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扶養手当とは — 会社が規程や労働契約で決める手当。税・社会保険・残業代・最低賃金での扱いと、規程で決めておくこと

結論から言うと、会社が払う扶養手当(家族手当とも呼ばれる)は、支給するかどうか、どの家族を対象にいくら払うかを、会社が就業規則(賃金規程)や労働契約で決める手当です(有期契約社員・パートを対象から外せるかには、後で説明する法律の制約があります)。人事院の令和6年職種別民間給与実態調査(企業規模50人以上かつ事業所規模50人以上の民間事業所)でも、家族手当制度の有無を回答した事業所の従業員数を100としたとき、家族手当制度がない事業所の従業員数は25.5%で、制度を持たない会社もあります。都道府県知事・市長などが支給する公的な「児童扶養手当」や、所得税の扶養控除・健康保険の被扶養者とは別の制度です。

ただし、支給すると決めた後の扱いは法律で決まります。毎月払う扶養手当は、所得税では給与所得(国税庁タックスアンサーNo.2508が「家族(扶養)手当」を名指し)、健康保険・厚生年金保険では報酬、雇用保険・労働保険料では賃金に含まれます。一方で、残業代(割増賃金)の基礎からは、扶養家族の人数またはそれを基礎とする手当額を基準に算出した手当だけを除外でき、扶養家族の有無や人数に関係なく一律に払う手当は除外できません。最低賃金を満たしているかの比較では、家族手当は算入しません。

この記事では、扶養手当と似た名前の制度との違い、公表統計に出ている支給状況、規程で決めておく項目、税・社会保険・残業代・最低賃金での扱い、有期契約社員への支給、廃止・見直しの手続きを、条文・行政資料・判決の原文で整理します。個々の会社の手当がどの区分に当たるかの判断はしません。

扶養手当・家族手当・児童扶養手当・扶養控除・被扶養者の違い

「扶養手当」「家族手当」は会社が規程で付ける名前で、どちらの名前でも、税・社会保険・残業代での扱いは名前ではなく支給の中身で決まります。厚生労働省の就労条件総合調査も、配偶者、子供等の人数・年齢に応じて支給する賃金(扶養の有無を問わない)を「家族手当、扶養手当、育児支援手当」としてひとまとめに定義して集計しています。名前ではなく中身を見る点は、後で説明する残業代の基礎でとくに効きます。

まぎらわしいのは、名前に「扶養」が入る公的な制度です。読者の会社の扶養手当とは、根拠も支給者も別です。

名前根拠どういう制度か会社の経理での位置づけ
扶養手当・家族手当(この記事)会社の就業規則(賃金規程)・労働契約会社が従業員に払う賃金賃金の一部。給与計算で支給する
児童扶養手当児童扶養手当法都道府県知事、市長(特別区の区長を含む)、福祉事務所を管理する町村長が支給する公的な手当(同法4条)会社は支給しない
扶養控除所得税法控除対象扶養親族がいる納税者が受けられる所得控除扶養控除等申告書で確認する(扶養控除等申告書の書き方)
健康保険の被扶養者健康保険法健康保険法3条7項が範囲を定める、被保険者の家族の区分被扶養者異動届を出す(社会保険の扶養の条件)

児童扶養手当法1条は、目的を「父又は母と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため」と書いており、ひとり親家庭などへの公的な給付です。会社の扶養手当を「税の扶養に入っている家族がいる人に払う」と規程で決めることはできますが、その場合も手当そのものは会社の制度で、税・社会保険の扶養の判定に連動させるかどうかを会社が選んでいるだけです。

支給状況と金額 — 厚労省・人事院の調査と国家公務員の額

法律で額が決まっていないので、目安は公表統計で見るしかありません。調査ごとに対象と集計の仕方が違うので、数字は対象と一緒に読みます。

金額は、厚生労働省の令和7年就労条件総合調査(常用労働者30人以上の民営企業が対象で、期間を定めずに雇われている労働者のうちパートタイム労働者を除いた人が対象)が、令和6年11月分として「家族手当、扶養手当、育児支援手当など」を支給された労働者1人平均の支給額を17.6千円としています。同じ調査・同じ月分の企業規模別の平均支給額は次のとおりです。

企業規模(令和7年就労条件総合調査)支給された労働者1人平均の支給額(令和6年11月分)
調査計17.6千円
1,000人以上22.3千円
300〜999人16.5千円
100〜299人15.0千円
30〜99人12.6千円

同じ令和7年就労条件総合調査で、令和6年11月分に何らかの諸手当を支給した企業のうち「家族手当、扶養手当、育児支援手当など」を支給した企業の割合は62.3%で、全企業に対する割合に直すと56.9%です。平均額は「支給された労働者」1人あたりなので、扶養家族がいない人を含めた全従業員の平均ではありません。

配偶者の扱いは、人事院の令和6年職種別民間給与実態調査(企業規模50人以上かつ事業所規模50人以上の全国の民間事業所、令和6年4月分の最終給与締切日現在)が詳しく出しています。割合はどれも、事業所の数ではなく、該当する事業所の従業員数の合計で重みづけした割合(従業員数ウエイト)です。分母が行ごとに違うので、表の右の列に分母を書きます。

項目(人事院 令和6年職種別民間給与実態調査 表12)割合(規模計)何を100とした割合か
家族手当制度がある74.5%家族手当制度の有無を回答した事業所の従業員数
配偶者に家族手当を支給する71.8%家族手当制度がある事業所の従業員数
配偶者の収入による制限がある88.0%配偶者に家族手当を支給する事業所の従業員数
収入制限の額が103万円43.4%配偶者の収入による制限がある事業所の従業員数
収入制限の額が130万円34.4%同上
収入制限の額が150万円7.4%同上
収入制限の額がその他14.8%同上

この表の「103万円」「130万円」は、人事院の調査で会社が回答した収入制限の額の区分で、税や社会保険の現在の基準額を示すものではありません。同じ令和6年の調査では、配偶者に家族手当を支給する事業所の従業員数を100としたとき、配偶者に対する家族手当を「見直す予定又は見直すことについて検討中」が15.3%、税制・社会保障制度や他の民間企業・公務員の見直しの動向等によっては見直すことを検討が11.1%、「見直す予定はない(検討も行っていない)」が73.6%でした。

国家公務員の扶養手当は、一般職の職員の給与に関する法律11条(令和8年4月1日施行の条文)が額を定めています。扶養親族たる子は1人につき月13,000円、扶養親族たる父母等は1人につき月6,500円で、行政職俸給表(一)の8級の職員などは父母等の分が月3,500円、9級以上の職員などには父母等の分を支給しません(同条1項ただし書・3項)。さらに、満15歳に達する日後の最初の4月1日から満22歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子がいる職員は、その子1人につき月5,000円が加算されます(同条4項)。同条2項は、他に生計の途がなく主としてその職員の扶養を受けている者のうち、満22歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子・孫・弟妹、満60歳以上の父母及び祖父母、重度心身障害者を扶養親族とし(子以外が「扶養親族たる父母等」)、「配偶者」という区分は令和8年4月1日施行の条文の列挙にはありません。民間企業はこの額に従う義務はなく、比較の材料の1つです。

賃金規程で決めておく項目

扶養手当を設けるなら、支給の要件と額を規程に書いておかないと、給与計算の担当者が毎回判断を迫られます。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、労働基準法89条2号により、賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法を就業規則に書いて届け出る義務があり、手当の支給要件と額もここに入ります。経理・人事の実務で、規程に書いておかないと後で困る項目は次のとおりです。

決めておく項目書いておかないと起きること
対象とする家族の範囲(配偶者・子・父母など)と、子の年齢の区切り「同居の祖母は対象か」「就職した子は外れるか」を担当者が個別に判断することになる
家族の収入による制限の有無と、その基準「税の扶養」「健康保険の被扶養者」「年収○万円以下」のどれを使うかを決めていないと、担当者ごとに判定が分かれる
基準が税・社会保険の扶養を指すとき、その基準が改正されたときの扱い規程が金額を書き込んでいると、税・社会保険の基準が変わっても規程の額は変わらない。連動させるのか固定するのかを決めておく
共働きの夫婦が同じ家族について両方の勤務先で受け取る場合の扱い二重に支給される。配偶者の勤務先が手当を支給していないことの証明(いわゆる不支給証明書)を求めるかどうかも会社が決める
届出の期限と、支給の開始月・停止月届出が遅れたときに、さかのぼって払うのか、届出の翌月からかが決まらない
過払いの精算方法給与から差し引くには、労働基準法24条1項の全額払の原則との関係を整理しておく必要がある(下記)
休職・産前産後休業・育児休業など、無給の期間の扱い基本給と同じく支給しないのか、手当だけ支給するのかが決まらない
確認の頻度と提出書類家族の就職・離婚・収入の増加に気づかず、支給要件を外れたまま払い続ける

過払いの精算について、労働基準法24条1項は賃金を全額支払うことを原則とし、条文が賃金の一部の控除を認めるのは、法令に別段の定めがある場合と、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)との書面による協定がある場合の2つです。協定によらない精算(相殺など)ができるかは判例の考え方によるので、個別に確かめます。扶養手当の返還を給与から差し引く運用にするなら、賃金控除の協定の項目に入っているかを確かめます。協定の書き方は給与から控除できるもの・できないもので整理しています。

収入の基準を税の扶養(扶養控除など)に合わせるか、健康保険の被扶養者に合わせるか、会社独自の金額にするかは、規程で1つに決めておきます。税の扶養と健康保険の被扶養者の判定の仕方の違いは社会保険の扶養の条件と年収の壁 早見表にまとめています。

所得税・社会保険・雇用保険での扱い

扶養手当は会社が任意に設ける手当ですが、払った後は、所得税・社会保険・雇用保険ではほかの賃金と同じように扱われます(残業代の基礎と最低賃金の比較での扱いは次の節)。

毎月払う扶養手当の扱い。所得税は給与所得、健康保険・厚生年金保険は報酬、雇用保険・労働保険料は賃金に含む。残業代の基礎からは扶養家族の人数に応じて算定したものだけ除外でき、一律支給は除外できない。最低賃金の比較では算入しない。 会社が払う扶養手当(家族手当)は、それぞれの制度でどう扱われるか 含める(毎月払うもの) ・所得税:給与所得(国税庁 No.2508) ・健康保険・厚生年金保険:報酬 ・雇用保険・労働保険料:賃金 中身しだいで外せる ・残業代(割増賃金)の基礎  扶養家族の人数に応じて算定 → 除外できる  人数に関係なく一律 → 除外できない 最低賃金を満たしているかの比較:家族手当は算入しない 基本給などが最低賃金額を下回っていれば、家族手当を足して上回っても満たしたことにならない 手当の支給額が変わると、社会保険では固定的賃金の変動として 随時改定(月額変更届)の要件を確かめる対象になる
図1 扶養手当の扱い(国税庁タックスアンサーNo.2508、健康保険法3条5項、厚生年金保険法3条1項3号、雇用保険法4条4項、労働基準法37条5項、厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」、日本年金機構「随時改定」から作成)

所得税: 国税庁のタックスアンサーNo.2508(令和8年4月1日現在法令等)は、役員や使用人に支給する手当は原則として給与所得になるとし、具体例として「家族(扶養)手当」を挙げています。同じページが例外として挙げる非課税の手当は、一定金額以下の通勤手当、通常必要と認められる旅費、一定金額以下の宿直・日直の手当で、扶養手当は入っていません。

健康保険・厚生年金保険: 健康保険法3条5項と厚生年金保険法3条1項3号は、報酬を「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受ける」ものと定め、臨時に受けるものと3か月を超える期間ごとに受けるものを除いています。日本年金機構も、標準報酬月額の対象となる報酬の例に「家族手当」を挙げています。毎月払う扶養手当は、資格取得時・定時決定(算定基礎届)・随時改定の報酬に入ります。

扶養家族が増えた・減ったなどで手当の支給額が変わったときは、社会保険でも確認が要ります。日本年金機構は、随時改定の要件の1つである固定的賃金の変動について、固定的賃金を「支給額や支給率が決まっているもの」とし、例として「住宅手当、役付手当等の固定的な手当の追加、支給額の変更」を挙げています。扶養手当の額の変更もこの確認の対象になり、残りの要件(変動月以後引き続く3か月の報酬の平均額による標準報酬月額と従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差〔上限・下限にわたる等級変更は1等級差でも対象〕、その3か月の支払基礎日数がいずれも17日〔特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日〕以上)を満たせば、変動の向きが逆の場合を除き、月額変更届を出します。日本年金機構は、固定的賃金は上がったが残業手当などの非固定的賃金が減って3か月の平均による標準報酬月額が下がった場合など、変動の向きが逆のときは随時改定の対象にならないとしています。要件と月の数え方は随時改定(月額変更届)とはで説明しています。

雇用保険・労働保険料: 雇用保険法4条4項と労働保険の保険料の徴収等に関する法律2条2項は、賃金を「賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うもの」と定めています(通貨以外で支払われるもので厚生労働省令で定める範囲外のものを除く)。扶養手当は毎月の雇用保険料の計算と、年度更新で申告する賃金総額に入ります。

残業代(割増賃金)と最低賃金での扱い

扶養手当の決め方が、そのまま残業代の1時間あたりの単価に効きます。労働基準法37条5項は、時間外・休日・深夜の割増賃金の基礎となる賃金に「家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない」と定め、労働基準法施行規則21条が別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の5つを加えています。

ただし、名前が家族手当なら外せるわけではありません。鳥取労働局の資料は、割増賃金の基礎から除外できる家族手当を「扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当」とし、次のように例を分けています。

区分(鳥取労働局の資料)支給の仕方資料に載っている例
除外できる扶養家族のある労働者に対し、家族の人数に応じて支給するもの扶養義務のある家族1人につき、1か月当たり配偶者1万円、その他の家族5千円を支給する場合
除外できない扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給するもの扶養家族の人数に関係なく、一律1か月1万5千円を支給する場合

資料の2つの例に当てはまらない支給の仕方(扶養家族がいれば人数に関係なく同じ額、人数に応じた部分と定額の部分の組み合わせなど)は資料に例がありませんが、資料の定義は「扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当」なので、人数を基準に算出していない部分(扶養家族がいるかどうかだけで決まる同じ額の部分など)は、この定義に当たらないと読めます。迷う場合は労働基準監督署に確かめます。「扶養手当」という名前で全員に同じ額を払っていると、その手当は割増賃金の基礎に入れて単価を計算する必要があり、外して計算していれば残業代が不足します。単価の計算方法と、ほかの6つの除外賃金の考え方は残業代の計算方法で、具体的な金額で確かめています。

最低賃金: 厚生労働省は、最低賃金の対象となる賃金を「毎月支払われる基本的な賃金」とし、実際に支払われる賃金から除外するものの6番目に「精皆勤手当、通勤手当及び家族手当」を挙げています。最低賃金法4条3項は、最低賃金額と比べる賃金に算入しないものとして、厚生労働省令で定める賃金(1号・2号)と「当該最低賃金において算入しないことを定める賃金」(3号)を置いています。基本給などを時間額に直した額が最低賃金額を下回っていれば、扶養手当を足すと上回るとしても、最低賃金を満たしたことにはなりません。

残業代計算ツールで、除外できる手当を外した1時間あたりの単価から残業代を確かめる

有期契約社員・パートへの支給(同一労働同一賃金)

正社員だけに扶養手当を払い、有期契約社員やパートタイム労働者には払わないという規程は、手当の性質・目的に照らして不合理と認められる相違は禁じられ、職務の内容と配置の変更の範囲が正社員と同じと見込まれる人には差別的取扱いそのものが禁じられています。短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条は、基本給・賞与その他の待遇のそれぞれについて、通常の労働者の待遇との間に、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、その待遇の性質と目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています。同法9条は、職務の内容が通常の労働者と同一で、雇用関係が終了するまでの全期間において職務の内容及び配置が通常の労働者と同一の範囲で変更されると見込まれる短時間・有期雇用労働者について、短時間・有期雇用労働者であることを理由とする差別的取扱いを禁じており、この人たちに正社員と同じ要件で扶養手当を払わない規程は認められません。

扶養手当については、最高裁判所第一小法廷の令和2年10月15日判決(令和元年(受)794号、日本郵便の事件)があります。裁判要旨は、郵便の業務を担当する無期契約労働者に扶養手当を支給する一方で、月給制契約社員・時給制契約社員である有期契約労働者に支給しないという労働条件の相違を、当時の労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの)にいう不合理と認められるものに当たるとしました。理由として、①扶養手当が支給されているのは、生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて継続的な雇用を確保するという目的によること、②その有期契約労働者は契約期間が6か月以内または1年以内とされ、更新を繰り返して勤務する者がいるなど相応に継続的な勤務が見込まれていたこと、を挙げています。判決理由は、有期契約社員についても、扶養親族があり、かつ相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給する趣旨は妥当するとしています。

判決は同じ会社の、職務の内容などに相応の相違があることを考慮したうえでの個別の判断で、どの会社でも有期契約社員に同じ額を払わなければならないと述べたものではありません。自社の扶養手当の目的が何か、それが有期契約社員にも当てはまるかを、規程の見直しのときに確かめておくのが実務です。待遇差の考え方の全体は同一労働同一賃金とはにまとめています。

廃止・減額するときの手続き

扶養手当を廃止・減額したり、配偶者の分をやめて子の分に振り替えたりするのは、多くの場合、手当を受けていた従業員にとって労働条件の不利益な変更になります。労働契約法9条は、使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更して労働者の不利益に労働条件を変更することはできないとし、ただし書で10条の場合を除いています。

同法10条により、合意がなくても変更後の就業規則が労働条件になるのは、①変更後の就業規則を労働者に周知させ、②変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき、です。ただし同条ただし書により、労働契約で「就業規則の変更によっては変更されない労働条件」として合意していた部分は、同法12条に該当する場合を除き、この方法では変わりません。労働契約法8条は合意による労働条件の変更を認めますが、同法12条により就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分が無効になるので、個別の同意を得る場合も、賃金規程の扶養手当の定めそのものを変更します。同意を得ない場合は、個別に「規程の変更では変えない」と合意した部分を除き、変更後の就業規則を周知し、10条の合理性を説明できる形(経過措置を置く、原資を子の手当や基本給に振り替えるなど)で進めます。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、変更した就業規則を届け出ます(労働基準法89条)。就業規則を変更するときは、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合はその事業場の労働者の過半数を代表する者)の意見を聴き、届け出る場合はその意見を記した書面を添付します(同法90条)。就業規則の変更手続きは就業規則とはで整理しています。

まとめ
  • 扶養手当(家族手当)は、支給の有無・対象・額を会社が就業規則(賃金規程)や労働契約で決める手当(有期契約社員・パートを外すことはパートタイム・有期雇用労働法8条・9条の制約を受ける)。児童扶養手当(公的な給付)や、税の扶養控除・健康保険の被扶養者とは別の制度
  • 毎月払う扶養手当は、所得税では給与所得、健康保険・厚生年金保険では報酬、雇用保険・労働保険料では賃金に含まれる。支給額の変更は随時改定の確認の対象になる
  • 残業代の基礎から外せるのは、扶養家族の人数またはそれを基礎とする額を基準に算出した手当だけ。人数に関係なく一律に払う手当は外せない
  • 最低賃金を満たしているかの比較では、家族手当は算入しない
  • 有期契約社員への不支給は、手当の目的に照らして不合理とされることがある(最高裁令和2年10月15日判決)。廃止・減額は、規程の定めを変えたうえで、合意か労働契約法10条の合理性と周知が要る(個別に「規程の変更では変えない」と合意した部分は10条では変わらず、規程を変えない個別合意は12条で規程の基準に達しない部分が無効)

よくある質問

会社は扶養手当を必ず払わなければなりませんか?

扶養手当の支給の有無や対象・額は会社が就業規則(賃金規程)や労働契約で決めるもので、人事院の令和6年職種別民間給与実態調査でも家族手当制度を持たない事業所があります。ただし、有期契約社員・パートタイム労働者を対象から外すことはパートタイム・有期雇用労働法8条・9条の制約を受けます。規程や労働契約で支給すると決めている場合は、その要件を満たす従業員には賃金として支払う必要があり、規程で決めている場合にやめるときは、賃金規程の扶養手当の定めを変更したうえで、従業員の合意を得るか、労働契約法10条の要件(変更後の就業規則の周知と、変更の合理性)を満たす必要があります。個別の労働契約で「規程の変更では変えない」と合意していた部分は同条ただし書により10条の方法では変わらず、規程を変えずに個別に合意しても同法12条により規程の基準に達しない部分は無効です。規程が無く労働契約だけで決めている場合は、本人との合意(同法8条)で変更します。就業規則を変更するときは、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合はその事業場の労働者の過半数を代表する者)の意見を聴き、常時10人以上の労働者を使用する使用者は変更した就業規則を届け出ます。

扶養手当に所得税はかかりますか?

かかります。国税庁タックスアンサーNo.2508(令和8年4月1日現在法令等)は、役員や使用人に支給する手当は原則として給与所得になるとして「家族(扶養)手当」を例に挙げており、非課税の例外(一定金額以下の通勤手当、通常必要と認められる旅費、一定金額以下の宿直・日直の手当)には含めていません。

扶養手当は社会保険料の計算に入りますか?

入ります。健康保険法3条5項と厚生年金保険法3条1項3号は、名称を問わず労働の対償として受けるものを報酬とし(臨時に受けるものと3か月を超える期間ごとに受けるものを除く)、日本年金機構も報酬の例に「家族手当」を挙げています。毎月払う扶養手当は標準報酬月額の決定の対象になり、支給額が変わったときは随時改定の要件を満たすかを確かめます。

扶養手当は残業代の計算から外してよいですか?

扶養家族の人数またはそれを基礎とする額を基準に算出した手当なら、労働基準法37条5項により割増賃金の基礎から外せます。鳥取労働局の資料は、扶養家族の有無や人数に関係なく一律に支給する手当(例: 一律1か月1万5千円)は除外できないとしているので、名前が扶養手当でも全員に同じ額を払っていれば、割増賃金の基礎に入れて計算します。

夫婦が同じ会社や別の会社に勤めていて、どちらも子の扶養手当の対象になるときは?

扶養手当そのものが会社の規程で決める手当なので、重複の扱いも各社の規程で決めます。二重に支給しないように、どちらか一方(たとえば主に生計を維持している方)だけに支給する、配偶者の勤務先が手当を支給していないことの証明を出してもらう、といった定め方があります。規程に定めが無いときの扱いは規程の解釈の問題になるので、先に規程に書いておきます。

次に読む

出典

e-Gov法令検索の条文、厚生労働省・労働局・人事院・国税庁・日本年金機構の資料、裁判所の裁判例の原文を読んで確認。

この記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する助言ではありません。ある手当が割増賃金の基礎から除外できる家族手当に当たるか、有期契約社員との待遇差が不合理か、規程の変更が合理的かは、支給の実態や事情ごとに判断されます。具体的な対応は、社会保険労務士・弁護士・税理士にご相談ください。

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