3本の式と、設例の実数(単位: 千円)
項目設例の計算結果
限界利益売上高 − 変動費120,000 − 72,00048,000
限界利益率限界利益 ÷ 売上高48,000 ÷ 120,00040%
損益分岐点売上高固定費 ÷ 限界利益率44,000 ÷ 0.40110,000

検算しておきます。売上が110,000千円のとき、変動費は売上に比例するので 110,000 × 60% = 66,000千円。限界利益は 110,000 − 66,000 = 44,000千円で、固定費44,000千円とちょうど同額になり、利益はゼロです。式が正しく通っていることが確認できます。

限界利益という言葉が分かりにくければ、「1円売ったとき、固定費の穴埋めに回せる金額」と読み替えると腑に落ちます。限界利益率40%なら、1円売るごとに40銭ずつ固定費の穴が埋まっていく。固定費44,000千円の穴を40銭ずつで埋めきるには、44,000 ÷ 0.4 = 110,000千円ぶん売る必要がある。それが損益分岐点です。

同じ考え方で、目標利益からの逆算もできます。営業利益を10,000千円ほしいなら、埋めるべき穴は固定費44,000千円ではなく 44,000 + 10,000 = 54,000千円です。必要売上高は 54,000 ÷ 0.40 = 135,000千円。いまの120,000千円に対して15,000千円(12.5%)の増収が要る、という具体的な数字になります。検算すると 135,000 × 40% = 54,000千円の限界利益から固定費44,000千円を引いて10,000千円で、合っています。

売上高(千円) 金額 固定費 44,000(売上が0でも出ていく) 売上高 総費用(固定費+変動費) 損益分岐点 110,000 現在 120,000 営業利益 4,000 (2本の線の隙間) この幅は赤字 0
2本の線が交わるところが損益分岐点。現在の売上120,000千円との隙間が営業利益4,000千円で、図で見ても薄い。

費用の並べ替え — 勘定科目ごとに、どちらの山へ置くか

条文に定義が無いということは、どちらに置くかを決めるのは会社自身だということです。正解が法令から降りてこないので、「毎期同じ基準で置き続ける」ことのほうが、置き方そのものより大事になります。基準がぶれると、前期と当期の損益分岐点比率を比べても意味が無くなるからです。

勘定科目の置き場所の目安と、迷いどころ
勘定科目置き場所迷いどころ
仕入高・材料費変動費数量に素直に比例する。ここが変動費の本体
外注加工費変動費月額固定の業務委託契約なら固定費。契約書を見て決める
荷造運賃・発送費変動費倉庫の固定賃料が混ざっていれば分ける
販売手数料・決済手数料変動費売上に対する料率なので、最も純粋な変動費
給料手当(正社員)固定費売上が半分になっても同額出ていく
雑給(シフト連動のパート・アルバイト)実態で分ける忙しさに応じてシフトを増減しているなら変動費に近い
法定福利費対応する給与と同じ側人件費だから固定費、ではない。下の注記を参照
地代家賃固定費売上歩合の家賃(商業施設など)は変動費
減価償却費固定費操業度に関係なく計上される固定費の代表格
水道光熱費基本料金は固定費・従量部分は変動費次の節の高低点法で機械的に割る
支払利息営業外費用(扱いは要注意)どの利益をゼロにするかで入れるか決まる。後述
法定福利費は「人件費だから固定費」ではない

社会保険料の会社負担は、標準報酬月額と料率から計算されるのでその給与に付いて動きます。正社員の給料手当を固定費に置いたなら、それに対応する法定福利費も固定費。忙しさでシフトを増減しているアルバイトの雑給を変動費寄りに置いたなら、それに対応する法定福利費も同じ側に置くのが筋です。法定福利費という勘定科目を1行まるごとどちらかに放り込むと、この対応が崩れます。会社負担額そのものは社会保険料の計算機で確かめられます。

もうひとつ、実務で効く整理があります。固定費は「減らせない費用」という意味ではありません。売上に連動しないという意味です。家賃も人件費も、契約や体制を変えれば減ります。むしろ損益分岐点を下げる打ち手は、限界利益率を上げる(値上げ・原価低減)か、この固定費を減らすかの2つしかありません。固定費を4,400万円から4,000万円へ9.1%減らすと、損益分岐点売上高は 40,000 ÷ 0.40 = 100,000千円まで下がります。

なお、減価償却費は固定費の中でも金額が大きくなりやすく、しかも計算方法によって毎期の額が変わります。定額法か定率法か、耐用年数が何年かで固定費の山の高さが動くので、ここは概算ではなく実額を置いてください。

減価償却費の計算機で、固定費に積む金額を確かめる →

基本料金と従量料金が混ざった費用は、2点から機械的に割る

水道光熱費のように、基本料金(固定)+使った分(変動)の形をしている費用があります。これを勘で「7割固定」と置くと、翌期に別の人が「6割固定」と置いて比較できなくなります。月次の実績が2点あれば、機械的に割れます。高低点法と呼ばれる方法です。

やり方は単純で、いちばん忙しかった月といちばん暇だった月の2点を直線で結び、その傾きを変動費率とみなすだけです。

高低点法の計算例(水道光熱費・月次)
売上高水道光熱費
最も高い月12,000,000円380,000円
最も低い月6,000,000円260,000円
6,000,000円120,000円

変動費率は 120,000円 ÷ 6,000,000円 = 2.0%。固定部分は、低い月の実績から変動部分を引いて 260,000円 −(6,000,000円 × 2.0%)= 260,000円 − 120,000円 = 140,000円です。検算すると、高い月は 12,000,000円 × 2.0% + 140,000円 = 240,000円 + 140,000円 = 380,000円で、実績と一致します。

この結果は「水道光熱費は月14万円の固定費と、売上の2.0%の変動費でできている」と読みます。年間なら固定費側に 140,000円 × 12 = 1,680,000円を積み、変動費率に2.0%ぶんを足すことになります。

高低点法の弱点を知ったうえで使う

2点しか使わないので、その2つの月がたまたま特殊だと結果が丸ごと歪みます。設備を止めた月、単価の高い臨時受注があった月、料金改定をまたいだ月は外してから選んでください。判断としては、月次を12点そのまま散布図にして、直線から大きく外れる点を除いてから最高と最低を取るのが安全です。厳密にやるなら回帰分析(最小二乗法)になりますが、費用の区分はそもそも会社が決めるものなので、精度を上げること自体が目的化しないほうが実務的です。

損益分岐点比率と安全余裕率 — 91.7%はどれくらい薄いのか

損益分岐点売上高が出たら、それを現在の売上高と比べます。

2つの比率(設例の実数)
指標計算結果意味
損益分岐点比率損益分岐点売上高 ÷ 売上高110,000 ÷ 120,00091.7%低いほど良い
安全余裕率(売上高 − 損益分岐点売上高)÷ 売上高10,000 ÷ 120,0008.3%高いほど良い

2つは足すと100%になるので、どちらか一方を見れば足ります。設例の会社は売上が8.3%落ちると赤字になるということです。1か月ぶんの売上が飛ぶと8.3%ですから、大口の取引先を1件失う、繁忙期に設備が止まる、といった出来事1つで赤字に落ちる水準にいます。

営業利益率で見ると 4,000 ÷ 120,000 = 3.3%で、これは「まあまあ黒字」に見えます。同じ会社を安全余裕率で見ると8.3%で、薄さの見え方が変わります。損益分岐点比率の価値は、利益率という「結果の大きさ」ではなく「あとどれだけ落ちても耐えられるか」という距離を測るところにあります。

比率の水準を他社と比べるときの注意

損益分岐点比率は業種の構造に強く引きずられます。設備を多く持つ製造業は固定費が大きいので比率が高く出やすく、仕入れて売るだけの卸売業は変動費の比率が高いので、同じ利益率でも数値の出方が違います。さらに、そもそも費用の区分は各社が自分で決めているので、他社の公表値と自社の値は同じ物差しで測られていません。この指標は他社比較よりも、同じ基準で並べた自社の前期・前々期との比較に使うほうが、はるかに情報量があります。

5%の値引きは、14.3%の数量増でようやく取り返せる

損益分岐点の考え方が実務でいちばん効くのは、値決めの場面です。「5%引きますので、そのぶん数量を伸ばしましょう」という提案が、どれくらい割に合わないかを数字で言えるようになります。

設例の会社は単価1,000円、1個あたりの変動費600円なので、1個あたりの限界利益は400円です。ここで単価を5%下げて950円にしても、変動費は600円のまま変わりません。仕入れの原価は値引きに付き合ってくれないからです。

5%の値引きが1個あたりに与える影響
項目値引き前5%値引き後
販売単価1,000円950円−50円(−5.0%)
1個あたり変動費600円600円±0円
1個あたり限界利益400円350円−50円(−12.5%
損益分岐点の数量110,000個125,715個+14.3%
営業利益4,000千円を保つ数量120,000個137,143個+14.3%

計算はこうです。損益分岐点の数量は 固定費 ÷ 1個あたり限界利益 で出るので、値引き前は 44,000,000円 ÷ 400円 = 110,000個、値引き後は 44,000,000円 ÷ 350円 = 125,714.3個で、切り上げて125,715個。従来の営業利益4,000千円を維持するなら、埋めるべき額は 44,000,000円 + 4,000,000円 = 48,000,000円なので、48,000,000円 ÷ 350円 = 137,142.9個、切り上げて137,143個です。もとの12万個に対して14.3%の増販が要ります。

ここで見ておきたいのは数字の飛び方です。値引きは売価の5%ですが、それは1個あたり限界利益400円に対しては12.5%の目減りにあたります。そして必要な数量増は 400 ÷ 350 − 1 = 14.3%5% → 12.5% → 14.3% と、同じ値引きが3つの違う倍率で効いてきます。値引きの議論が「5%くらいなら」で始まりがちなのは、いちばん小さい数字だけが会話に出るからです。

逆向きも同じ理屈で効く

単価を5%上げて1,050円にすると、1個あたり限界利益は450円になります。損益分岐点の数量は 44,000,000円 ÷ 450円 = 97,778個(切り上げ)で、値引き前の110,000個から11.1%下がります。つまり値上げは、数量が11.1%落ちるまでは損になりません。値上げに踏み切るかどうかを「客が減るかどうか」で考えると答えが出ませんが、「何%減るまでなら耐えられるか」という形にすると、限界利益率から機械的に線が引けます。

「損益分岐点」だけでは、どの利益がゼロになる点か決まらない

ここまで営業利益がゼロになる点として計算してきましたが、この前提は言葉に含まれていません。財務諸表等規則が定める7区分には営業外費用があり、そこには支払利息が入ります。借入の重い会社では、この扱いで結論が変わります。

設例の会社に支払利息が年2,000千円あったとします。

どの利益をゼロにするかで、損益分岐点は変わる(単位: 千円)
基準ゼロにする利益固定費に入れる額損益分岐点売上高損益分岐点比率
営業利益ベース営業利益44,000110,00091.7%
経常利益ベース経常利益46,000115,00095.8%

同じ会社、同じ期の決算書から、91.7%と95.8%という4.2ポイント違う数字が出ます。どちらも間違いではありません。営業利益ベースは「本業の構造」を見るのに向き、経常利益ベースは「借入の返済原資まで含めて回っているか」を見るのに向きます。金融機関に説明する場面では後者を求められることが多く、社内で商品の値決めを議論する場面では前者のほうが素直です。

実務上の要点は、どちらを使うかより、資料の中で1つに決めて明記することです。前期の資料が営業利益ベース、当期が経常利益ベースだと、構造が何も変わっていなくても比率が悪化したように見えます。損益分岐点の資料には、費用の区分基準どの利益をゼロにしたかの2つを注記しておくと、後から読む人が同じ土俵に立てます。

法令が利益の源泉を数えている場所 — 地方税法の付加価値額は限界利益ではない

「変動費」「固定費」は法令に無い、と最初に書きました。ただし売上から何かを引いて事業が生んだ価値を測るという発想そのものは、法令にも1か所あります。外形標準課税の付加価値割です。地方税法72条の14第1項がその算定方法を定めています。

第七十二条の十二第一号の各事業年度の付加価値額は、各事業年度の報酬給与額、純支払利子及び純支払賃借料の合計額(第七十二条の二十において「収益配分額」という。)と各事業年度の単年度損益との合計額による。

式にすると、付加価値額 = 報酬給与額 + 純支払利子 + 純支払賃借料 + 単年度損益です。ここで注目したいのは、人件費・支払利息・賃借料が、引かれる側ではなく足される側にいることです。管理会計で固定費の代表格として扱った3つが、税法では「会社が生み出した価値の一部」として利益と同じ側に並びます。

同じ費用が、目的によって置かれる側が入れ替わる
費用損益分岐点分析での扱い付加価値割での扱い
正社員の給与・賞与固定費(限界利益から引く)報酬給与額として足す
支払利息固定費または営業外(基準による)純支払利子として足す
地代家賃固定費(限界利益から引く)純支払賃借料として足す
仕入高・材料費変動費(限界利益から引く)足す対象に入っていない

この対比は、費用の分類に唯一の正解が無いことをよく示しています。損益分岐点分析は「売上が減ったときに会社は耐えられるか」を知りたいので、売上に連動しない費用を固定費としてひとまとめにします。付加価値割は「この会社が地域でどれだけの経済活動を行ったか」を課税標準にしたいので、従業員や貸主や金融機関に分配された金額を事業が生んだ価値として足し戻します。目的が違えば、同じ給与が引かれる側にも足される側にもなるということです。

なお付加価値割そのもの(対象となる法人の範囲や税率、雇用安定控除など)は外形標準課税で扱っています。ここで確かめておきたいのは、限界利益に似た式が法令にあるように見えても、中身は別物だという点だけです。付加価値額を限界利益の代わりに使うことはできません。

よくある質問

Q. 損益分岐点は決算書のどこを見れば分かりますか?

A. 決算書のどこにも載っていませんし、載っている数字をそのまま使うこともできません。損益計算書の様式を定めている財務諸表等規則の条文テキスト176,991字と会社計算規則の112,885字を全文検索したところ、「変動費」「固定費」「限界利益」はいずれも0回でした。同じ手順で当てた「売上原価」が35回と3回、「販売費及び一般管理費」が34回と4回なので、数え方の側が壊れているわけではありません。制度会計の損益計算書は財務諸表等規則70条が定める7つの区分でできていて、その切り口は売上高・売上原価・販売費及び一般管理費・営業外収益・営業外費用・特別利益・特別損失という機能別のものです。売上に連動するかどうかでは切られていないので、損益分岐点を出すには費用をいったん全部出して並べ替える作業が必要になります。

Q. 変動費と固定費の分け方に、法令で決まった正解はありますか?

A. ありません。財務諸表等規則にも会社計算規則にもその2つの言葉自体が無いので、どの勘定科目をどちらに置くかを定めた条文も存在しません。決めるのは会社自身です。一般に、仕入高や材料費や販売手数料のように数量や売上に比例するものを変動費、正社員の給与や地代家賃や減価償却費のように売上が動いても金額が変わらないものを固定費として扱います。正解が法令から降りてこないぶん、毎期同じ基準で置き続けることのほうが重要になります。基準が変わると、前期と当期の損益分岐点比率を比べても構造の変化を読み取れなくなるためです。

Q. 限界利益と粗利益(売上総利益)は同じものですか?

A. 違います。売上総利益は売上高から売上原価を引いたもので、売上原価という箱の中身は財務諸表等規則75条1項が定める3つの科目、すなわち商品または製品の期首棚卸高と、当期商品仕入高または当期製品製造原価と、控除科目としての期末棚卸高で決まります。ここには工場の労務費や製造設備の減価償却費といった、売上に連動しない費用も入っています。一方の限界利益は売上高から変動費を引いたもので、変動費は箱ではなく連動性で選ばれます。設例の会社では売上総利益が120,000千円から78,000千円を引いた42,000千円であるのに対し、限界利益は120,000千円から72,000千円を引いた48,000千円で、6,000千円ずれます。ずれの正体は、売上原価の中に含まれる固定費12,000千円と、販売費及び一般管理費の中に含まれる変動費6,000千円の差です。

Q. 損益分岐点比率は何パーセントなら安全ですか?

A. 一律の基準を置くことはおすすめしません。この比率は業種の費用構造に強く引きずられるためです。設備を多く持つ製造業は固定費が大きいので高く出やすく、仕入れて売るだけの卸売業は変動費の比率が高いので低く出やすくなります。加えて費用の区分は各社が自分で決めているので、公表されている他社の数値と自社の数値が同じ物差しで測られている保証もありません。読み方としては水準よりも距離で見るほうが実用的で、比率91.7%は安全余裕率が8.3%、つまり売上が8.3%落ちると赤字になるという意味になります。この距離が自社の売上の振れ幅に対して十分かどうかを見るのが、比較として最も情報量があります。

Q. 5パーセント値引きしたら、どれだけ多く売れば元に戻りますか?

A. 限界利益率によって変わりますが、設例の会社の場合は14.3パーセントの数量増が必要です。単価1,000円で1個あたり変動費600円なら1個あたり限界利益は400円で、単価を950円に下げても変動費は600円のまま動かないため、1個あたり限界利益は350円になります。値引きは売価の5パーセントですが、1個あたり限界利益に対しては12.5パーセントの目減りです。従来と同じ営業利益4,000千円を確保するのに必要な数量は、固定費44,000千円に目標利益4,000千円を足した48,000千円を350円で割って137,143個となり、もとの120,000個に対して14.3パーセント増えます。5パーセント、12.5パーセント、14.3パーセントという3つの数字が同じ値引きから出てくるのが、この計算の要点です。

Q. 支払利息は固定費に入れるべきですか?

A. どちらの利益をゼロにする点を求めたいかによって決まります。支払利息は財務諸表等規則70条の区分では営業外費用なので、営業利益がゼロになる点を求めるなら固定費には入れません。経常利益がゼロになる点を求めるなら固定費に含めます。設例の会社に支払利息が年2,000千円ある場合、営業利益ベースの損益分岐点売上高は110,000千円で比率は91.7パーセント、経常利益ベースでは固定費が46,000千円になるので115,000千円で比率は95.8パーセントとなり、4.2ポイント違う数字が同じ決算書から出ます。どちらも誤りではありませんので、資料の中でどちらを採ったかを明記して、期をまたいで基準を変えないことが実務上の要点になります。

Q. 水道光熱費のように固定と変動が混ざった費用はどう分けますか?

A. 月次の実績が複数あれば、高低点法で機械的に割ることができます。最も売上が高かった月と低かった月の2点を取り、費用の差を売上の差で割ったものを変動費率とします。例えば売上12,000,000円のとき380,000円、売上6,000,000円のとき260,000円であれば、差の120,000円を差の6,000,000円で割って変動費率は2.0パーセント、固定部分は260,000円から6,000,000円の2.0パーセントである120,000円を引いた140,000円です。高い月で検算すると12,000,000円の2.0パーセントである240,000円に140,000円を足して380,000円となり、実績と一致します。ただし2点しか使わない方法なので、設備を止めた月や臨時受注のあった月が選ばれると結果が歪みます。月次を並べて直線から大きく外れる点を除いてから選んでください。

Q. 損益分岐点を下げるには何をすればよいですか?

A. 式が固定費を限界利益率で割る形をしているので、打ち手は分子を小さくするか分母を大きくするかの2つに絞られます。分子を小さくするのは固定費の削減で、設例の会社が固定費を44,000千円から40,000千円へ9.1パーセント減らすと、損益分岐点売上高は100,000千円まで下がります。分母を大きくするのは限界利益率の改善で、値上げか、仕入単価や外注費の引き下げがこれにあたります。単価を5パーセント上げて1,050円にすると1個あたり限界利益は450円になり、損益分岐点の数量は44,000,000円を450円で割って97,778個となって、値引き前の110,000個より11.1パーセント下がります。売上を増やすこと自体は損益分岐点を動かしません。動くのは損益分岐点比率のほうです。

出典

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する税務相談や経営助言ではありません。費用を変動費と固定費のどちらに区分するかは法令が定めておらず、会社が自ら決めるものです。区分の方針や、算出した指標を金融機関への説明や意思決定にどう用いるかについては、顧問税理士や公認会計士にご確認ください。

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