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退職時の有給消化|動かす先の労働日がなければ会社は拒否できない根拠(基収5554号)と退職日・社会保険料の関係

結論から言うと、退職日までの労働日に残った年次有給休暇を当てる請求は、動かす先の労働日が残っていなければ会社は拒否できません。会社にあるのは、労働基準法39条5項ただし書の時季変更権、つまり事業の正常な運営を妨げる場合に他の時季に与える権利だけです。退職日を過ぎれば与える日が存在しないので、退職日の後ろへ動かすことができず、時季変更権そのものが働きません。この考え方は昭和49年1月11日付の行政解釈(基収5554号)に書かれています。逆に、残日数より退職日までの労働日のほうが多い場合は、退職日より前の別の労働日という動かす先があるので、事業の正常な運営を妨げる日に限って会社が日を変えられます。

一方で、退職日までに消化しきれなかった日数は退職とともに消えます。買い取ってもらう権利はなく、買取は会社が任意に応じる例外にとどまります。消化中の賃金は通常どおり支払われ、社会保険料は退職日の翌日を資格喪失日として月単位で決まるため、退職日が月末か月末の前日かで1か月分の保険料が変わります。東京都・標準報酬月額30万円・40歳未満の例なら本人負担42,570円の差です。

この記事は2026年9月8日時点の一次情報に基づき、退職時の有給消化を①拒否できない根拠、②退職日・最終出勤日・消化期間の時系列、③引継ぎとの合意、④消化しきれない場合と買取、⑤最終給与と社会保険料、⑥就業規則で制限できるか、⑦会社側の実務の順に整理します。買取の可否と価格は有給の買取は違法?、退職届の出し方は退職届と退職願の書き方に役割を分けています。

退職日までの有給請求を、会社は拒否できない

年次有給休暇の時季を決めるのは労働者です。労働基準法39条5項は、使用者に労働者の請求する時季に与える義務を課し、ただし書で例外として時季変更権を認めています。条文は次のとおりです。

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

ただし書が認めているのは、請求を断ることではなく他の時季に与えることです。退職が決まっている労働者が退職日までの労働日を指定した場合、他の時季とは退職日より前の別の労働日しかありません。残日数と退職日までの労働日数が同じなら動かす先がなく、時季変更権は行使のしようがありません。

さらに附則136条は、有給を取得した労働者に賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないと定めています。判例は、賞与の算定で有給休暇の取得日を欠勤日として扱ったこと(エス・ウント・エー事件、最三小判平成4年2月18日)や、昇給の出勤率の算定で欠勤日として扱ったこと(日本シェーリング事件、最一小判平成元年12月14日)を無効としています。ただしこの条文は罰則を持たない努力義務の形の規定で、賞与や退職金のあらゆる減額を一律に無効とする文言ではありません。有給の取得日を欠勤日として扱う算定は上の判例と同じ線で無効となりうる一方、それ以外の査定の当否は、賃金規程・賞与規程・退職金規程の内容と個別の事情によります。

使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
会社の言い分法律上の評価理由
引継ぎが終わるまで有給は認めない認められない退職日より後に与える時季がなく、時季変更権を行使できない
忙しい時期なので退職前の有給は遠慮してほしい認められない事業の正常な運営を妨げる場合とは、その労働者の指定日の労働が業務の運営に不可欠で、かつ代替要員の確保が困難な場合とされており、単に忙しいだけでは足りない
退職日までの別の労働日に取ってほしい認められる余地がある退職日より前の労働日に動かす余地があり、事業の正常な運営を妨げる場合に限る
有給を使うなら賞与や退職金の査定を下げる無効となりうる附則136条は不利益な取扱いをしないようにしなければならないと定める。有給の取得日を欠勤日として扱う算定は判例が無効としている。ただしあらゆる減額を一律に無効とする文言ではなく、それ以外の査定は賃金規程等の内容による
消化しきれない分は買い取らない認められる買取は会社の義務ではない(後述)

事業の正常な運営を妨げる場合の意味は、大阪府の労働相談資料が判例の考え方として、その労働者の指定日の労働が担当業務を含む相当な単位の業務の運営にとって不可欠であり、かつ代替要員の確保が困難であることが必要だ、と整理しています。この表の3行目が、実務で唯一残る会社側の調整余地です。残日数より退職日までの労働日数が多いときは、退職日の手前のどの日に有給を当てるかを、事業の正常な運営を妨げる場合に限って会社が変えられます。それ以外の言い分は、法律上の根拠を持ちません。

時季変更権が退職日を超えて使えないのは、行政解釈で決まっている

退職日を超えて時季変更権を行使できないという結論は、条文の文言から導かれるだけでなく、労働省(当時)の行政解釈として明文化されています。昭和49年1月11日付の基収5554号です。大阪府が労働相談の資料としてまとめた「29 年次有給休暇」(令和8年3月更新)は、この通達を次のように引いています。

「労働者が解雇される場合、使用者は時季変更権を解雇予定日を超えて行使できない」として、退職日が20日後の労働者に年次有給休暇が20日残っており退職日までの取得を申し出た場合、使用者は退職後に時季の変更を行えないため申出どおり取得できる、と説明しています。

ここで押さえておきたいのは、通達の文言そのものは解雇予定日について書かれていることです。会社が解雇する場合に、解雇予定日の後ろへ有給を動かすことはできない、というのが通達の直接の射程です。自己都合退職は労働者側からの解約ですが、退職日の後ろに与える日が存在しないという構造は解雇と同じなので、同じ結論が当てはまります。上の大阪府の資料も、解雇の通達を引いたうえで退職日の例に当てはめています。

行政解釈は裁判所を拘束するものではありませんが、労働基準監督署が会社を指導するときの基準です。有給の請求を退職日までに認めない会社は、監督署への申告があれば39条違反として指導の対象になります。39条違反には119条で罰則も置かれています。

「他の時季」の読み方

ずらす先は同じ労働契約の中の労働日に限られ、退職日の後ろには労働日がないので、会社が有給を承認しないと言っても請求された時季に有給は成立したままで、その日を欠勤扱いにはできません。

退職届・最終出勤日・有給消化・退職日・資格喪失日は、この順に並ぶ

退職時の有給は、退職日を先に決めてから、退職日までの労働日のうち出勤しない日に有給を当てる、という順で組み立てます。逆に有給の日数から退職日を決めようとすると、休日や祝日をまたいだときに日数が合わなくなります。次の例で時系列を確認します。

:週5日勤務の正社員。残日数20日。2026年9月8日(火)に退職届を提出し、退職日を10月31日(土)とする。

最終出勤日は10月1日(木)。10月2日(金)から10月30日(金)までの所定労働日は、10月12日(スポーツの日)を除いて20日なので、この20日に有給を当てる。退職日は10月31日、資格喪失日は翌日の11月1日(日)。

9月8日(火) 退職届を提出 10月1日(木) 最終出勤日 10月31日(土) 退職日 11月1日(日) 資格喪失日 届出 出勤の終わり 契約の終わり 翌日 引継ぎ(出勤) 有給消化 10/2〜10/30 の20日 退職日を10月30日(金)にすると 資格喪失日は10月31日となり 10月分の社会保険料はかからない(下の表)
退職日と最終出勤日は別の日です。有給は最終出勤日の翌労働日から退職日までの所定労働日に当てます。社会保険の資格喪失日は退職日の翌日です。

この例で退職届から退職日までは53日あり、民法627条1項の2週間も、就業規則によくある1か月前の予告も満たしています。会社が時季変更権を使う余地は、9月8日から10月1日までの出勤日に有給を当てたい労働者に対して、引継ぎのために別の日に動かすよう求める場面に限られます。10月2日以降の20日は退職日までの所定労働日と残日数が一致しており、動かす先がありません。

退職日を土曜の10月31日にするか、金曜の10月30日にするかで、有給を当てる日は変わりません。変わるのは社会保険料です。10月30日退職なら資格喪失日は10月31日となり、10月分の健康保険料と厚生年金保険料は徴収されません。この違いは後述の社会保険料の節で金額にします。

残日数が何日あるかは、入社日と勤続年数、直近の付与日から数えます。付与日数の一覧と時効2年の考え方は有給休暇の付与日数にあります。

有給休暇の付与日数 計算機で、入社日から付与日数と次の付与日を確かめる

引継ぎは拒否の理由ではなく、日程を合意して解決する

会社が引継ぎを理由に有給を認めないことはできませんが、労働者の側にも労働契約に基づく誠実労働義務があり、常識的な範囲で引継ぎに協力することが求められます。大阪府の資料も、退職日までの取得は申出どおり認められるとしたうえで、可能な限り早めに取得日を労使で話し合っておくことが望ましいとしています。

実務での落としどころは、有給を当てる日と出勤する日の配分を先に合意することです。上の例なら、退職届の提出から最終出勤日までの3週間余りを引継ぎに充て、その後の20日を有給に当てる、という配分を退職届の提出時に文書で確認します。会社が引継ぎに必要とする日数が多いなら、退職日を後ろにずらして出勤日を増やすことを提案できますが、退職日の変更には労働者の同意が必要です。

状況会社ができること会社ができないこと
残日数より退職日までの労働日が多い事業の正常な運営を妨げる日に限り、退職日より前の別の日へ変更する退職日の後ろへ動かす、請求そのものを断る
残日数と退職日までの労働日が同じ退職日を後ろにずらす合意を提案する時季変更権の行使、退職日の一方的な延長
引継ぎ相手が決まっていない引継ぎ資料の作成を出勤日に依頼する引継ぎ完了を有給取得の条件にする
労働者が引継ぎを一切しない誠実労働義務を根拠に協力を求める有給の賃金を払わない、有給の取得日を欠勤日として扱って退職金を減らす

引継ぎの合意は退職届の受理と同じ日に済ませるのが確実です。退職届が到達すると、期間の定めのない雇用では民法627条1項により2週間で契約が終了し、その後に退職日を動かすには改めて合意が要ります。条文は「解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と定めているので、退職日を書いた届でも、その日が申入れの日から2週間以後であればその指定日に終了し、2週間より前の日を指定した場合は、それだけでその日に終わるわけではなく会社との合意が要ります。退職届と退職願の法的効果の違い、2週間の数え方は退職届と退職願の書き方を参照してください。

退職日までに消化しきれない日数は消える。買取は義務ではない

年次有給休暇は労働義務のある日に労働を免除する制度なので、労働契約が終了した後には与える日がなく、残った日数は退職とともに消滅します。退職後に前の会社へ有給を請求することはできません。在籍中でも、労働基準法115条により権利の発生から2年で時効消滅します。

消化しきれない日数を会社が買い取ることは、退職時に限って違法とはされていませんが、会社の義務ではありません。労働者から買取を求める権利もありません。買取が認められる3つの例外、価格の決め方、買取金の税金は有給の買取は違法?認められる3つの例外と退職時の相場・税金にまとめています。この記事では順序だけを押さえます。

  1. まず、退職日までの労働日に有給を当てて消化する。これは権利で、動かす先の労働日が残っていない限り会社は拒否できない。
  2. それでも残る日数について、買取を会社に打診する。これはお願いで、会社は応じなくてよい。
  3. 買取に応じる会社は、就業規則や退職金規程に根拠を置き、単価と支払日を書面にする。

年5日の取得義務との関係も、退職者で問題になります。労働基準法39条7項は、10日以上付与された労働者に基準日から1年以内に5日を取得させることを使用者に義務づけています。退職者について直接答えた設問は厚生労働省のQ&Aにありませんが、育児休業から復帰した労働者についての設問3-6が、残りの期間の労働日が時季指定すべき残日数より少なく5日を取得させることが不可能な場合はその限りでない、と答えています。退職日までの労働日が足りない場合も同じ理屈で考えるのが一般的です。年5日の義務の対象者と数え方は有給休暇「年5日の取得義務」とはにあります。

消化中の給与は通常どおり。最終給与は請求から7日以内の規定もある

有給を取った日の賃金は、労働基準法39条9項により、就業規則の定めに従って平均賃金、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、または労使協定がある場合の標準報酬月額の30分の1相当額のいずれかで支払います。月給制で通常の賃金方式なら、有給消化中の月も欠勤控除なしで月給が支払われます。上の例で月給30万円なら、10月に出勤したのは1日だけでも、10月分の給与は30万円です。

支払時期は、賃金の毎月1回以上・一定期日払いの原則(24条2項)どおりで、退職しても給料日が前倒しになるわけではありません。ただし、退職者から請求があった場合には23条1項が7日以内の支払いを求めています。

使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

請求がなければ通常の給料日でよく、請求があれば7日以内です。退職金は就業規則に支払時期の定めがあれば、その定めに従います。

項目有給消化中の扱い根拠
基本給(月給制・通常の賃金方式)欠勤控除なし。月の途中の退職日までを日割りにするかは就業規則の定めによる労働基準法39条9項
通勤手当出勤しない期間の定期代を精算するかは就業規則の定めによる賃金規程
残業代有給の日には発生しない実労働がない
賞与支給の可否と算定方法は賃金規程・賞与規程による。支給日在籍要件があれば、退職日と支給日の前後で決まる。有給取得日を欠勤扱いにして減額する算定は判例が無効としている附則136条・判例・賃金規程
最終給与の支払日通常の給料日。退職者の請求があれば7日以内労働基準法24条2項・23条1項
所得税通常どおり源泉徴収。再就職する人は次の勤務先で年末調整するので、源泉徴収票を渡す所得税法

月の途中で退職する場合の日割りの考え方は月途中の入社・退職の給与計算を参照してください。住民税は退職月によって一括徴収か普通徴収かが分かれます。住民税の特別徴収に退職時の手続きがあります。

社会保険料は退職日の翌日で決まり、月末退職なら1か月分多い

健康保険と厚生年金保険の被保険者資格は、退職日の当日ではなく翌日に失います。健康保険法36条の柱書は次のとおりで、厚生年金保険法14条も同じ構造です。

被保険者は、次の各号のいずれかに該当するに至った日の翌日(その事実があった日に更に前条に該当するに至ったときは、その日)から、被保険者の資格を喪失する。

保険料は月単位で、資格を喪失した月の分は徴収されません。健康保険は156条3項が直接に定めています。厚生年金は81条2項が保険料を被保険者期間の計算の基礎となる各月について徴収すると定め、その被保険者期間を19条1項が資格を喪失した月の前月までと定めているので、2つを合わせて読みます。

前二項の規定にかかわらず、前月から引き続き被保険者である者がその資格を喪失した場合においては、その月分の保険料は、算定しない。
保険料は、被保険者期間の計算の基礎となる各月につき、徴収するものとする。
被保険者期間を計算する場合には、月によるものとし、被保険者の資格を取得した月からその資格を喪失した月の前月までをこれに算入する。

この2つを組み合わせると、退職日が月末なら資格喪失日は翌月1日で、退職月の分まで保険料がかかります。退職日が月末の前日なら資格喪失日は月末で、退職月の分はかかりません。有給消化で退職日が月をまたぐときに、この1日の差が本人と会社の両方の負担額を動かします。

退職日資格喪失日10月分の健康保険+子ども・子育て支援金(本人)10月分の厚生年金保険料(本人)本人負担の合計
10月31日(土)11月1日15,120円27,450円42,570円
10月30日(金)10月31日0円0円0円

金額は東京都・標準報酬月額30万円・40歳未満・令和8年度の協会けんぽの例です。健康保険料率9.85%に子ども・子育て支援金率0.23%を加えた10.08%を折半して15,120円、厚生年金保険料率18.3%を折半して27,450円と計算しています。40歳から64歳までは介護保険料率1.62%が加わり、健康保険分は17,550円、合計は45,000円です。会社も同額を負担するので、労使合計では85,140円(40歳未満)が1日の違いで動きます。

ただし10月30日退職が常に得とは限りません。10月分の厚生年金保険料がかからない代わりに、10月は国民年金に自分で入り、第1号被保険者になる人は保険料17,920円(令和8年度)を納めます(配偶者の被扶養者として第3号被保険者になれる人は保険料がかかりません)。健康保険も国民健康保険か任意継続か家族の扶養に入る必要があり、10月分の厚生年金の被保険者期間も1か月減ります。

転職先が決まっていて11月1日に入社する人は、10月30日退職だと厚生年金と健康保険から外れるのは10月31日の1日だけです。それでも判定は月末在籍で行うため、10月分は国民年金(第1号なら17,920円)と国民健康保険または任意継続の保険料を自分で納め、厚生年金の被保険者期間も1か月減ります。10月31日退職なら前の会社で10月分の社会保険料42,570円を負担する代わりに、この手続きと国民年金の納付が要らず、被保険者期間もつながります。翌月1日入社のこの設例では、月末退職のほうが手続きの空白を避けやすいという話であって、金銭的にどちらが得かは別です。10月30日退職で払うことになる国民健康保険料または任意継続の保険料と国民年金保険料を計算し、42,570円と並べて初めて比べられます。次の会社の入社日、配偶者の被扶養者になれるかどうか、標準報酬、将来の年金額でも結論は動きます。手続きの選択肢は健康保険の任意継続国民健康保険料の計算を参照してください。

最終給与からの控除も月末退職で変わります。健康保険法167条1項と厚生年金保険法84条1項は、通常は前月分の保険料を給与から控除するとしたうえで、退職の場合は前月分とその月分を控除できるとしています。月末退職の最終給与で2か月分の社会保険料が引かれるのは、この括弧書きが根拠です。徴収のタイミングは社会保険料の徴収時期にあります。

雇用保険料は仕組みが違います。月単位の在籍判定ではなく、賃金を支払うたびに賃金額に料率を掛けて控除します(労働保険の保険料の徴収等に関する法律31条・32条)。令和8年度の一般の事業の労働者負担は1,000分の5なので、有給消化中の月給30万円からも1,500円が引かれます。退職日が月末か月末の前日かで雇用保険料は変わりません。

就業規則で退職前の有給消化を禁止しても、その部分は無効

就業規則に退職前の有給休暇の一括取得を認めないと書いてある会社があります。この定めは労働基準法13条と92条により効力を持ちません。13条は法律の基準に達しない労働契約を無効とし、92条は就業規則が法令に反してはならないと定めています。

この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

無効になるのはその部分だけで、就業規則全体が無効になるわけではありません。無効になった部分は39条の基準に置き換わるので、結果として労働者の請求した時季に与えることになります。

就業規則の定めの例効力理由
退職前の有給の一括取得は認めない無効39条5項の基準に達しない(13条・92条)
有給は3労働日前までに申請する合理的な範囲で有効時季変更権の行使を判断する時間的余裕を与える趣旨。ただし退職時は動かす先がないので、期限を過ぎても拒否の根拠にはならない
退職日の1か月前までに退職届を出す有効。ただし民法627条1項の2週間で退職は成立する予告期間の定めとして扱われ、有給の請求とは別の問題

休暇は就業規則の絶対的必要記載事項(89条1号)なので、多くの会社の就業規則には有給の申請手続きが書かれています。事前申請の期限は、時季変更権を行使するかどうかを判断する余裕を与えるための定めなので、合理的な日数なら有効です。ただし退職時は時季変更権が働かないため、期限を過ぎた申請であっても、退職日までの労働日に有給を当てる請求を拒む根拠にはなりません。

会社側の実務は、残日数の確認と退職日の合意から始める

退職の申出を受けた会社が最初にすべきことは、年次有給休暇管理簿で残日数を確認することです。残日数と退職日までの所定労働日数を並べれば、引継ぎに使える出勤日が何日あるかが決まり、有給の時季変更権を行使する余地があるかどうかも決まります。

  1. 残日数を確認する。年次有給休暇管理簿の基準日・付与日数・取得日数から、前年繰越分と当年分の残日数を出す。時効2年で消えた分は数えない。
  2. 取得率への影響を見ておく。常時雇用する労働者が100人を超える会社は、女性活躍推進法の情報公表項目として有給休暇取得率を選ぶことがあり、その分母は付与日数なので、退職者の消化もこの数字に乗る。
  3. 退職日を確認する。退職届の記載日と、民法627条1項の2週間、就業規則の予告期間を照らして退職日を確定する。月末退職か月末前日退職かで社会保険料が変わることを本人に説明する。
  4. 引継ぎの日程を合意する。退職日までの所定労働日のうち、出勤する日と有給を当てる日を書面で確認する。退職日を後ろにずらすなら本人の同意を得る。
  5. 消化しきれない日数の扱いを決める。買取に応じるなら規程の根拠と単価を確認し、応じないならその旨を伝える。
  6. 最終給与を計算する。有給の日の賃金、月途中退職の日割り、社会保険料の前月分とその月分、雇用保険料、住民税の一括徴収を確認する。退職者から請求があれば7日以内に支払う。
  7. 退職後の書類を渡す離職票、源泉徴収票、退職証明書(請求があった場合)を用意する。

よくある質問

Q. 退職日までの有給消化を、会社は引継ぎを理由に断れますか?

A. 断れません。会社にあるのは他の時季に与える時季変更権だけで、退職日の後ろには与える日がないため行使できないという行政解釈(昭和49年1月11日基収5554号)があります。引継ぎは、有給を当てる日と出勤する日の配分を合意して解決する問題です。

Q. 退職届を出してから2週間で辞める場合も、全部有給にできますか?

A. 民法627条1項の2週間は雇用が終了するまでの期間であって、出勤しなければならない期間ではありません。2週間の所定労働日が10日で残日数が10日以上あれば、条文上は全ての労働日に有給を当てられます。ただし誠実労働義務として引継ぎへの協力は求められるので、可能な範囲で日程を話し合うのが一般的です。

Q. 有給消化中に転職先で働き始めてもよいですか?

A. 前の会社との労働契約は退職日まで続いているので、就業規則に副業や兼業の制限があればそれに従います。社会保険は二重加入になり、両方の会社で手続きが要ります。前の会社の退職日の翌日以降に転職先の入社日を置くのが一般的です。

Q. 有給消化中に賞与の支給日が来たら、賞与はもらえますか?

A. 有給消化中も在籍しているので、支給日在籍要件は満たします。ただし在籍しているだけで賞与の請求権が必ず発生するわけではなく、支給の可否と算定方法は賃金規程・賞与規程によります。有給の取得日を欠勤日として扱って賞与を減らす算定は、附則136条の趣旨に反するものとして無効となりえます。退職予定であることを査定に反映できるかは別の問題で、就業規則と裁判例の判断が分かれます。

Q. 消化しきれなかった有給は、退職後に請求できますか?

A. できません。年次有給休暇は労働義務のある日を休みにする権利なので、労働契約が終わった後には与える日がなく、残日数は退職とともに消滅します。退職後に買取を求める権利もありません。

Q. 月末退職と月末前日退職は、どちらが得ですか?

A. 一概には言えません。月末前日退職なら退職月の健康保険料と厚生年金保険料はかかりませんが、その月は国民年金に自分で入り(第1号被保険者になる人は令和8年度17,920円、配偶者の被扶養者として第3号になれる人は保険料なし)、国民健康保険料または任意継続の保険料も自分で納め、厚生年金の被保険者期間も1か月減ります。翌月1日に次の会社へ入社する人は、外れるのが1日だけでもこの手続きと納付が要るので、手続きの空白は月末退職のほうが避けやすい形です。金銭的な有利不利は、国民健康保険料や任意継続の保険料といった代替の保険料まで計算して比べないと決まりません。

Q. パート・アルバイトも退職時に有給を消化できますか?

A. できます。年次有給休暇は雇用形態を問わず労働基準法39条で付与され、退職日を超えて時季変更権を行使できないという解釈も同じです。週の所定労働日数が少ない人は比例付与で日数が決まります。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士・社会保険労務士・労働基準監督署(総合労働相談コーナー)にご確認ください。

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