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役員借入金とは — 利息は要るか・相続では額面評価・債務免除とみなし贈与・役員貸付金との違いを条文で

結論から言うと、役員借入金とは、会社が社長をはじめとする役員個人から借りているお金を表す負債の科目です。社長が会社の経費を立て替えた、運転資金を個人の預金から入れた、役員報酬を受け取らずに会社に残した——中小企業ではこうして毎年少しずつ積み上がります。無利息でも税務上の問題は原則として生じず、利息を払うなら役員側は雑所得で源泉徴収は不要です。いちばん見落とされるのは相続で、役員借入金は役員の相続財産(会社に対する貸付金債権)として、会社が債務超過でも額面で評価されること(財産評価基本通達204・205)。そして減らす方法のうち債務免除は、会社に債務免除益を立てるだけでなく、他の株主へのみなし贈与(相続税法9条・相続税法基本通達9-2)を生むことがあります。

科目の名前が条文に無い雑収入預り金と違い、「役員からの借入金」は財務諸表等規則が一般の借入金からわざわざ分けている科目です。49条1項3号は短期借入金から「株主、役員又は従業員からの短期借入金」を除き、50条はそれが負債と純資産の合計の5%を超えたら独立の科目で掲記せよと命じています(長期は52条1項2号・53条)。会社計算規則には「役員」の語は無く、中小企業の決算書では短期借入金・長期借入金に含めるか、「役員借入金」と名付けた科目を自由に立てるかのどちらかになります。

この記事は、①条文の中の役員借入金(財務諸表等規則49〜53条・会社計算規則75条)、②役員貸付金との違い(方向が逆で、税務の論点も逆)、③利息は要るか・払うなら誰がどう課税されるか(法人税基本通達9-2-9・所得税法23条/35条/181条・タックスアンサーNo.2606)、④相続で額面評価になる仕組み(相続税法22条・財産評価基本通達204/205)、⑤減らす4つの方法と税務(返済・債務免除・DES・贈与/法人税法22条・57条・相続税法8条/9条・相続税法基本通達9-2/9-3・会社法207条9項5号・法人税法施行令8条1項1号)、⑥仕訳例6本、の順に条文を引用しながら整理します。役員報酬の決め方は役員報酬の決め方、同族会社の判定は同族会社とは、繰越欠損金の細則は繰越欠損金の10年ルールに譲ります。

役員借入金とは — 財務諸表等規則49条・50条が「株主、役員又は従業員からの短期借入金」を分けている

貸借対照表の負債の部の区分を決めているのは会社計算規則75条です。1項で流動負債と固定負債に分け、2項で何がどちらに属するかを列挙しています。ところが、この列挙に「短期借入金」という語はありません。流動負債のイからヌのうち借入金が入るのは最後の「ヌ」です。

その他の負債であって、一年内に支払われ、又は返済されると認められるもの

固定負債の側には2項2号ロに「長期借入金」が出てきますが、誰から借りたかで分ける規定は会社計算規則にはありません(全文で「役員」の語は0回)。つまり中小企業の決算書で「役員借入金」という科目を使うかどうかは、会社計算規則75条1項後段の「各項目は、適当な項目に細分しなければならない」に基づく会社の判断です。短期借入金・長期借入金に含めて、勘定科目内訳明細書の「借入金及び支払利子の内訳書」で借入先として役員の氏名を書く、という形でも要件は満たせます。

一方、金融商品取引法の開示会社に適用される財務諸表等規則は、「株主、役員又は従業員からの短期借入金」を一般の借入金からはっきり分けています。49条1項は流動負債を15の項目(枝番号を含む)に区分して掲記せよと命じ、3号の短期借入金にただし書を付けています。

短期借入金(金融手形及び当座借越を含む。以下同じ。)。ただし、株主、役員又は従業員からの短期借入金を除く。

除かれた「株主、役員又は従業員からの短期借入金」は14号の「その他」に落ち、それを受ける50条がこう定めます。

前条第一項第十四号に掲げる項目に属する負債のうち、株主、役員若しくは従業員からの短期借入金等の短期債務又はその他の負債で、その金額が負債及び純資産の合計額の百分の五を超えるものについては、当該負債を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。

読み替えると、役員からの借入金が負債と純資産の合計の5%を超えたら、「役員借入金」のような名前を付けた独立の科目で見せなさい、ということです。固定負債も同じ形で、52条1項2号の長期借入金にただし書があり、53条が5%基準で独立掲記を命じます。

長期借入金(金融手形を含む。以下同じ。)。ただし、株主、役員、従業員又は関係会社からの長期借入金を除く。
第五十二条第一項第十号に掲げる項目に属する負債のうち、株主、役員若しくは従業員からの長期借入金又はその他の負債で、その金額が負債及び純資産の合計額の百分の五を超えるものについては、当該負債を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない。

なぜ分けるのか。銀行からの借入金と、経営者本人からの借入金では、返済の強制力も、会社の財務の見え方もまったく違うからです。経営者からの借入れは実質的に資本に近い性格を持つ一方、法律上は返さなければならない負債で、経営者が亡くなれば相続人の債権になります。財務諸表等規則が「株主、役員又は従業員から」を別の箱に入れているのは、読む側にその違いを見せるためです。この「実質は資本に近いが、法律上は負債」という二面性が、この記事で扱う論点(利息・相続・債務免除・DES)の全部の出発点になります。

なお同じ財務諸表等規則は、反対向きの「役員への貸付金」も分けています。19条は「株主、役員若しくは従業員に対する短期債権」で資産の総額の5%を超えるものの独立掲記を命じ、32条1項8号は投資その他の資産の区分に「株主、役員又は従業員に対する長期貸付金」を置いています。次の節でこの反対向きの科目との違いを整理します。

役員貸付金との違い — 方向が逆で、税務の論点も逆

「役員借入金」と「役員貸付金」は名前が似ていて、どちらの立場から見た科目か迷いやすいので先に整理します。どちらも会社の帳簿から見た名前です。

役員(個人) 社長・取締役 会社(法人) 帳簿の主語はこちら 役員がお金を入れる → 会社の帳簿は「役員借入金」(負債) 会社がお金を出す → 会社の帳簿は「役員貸付金」(資産) 役員借入金の論点 無利息でよい / 相続財産に額面で乗る 減らすと債務免除益・みなし贈与 財規49条3号・50条・52条2号・53条 役員貸付金の論点 無利息は認定利息=役員給与(法基通9-2-9(7)) 放棄すれば役員給与(同(4))・融資審査で嫌われる 財規19条・32条1項8号
図1 役員借入金と役員貸付金は、会社の帳簿から見て矢印が逆。利息の論点も逆で、無利息が問題になるのは役員貸付金(会社→役員)の方。
役員借入金役員貸付金
お金の向き役員 → 会社(会社が借りている)会社 → 役員(会社が貸している)
会社の貸借対照表負債(流動または固定)資産(流動または投資その他の資産)
財務諸表等規則の位置49条1項3号ただし書・50条/52条1項2号ただし書・53条(5%超で独立掲記)19条(短期・5%超で独立掲記)/32条1項8号(長期貸付金)
無利息のとき原則として課税関係なし(下記「利息は要るか」)通常の利率との差額が役員給与(法人税基本通達9-2-9(7)・法人税法34条4項)。個人側も給与課税(タックスアンサーNo.2606)
利息を払う/もらうとき会社は支払利息(損金)。役員は雑所得・源泉徴収なし会社は受取利息(益金)。役員は通常の利率で払えば給与課税なし
なくすとき返済・債務免除(会社に債務免除益、他の株主にみなし贈与のおそれ)・DES・贈与返済・役員賞与での相殺。放棄すれば役員給与(9-2-9(4))=損金不算入になりやすい
相続のとき役員の相続財産(貸付金債権・額面評価)役員の相続債務(会社から見れば相続人への債権)
典型的な発生原因経費の立替・運転資金の投入・未払役員報酬の残置社長個人の支出を会社の預金から出した・使途不明の出金

表のとおり、役員貸付金は「無利息だと認定利息が役員給与になる」科目、役員借入金は「無利息でも原則問題ない」科目です。ネット上の解説で「役員借入金は認定利息に注意」と書かれていたら、役員貸付金と取り違えています。法人税基本通達9-2-9は、法人税法34条4項の「債務の免除による利益その他の経済的な利益」の例を12個並べていますが、その(7)は会社が役員に貸し付けた場合です。

前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。
役員等に対して金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸し付けた場合における通常取得すべき利率により計算した利息の額と実際徴収した利息の額との差額に相当する金額

通常の利率はタックスアンサーNo.2606が示しており、会社が他から借りて貸し付けたならその借入金の利率、それ以外は貸付けを行った年に応じた利率で、令和4年から令和7年中に貸し付けたものは年0.9%です。役員貸付金については、ここで認定される利息が会社の益金と役員の給与所得の両方になります。役員借入金には、この(7)に当たる規定がありません。

利息は要るか — 無利息でよい。払うなら役員は雑所得・源泉徴収なし・高すぎれば役員給与

役員借入金に利息を付けるかどうかは、会社と役員の契約で自由に決められます。利息を付けない(無利息で借りる)場合、会社から見れば利息相当の利益をただで受けていることになりますが、法人税の計算では、その利益の額と同じ額の支払利息が損金に立つと考えれば所得は動きません。法人税法22条2項は無償の取引も益金に含めていますが、同条3項2号で費用も同時に認識されるので、差し引きゼロです。役員(個人)の側は、所得税法が課税するのは「収入すべき金額」(36条1項)であり、無利息で貸した個人に利息を受け取ったものとみなす規定は所得税法にありません(全文で「無利息」の語は0回。法人税法も0回)。したがって、会社にも役員にも追加の課税は生じないのが原則です。

内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。

利息を払う場合は、会社側は支払利息として損金(法人税法22条3項2号の費用)です。役員側の所得区分は雑所得で、利子所得ではありません。所得税法23条1項の利子所得は「公社債及び預貯金の利子」などに限られており、個人が会社に貸したお金の利息は入らないからです。

利子所得とは、公社債及び預貯金の利子(公社債で元本に係る部分と利子に係る部分とに分離されてそれぞれ独立して取引されるもののうち、当該利子に係る部分であつた公社債に係るものを除く。)並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配(以下この条において「利子等」という。)に係る所得をいう。
雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。

ここから実務上の大事な帰結が2つ出ます。第一に、会社は利息を払うとき源泉徴収をしません。所得税法181条1項が源泉徴収を命じているのは23条1項の「利子等」と24条1項の「配当等」で、貸付金の利息はどちらでもないからです。

居住者に対し国内において第二十三条第一項(利子所得)に規定する利子等(以下この章において「利子等」という。)又は第二十四条第一項(配当所得)に規定する配当等(以下この章において「配当等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その利子等又は配当等について所得税を徴収し……

第二に、役員側は雑所得として確定申告が要ります。給与所得者で給与以外の所得が年20万円以下なら確定申告不要の扱いがありますが(所得税法121条1項)、住民税の申告は別です。役員報酬だけの社長が会社から年5万円の利息を受け取るケースでは、所得税の確定申告は不要でも住民税の申告対象になる、という形です。

利率はいくらでもよいわけではありません。法人税基本通達9-2-9は役員給与に含まれる経済的利益の例として、(3)に「役員等から高い価額で資産を買い入れた場合」の差額を挙げています。

役員等から高い価額で資産を買い入れた場合におけるその資産の価額と買入価額との差額に相当する金額

借入金の利息も同じ理屈で、通常の利率を大きく超える利息を役員に払えば、超える部分は「実質的にその役員等……に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすもの」として役員給与とみなされるおそれがあります。役員給与は定期同額給与等の要件を満たさなければ損金になりません(法人税法34条1項)。銀行の借入利率や会社の平均調達金利を目安に、契約書(金銭消費貸借契約書)で利率・返済期日を決めて残しておくのが実務の形です。契約書は印紙税の対象(第1号文書)になる点にも注意してください。

役員借入金は「いつまでも返さなくてよい」わけではない無利息・返済期限なしで置いておけるのは税務上の問題が無いからですが、法律上は会社が役員に返す義務のある負債です。役員が死亡すれば相続人が債権者になり、会社に返済を求める権利を引き継ぎます。次の節のとおり、その債権は会社の財務状態に関係なく額面で相続財産に乗ります。

相続 — 会社が債務超過でも額面。財産評価基本通達204・205の仕組み

役員借入金は、役員個人から見れば会社に対する貸付金債権です。役員が亡くなると、この債権は相続財産として相続税の対象になります。相続税法22条は財産の価額を「時価」としています。

この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

その「時価」の出し方を定めているのが財産評価基本通達で、貸付金債権は204です。

貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。
貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額

元本は「その返済されるべき金額」、つまり額面です。会社の株式のように純資産や収益力から評価するのではなく、5,000万円貸していれば5,000万円です。会社に返す資力があるかどうかは、ここでは問われません。例外は205で、回収不能または著しく困難と見込まれる部分は元本に算入しないと定めていますが、その事由は限定的です。

前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。

205の(1)が挙げる事実は、手形交換所の取引停止処分、会社更生手続開始の決定、民事再生手続開始の決定、特別清算開始の命令、破産手続開始の決定、そして次のヘです。

業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき

どれも会社が事業を続けられなくなった客観的な事実です。「債務超過である」「毎年赤字である」「返す見込みが薄い」は列挙に入っていません。(2)(3)は更生計画・再生計画・債権者集会などで債権の切捨てや長期の棚上げが決まった場合です。つまり、事業を続けている同族会社への役員借入金は、会社が債務超過でも原則として額面で相続財産になります。

役員が死亡:会社への貸付金債権が相続財産 財産評価基本通達205の事由に当たるか? 取引停止処分・更生/再生/特別清算/破産の開始・廃業/6か月以上休業 など 当たらない(多くの会社) 当たる 額面で評価(通達204) 債務超過でも 5,000万円は 5,000万円 回収不能部分は元本に入れない (通達205・限定列挙+著しく困難な場合) 他の財産と合算し、基礎控除を超えれば相続税 (3,000万円+600万円×法定相続人の数)
図2 役員借入金(役員から見た貸付金債権)の相続評価。205の事由は会社が事業を止めた客観的事実に限られ、「債務超過」は入っていない。

数字で見ます。社長が会社に5,000万円を貸したまま亡くなり、他に自宅と預金で3,000万円、法定相続人が配偶者と子2人の3人だったとします。相続財産は8,000万円で、基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円ですから、3,200万円が課税遺産総額になります。会社の純資産がマイナスで株式の評価額が0円でも、貸付金の5,000万円はそのまま乗ります。逆に、社長が生前に5,000万円を会社に「資本金」として入れていれば、相続財産は株式であり、その評価は会社の純資産や収益力で決まる(純資産がマイナスなら低く出る)ので、結果は大きく変わります。「資本で入れたか、貸付けで入れたか」が相続税額を分ける、というのが役員借入金の最大の落とし穴です。基礎控除の早見表は相続税はいくらからに、税額の試算は下のツールにあります。

相続税 計算機 — 役員借入金(会社への貸付金)を額面で足した遺産総額から、相続税の概算を出す

減らす4つの方法と税務 — 返済・債務免除・DES・贈与

相続の論点があるので、役員借入金は役員の存命中に計画的に減らしておくのが定石です。手段は4つで、それぞれ課税が生じる場所が違います。

方法何をするか会社側の課税役員・株主側の課税主な条文・通達
① 返済会社の資金で役員に返すなし(負債が減るだけ)なし(元本の回収。利息部分は雑所得)
② 債務免除役員が債権を放棄する債務免除益が益金(法人税法22条2項)。繰越欠損金があれば相殺役員本人は収入なし。他の株主に株価上昇分のみなし贈与(相続税法9条・相基通9-2)。会社が資力喪失なら債務超過額まで除外(相基通9-3)法法22条・57条、相法9条、相基通9-2・9-3
③ DES(債権の現物出資)債権を出資して株式に換える資本金等の額が増える(増えるのは「給付を受けた金銭以外の資産の価額」)。債権の価額が額面を下回れば差額が債務消滅益。均等割が上がることがある株主としての持分が増える。他の株主との関係では引受価額が時価と離れればみなし贈与の論点会社法207条9項5号、法人税法施行令8条1項1号
④ 贈与貸付金債権を後継者等に贈与するなし(債権者が変わるだけ)受贈者に贈与税。年110万円の基礎控除の範囲なら非課税。債権は額面評価(財評通204)相法21条の5・措法70条の2の4、財評通204

①返済がいちばん素直です。会社に資金があれば、返済は課税を生みません。役員報酬を少し下げてその分を返済に回す、という形で数年かけて減らす会社が多いのは、役員報酬は役員側で給与課税・社会保険料の対象になるのに対し、返済は元本の回収で非課税だからです(役員報酬の変更には定期同額給与の制約があります。役員報酬の決め方)。

②債務免除は、役員が「もう返さなくてよい」と債権を放棄する方法です。会社側では、負債が消えた分だけ債務免除益という収益が立ち、法人税法22条2項の「無償による資産の譲受けその他の取引」として益金になります。会社に繰越欠損金があれば相殺できます。

内国法人の各事業年度開始の日前十年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額(この項の規定により当該各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び第八十条(欠損金の繰戻しによる還付)の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となつたものを除く。)がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

欠損金の控除は原則として所得の50%までですが(57条1項ただし書)、同条11項により中小法人等はその制限が外れて全額控除できます。資本金1億円以下の同族会社であれば通常こちらです。たとえば役員借入金3,000万円のうち2,000万円を免除し、会社に10年以内の繰越欠損金が2,000万円あれば、債務免除益2,000万円と欠損金2,000万円が相殺されて課税所得は0円です。欠損金が無いのに免除すれば、2,000万円がそのまま課税所得になります。免除する額は、その期に使える欠損金の額に合わせるのが実務の組み立てです。細則は繰越欠損金の10年ルールに整理しています。

見落とされやすいのが株主側の課税です。役員が債権を放棄すると会社の純資産が増え、株式の価値が上がります。その会社に役員以外の株主(配偶者・子など)がいれば、その株主は対価を払わずに利益を受けたことになり、相続税法9条のみなし贈与が働きます。

第五条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

相続税法基本通達9-2は、これを同族会社の場面に当てはめて、株価が上がる典型を4つ挙げています。

同族会社(法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第10号に規定する同族会社をいう。以下同じ。)の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。
対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合

この(3)がまさに役員借入金の債務免除です。免除をした役員から、他の株主へ、株価の上昇分に相当する贈与があったものとして贈与税がかかります。社長が100%株主なら贈与の相手がいないので問題になりませんが、子が40%を持っていれば、上昇分の40%相当が子への贈与です。ただし9-3に例外があり、会社が資力を喪失している場合は債務超過額に相当する部分を贈与として扱いません。

同族会社の取締役、業務を執行する社員その他の者が、その会社が資力を喪失した場合において9-2の(1)から(4)までに掲げる行為をしたときは、それらの行為によりその会社が受けた利益に相当する金額のうち、その会社の債務超過額に相当する部分の金額については、9-2にかかわらず、贈与によって取得したものとして取り扱わないものとする。
単に一時的に債務超過となっている場合は、これに該当しないのであるから留意する。

「資力を喪失した場合」は、法定手続による整理のほか株主総会の決議・債権者集会の協議等で再建整備のために負債整理に入った場合をいうと同じ通達が注記しており、一時的な債務超過では足りません。債務超過の会社で役員借入金を免除しても、債務超過額を超えて免除した部分(純資産がプラスに転じる部分)は、他の株主へのみなし贈与の対象として残ります。なお、相続税法8条は債務免除を受けた本人への課税(債務者が個人の場合)で、会社が債務者の場面では会社は法人税で債務免除益として課税され、8条ではなく9条・通達9-2が株主に働く、という位置関係です。

対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で債務の免除、引受け又は第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた場合においては、当該債務の免除、引受け又は弁済があつた時において、当該債務の免除、引受け又は弁済による利益を受けた者が、当該債務の免除、引受け又は弁済に係る債務の金額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該債務の免除、引受け又は弁済をした者から贈与(当該債務の免除、引受け又は弁済が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

③DES(デット・エクイティ・スワップ)は、役員が持つ貸付金債権を会社に現物出資して株式を受け取り、負債を資本に振り替える方法です。現物出資は原則として裁判所選任の検査役の調査が要りますが、会社法207条9項5号が弁済期の到来した金銭債権を帳簿価額以下で出資する場合を調査不要としており、役員借入金のDESはたいていこれに当たります。

現物出資財産が株式会社に対する金銭債権(弁済期が到来しているものに限る。)であって、当該金銭債権について定められた第百九十九条第一項第三号の価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合

税務上の注意は2つです。第一に、法人税法施行令8条1項1号が資本金等の額に足すのは払い込まれた金銭の額と「給付を受けた金銭以外の資産の価額」であって、債権の券面額ではありません。

株式(出資を含む。以下第十号までにおいて同じ。)の発行又は自己の株式の譲渡をした場合(次に掲げる場合を除く。)に払い込まれた金銭の額及び給付を受けた金銭以外の資産の価額その他の対価の額に相当する金額からその発行により増加した資本金の額又は出資金の額(法人の設立による株式の発行にあつては、その設立の時における資本金の額又は出資金の額)を減算した金額

会社が債務超過で、その債権の価額(回収可能性を踏まえた時価)が券面額を下回ると見る場合、券面額と価額の差は会社にとって債務が安く消えた利益(債務消滅益)になり、法人税の課税対象になりえます。第二に、資本金等の額が増えると法人住民税の均等割の区分が上がることがあります(均等割は資本金等の額で区分されます。減資とはの均等割の節を参照)。資本金そのものを増やせば、資本金1,000万円・1億円の線(消費税の免税・法人税の軽減税率や中小企業の特例)にも触れます(資本金とは)。DESは「役員借入金を消す」効果は大きい一方、会社の税務上の資本の大きさを恒久的に変える手段なので、効果と副作用を並べてから選ぶ必要があります。

④贈与は、役員が持つ貸付金債権そのものを、後継者など相続人になる人へ生前に贈与する方法です。会社の帳簿では借入先の名前が変わるだけで課税はありません。受け取る側には贈与税がかかりますが、暦年課税の基礎控除(年110万円)の範囲で毎年少しずつ移していけば税負担を抑えられます。贈与される債権の価額は、相続と同じく財産評価基本通達204で額面です。贈与税の税額は贈与税 計算機で、暦年贈与と相続時精算課税の比較は生前贈与シミュレーターで確かめられます。

4つの方法は組み合わせるたとえば「会社に資金がある年は返済、欠損金がある期はその額だけ債務免除、残りは後継者へ年110万円ずつ贈与」という形です。どの方法も、会社の株主構成(同族会社かどうか・役員以外の株主がいるか)と繰越欠損金の残高を先に確かめないと課税の出る場所を読み違えます。同族会社の判定は同族会社とはに整理しています。

仕訳例6本 — 借入・立替・返済・利息・債務免除・DES

会社側の仕訳です。科目名は「役員借入金」を使っていますが、短期借入金・長期借入金に含める処理でも構いません。

取引借方貸方補足
① 社長が運転資金1,000,000円を会社の口座に入金した普通預金 1,000,000役員借入金 1,000,000金銭消費貸借契約書を作る(利率・返済期日。無利息でもよい)
② 社長が会社の消耗品33,000円(税込)を個人のカードで立て替えた消耗品費 30,000
仮払消費税 3,000
役員借入金 33,000領収書(インボイス)は会社宛で保存。精算せず積み上がった分が役員借入金になる
③ 役員借入金のうち500,000円を返済した役員借入金 500,000普通預金 500,000課税なし。役員側も元本の回収で所得なし
④ 年1%の約定で利息10,000円を支払った支払利息 10,000普通預金 10,000源泉徴収しない(所得税法181条の対象外)。役員側は雑所得
⑤ 社長が役員借入金20,000,000円のうち全額を免除した役員借入金 20,000,000債務免除益 20,000,000益金。繰越欠損金と相殺。他の株主がいれば相基通9-2のみなし贈与を確認
⑥ 役員借入金10,000,000円をDESで資本金に振り替えた(全額を資本金に)役員借入金 10,000,000資本金 10,000,000会社法207条9項5号で検査役調査不要。資本金等の額の増加は令8条1項1号の「資産の価額」。均等割の区分を確認

②は役員借入金が気づかないうちに増える経路です。社長の立替え精算を月次でまとめて「未払金」で受け、期末に残っている分を役員借入金へ振り替える運用にしておくと、勘定科目内訳明細書の借入金の内訳と突き合わせやすくなります。⑤⑥は金額が大きく、課税の出る場所が会社・株主・均等割とまたがるので、実行前に繰越欠損金の残高と株主構成を確かめます。

個人事業主には役員借入金はありません。事業主が自分の事業に資金を入れるのは借入れではなく事業主借で、返しても所得は生じません(事業主貸・事業主借とは)。法人化したあとに同じ感覚で資金を出し入れすると、入れた分が役員借入金、出した分が役員貸付金として帳簿に残り、本記事の論点がそのまま付いてきます。

よくある質問

Q. 役員借入金とは何ですか?

A. 会社が社長などの役員個人から借りているお金を表す負債の科目です。財務諸表等規則49条1項3号・52条1項2号は短期借入金・長期借入金から「株主、役員又は従業員からの短期借入金」を除き、50条・53条は負債と純資産の合計の5%を超えるものを独立の科目で掲記させています。会社計算規則には誰から借りたかで分ける規定が無いので、中小企業では短期借入金・長期借入金に含めるか、役員借入金の科目を立てるかは会社の判断です。

Q. 役員借入金に利息を付けないと問題になりますか?

A. 原則として問題になりません。無利息が役員給与として課税されるのは、会社が役員に貸し付けた役員貸付金の方です(法人税基本通達9-2-9(7))。役員借入金を無利息にしても、会社は受ける利益と同額の支払利息が立つと考えれば所得は動かず、役員個人にも利息を受け取ったとみなす規定は所得税法にありません。

Q. 役員借入金の利息を払うとき、源泉徴収は必要ですか?

A. 不要です。所得税法181条1項が源泉徴収を命じているのは23条1項の利子等と24条1項の配当等で、個人が会社に貸したお金の利息は利子所得ではなく雑所得(所得税法35条1項)だからです。役員側は雑所得として確定申告の対象になります。会社側は支払利息として損金です。

Q. 役員借入金は相続税の対象になりますか?

A. なります。役員から見れば会社に対する貸付金債権で、財産評価基本通達204により元本は「その返済されるべき金額」、つまり額面で評価されます。205が元本から外すのは手形の取引停止処分・更生や破産の手続開始・廃業や6か月以上の休業など、会社が事業を止めた客観的事実がある場合などで、債務超過や赤字は入っていません。事業を続けている会社への貸付金は、会社が債務超過でも原則として額面で相続財産になります。

Q. 役員借入金を債務免除するとどうなりますか?

A. 会社側では債務免除益が益金になります(法人税法22条2項)。繰越欠損金があれば相殺でき、中小法人等は全額控除できます(57条1項・11項)。株主側では、役員以外の株主がいると株価の上昇分が免除をした役員からその株主への贈与とみなされます(相続税法9条・相続税法基本通達9-2(3))。会社が資力を喪失している場合は債務超過額に相当する部分が除かれますが、一時的な債務超過では認められません(9-3)。

Q. DESとは何ですか?役員借入金に使えますか?

A. 役員が持つ会社への貸付金債権を現物出資して株式に換え、負債を資本に振り替える方法です。会社法207条9項5号により、弁済期の到来した金銭債権を帳簿価額以下で出資する場合は検査役の調査が不要です。税務では、資本金等の額に足されるのは法人税法施行令8条1項1号の「給付を受けた金銭以外の資産の価額」であって券面額ではなく、債権の価額が券面額を下回れば差額が債務消滅益になりえます。資本金等の額が増えて均等割の区分が上がることもあります。

Q. 役員借入金と役員貸付金はどう違いますか?

A. どちらも会社の帳簿から見た名前で、役員借入金は役員から会社が借りているお金(負債)、役員貸付金は会社が役員に貸しているお金(資産)です。無利息で問題になるのは役員貸付金の方で、通常の利率(タックスアンサーNo.2606。令和4年から令和7年中の貸付けは年0.9%)との差額が役員給与になります。役員貸付金を放棄すれば役員給与(法人税基本通達9-2-9(4))、役員借入金を放棄すれば会社に債務免除益です。

Q. 役員借入金を減らすには、どの方法から考えればよいですか?

A. 会社に資金があれば返済が最も素直で課税を生みません。次に、繰越欠損金がある期はその額に合わせて債務免除(他の株主がいればみなし贈与を確認)、残りは後継者へ年110万円の基礎控除の範囲で債権を贈与する、という組み合わせが一般的です。DESは負債を一気に資本に変えられますが、均等割や資本金の線に恒久的に影響するので副作用を並べてから選びます。いずれも株主構成と繰越欠損金の残高を先に確かめます。

出典

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。

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